両親の病院の付き添いや買い物、
日常のちょっとした手伝いをするために
実家に通いはじめて1年半が経過した。
日々色んなことが起こって
最初のうちは最適解を求めて
自分の頭と体をフル稼働させてヘトヘトだったけど、最近はその力を少し抜けるようになった。
お互い この生活に慣れたってことなんだろうと思う。
この慣れたは、認めるとか受け入れるって感覚に近い。
最近の少し暑かったある日、
父が冷やし中華を食べているのを見た時に思い出した。
父が糧を床にひっくり返したこと、食べながらタレでシャツにシミができたこと、それに文句を言って喧嘩になりかけたのをグッとこらえた日のこと。
今の父は食事の時に自分から食事用のエプロンを付けてくれる。食べこぼしてもキャッチしてくれるポケット付き。
それでも床は汚れるけど、汚れたら拭けばいいことを皆が受け入れている。
父の下着は紙パンツに完全に以降し
父が自分でパットも付けられている。
あんなに嫌がっていたけど、母の洗濯の負担を軽くしてくれてありがとうと感謝を伝えているうちに定着した。
相変わらずトイレは汚れるけど掃除をすれば済む話。もう気にもならなくなっている。
自分で歩く、自分で食べる、自分でトイレに行く、自分でお風呂に入る。
少しでも長くこれが続けられるように頑張ろう!が父の目標だ。
人間はいつか死ぬ。
長く生きれば老いもやってくる。
明日が来るのは当たり前じゃない。
それでも今日も生きてる。
生きれてる。
置かれた状況の中で
それをどう解釈し どう生きるかは
自分次第だ。
「もう長ぇ~ことねぇ~よ」
と口癖のように言う父に
「お父さんが死んで幽霊になったとするでしょ?」と唐突に切り出してみたことがある。
「死んだら無になるとお父さんは言ってたけど、どうやら死んでも無にならなかった…とするじゃない?」
「うん」 (意外と素直に聞いてくれる)
「幽霊になったお父さんがお母さんにいくらありがとうって伝えても、もうお母さんには聞こえないのよ。お母さんや私たちもお父さんの言葉を聞きたいと思っても聞けないの。それって切ないじゃない?だからさ 文句でも感謝でも伝えたいことは伝えられる時にちゃんと伝えた方がいいんだろうね。あぁーお母さんのこともっと大切にするんだったーって後悔しても幽霊になってからじゃ何もできないかもよ?」
「そうだなぁ」
「いつ寿命が終わるかなんて誰にも分からない。それは私も同じ。だから私もお父さんに文句を言うけど感謝も伝えようって思ってるんだ。だけどね、なるべく順番は守ろうと思うから お父さんより先に死なないように頑張るわ!笑
お父さんも自分を大切に扱って少しでも長くみんなと笑って過ごせるように頑張ろうね!」
「そうだよ、今おめぇ~に死なれたらオレもお母さんも途方に暮れちまうよ。順番は守ってもらわねぇ~と困る!!」
「あなたが長生きしないと思っていた娘は意外と野太くここまで生きたわよ。凄いでしょ!今こうして一緒にいられるって実はすごく幸せなことよね!」
「そうだな。おめぇ~はもう大丈夫だ」
「お父さんとお母さんのお陰よ。ありがとう!お陰様で私こんなにいい娘に育ちましたの!良かったよね~ww 」
「本当だなぁ 笑笑」
この話を笑って終えられてホッとした。
行きたい場所はあるか?
会いたい人はいるか?
やりたいことはあるか?
人生の終焉を連想させるようで、なかなか聞けなかったことを話の流れで聞いてみた。
「別にない」
父の答えは肩透かしだった。
明日死んでも後悔しない生き方をしよう。
それは言うほど簡単なことじゃない。
父に偉そうに話してる私は
やりたいことをやる行動を起こすより、やれない理由を探す方が多い。
そんな自分に気づいた時
いつも自分にかける言葉がある。
「やれない理由を探すの上手だね~w
それ本当に私がやりたいことなのかな?
私だったらやりたいことは何とかしてやっちゃうよね~!だからさ本当のこと教えてよ。」
よーく考えてみるとね、
自分がやりたいと思うことは
誰かの受け売りだったりする。
やった方がいいんだろうなーと思ったことが、やりたい!にすり変わってることすらある。
私のことだから、心の底からやりたいと願うことはどうにかしてやる方向に持っていくはずなんだ。
○○だから仕方ないって諦めがつくようなことは、本気でやりたいと思ってないんじゃないかと思えてくる。
本当にやりたいことは
いつもやっていて
今がまさにその状態なのかもしれない。
後悔しない生き方とは
やり残したことを探すのではなく
やりたいことは 常にやっていると
自分で気づきながら
今を生きることなのかもしれない。
「あ!やりたいことあった!」
と父が言った。
「お!なになに?」
「ビール飲みてぇ~から買ってきてくれよ!」
結局それかよ!と爆笑しながら
却下しましたとさ(笑)
その後この話を聞いていた母が
父に見つからないように冷蔵庫の奥に隠してあったビールを開けて2人で飲んだそうな。
「久しぶりに飲んだらマズイ」
と父は言ったんだそう。
酒に取り憑かれた男の姿は
もうそこにはなかった。
めでたし めでたし。
はぴいち