--武選手、まずは自己紹介をお願いいたします。

「FC町田ゼルビアジュニアユースの武眞音(たけまなと)です。ポジションはミッドフィルダー、中学2年生です。決定的なパスを出すこと、自らゴールに向かうことが得意です。」

 

--前嶋監督が武選手に託している役割は。

前嶋「眞音は4-3-3のインサイドハーフを中心にプレーしていることが多いです。自分たちがボールを握りながら効果的にポジションをとるということをチームの戦術として進めています。その中で眞音はフリーになって、前を向いてドリブルで運んでいけるとか、相手のオーガナイズ(組織された状態)を切り裂いていける良さがあります。彼には2年生ながら3年生に加わって試合に出場してもらっていますが、そういったよりハイレベルな場でも彼自身の良さをいかに発揮出来るようにしていくかというところに、いまトライしています。」

 

--武選手から見て気になるプレーヤーはいますか。

「はい。バルセロナのガビ選手やイニエスタ選手を参考にしています。」

 

--ゼルビアの選手では誰が好きですか。

「トップチームでは10番の高橋大悟選手が好きです。周りを見てプレーしているところや、決定的なパスを出せるところを参考にしています。」

 

--見る、判断するという要素が入ってくるんですね。

前嶋「日々学んでいることがいっぱいあるとは思います。頭の中で考えるという部分ではかかるその負荷が、2年生ということでより増えてきているかとは思いますが、考えることとか見えることが増えてきて、ここから先同学年の中心になって、みんなを引っ張っていってもらいたいなと思っています。」

 

--ボール扱いの基礎はもう小学生までに習得できていたのでしょうか。

「そうですね。小学校の時は、自主練で足元の技術をやっていたので、いまはいかに簡単にプレー出来るかとか、そういう判断の部分を練習しています。」

 

--去年T1リーグで優勝した時は1年生でしたが、試合は見ていましたか。

「はい。自分がピッチに立って、優勝したあの場にいたかったです。」

 

--武選手は1学年上の3年生のチームで試合に出ているんですよね。

「はい。いまやっているT1リーグで優勝することももちろん目標ですが、高円宮杯でもどんどん上をめざしていけるように頑張っていきたいです。」

 

--判断を磨いたり、各種の大会を勝ち抜くたくましさを身につけるために、海外遠征はそれに適した修行の機会になると思いますが、タイ遠征の実施を伝え聞いた時、どんな気持ちになりましたか。

「最初はとても緊張していたんですけど、初めて海外の選手とサッカーが出来る喜びがあって、どんどん楽しみになっていました。タイの選手は身体能力がすごく高いというイメージがありました。」

 

--前嶋さんから事前にタイのサッカーについて教えることはありましたか。

前嶋「いや、なかったです。実際どのように自分たちに対して戦ってくるかわからなかったので、最終的には試合をしてみないとわからないところもありました。タイの選手の特徴やタイの環境というのを肌で感じてもらいたい、自分の感覚を大切にしてほしいというところはありましたので、事前に準備を強烈にしていたということはなかったです。」

 

--これまで海外にサッカーの合宿で出かけた経験はあったのですか。

「今まで1回もないです。今回が初めてです。海外旅行自体、経験がありませんでした。」

 

--そうなると今回の旅はひとつの刺激になったのではないかと思いますが、出発前から現地に着くまでどのような心境だったのでしょうか。

「初めての海外遠征ということで色々と準備していったんですけど、タイに着いてから『足りていなかったな』というものもあったりして、とても不安でした。ただ、仲間たちと一緒に協力して生活していったので、少しずつ環境にも慣れて心配はなくなりました。」

 

--2日目から公式戦と練習を交互にこなすサイクルでしたが、集中出来ましたか。

「初日に長い移動があり、次の日は少し身体が重かったり、海外のピッチに少し慣れないところがあったのですが、試合に入ってしまえばいつも通りにプレーすることが出来ました。」

 

--実際にタイのチームと対戦してみて、最初の2試合で感じたことは。

「圧倒的なフィジカルの差ですね。体格差があって、町田の3年生よりも大きい。国内ではあまり見たことがないくらい違いがありました。」

前嶋「基本的にどのチームにも1歳上の選手が入ってくる可能性があると聞いていたので、その前提でやっていましたね。」

 

--なるほど。そのフィジカル差があるなかでどう自分たちの技術や戦術を発揮するか。

「はい。体格差があってフィジカルで負けてしまうというところはあったんですけど、そこを自分の得意な足元の技術で補ったり、いろいろと考えてプレーしていました。」

 

--相手のプレッシャーが来る局面でのボール保持についてはどのくらいできたっていう感触がありますか。

「もちろん仲間も使いながらプレーしました。それに加えて自分が得意としているところ、たとえばドリブルで相手をかわすことだったり、そういうところは通用したと思います。」

 

--技術や敏捷性で相手を出し抜けたようですね。

「得意としてるところ、足元の技術などはタイの選手にも負けていなかったと思います。」

 

--その辺りは前嶋さんとしても想定通りでしたか。

前嶋「眞音のポジションとはまたちょっと違いますが、彼が言ったフィジカルに関しては、ちょっと日本では経験したことのないような飛距離のロングボールがいきなり飛んできて、ディフェンスラインの背後を見事にやられてしまいました。それによって試合の進め方がちょっとくるってしまう形で大会が始まって、それが大きな誤算ではありました。天然芝の重いピッチで経験したことない距離感のフィードが相手から飛んでくることを前提に戦わなければいけない状況ということも含めて、守備は少し苦労しました。攻撃のところに関しては、手を変え品を変え、相手を困らすためにこういう風にやっていこうと、お互い話をしながら進めていました。最終的に守り切られてしまう局面はいっぱいありましたが、自分たちがやりたいことを示せる時間帯もあったんじゃないかなと思います。」

 

--決勝ラウンドは3位決定戦を含めて2試合ありましたけど、優勝出来なかったところは不満ですか。

「悔しかったです。」

 

--そこの反省としては、普段遭遇しないシチュエーションになった時にも勝てるような対応力を身につけたい、というところでしょうか。

「はい。急にあんな飛距離が出るボールが飛んできたり、初めてのことばかりだったんですけど、そういうところに対応できる能力は身につけていかないといけないなと感じました。」

 

--そういう最初の戸惑いとかを除けば、たとえば10回対戦したら半分以上勝てるのではないかとか、そういった手応えはありましたか。

「チーム全体では最後のほうは慣れてきて、パスをつないでいくところで通用する部分もありました。ただ、最後を決めきれなかったり、そういうところがあったので、最後の最後までこだわれるようにしたいです。」

 

--前嶋さん、今回の4試合を通して武選手が言っていたようなところで吸収出来たもの、発見はかなりありましたか。

前嶋「ありましたね。先ほどの言った背後へのロングボールの飛距離もそうですけれども、彼らのなかで守備に関してこういう風に守らなければいけないということが頭でわかってはいたものの、その頭ではわかっているという状態でやっても守れなかったという現実がありました。タイにはチャナティップみたいな鋭くて俊敏な選手がいっぱいいます。なので、単純な1対1の対応をしっかりする。あるいはそれを1人じゃなくても組織なら守れるよねということをちゃんと考えられるようになりました。実際にタイから帰ってきて夏以降、守備の内容が2年生は本当に良くなり、タイ遠征で経験した本当に悔しい失点、あれがなければ俺たちは勝てたのにという経験が、夏以降の彼らのディフェンスラインとか、守ることの意識に関しては、相当刺激になってくれたんじゃないかなと、目に見えて実感してるところはあります。」

 

--国内で決まった相手と試合をするのではない、予想のつかない相手とやることで発見があるなというのは、今回感じたことですか。

「はい。国内では味わえない身体能力、フィジカルの差を味わうことが出来たので、 とても大きな経験だったと思います。」

前嶋「長いフィードで驚かされたという経験を経て、タイ遠征という見方だけではなく、帰国してから招待大会に出たり、U-15のカテゴリーの公式戦を戦ったりするなかで、タイに遠征した8月の頭には意識してやらなければいけなかったことが、いまではいちいち言わなくても普通に出来るようになっています。日本では考えられない衝撃を一回受けてみるっていうことは、彼らにとってすごくいい薬になるんだなと感じています。基本的には悔しい想いを大きくして帰ってきていると思うので。もっと自分たちを引き締めなければと思う状態をつくるという意味でも、とてもよかったんじゃないかなと思っています。」

 

--サッカー以外にタイの空気に親しむところもあったのかなと思いますが、サッカー以外で感じたことは。

「生活の面では日本と大きな違いがあると感じました。料理の味も違っているなと。」

 

--前嶋さんからご覧になって、選手たちの8日間の様子はいかがでしたか。

前嶋「ひとつは大会側のホスピタリティの話にもなるんですけど、向こうが用意してくれたホテルもすばらしかったですし、食事についても栄養面を考慮してあって、時に我々にも食べやすい日本食を出していただけたりしました。そのようにクオリティの高い食事を用意していただけるホスピタリティのおかげで選手たちが順応出来たということが反面、リスクはあるにしても異国のアンダーグラウンドな実態を知ってもらう機会は少なかったと思います。あまりローカルフードを食べる時間や出かける時間がなかったので、大人としてはそういう経験をしてもらいたかった気持ちもあります。ただ大会に出てサッカーをしていくという意味では、すごく恵まれた環境で過ごさせてもらったなというのはありますね。それに選手たちはみんなよくやっていましたよ。変な不満もなく出していただいたものをたくさん食べて、いろいろなものにトライして。選手達はすごいな、と思うことのほうが多かったですね。」

 

--サッカーに集中するという意味ではいい遠征になりましたか。

「はい。ホテルの部屋もすごく住みやすくて、サッカーをやるにはとてもやりやすい環境でした。」

 

--この遠征で吸収したことを踏まえて、今後いち選手としてどう成長していきたいと思いましたか。

「タイだけに限らないですけど、海外にはたくさんのうまい選手がいることがわかったので、そういった選手に負けないように、自分の弱点を克服することを中心に、練習を積み重ねていきたいと思います。サッカーが強いスペインの同世代の選手達は足元の技術がすごいと思うので、いずれ一回戦って、そのすごさを味わってみたいです。」

 

--世界との距離を感じることが出来たみたいですね。

前嶋「英語を喋れない選手たちが片言の英語でなんとかコミュニケーションをとってみんなで飯を食べたりとか、違うチームの子と話したり。サッカーだけじゃなくてそこに付随する向こうでの生活とか、自分の将来に関わる世界との距離感とか、英語で意思が伝わるのは楽しいというようなことを知ってもらえることが、ぼくにとってはすごく大きかったですね。口で『世界で通用する選手になりたい』ということは簡単ですけど、世界に出てみる第1歩目が、サッカー以上に自分の人生の幅をすごく拡げてくれる可能性があるんじゃないかな、と。そこをぼくはすごく大事にしたいなと思っています。なので、彼らが相手チームの子どもたちとみんなでコミュニケーションをとって飯食ってる姿を見た時に、やっぱりすごく感動しました。」

 

--ちなみに将来の目標は。

「トップチームで10番を背負っている高橋大悟選手の動画をよく見て参考にしているので、将来ああいったプレーが出来るようになりたいですね。もちろん自分で突破するシーンを増やしていくこともして、自分の長所を活かせるようなプレーヤーになっていきたいです。」

 

--前嶋さんから見て今後こうなっていってほしいという希望はありますか。

前嶋「願いとしては、彼が掲げている夢を叶えてもらえることがなによりです。本当に。そこの手助けがどれだけ出来るかというところもありますけど、いまはもう中2にして中3のチームのレギュラーで頑張ってやってくれているところもあるので、ユースの軸になっていけるようなものをたくさん身につけて、頑張っていってもらいたいなと、そう期待しています。」

 

--あと3、4年もするとトップチームを応援しているファンサポーターの目に触れることも出てくると思いますが、そういった人たちに向けてメッセージがあればお願いします。

「トップチームのJ2優勝・J1昇格が決まり、自分自身がJ1で戦えるようにこれからも全力で戦っていくので、応援よろしくお願いします。」

 

●編集後記・・・

タイ遠征を経験したことが間違いなく大きな成長へとつながる。

そう感じさせてくれるインタビューでした。

 

一つ上の学年の試合にも出場する武選手。

堂々とした受け答えから、自信の目指す先をしっかりと捉えているように感じました。

 

「J1で戦えるように・・・」

また一人、ファン・サポーターが大きな期待を寄せることができる、楽しみな選手が出てきたかもしれません。

 

(MACHIDiary 編集長より)