--ホームでの湘南戦を控えたタイミングで、湘南が古巣でもある下田北斗選手にご登場いただきます。第10節を終えた時点でのチームの手ごたえと課題はいかがでしょうか。
下田「ポジティブな面で言えば、リーグ全体の勝ち点差が拮抗している中で、勝ち星が先行しているのは良いことだと思います。ただチーム全体のバランスの面でもまだまだ伸びシロはある中で、今季はもったいない失点が増えています。今後は失点を減らすためにも、より気を引き締めて、ネジを巻き直すことでチームとしてのアラート感を引き出さなければいけないと感じています。」
--第10節終了時点で総失点数は昨季と同じ「10」ですが、そのディテールに変化はありますか。
下田「今季に関して言えば、防げた失点が多いというか、自分たちの基準で振り返ると、フトやられるシーンが多い印象です。失点に対しては、黒田監督もよく指摘されているように、失点にアレルギー反応を起こすぐらい失点を減らすための意識を高めていかないと、失点はなかなか減らないと思います。」
--一方で攻撃面の手ごたえはいかがでしょうか。
下田「点を取れているという手ごたえがある一方で、1点を取った後に2点目を取れると、チームとしても楽な試合展開に持ち込めますが、なかなか追加点に繋がらないことが課題です。先制した後に追加点を取った上で、90分全体をマネジメントできるような試合が増えてくると、もっと良いのかなと思います。1-0の状況が続くと、相手に流れが行ってしまうこともありますし、チームとしてしんどい状況にも繋がります。ヒリヒリした状況でプレーしなければならない時間帯も増えますし、2-0や3-0という展開になれば、余裕も生まれてくるでしょう。これから連戦も増えてくる中で、体力を温存するというか、精神的な負担を軽くするためにも、追加点を取ることが大事になってくると思います。」
--オ セフン選手を活かす戦い方一辺倒からの脱却に関して、現状の手ごたえはいかがでしょうか。
下田「いろいろなことにチャレンジしている中で、昨季に比べれば、今季はより効果的にボールを繋げるようになってはいますが、セフンで競り勝てるのであれば、セフンを使うことで前に速く攻めるというシンプルな形が相手にとっては効果的です。その方が選手のパワーをより出せますから。ただ相手が対策してきた時の引き出しを増やすために、チームとしては外回しからゴール前に進入していく形にもトライしている中で、浦和戦のように、相手にとって一番嫌な深い位置までなかなか入って行けないのが現状です。最後の崩しの局面は、個の能力も必要になってくる中で、アタッキングサードでの崩し方やアイディア、またチーム全体でどこのスペースを取りに行くかという共有が、もう少しできるようになるともっと良いのかなと思います。」
--個人としてのここまでの手ごたえはいかがでしょうか。
下田「たくさん試合に出させてもらっている立場としては、やらなければならないことがたくさんありますし、今の出来に満足はしていません。もっと個人として成長しないといけない部分も多く、まだまだその尺度では物足りないという気持ちでいっぱいです。」
--個人の力を発揮するという意味で、同じ左サイドで関係性を作れる中山雄太選手や相馬勇紀選手の存在は手助けになっているのでは。
下田「相馬は僕の特長を理解してくれていますし、僕も相馬の特長を理解し合えています。相馬とはとてもやりやすいですし、雄太もポジションをとてもこまめに取れる選手です。雄太は技術レベルもサッカーIQも高い選手なので、いるべき場所に僕がポジションを取れればパスも出てきます。逆に僕が困った時には(昌子)源も含めてサポートしてくれます。左サイドはとてもうまくやれているなと思いますが、相手の対策も進んでいますし、特に相馬への対策は厳しくなってきているので、相馬が良い状態で仕掛けられるような状況を作っていきたいです。また選手間のコンビネーションをより高めていくことで、右からも中央からも攻める形を作っていけるのかなと思います。」
--例えば浦和戦に関しては、左サイドで良い関係性を作ることに苦労していた印象です。
下田「僕がもっとボールを多く受けて前を向かなければいけなかったと思いますし、ボールをピックアップする場面もなかなか作れなかったです。パスの出し手としては、相手の前でのプレーだと攻撃が詰まったりするので、相馬が背後で勝負できる状況を引き出していかないと。改善点はまだまだ多いです。」
--あれだけでダブルチームでマークに付かれると、さすがの相馬勇紀選手も打開が難しいのでしょうか…。
下田「2枚でマークにつかれると、剥がすのはさすがに大変です。ただ逆に他が空くという発想で空いたスペースを使うこともできます。相馬1人に任せっきりにしないというか、チーム全体でしっかりと相手のスペースを感じ取っておくことが大事だと思います。あるいは相馬の左サイドからの打開が難しい場合でも、右から攻める方が効果的であるならば、そのサイドから攻めれば良いですし、そういう柔軟な発想で相手を見てサッカーをすることも僕たちの伸びシロかなと思います。」
--改めてJ1初年度の昨季は3位でフィニッシュしました。リーグ全体におけるJ1初年度の最高順位を更新する形でシーズンを終えられた結果について、下田選手はどう捉えていましたか。
下田「当時は本気で優勝を目指していましたし、最終節までリーグ優勝のチャンスがあった中で、3位で終わったしまったという悔しい気持ちの方が強かったです。」
--昨季の悔しい結果があった中で、今年はJ1リーグ優勝に再挑戦するシーズンです。昨季と今季のチームで違う部分は何でしょうか。
下田「より実績のある選手がたくさん入ってきたことで在籍選手のキャラクターも変わりましたし、チーム全体のクオリティー自体も上がっています。その中で黒田監督からは、選手がピッチの中でしっかりと判断ができるように、選手が主体性を持ち、自分たちで基準を上げることを求められています。トップダウン方式というよりは、ボトムアップ方式というか、ピッチで戦う選手たちの自主性がすごく求められています。黒田監督はシーズン当初からリーダーシップを持った選手が何人も出てほしいという話をされてきたように、今季はより自分たちで基準を引き上げて、選手それぞれがより自立していかなければいけない局面に入っていると思っています。」
--求められる水準が変わってきた中で、下田選手個人としてのスタンスは?
下田「チーム全体のバランスを見ながら、今はどういう状況か、できるだけ俯瞰して見ることは意識しています。僕もチームを引っ張らないといけない立場ですし、時には厳しい声も掛けなくてはいけません。もちろん、まだまだ自分でもできているとは言えないので、改善する部分はたくさんあると思っています。」
--チームを引っ張るという意味では、96-97世代の奮闘が今季は目につきます。
下田「例えば相馬は今年になってよりチームに対して必要な声掛けをしてくれているので、とても喜ばしい状況です。源も雄太もそうであるように、必要な時に適切な発言をしてくれていますが、そういった選手がもっと増えると良いなとは思います。チームをもっと良くしたい、チームを強くして勝ちたいという姿勢はみんなが持っていますが、よりもっと主体性を持って、自分から積極的にチームを良くするために関わっていくような選手が増えると、もっと良いチームになっていくと思います。」
--リーグ優勝へたどり着くために必要なことは?
下田「日常のトレーニングが全てを作ると思います。今日の練習でどれだけ上手くなろうと思っているか、勝つために細かい部分に日々こだわっていけるような雰囲気を全員で作っていけるかはとても大事なことです。誰1人として、熱量が違う選手を作ってはいけません。ただそういうチームになるためには上から引っ張るだけではなかなか難しいですし、いろいろな声掛けをしながら、チーム全員が良いモチベーションでチームに対して貢献できるか。そういう環境を作るのも大事なことだと思います。試合に出ている、出ていないは関係なく、自分はチームに関わっているんだという意識を持つことが、よりチームとしての成長に繋がるのかなと思います。」
--加入3年目の下田選手も所属期間が長い選手の1人になってきました。FC町田ゼルビアというクラブにとって、ご自身は今後どんな存在になりたいですか。
下田「まだ3年目ですが、(中島)裕希さんやマサ(奥山政幸)、(福井)光輝など、在籍期間が長い選手の姿勢は、2年という関係性の中で見てきました。その中でこういう選手たちがゼルビアの良い雰囲気を作ってきたんだと学ぶことも多かったです。彼らから学んだことは、一生懸命に練習に取り組むことや、チームに対しての熱い想いを持って日々を過ごすことでチーム力が高まるということです。まだチームに残っている裕希さんの姿勢も見習いながら、僕自身も今まで経験してきたことを還元できるようにやっていければと思っています。」
--ご本人の中で、奥山政幸選手や福井光輝選手の意思を受け継ぐ者としての意識はあるのでしょうか。
下田「日々のトレーニングに対して、一生懸命に100%、120%で取り組んでいる彼らの姿勢は、年下の選手ながらもリスペクトしていました。試合に出ている時も出ていない時も、懸命に練習に取り組むことが、自分自身やチームの未来に繋がるんだという想いは、マサや光輝の姿勢から学んだことです。今の若い選手が僕の姿勢を見て学んでもらえるように、もっと自分自身が成長して、マサや光輝の姿勢から学んだことを体現できるようにしたいです。」
--下田選手の姿勢を見ると、2人の意思を受け継ぐ者に見えるのですが……。
下田「まだまだ在籍年数が足りません。ただ僕はクラブにいたくてもいられない選手や、試合に出たくて別のチームに移籍した選手をたくさん見てきました。それぞれのサッカー人生であるため、正解、不正解はないですけど、ゼルビアにいる限りは、責任感を持って、チームのためにできることに真摯に取り組む。そういった想いは持ち続けていきたいです。」
--普段から支えて下さっているファン・サポーターの皆様に対しては、改めてどんな印象をお持ちですか。
下田「先日の国立での浦和戦もそうだったように、移籍1年目に比べれば、はるかに多くのサポーターの方々にスタジアムまでお越しいただいています。昨季や今季から町田に移ってきた選手は実感がないかもしれませんが、もっと前から在籍し、ファン・サポーターの皆様の数が少ない時期を知っている選手にとっては、大きな変化だと思います。」
--1つひとつ階段を上がっていくクラブの成長過程に携われている喜びはあるのでしょうか。
下田「2023年から町田に来て、J2で初優勝を果たし、昨季は優勝争いもできた中で、ファン・サポーターの方々の喜んでいる姿を見てきました。皆様の応援に対する感謝の気持ちは常々黒田監督も仰っていることですし、ファン・サポーターの数がどんどん増えてきていることを実感しています。先日も平日夜の甲府までルヴァンカップの試合に来て下さったことに感謝していますが、個人的にはもっと皆様に応援していただけるような取り組みもしていかなければと思っています。例えばアウェイでもホームのような声援をいただけるように、僕も在籍している限りは、胸を張って応援していただけるようなクラブにできるように頑張っていきます。」
--これからはどんな後押しを望んでいますか。
下田「熱い応援をしていただけていることは、声援の大きさが物語っています。それぞれのクラブの成長スピードがある中で、選手たちはファン・サポーターの皆様に支えていただいているという実感があります。試合に勝ちたい、ゼルビアで何かを成し遂げたいという想いは、皆様の根底にあることですし、みんなで想いを1つにしていくことが大事だと思っています。」
--今後はどんなチームを目指していきたいですか。
下田「選手イチ個人なので、何とも言えませんが、ゼルビアのファン・サポーターの皆様が誇りに思えるようなチームにしていきたいです。日常生活の中にゼルビアが存在し、ゼルビアを応援できることが幸せと思っていただけるような、ゼルビアが人生の一部になれると良いなと思っています。」
--目指しているクラブになるために、ご自身にできることは?
下田「一番大事なことは、ピッチでチームの勝利に貢献することです。ホームでもアウェイでも皆様に勝利の喜びを届けたい気持ちでいっぱいですし、僕個人としては、チームの勝利に向けてしっかりと自分にできることをやっていきます。町田の周りにはたくさんのJクラブがある環境の中で、ゼルビアのことをもっと応援していただけるように、個人的には地域に貢献する活動を実行していくことも大事だと思っています。」
--地域貢献活動に積極的に出て行きたいという意思の表れでよろしいでしょうか。
下田「裕希さんが先頭に立ってやってくれると思うので、僕はその後についていきます。町田には多くの方が住んでいますし、まずはゼルビアのことを知っていただくためにも、地域の活動に貢献することはとても重要です。地域貢献活動を行った結果、スタジアムにお越しいただいた方々に対して、僕たちが良いサッカーで楽しませることができれば、またスタジアムにお越しいただける循環を作れると思います。」
--直後には湘南とのホームゲームを控えています。下田選手にとっては、2016年と17年に在籍していた古巣です。
下田「湘南は地元で小さい頃から見ていたクラブです。J1の舞台で対戦できるのはとてもうれしいことですが、昨季はホームで悔しい敗戦をしましたし、アウェイでも引き分けだったので、まだ勝てていません。僕たちも優勝を目指している中で負けられない試合ですし、相手のことをしっかりとリスペクトしつつ、勝利にフォーカスした準備をして勝ちたいです。」
--相馬選手との出会いも湘南でした。
下田「若手主体でベトナムへ遠征した時のメンバーの中に、当時は練習生だった相馬が含まれていました。その頃から相馬の一番のストロングポイントは理解していますし、相馬が昨年の夏に町田へ来た際にも合うかなという感触はありました。また今年の相馬はコンディションも上がっていますし、より特長を発揮しやすくなっているので、あとは僕が相馬の良さをもっと引き出してあげたいです。」
--下田選手にとって、今のキャリアを形成する上で湘南での2シーズンはどんな時間になりましたか。
下田「なかなか試合に出られない時期もありましたが、チームメートも良い選手がたくさんいましたし、チームの雰囲気がとても良かったことを覚えています。湘南では自分の甘さや意識の低さも含めて、いろいろなことを経験できましたし、もっともっとやらなければいけないという気持ちは、湘南の時に感じたことです。湘南での時間は今のサッカー人生に繋がっていますし、確実に当時経験したものが今に活きていると思えることがたくさんあります。そんな湘南に対しては感謝の気持ちでいっぱいです。」
--具体的に当時経験したことで何が今に繋がっているのでしょうか。
下田「当時の曺貴裁監督も厳しい方でしたし、100%、120%で練習ができない選手はピッチに立つ資格がないぐらいの雰囲気を、監督発信だけではなく、チームのみんなで求めてやっていました。日々の練習で積み上げていくことの重要性は、今に活きていると思います。ただ湘南でお世話になったとはいえ、今は町田の一員。自分のプレーを披露したいどうこうではなく、町田の一員として、チームの勝利に貢献したいという気持ちでいっぱいです。」
--最後にファン・サポーターの皆様へメッセージをお願いいたします。
下田「普段から熱いサポートをしていただいているのは、選手のみんなが感じていることです。スタジアムが良い雰囲気に包まれていたり、力強い声援がスタジアムにこだましている時は、ピッチ上の選手たちもそれを実感できるものです。結果が重要視されるプロスポーツの世界では、皆様の熱い応援に対して、結果で恩返しするのが一番であることは自覚していますし、皆様に喜んで帰っていただくためにも、僕たちは勝利を届けるために懸命にピッチで戦います。皆様に素晴らしい雰囲気を作っていただくと、選手たちのパワーにも繋がります。ぜひスタジアムで気持ちを一つに合わせて一緒に戦っていただければ、僕たちもよりパワーが出ると思います。お互いにパワーを引き出し合って、素晴らしい相乗効果が生まれるように一緒に戦って下さい。よろしくお願いいたします。」
--ちなみに昨季の中で相乗効果が生まれた試合はどれにあたりますか。
下田「例えば天皇杯で敗退した直後のアウェイでのマリノス戦は、サポーターの方々の熱い応援を特に感じました。またホーム最終戦の京都戦の試合前は、とても良い雰囲気だったことを覚えています。相乗効果が生まれたと実感できるような試合を、1つでも多く経験できるように、僕たち選手もピッチで頑張ります。これからも熱いサポートをよろしくお願いいたします。」
●編集後記・・・
ゼルビアのために闘える選手。
どんな時でもクラブのことを考え、自分だけでなく周りのことも考えてくれる下田選手。
奥山選手、福井選手・・・
長くクラブに在籍していた選手が次々に移籍するなかで、その意思を引継ぎ、クラブがより良くなるために様々なことを考えてくれています。
記事内にもありますが、「もっとホームタウン活動とかやってもいいんじゃないんですか?」など自分から提案をしてくれたり。
自分もシンドイ想いをしている中でも、仲間のことを考えたり。
いつも、声をかけるとノラリクラリ交わされますが、しっかりと向き合って話すと、いつも熱い言葉が返ってきます。
下田選手の存在は、ただの一選手に留まらず、クラブ全体を引っ張る存在。
そして、「ゼルビア」を体現できる選手の一人だと思います。
(MACHIDiary 編集長より)