--今回はJ2優勝・J1昇格に向けたラストスパートへ、太田宏介選手にご登場いただきます。9月は1勝2分1敗と苦しい時間を過ごしました。太田選手からはどのようにチームは見えましたか?

太田「振り返れば、それまでが出来過ぎな状況でした。良いシーズンを送れている中で、結果が伴わない月があったとはいえ、決して負け越しているわけではありませんでしたから、自分たちを見つめ直す良い機会になりました。直近の長崎戦の勝利は少し苦しんだ分、出場した選手たちもうれしかったはずです。またメンバー外の選手たちも同じ気持ちでうれしかったです。むしろそういう紆余曲折があった方が楽しいでしょう。」

 

--長崎戦に向けては、黒田剛監督から「強い町田を取り戻す」といった話があったようですね。

太田「黒田剛監督が話した言葉の裏には、良かった時のイメージを思い出すことと、みんなは力を持っているから自信を持つように、という働き掛けがあったのだろうと思います。若い選手たちが自信を持って積極的なプレーをできている時は勢いもありますし、どこも止めることはできません。プレッシャーや精神的な疲れはあるでしょうけど、優勝争いの経験ができることは若い選手にとっては大きい経験になりますし、昇格争いや優勝争いをできるチームは数チームしかありません。そんなありがたいプレッシャーがあることを楽しんでほしいと、選手たちには僕の口から藤枝戦前に伝えさせていただきました。自分も含めて刺激のある1年になっているので、とても楽しいです。」

 

--藤枝前のどのタイミングで伝えたのでしょうか。

太田「ウォーミングアップ前です。いつもは円陣を組んだ時に奥山政幸キャプテンが一言話していますが、久しぶりの試合出場だったため、金明輝ヘッドコーチから「宏介、一言お願い」と頼まれました。その時には、「今は勝てていない状況でいろいろなプレッシャーはあるかもしれないけど、優勝争いができる状況を楽しもう。そして残留争いをしているプレッシャーに比べれば良い悩みだから、このプレッシャーを楽しみながら、元気良くチームを盛り上げていきましょう!」と伝えました。」

 

--パッと振られても素晴らしいお話をされたのですね。

太田「吉本興業所属10年目ですから、べしゃり(話)は大丈夫です(笑)。」

 

--笑。その藤枝戦は途中出場しました。どのような気持ちでピッチに立ちましたか?

太田「純粋にピッチに立ててうれしかったです。夏場の大宮戦の翌日に臀部の怪我をして、練習に参加できない時期がありましたが、夏場の戦線離脱は気候が暑い中で気持ちがしんどかったです。そういった状況を経て、藤枝戦ではメンバーに入って途中からピッチに立つことができたので、うれしかったですし、今後のモチベーションに繋がりました。」

 

--どんなプレーをしようと心掛けていましたか。

太田「藤枝戦は開始直後からオープンな展開になっていたので、残り少ない出場時間でしたが、サイドから単純にクロスを上げるだけではなく、自分のところで時間を作ったり、相手を崩す形を作るためのポジション取りを心掛けました。ただ試合展開上、なかなか思う通りにはいかなかったです。結果的に藤枝戦は勝てなかったですが、逆に負けなくて良かったと思えるような試合でした。藤枝戦での勝ち点1をポジティブに捉えて、次の長崎戦で勝ち点3を取れるように、ポジティブに切り替えていこうと選手たちの間ではそういったことを話していました。」

 

--CKのキッカーを務めるチャンスがありました。

太田「ゴールに繋がれば良かったですが、ターゲットマンの1人であるミッチェル デューク選手も交代していましたし、難しい状況ではありました。」

 

--今季はなかなか試合に出場する機会はないですが、練習からチームを引っ張っているように見えます。

太田「自分が若い頃に尊敬できる先輩や実績を残してきた先輩が練習からチームを引っ張るふるまいを見てきた中で自分もそういう先輩になりたいと思ってきました。自分の立ち位置は二の次で若い選手やチームのために尽くせる選手でいたいなと思ってきたので、そういった振る舞いは普段から意識的にやっているつもりです。」

 

--例えばどんな先輩でしょうか。

太田「小野伸二さん、高原直泰さん、そして横浜FCでは往年のスター選手が試合に出られなくても、謙虚に驕らず自分に課せられたタスクをこなした上で、周りにも気配りができる先輩選手を見てきました。名前を挙げたらキリがないですね。」

 

--そういった先輩方との出会いは財産になったと。

太田「こうして振り返ると、僕は人の縁に恵まれました。今でもサッカー界に残っている尊敬できる大先輩方と繋がりがあることは僕の財産です。」

 

--今季のチームはどんなことを大事にしているのでしょうか。

太田「結束や団結力です。J2優勝・J1昇格という大きな目標を達成しようと、まとまることを大事にしています。」

 

--結束力を重視していることは、黒田監督のチームマネジメントにも表れていますよね。

太田「黒田監督は始動日からチームマネジメントに重きを置いてチームを作っています。普段の言葉使いや、チームをまとめるための姿勢を見ていると、継続的に結束することの重要性を伝え続けることで、選手やスタッフは決してブレなかったです。仮にメンバー外になっても、チームのために行動できる選手がこれだけ揃っているのは、僕自身がいろいろなチームを経験してきた中でも、なかなかできることではありません。これまでのチームでも不貞腐れる選手やそういう態度を取る選手は少なからずいましたが、このチームはみんな真面目ですし、チームに忠誠心を持ち、黒田監督が求めていることを遂行する選手たちは本当に素晴らしいです。僕自身はいろいろな監督の下でやってきましたが、選手たちにそうさせることのできるコーチングスタッフのマネジメントは、一歩引いて見てもすごいと思います。」

 

--太田選手の過去の経験を踏まえても、今年のチームは一線を画しているのですね。

太田「素直で謙虚な選手がとても多いです。みんなが試合に出たい気持ちがある中で、試合に出られない時にどういう行動を取るか、みんな見ていると思いますが、その時の姿勢が素晴らしいです。パーソナリティーの部分で町田のスタイルに合う選手を集めた編成になっています。今季のチームは選手やコーチングスタッフ、チーム編成を決める強化部、そして会社全体のマネジメントがうまくいっているのかなと思います。」

 

--シーズンは残り7試合となりました。今後大事になってくることは?

太田「先を見ずに目の前の試合を集中して戦っていくこと。勝ち点でリードしている分も、自分たちの1勝が下の順位のチームにプレッシャーを掛けることに繋がります。先を見過ぎずに、目の前のいわき戦に集中していくこと。そして練習でも黒田監督が話していたように、チームを盛り上げていく雰囲気作りは意識していきたいです。」

 

--久しぶりの勝利である長崎戦は6-0という大勝でした。

太田「6人がゴールを決めてすごい自信を持ったでしょう。またずっと出ていた(下田)北斗がメンバー外の試合も増えてきている中で、途中から入って点を取ったことは、僕たちメンバー外の選手に勇気を与えてくれましたし、ここまでやってきたことは間違っていないと、見えないところでの結束はさらに深まっていると思います。このチームでサッカーができるのも、あと1カ月半ぐらいしかないです。素晴らしい景色を見られるように最後までまとまっていきたいです。出る選手は監督が決めることですし、チームのために力を尽くせば、必ず良い成績が出ると思います。」

 

--地元出身者、アカデミー出身者としての想いは誰よりも強いのでは?

太田「こうなるとは、全く想像がつかなかったです。でもこれがサッカーの素晴らしさです。自分のキャリアはJ2の底辺からスタートして、18年も現役をできましたし、18年前はFC町田ゼルビアがJリーグにはいませんでした。今こうして昇格が目の前にある。自分のキャリアやゼルビアのここ数年の動きは全く予想できませんでしたが、頑張ればこうやって報われることを、身をもって体感しました。このチームで昇格したいです。」

 

--このクラブに戻ってきたときにJ1昇格という夢を語ってくれました。それがあと少しで実現します。

太田「ウズウズしていますよ。早く昇格を決めたいです。ただ2位で昇格するよりも、優勝しての昇格がベストです。僕のプロ1年目は、横浜FCで優勝しているんです。そのなかで、僕がプロ1年目に目にした城彰二さんはまだまだ現役ができるのに引退を決めて、めちゃくちゃかっこよく見えました。城さんは引き際がかっこ良かったので、自分の夢であるJ1昇格という夢を叶えて引退とかできたらカッコいいですよね。もちろん、昇格の瞬間は、ピッチに立っていたいです。」

 

--横浜FCでの昇格時と今季のチームに似た空気感はありましたか。

太田「それは早い段階から感じていました。勝つチームと負けているチームの空気は全然違いますし、それぞれが練習に臨む姿勢は全てマネジメントで決まります。ただ今季はずっと良いので逆に怖いです。でもみんなが危機感を持っていますし、危機感を強く意識しているからこそ、良い空気でやれていると思います。自信も大事ですが、それが過信にならないように、ギリギリのラインでできています。」

 

--黒田監督は良く「悲劇感」という言葉を口にしています。

太田「ミーティングを聞いていると、「監督、そんなにネガティブにならなくて良いのに…」と思うこともあります。「次の試合を落としたら連敗をして崩れ落ちるぞ」といった言葉を投げ掛けてくることもありますが、逆に危機感を持たせることで気持ちを引き締めて次の試合でやらなきゃいけないという気持ちにさせる狙いがあるだろうとは分かっています。そこまで言ってしまうとネガティブになりそうなことを、そうならないための言葉選びが絶妙です。そういった言葉を掛けられた時は、長崎戦のように勝つんです。とても勉強になります。」

 

--黒田監督のミーティングで印象的なシーンはありますか。

太田「これだけのメンバーが昨季から入れ替わった中でまとめることは難しい作業ですが、それぞれの特長を出してチームとしての結果を残せています。「すごい」の一言ですが、監督は同じことを繰り返して言っています。良い雰囲気でチームを盛り上げていく。アバウトでシンプルだけど、それが大事だとあらためて痛感しています。そういった意味では、グループの結束力の大事さを伝えている時の熱意が一番印象に残っています。」

 

--クラブの創設者である故・重田貞夫さんや守屋実相談役が喜ぶ顔を想像しますか。

太田「重田さん・守屋さん・菰田さんは小学生からの付き合いです。菰田さんはチームバスの運転手までやって下さったことがあるぐらいですが、その当時のことを思えば、こんなにも取り巻く環境が変わりました。ゼルビアにはポテンシャルがあります。数年後にアジアを舞台に戦っている可能性はありますし、新たな歴史の1ページを作れる過程に関われているのは、とても幸せなことです。町田市民の皆さんも昇格してみないと分からない感情もあるでしょうし、喜んで下さる様子を見られるのが楽しみです。」

 

--目標達成に向けて、ファン・サポーターの皆様へ、お願いしたいことはありますか。

太田「もう十分です。結果を残して良いサッカーを見せることが、先にやるべきことです。今季の開幕当初の野津田の風景と、ここ最近のホームの雰囲気は劇的に変わっていますし、そうした変化が選手たちのモチベーションになっています。上の舞台に行けば行くほどモチベーションは上がりますから、とにかくまずは昇格を勝ち獲るために、一緒に戦って下さい。」

 

--改めて、残り試合への決意を聞かせて下さい。

太田「このチームでサッカーができるのは、あと約40日ほどしかありません。1日1日を楽しみたいですし、良い雰囲気でプレーができると、結果が出ることは分かっているので、楽しくやりたいです。早く昇格を決めて、ビールかけをしたいですね(笑)。」

 

--個人としては、昇格に向けて、どんな爪痕を残したいですか。

太田「シャーレを掲げる時に笑いを取りたいですね(笑)…というのは冗談で、1分でもピッチに立ちたいです。お世話になった方々に対する感謝の気持ちを伝えるのはピッチに立っているのが全てだと思うので、試合に出られるように努力し続けますし、やりきります。」

 

--1点でも取りたい意欲は?

太田「ゴールは常に決めたいです。FKとかで1点取りたいです。いや、個人の欲はもういいです。今までのキャリアで満足しているので、このチームが優勝すれば、何でも良いです。」

 

●編集後記・・・

『すべては町田のために』

まさにそれを体現できる選手。

 

加入当初より、地元クラブであり、アカデミー出身者として

誰よりもFC町田ゼルビアへの深く熱い愛情を持ってきた太田宏介選手。

 

クラブのために、様々な活動に積極的に関わり

ポジティブなオーラで周りを包み

常に気を配りクラブのことを考える姿に

誰もが惹きつけられる。

 

残り7試合。

太田選手とJ2優勝、J1昇格を掴み取ります。

 

(MACHIDiary 編集長より)