中東の緊張感高まりで国際原油価格が急騰

ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)など外国メディアによると、イスラエル情報当局は今後48時間以内にイランの攻撃に備えているという。イランは先月1日、イスラエルがシリアのダマスカス近郊にある自国の領事館を爆撃したことに対し、強力な報復を予告していた。ホワイトハウスもイランの脅威が「本物」だと述べ、中東に空母や爆撃機など軍事資産を増強配置していると明らかにした。

これを受け、国際原油価格が急騰した。ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)とブレント原油は一時、それぞれバレルあたり87.22ドルと92.37ドルまで上昇し、昨年10月以来6ヶ月ぶりの最高値を記録した。石油掘削会社ラピダン・エナジーのボブ・マクナリー社長はCNBCとのインタビューで、「イランがイスラエルの領土を直接攻撃すれば、ブレント原油価格は瞬時に100ドルまで跳ね上がる可能性がある」と警告した。

ただし、国際エネルギー機関(IEA)が世界経済の減速により2023年の原油需要見通しを下方修正した影響で、上昇幅は限定的だった。結局、この日のWTIは0.75%高の85.66ドル、ブレント原油は0.8%高の90.45ドルで取引を終えた。

1970年代のインフレ再現への懸念


ブルームバーグのアナ・ウィング米国チーフエコノミストは、「潜在的に1970年代のインフレ(第2次オイルショック)と似た雰囲気がある」と指摘。「過去2年間、インフレに有利に作用してきた基調効果がほぼ消えつつある中、オイルショックが発生しようとする瞬間にFRBが引き締めを終え、利下げなど緩和スタンスへの転換を準備しようとしている」と述べた。もし国際原油価格が上昇し続ける状況でFRBが金利を引き下げれば、1970年代の2度のオイルショック時のようにインフレが再び急上昇する可能性がある。

これまでウォール街では、1970年代のインフレ急騰は当時発生した2度のオイルショックによるものだったとし、現在はそのようなオイルショックがなく、原油価格の消費支出に占める割合も当時に比べ大幅に減ったため、今年のインフレは持続的に鈍化するという見方が優勢だった。

FRBの利下げ見通しに変数


シカゴ連邦準備銀行のオースタン・ガルスビー総裁は、フォックスニュースとのインタビューで、「中東の不安定さは原油価格と天然ガスの面でFRBにとって大きなワイルドカード」と述べ、「今後、原材料価格の状況を注視する必要がある」と語った。また、「ネガティブな供給ショックはFRBにとって決して良いニュースではない」と付け加えた。

ガルスビー総裁は、「中東の不安定さはFRBにとって大きなリスク要因」であり、「インフレ指標と原材料価格を綿密に注視しなければならない」と強調した。

金価格が史上最高値を記録


一方、代表的な「安全資産」とされる金は、一時オンスあたり2,448.8ドルまで上昇し、史上初めて2,400ドルの大台を突破した。金価格はこれまで、中国人民銀行をはじめとする各国中央銀行の活発な買い入れや、年内の米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ期待などが重なり、急上昇を続けてきた。

世界金協会によると、中国人民銀行は先月まで17ヶ月連続で金保有量を増やしている。昨年11月以降、人民銀行が金市場で買い入れた物量だけで約121トンに達すると集計された。

ゴールドマン・サックスは最近のレポートで、金価格の年末目標値を従来のオンスあたり2,300ドルから2,500ドルに大幅に上方修正した。ゴールドマンは、「この強気相場で今までのところ、金ETFの金買い入れはまだ多くないが、FRBが実際に利下げに踏み切れば、金ETFを通じた金買いが大幅に増える可能性が高い」と展望した。さらに、「市場がますますFRBの利下げ幅縮小、経済成長率の回復、株価上昇などを反映しているにもかかわらず、金価格は過去2ヶ月間で実に20%近く急騰した」と説明。「歴史的に見ると、FRBが利下げを開始すると、金ETF市場では強い買いモメンタムが現れることが多かった」と述べた。

ゴールドマンはまた、「金は中東とウクライナで続いている地政学的リスクに対するヘッジ手段としての価値を維持しており、来年の米大統領選を控え、その重要性がさらに高まっている」と分析。「中国では不動産部門の長期低迷により、金の小売需要が引き続き下支えされている」と指摘した。

スイスの投資銀行UBSはさらに、金価格が今後2~3年以内に現在の2倍の水準であるオンスあたり4,000ドル以上に上昇すると予測した。UBSは、「金を売って利益を実現するタイミングは、実質金利がマイナスに転じ、景気後退が明確になる時点だろう」としつつ、「しかし現在、実質金利はまだ高水準を維持しており、景気後退の可能性も当面は非常に低そうだ」と診断した。

そのうえで、「金価格の上昇勢いが弱まるにはまだ時期尚早のようだ」と述べ、「通常、金価格の急騰は今後起こるであろう不吉な出来事の前兆として受け止められるが、最近のような地政学的緊張局面では、リスクシナリオをいくらでも想定できるだろう」と語った。

イランとイスラエルの間で実際の攻撃発生


結局、この日の午後(現地時間)になって、懸念されていた実際の攻撃が発生した。イランの支援を受けるレバノンのヒズボラが、イスラエル北部の国境付近にある軍の陣地に向けて数十発のロケット弾と無人機を発射した。幸い、イスラエル軍の迎撃により大きな被害は出なかった。

一部では、イランが事前に米国側に介入しないよう要求し、報復攻撃の水準も限定的に維持する意向を示したとされ、緊張感がやや和らぐ様子もあった。専門家らは、イランもこの局地戦が全面戦争に発展することを望まないだろうと分析した。

ジョー・バイデン米大統領は、この日の午後、記者団に対し、「イランがイスラエルを近いうちに(sooner rather than later)攻撃すると予想している」としつつ、「しかし、(イランの)攻撃は成功しないだろう」と改めて警告した。専門家らは、もしイランとイスラエルの軍事的衝突が拡大すれば、11月の大統領選を控えるバイデン大統領にとって相当な政治的負担になるだろうと予測した。国際原油価格の急騰によるインフレの悪化やFRBの利下げ計画の狂いなどが複合的に作用する可能性があるためだ。

中国、主要インフラ内の外国製チップ交換を指示


一方、地政学的緊張感は中東とウクライナだけに限られたものではない。ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は、この日の単独記事で、「中国政府が今年初め、チャイナモバイル、チャイナユニコム、チャイナテレコムなど3大国営移動通信会社に対し、設備内の半導体チップセットを全数調査し、外国製CPUを2025年までに全て国産に交換するよう指示した」と報じた。

WSJによると、中国政府は今後、政府機関や公共機関、インフラ施設などで運用中のコンピューターやサーバーに搭載された米国製チップを段階的に取り除く方案も検討しているという。これは最近、米国が半導体など先端技術分野で中国の足を引っ張るための各種制裁に次々と乗り出したことを受け、中国も国家安全保障の観点から主要ITインフラ部門の対米依存度を下げるための戦略的な動きに入ったとの分析が出ている。

WSJは、「この措置により、これまで世界のサーバー用CPU市場を事実上寡占してきた米インテルとAMDが直撃を受けることになるだろう」と評価した。トレンドフォースによると、世界のサーバー用CPU市場でインテルが71%、AMDが23%のシェアを占めており、この措置がこれらの企業に直撃弾になると、ウォール街は予想した。実際、この日のインテルとAMDの株価は取引開始直後から急落し、最終的にインテルは5.16%、AMDは4.24%下落して終了した。

銀行の業績不振でアーニングシーズン低調なスタート


JPモルガン(-6.47%)、ウェルズ・ファーゴ(-0.39%)、シティグループ(-1.70%)など大手銀行が第1四半期の業績を発表し、アーニングシーズンの幕を開けた。JPモルガンは純利益が前年同期比6%増加するなど、業績自体は市場予想を上回ったが、主力収益源である純金利収益(NII)の見通しが不振なものとして示されたため、株価は6.58%も急落した。

ジェイミー・ダイモンCEOは、「預金マージンの圧迫と残高の減少によりNIIが前期比4%減少した」と述べ、「今後、NIIと与信コストの正常化が進むだろう」と予想した。ダイモン氏は米国経済と銀行の健全性には自信を示したが、▲地政学的リスク▲インフレの持続▲FRBの量的引き締め(QT)を潜在的なリスク要因として挙げた。

ウェルズ・ファーゴとシティグループも第1四半期の業績は市場予想をやや上回ったが、高金利に伴う預金流出とNIIの減少が浮き彫りになり、株価は下落した。

WSJは第1四半期の銀行業績の特徴を以下のようにまとめた。
- 住宅ローン事業の低迷
- 安定的な市場環境の中でトレーディング収益が減速
- 投資銀行(IB)業務の回復
- 高金利とインフレの中でも堅調な消費支出

アーニングシーズン序盤の雰囲気はやや否定的だが、AI好況に伴うハイテク企業の業績発表が始まれば改善するとの期待感もある。ファクトセットによると、現時点で業績を公表した企業の利益は、ウォール街の予想を0.9%上回っており、過去の傾向と比較すると前年同期比7.3%の増加が見込まれるという。

UBSは、「S&P500企業の第1四半期の1株当たり利益(EPS)成長率が前年第4四半期と同様の7~9%になるだろう」とし、「利益増加がマグニフィセント7以外の企業に広がりつつあり、年間を通じて加速傾向を示すだろう。楽観的なシナリオの下では、S&P500指数が年末に5500まで上昇する可能性がある」と分析した。「インフレ圧力の緩和ペースや企業利益の増加が予想以上に強ければ、達成可能性が高い」とした。

4月ミシガン大消費者信頼感指数が低下、インフレ期待は上昇


一方、この日にミシガン大学が発表した4月の消費者信頼感指数(予備値)は77.9となり、前月(79.4)から1.5ポイント低下した。ガソリン価格の上昇傾向に伴う消費者のインフレ懸念の高まりが主な要因とみられる。

短期(1年)のインフレ期待は3月の2.9%から4月は3.1%に、長期(5年)のインフレ期待予備値は2.8%から3.0%にそれぞれ小幅に上昇した。ミシガン大学は、「4月のインフレ期待の上昇は、最近の物価安定化の停滞に対する懸念を反映したもの」とし、「全体的に消費者は、近づく選挙を前に経済に対する判断を保留する雰囲気だ」と説明した。

3月の輸入物価指数は前月比0.4%上昇し、市場予想(0.3%)を上回った。前年同月比では2023年1月以来初めてプラスに転じた(0.4%)。エネルギー輸入価格が前月比4.7%も上昇したことが主因だった。エネルギーを除く輸入物価は0.1%の上昇にとどまった。

国債利回り低下、主要指数も軒並み急落


ニューヨーク債券市場では、中東発の地政学的リスクの高まりを受けて「安全資産」選好心理が強まり、国債買いが入った。10年物国債利回りは前日比5.8bp低下の4.518%、2年物は6.7bp下げて4.894%で引けた。ただ、インフレ期待の高まりから低下幅は限定的だった。

ニューヨーク株式市場の主要指数は、取引開始直後に0.3~0.9%下落してスタートした後、下げ幅を広げて終了した。イランとイスラエルの緊張感の高まりで投資心理が冷え込んだ上、銀行の業績不振やインフレ期待の上昇などが重なった。

ダウ工業株30種平均は前日比384.57ドル(1.19%)安の3万2030.11ドル、S&P500種株価指数は48.58ポイント(1.21%)下落の3970.98、ナスダック総合指数は151.76ポイント(1.25%)下げて1万2112.31で取引を終えた。S&P500の11セクター全てが下落し、特にIT(-1.64%)とコミュニケーション・サービス(-1.61%)など技術株の下げが目立った。

市場調査会社ヤルデニ・リサーチは、「今回のイスラエルとイランの対立は短期的な休戦で済むことは難しいだろう」と指摘。「S&P500が短期的な支持線である50日移動平均(5115)を下抜けた」と述べた。その上で、「より大きな調整の可能性を排除できない」としつつも、「まだ年末目標の5400は維持する」と明らかにした。

ドルは中東リスクで安全資産需要から0.69%上昇し、原油価格は100ドル突破の可能性が取り沙汰されて上昇基調が続いた。

来週の見通しと主要日程


来週は4月15日に米国の税金納付期限を控えている。通常、納税後に株価の反発が見られることが多いが、最近の緊迫した市場の雰囲気を考えると、今年は状況が異なる可能性がある。

経済指標では、3月の小売売上高、鉱工業生産、住宅着工件数などが発表される予定だ。市場では小売売上高が前月比0.4%増加すると予想されているが、これはインフレ率を考慮した実質的な販売の停滞を意味する。また、最近の住宅ローン金利の上昇傾向から、住宅指標の不振が見込まれる。

企業業績の発表ペースも一段と速まる見通しだ。ゴールドマン・サックスを皮切りに、バンク・オブ・アメリカ、モルガン・スタンレー、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ネットフリックスなど主要企業の第1四半期決算が相次ぐ。

AIの生産性への影響は限定的な可能性
一方、INGは本日のレポートで、生成型AIが生産性に与える影響は市場の期待ほど大きくない可能性があるとの見方を示した。これは先月、ゴールドマン・サックスが生成型AIにより今後10年間で米国の労働生産性が年率約1.5%ポイント押し上げられる可能性があると試算したのとは対照的だ。

レポートは、新技術導入の初期段階では生産性が一時的に低下する「Jカーブ効果」が生じる可能性を指摘した。電気やコンピューターの発明後、生産性向上効果が可視化されるまでに約20年を要した例を挙げた。

さらに、AIの影響が特定の産業や企業に限定される場合、マクロ経済データに反映される波及効果は限定的だと分析した。また、人口高齢化などによる生産性低下がAI効果を相殺する可能性も提起した。

INGは、「全産業にわたるAIの導入と活用にはかなりの時間を要するだろう」とし、「マクロ経済レベルでの生産性向上効果を論じるのは時期尚早だ」と結論づけた。