ファクトセットが「最も割高な銘柄」と評価した企業の決算発表を受け、投資家心理が冷え込む
中東の地政学的緊張がやや緩和したものの、割高なハイテク株への懸念が市場の足かせとなっています。ファクトセットが「最も割高な銘柄」と指摘したスーパーマイクロは、決算発表日を公表しただけで実に23%も急落しました。これを受けて、AI関連株の代表格であるエヌビディアも10%近く下落するなど、AIテーマ銘柄全般が軟調となり、ナスダック指数は2%超の下落、S&P500指数は5,000ポイントの大台を割り込みました。

投資家の関心は、来週決算を発表するテスラ、マイクロソフト、アルファベット、メタなどに集まっています。また、来週は第1四半期の米国内総生産(GDP)成長率や3月の個人消費支出(PCE)物価指数など、重要な経済指標の発表も控えています。

イスラエルとイランの緊張が高まるも、直接衝突の可能性は限定的
現地時間19日未明、イスラエルがイランに対する報復攻撃を実施しました。この報復攻撃のニュースを受けて、世界の株式市場は一時急落し、国際原油価格は4%急騰しました。金や国債、日本円、スイスフランなどの「安全資産」の価格も大きく上昇しました。しかし、こうした変動はすぐに収まりました。

イスラエルの攻撃による被害や死傷者が限定的だったことから、イランによる追加報復の可能性は低下したとの見方が優勢となったためです。実際、イラン外相は「撃墜された小型ドローンによる被害や死傷者は全くなかった」と述べ、CNNも匿名の情報筋の話として、両国間の直接的な追加攻撃はないだろうと報じました。

バイタル・ナレッジは、「イスラエルが洗練された方法でイラン中部を攻撃したのは、緊張をエスカレートさせるのではなく、緩和するためだったようだ」と指摘し、「中東の地政学リスクが消えたわけではないが、現状では最善のシナリオといえるかもしれない」と分析しました。イラン国営メディアもこの攻撃を小さく扱うなど、両国とも事態の拡大を控えようとする姿勢がうかがえます。

ウェルズ・ファーゴは、「イランのイスラエルへの攻撃は、最大限のダメージを与えるためというよりも、体面を保つための象徴的な措置に近く、イスラエルの報復攻撃も限定的で、イランへの警告に近かった」と述べ、「両国間の軍事衝突は抑制され、イランや中東全域に拡大する可能性は低い」と予想しました。UBSも、「イランとイスラエルはどちらも報復の意思は示しつつも、対立の拡大は避けようとしているようだ」と指摘し、「大規模な直接対決というよりは、緊張状態が続くだろう」と予測しています。

原油価格と金利の急騰が沈静化、原油の需給ファンダメンタルズに注目


こうした雰囲気は、国際原油価格の動きにも表れています。空爆直後に4%超急騰し、1バレル86.28ドルまで跳ね上がった米国のWTI原油先物価格は、ニューヨーク市場の開場前には82.8ドル台まで下落し、場中には一時、前日終値を下回る水準まで下げました。結局、WTIは0.50%高の83.14ドル、ブレント原油は0.21%高の87.29ドルで取引を終えました。

チャールズ・シュワブは、「原油市場で紛争の影響を測る際のポイントは、物流の混乱とエネルギーインフラへのダメージだ」と指摘し、「ホルムズ海峡の封鎖などの海上輸送路の遮断やイスラエルによるイランの石油施設への攻撃はなかったため、地政学的な懸念は後退した」と説明しました。その上で、「もちろん状況は瞬く間に変わる可能性はあるが、現時点では原油市場は需給のファンダメンタルズに基づいて取引される可能性がある」と予想しました。 

ニューヨークの債券市場では、米国債利回りがわずかに低下して引けました。10年物国債利回りは2.4ベーシスポイント低下の4.62%、2年物は0.2ベーシスポイント低下の4.99%で取引を終えました。イスラエルの空爆直後にはそれぞれ14ベーシスポイント、7ベーシスポイント急低下する場面もありましたが、概ね下げ幅を縮小しました。

一方、FRB内で代表的なハト派として知られるオースティン·グールズビー連銀総裁は、「今年に入ってからこれまでのインフレ減速が停滞している」と懸念を示し、「1カ月の指標だけで性急に判断するのは難しいが、3カ月連続でこうした流れが続くのは無視できない」と指摘しました。そのうえで、「当面は追加利上げよりも、辛抱強く待つのが合理的だ」と述べ、金利据え置き姿勢にシフトしました。 

ドル価値を示すICEドル指数は0.03%とほぼ変わらずで取引を終え、金価格はオンス2,404ドルで0.29%上昇しました。

投資家は中東発の地政学リスクが当面エスカレートしないとのシグナルに、ひとまず安堵の雰囲気を見せています。しかし、AI関連のハイテク株の割高感など市場の不安要因は依然残っており、今後は主要企業の決算と経済指標の推移に投資家の注目が集まりそうです。

好決算でも株価が急落する大手ハイテク株、投資家心理の悪化が懸念材料に


来週決算を控える大手ハイテク企業の株価変動が気がかりな状況となっています。直近で好決算を発表したハイテク株が軒並み急落しているためです。オランダのASMLや台湾のTSMCに続き、昨日の引け後に決算を発表したネットフリックスは、本日のニューヨーク市場で実に9.09%も急落しました。

実のところ、ネットフリックスの第1四半期決算は非常に良好なものでした。売上高は前年同期比14.8%増、純利益は78.7%増と大幅に伸び、新規契約者数もウォール街予想の484万人の2倍近い933万人に達しました。これを受けてバーンスタイン、バンク・オブ・アメリカ、ドイツ銀行、エバーコアISIなど多くの投資銀行がネットフリックスの目標株価を引き上げ、モルガン・スタンレーは「広告付き料金プランと不正共有対策の効果により、2024年以降も二桁の売上高成長が持続するだろう」と前向きな見方を示しました。

それにも関わらず株価が急落した背景には、2つの理由があります。まず、第2四半期のガイダンスが市場予想を若干下回ったことです。ネットフリックスは第2四半期の売上高が前年同期比16%増加すると予想しましたが、これはコンセンサス予想と同程度の水準。しかし通期では13~15%成長にとどまるとの見通しを示し、下期の成長モメンタム鈍化を懸念させました。

2つ目は、来年第1四半期から四半期ごとの契約者数と1契約当たりの平均売上高(ARM)の開示を取りやめると発表したことが、ネガティブに作用しました。共同CEOのグレッグ・ピーターズ氏は「営業利益、EPS、マージン、フリーキャッシュフローなど、より重要な中核指標に注力したい」と説明しましたが、市場では広告付き料金プランと不正共有対策導入後の新規契約者拡大ペースが弱まることを懸念した措置と受け止められています。

ハイテク株全般で投資家心理悪化の兆し


問題はネットフリックスだけではありません。先に決算を発表したTSMCは半導体市場の成長見通しを小幅下方修正し、ASMLは期待を下回る新規受注を計上しました。決算内容自体は堅調だったにもかかわらず、株価は大きく下落したのです。

本日も、AI関連企業のスーパーマイクロが決算発表日を公表しただけで20%超の急落となるなど、投資家心理の悪化に拍車がかかる様相を見せています。これはAIと半導体セクターを率いてきたエヌビディア(-10.1%)やAMD(-5.4%)にも波及し、フィラデルフィア半導体指数(SOX)を4.1%押し下げ、ナスダック指数は2.05%安で引けました。S&P500指数も0.88%下落しました。

バイタル・ナレッジは、「現在の市場の最大の問題は、金利や原油価格、地政学の上昇ではなく、ハイテク株への過剰な期待だ」と指摘し、「スーパーマイクロの事例が示すように、依然としてセクター内に過熱感がある」と喝破しました。

ハイテクセクターを中心に決算内容は堅調なものの、一部のネガティブ要因から先行きの成長鈍化懸念が高まっています。AIなどのテーマ株に対する過剰な熱狂がしぼむ中、ナスダック中心に調整圧力が強まっている状況です。来週発表されるテスラ、マイクロソフト、アルファベット、メタなど主要企業の決算内容と下期の見通しは、今後のハイテク株投資家心理を占う重要な変数となりそうです。市場のボラティリティが高まっている以上、慎重なスタンスが求められるタイミングと言えるでしょう。

中東緊張は緩和も、AI関連株の割高感など不透明要因は残存
投資家は中東発の地政学リスクが当面エスカレートしないとのシグナルに、ひとまず安堵の雰囲気を見せています。しかし、AI関連のハイテク株の割高感など市場の不安要因は依然として残っており、今後は主要企業の決算と経済指標の推移に投資家の注目が集まりそうです。

テスラ決算は低調な見通し、「モデル2」とロボタクシー戦略に関心集まる
火曜日に真っ先に決算を発表するテスラについては、第1四半期の納車台数(38万6810台)が予想を大幅に下回ったことから、業績不振が予想されています。これに加えて、最近サイバートラックの3800台あまりをリコールするニュースも重なりました。特に、モデル2の開発中止とロボタクシー事業へ注力するとの方針転換については、懸念の声が大きく上がっています。

ウェドブッシュ証券のアナリスト、ダン・アイブス氏は、今後のカンファレンスコールがイーロン・マスクCEOにとって「真実の瞬間」になるかもしれないと指摘し、▲中国での不振打開策▲2024年の業績ガイダンス▲モデル2の見通し▲AI・自動運転のロードマップなどを主要な注目ポイントに挙げました。

ハイテク株のラリー継続は大手の決算次第
市場の関心は大手ハイテク企業の決算に集中しています。AIなどの新技術が既存事業の低迷を補えるかどうかが、ハイテク株ラリー再開の鍵を握ると見られているためです。マイクロソフト、アルファベット、メタなどがAI事業の見通しについて具体的に言及するかどうかに注目が集まっています。

イトーロによると、テスラを除いた「マグニフィセント7」の第1四半期利益は、前年同期比で10%前後の増加が見込まれています。ウォール街は前期の56%増に続き、依然として力強い成長を期待していますが、特にエヌビディア(+4倍)、アマゾン(+170%)、メタ(+100%)などがAI特需に支えられ大幅な成長を遂げる見通しです。

第1四半期GDP、PCEなどが市場の変動要因に


ハイテク企業の決算以外にも、来週は重要な経済指標の発表が予定されています。第1四半期GDPは前期(3.4%)から減速し2.3%成長と予想されていますが、小売売上高の堅調さなどからサプライズの可能性もあります。PCEインフレ率は前年比でコア2.8%、ヘッドライン2.6%と依然高水準が見込まれており、利下げ期待に水を差す可能性があります。

国債需要も注目点です。年初に6回の利下げ予想から1~2回に後退する中、2年、5年、7年債入札の結果が注目されます。エバーコアISIは「重要指標を控え、需要はやや低調となりそうだ」と予想しています。

「株式市場の急反発の可能性はあるが、トレンド転換とは言えず」
専門家は、株式市場が短期的に極端な売られ過ぎの局面に入っており、急激な反発が起こり得るとしつつも、長期的な観点からはトレンドの反転とは言えないと指摘します。

投資家のマーク・ミネルヴィニ氏は「今後ボラティリティが高まる可能性があるため、当面はキャッシュが投資の選択肢になる」とアドバイス。ゴールドマン・サックスは「CTAファンドの大規模な売りが来週まで続く可能性がある」と警鐘を鳴らしました。実際、過去2週間で株式ファンドから211億ドルもの資金が流出し、ファンドマネージャーの株式比率も1カ月で40ポイント以上減少しました。

一方、ウィズダムツリーのエコノミスト、ジェレミー・シーゲル氏は「昨年10月末以降の急騰を考慮すれば、一部の調整は自然なこと」としつつ、「今後、インフレ減速が本格化すれば、年末までに2~3回の利下げが実施され、株式市場も再び上昇に転じるだろう」と楽観的な見方を示しました。

総括すると、当面の地政学的リスクは後退したものの、AIなどのハイテク株の割高感など不透明感は残存しています。テスラを筆頭に大手ハイテク企業の決算と主要経済指標が変動要因として作用しそうです。短期的には急反発の可能性が指摘されるものの、トレンド転換とは言い切れない以上、リスク管理に留意が必要と言えるでしょう。今後は企業の決算内容とマクロ経済の趨勢、そしてFRBの金融政策の変化などを総合的に見極めつつ、対応していくことが肝要と考えられます。