--まずは率直にトップチーム昇格1年目を振り返って下さい。

樋口「自分の予想通り、厳しいシーズンになりました。試合に出たのは1試合。ベンチ入りは2試合。数字を見ても、個人的な体感としても、非常に厳しかったと思っています。」

 

--予想していた厳しさとは?

樋口「昨年の練習参加や練習試合では、ゼルビアでのことだけではなく、対戦相手とのことも含めて、強度や技術、メンタルなどいろいろなことに差があるなと感じながらユースでの時間を過ごしていました。トップに昇格した後も、キャンプに入る時点から1年目は相当厳しいシーズンになるだろうと思いつつ、新加入選手会見にも臨んでいました。ただ厳しさを感じているだけでは前進しないので、鍛錬をして、打たれ強くなることにフォーカスしながら、何か学べることはないかとシーズンを過ごしていました。」

 

--その中で得た手応えとは?

樋口「たくさんあります。米山篤志コーチに指導していただいた若手練習では、自分の足りないことにフォーカスしてきましたし、フィジカルも技術も自分に足りないことを補うふるまいは胸を張ってやれたと言えます。その点に関しては、妥協をせずにやり切ったなと。試合に出てからは、サッカーを楽しめていないという印象が残っている中で、シーズンの最後の方の練習は思ったようなサッカーを表現できましたし、思い通りにハーフコートゲームをできたことでサッカーをプレーする楽しさを思い出せました。」

 

--メンタルの面での成長や手応えはいかがでしょうか。

樋口「いろいろな先輩やポポヴィッチ監督を始め、コーチングスタッフともコミュニケーションを取る中で、いろいろな人の考え方やサッカーの向き合い方に触れることで人としても、大きく成長できたとまでは言えませんが、いろいろなことを学べました。また人間性の高い先輩方と触れ合うことで、将来的にこういう選手になりたいと思えるようになりました。トップ昇格1年目はサッカーでうまくいかずに苦しいこともありましたが、とても充実はしていました。」

 

--先輩方とコミュニケーションを取る中で、印象的なものはありますか。

樋口「一緒にいることが多かった中島裕希さんや奥山政幸さんは、いろいろなことを考えているなと思います。裕希さんは600試合も出場し、100点以上もゴールを決めている選手です。アカデミー時代にバックスタンドで試合を見ていた時から裕希さんが活躍する姿は見てきました。それこそ、裕希さんがいないとゼルビアではないと言われるぐらいの存在だったので、自信満々で大きな態度を取るような、エラそうな方なのかなと勝手に想像していましたが、見ての通り、人当たりは良いですし、勉強になることが多いなと感じながら接しています。」

 

--奥山選手からはどんな影響を受けていますか。

樋口「「やり続ければ大丈夫だよ」とか、何気ない話の中でポロっと出る言葉に勇気をいただいています。そういう言葉は簡単に言えそうで言えないものだと思います。」

 

--アカデミーの大先輩と言っていい太田宏介選手に対しても、積極的にコミュニケーションを取っている印象です。

樋口「練習が終わった後に、自分が若手の頃の話をして下さったりしますし、面倒見の良い先輩です。一緒にYou tube動画のロケに行った時には、自分が何をして良いのか分からない時にも、「こうふるまえば良いんだよ」というアドバイスに助けられました。サッカーのこともアドバイスをしていただけますし、そのアドバイスから発展して得たものも大きいです。アカデミー時代は大きく年齢の離れている方と接することはなかったので、大きな影響を受けています。」

 

--シーズン後の練習では相手に寄せられる中でプレーの判断を変えることや、状況を見て、前にボールを運ぶプレーなどに進歩の跡が見られました。

樋口「練習が終わった後に、海外やJリーグの映像を見て、研究する成果も出てきたのかなと。またポポヴィッチ監督や米山コーチからのアドバイスをようやく消化できるようになってきたなという手応えを得られた時期が、シーズン終了後の練習期間でした。正直、チームメートにとってはコンディションを落とさないための練習期間のため、プレー強度は決して高くはない状況だったので、できていた部分もあったかもしれません。ただ細かい部分を見る技術や状況を見てボールを運ぶことは、シーズンを通して意識してきましたし、シーズン後の1カ月の練習期間でそれが形になりました。」

 

--海外の映像はどんなものを見てきたのですか。

樋口「見る目的によっても違うのですが、相手を見て逆を取れる選手か、守備がとてもうまい選手のどちらかを見ました。例えばナポリのアンカーをやっているスタニスラフ・ロボツカ選手はとても守備がうまいですし、1人でほぼチーム全体の守備が回っていると言えるぐらいです。その上でボールも動かせる選手なので、ロボツカ選手は参考にしました。あとはクロアチアのモドリッチ選手が相手の裏を取る天才なので、かなり映像を見ています。」

 

--日本では?

樋口「米山コーチに教わっていたことも影響していると思いますが、止める、蹴るの部分や、相手を外すことを教えていただいたので、フロンターレの試合をよく見ます。海外は勉強という側面が強いです。」

 

--進化の跡が見えた裏側にはそんなことがあったのですね。

樋口「僕自身はその1カ月間が差を縮めるチャンスだと重く見ていました。周りを見るタイミングなどを、毎回の練習で変えることにより、落としどころを見つけられるようになりました。そういった意味では最終日が一番手応えを掴めました。周りを見てパスをさばき、ボールを受けに顔を出す。そういったことを来年のシーズンが始まってもできるようになると、新シーズンはいけるんじゃないかと思えるようになりました。もちろん、そんなに簡単ではないと思ってはいますし、過信にならないようにしたいです。たまたまできるのではなく、何回も繰り返してできるように、そんな再現性を出せるような選手になれるようにと、このシーズンオフを過ごしています。」

 

--ここからは時計の針を少し戻します。7月のアウェイ群馬戦がJデビュー戦となりました。

樋口「あの時は「やっときたか…」と思いました。月日で言えば、まだ半年足らずですが、シーズンが始まってからここまで長かったなと感じました。シーズンの半分の段階でデビューできたとなれば、いろいろな人に「すごいじゃん」とか「実力だね」と言われましたが、自分の中ではそうは思っていませんでした。シーズン全体を客観視すれば、負傷者や難しいチーム状況だったために出場機会が巡ってきたに過ぎなかったのですが、試合に出られて興奮はしました。これからはもっと大きなスタジアムでプレーすることを目指さなければなりませんが、それでも太鼓の音や拍手など、試合の空気感を味わった時には「プロになったな…」という感覚を味わえました。」

 

--一見クールに見えましたが、そんな感情だったのですね。

樋口「それまでは「プロサッカー選手になれました!」と言っても、試合に出ていたわけではなかったですし、ようやくその試合でベンチに入れたので、「やっぱりプロの舞台でサッカーをやりたい!」と強く思いました。勝ちゲームに入れていただいただけなのですが、その場にいられたこともうれしかったです。ロッカールームで自分のユニフォームを掛かっていることにも興奮しましたし、ここまでサッカーをやってきて良かったなと思えました。たくさんの方々の支えがあったおかげで、プロの試合にも出られるようになったので、もっと試合に出て、いろいろな人に喜んでもらいたいと強く思うようになりました。」

 

--それだけ感情が揺さぶられる出来事だったのですね。

樋口「それまで死に物狂いでやってきましたし、「1試合でも、数分でも、絶対に試合に出てやる!」と思ってやってきたので、それが報われた瞬間でもありましたから、それはうれしかったです。ただ1つの物事を達成すると、次を見てしまうタイプなので、「次はもっと長い時間出たい」「先発で出たい」という気持ちになっていました。」

 

--そこから出場時間を伸ばせるかと思いましたが、苦戦しました。




樋口「自分に足りないことが多過ぎました。それに気づくトリガーとなったのが、あの時期の練習試合です。厳しいメンバー外の練習をしてきましたが、3試合の練習試合に出場すると、自分のコンディションの管理不足を痛感しました。最初の横浜桐蔭大戦は15分で息が上がってしまいました。ボールを受けるとか、ボールをさばくとか、そういう考えにすら及ばず、走ることだけで精一杯でした。次の相模原戦も似たようなコンディションでしたし、その次のFC東京戦でようやく前半は体が動き始めましたが、後半には持続しない状況でした。結局はアピールする場だった3試合をフイにする形でシーズンの最後まで行ってしまいました。」

 

--試合に絡めない中でのコンディション作りに苦労したと。
樋口「それまでのやり方であれば、コンディションが落ちてしまうものだと、自分の知識不足を痛感しました。メンバー外の練習が厳しかった分も、コンディションは整っているだろうと思っていたのですが、甘かったですね。あの3試合の練習試合が最後まで自分を苦しめることに繋がりました。そこからポポヴィッチ監督の接し方も変わってきましたし、「今年はこのままメンバーに絡めないかな…。でも、できることはある」と思うように、自分に言い聞かせていました。」

 

--そういった教訓を生かそうと、コンディションを整えるために何か具体的なアプローチはしたのでしょうか。

樋口「走れない、ボールも受けられない、守備もできないとなれば、ボランチとしては致命的です。そうした状況を変えるために、トレーナーさんに相談しました。結局は「走るしかない」というアドバイスでしたが、考え方を変えるようにしました。厳しい練習を積んでいるからコンディションは大丈夫、努力しているから報われるだろうと思うのは、もう止めました。努力して積み重ねた実力で結果を残すから、その先に繋がっていくと、考え方を変えました。全ては自分の経験、知識不足に起因していることです。とても悔しかったので、結構深く反省しました。」

 

--夏の練習試合3試合は貴重な経験でしたね。

樋口「その期間の最も大きな出来事は、FC東京戦後に米山コーチとマンツーマンで話したことです。最初に米山コーチには「やる気がないのか?」と言われたので、「自分はやる気は満々ですが、気持ちに体がついていかない」という話をしました。ただ米山コーチには「その前にやるべきことがある。今の堅はプレーの基準が足りない」といったお話をしていただきました。今季に関しては、米山コーチに頭が上がりません。メンタル面も技術面もいろいろな角度からアプローチしていただいて、成長の速度は遅かったかもしれませんが、若手練習を見ていただいたことで、最後の1カ月の練習にも繋がっていきました。クラブの去り際にはなりましたが、「このまま続けていけば大丈夫」と言っていただけました。苦しい時期を乗り越えられて良かったですし、米山コーチとの対話が自分の甘さに気づくことに繋がりました。自分の基準も変えられたことで、残り1カ月での手応えを掴めたんです。」

 

--プロ2年目。試合に出るために特に必要なことは?

樋口「囲まれても相手の逆を取って、パスをさばくことや、ボールを運ぶプレーに磨きを掛けていきたいですし、ビルドアップで前進することなど、ボランチの位置からボールを動かすことは当たり前にできるようにしたいです。あとは守備やプレー全体の強度を上げる自主練習にも取り組んでいるので、そういったことを90分間、再現性高く表現できれば、もっと試合に出るチャンスがあるんじゃないかなと思っています。守備もできて、相手の逆を突ける選手になっていきたいです。」

 

--このオフはアカデミーの練習にも参加しているとか?

樋口「週1、2回程度ですが、参加するようにはしています。昨年まで一緒にプレーしていた選手は「ヒグ」と気安く近づいてきますが、それ以外の後輩とは気まずい空気が流れています(苦笑)。向こう側は話し掛けて良いのだろうか…という距離感を感じますし、僕自身も練習に参加している形なので、変に距離感を詰める必要性もないかなと思っています。慕ってくれている旧知の後輩とコミュニケーションを取ることが多いです。」

 

--実際にそのように一緒に練習する機会があれば、「樋口選手のようにトップチームに昇格したい!」と思う選手も多いのでは。

樋口「そう思ってもらえるようにすることは、僕の役回りの1つだと思っています。僕自身が活躍することも大事ですが、アカデミーの選手たちがトップに上がりたいというモチベーションに繋がってくれると、これ以上の幸せはないなと思っています。」

 

--アカデミー時代に他の選手と違うことなどはしていたのでしょうか。

樋口「他の選手たちがどんなことをしていたか、分かりません。当時と今では考え方が違いますが、当時はとにかく量だなと考えていました。例えば1日のタイムスケジュールを振り返ると、17時スタートの練習前に16時から筋トレをやって、19時までの全体練習後には20時30分ぐらいまで自主練習をすることもありました。帰宅してからは夕食後に試合の映像を見て眠るなど、何でも自分のためになることはやろうと取り組んできました。」

 

--人一倍努力を積み重ねてきた自負はあると。

樋口「やらなきゃうまくならないのであれば、やるしかないですし、そういう意識はジュニアユースの頃から持っていました。ユースでは3年になってようやく試合に出られるようになりましたが、「努力をしてチャンスを掴み取ってやるんだ!」という気持ちと行動は誰にも負けなかったと思っています。」

 

--今のアカデミーを見て思うことは?

樋口「単純にうまいなと思いますが、もっと熱量が欲しいですね。「こんなにサッカーに情熱を傾けています!」と周りに伝わるぐらいが良いなと思っています。客観視はできないので、一概には言えないですが、僕自身は相当な熱量を持っていました。「絶対にプロになってやる!」と、プロにはなれないと言っていた人たちを見返してやるんだという気持ちでいました。こういうアドバイスは好きではないですが、アカデミーの選手たちは熱量があるものの、トップレベルではないなと感じています。」

 

--日本代表の長友佑都選手の言葉を借りると、熱量が足りないと。

樋口「アカデミー時代の僕は学校に行っていても、寝る前にも、「絶対にプロになってやる!」と思ってきましたから、後輩たちもそれぐらいの気概は欲しいなと思っています。」

 

--年明けには新シーズンがやってきます。来季の数値目標などはあるのでしょうか。

樋口「まずは試合に出ること。チームとしては、ゼルビアのために戦えるのだから、J1昇格のために戦っていきます。また個人的にはA契約を取りたいです。戦力になれるように、まずは自分を高めて、チームの勝利を重ねたうえでA契約を勝ち取りたいです。」

 

--最後に後輩たちへメッセージをお願いします。

樋口「アカデミーにいると、なかなかプロ選手になるのは想像がつかないかもしれませんが、「絶対にプロになってやる!」という気持ちを持ち続け、自分を高めようと意識し続けてほしいなと思います。何かあったら、僕で良ければいつでも話をします。アカデミーが結果を残し、強化部の目にとまるような結果を出すことで、自ずとトップ昇格への道が見えてくると思います。また個人としてプロになりたいと思っている選手でも、チームとしての結果を残すのも大事であることは肝に銘じてほしいです。頑張れ!」

 

--1人でも多くのトップ昇格選手が誕生するように、トップで待っていますと。

樋口「アカデミーからのトップ昇格選手をもっと増やしたいですから、本当に待っています。僕自身はトップの選手として居続けられるようにしますし、「樋口さんに憧れて、トップチームに昇格しました!」という選手が1人でも出ることを期待しています。僕も頑張るので、ぜひゼルビアでプロになって下さい。」

 

--J1昇格が至上命令のクラブとなっているために、トップ昇格の基準が上がっている難しさはあると思いますが、そこを乗り越えてほしいと。

樋口「かなり大きな話になるかもしれませんが、アカデミーは先行投資ですから、僕個人としての想いはゼルビアに大きなお金を落とすことまでが、アカデミー生としての役目だと思っています。僕が活躍をして、ゼルビアがJ2で優勝すれば、たくさんのお金が入ってきますし、契約期間中にどこかのクラブに移籍することになれば、移籍金を残すことができます。プロになってからは、ずっとゼルビアにそういったサイクルを作りたいと思ってきました。もちろん、ホームタウン活動などで地域に貢献することもできるとは思いますが、ゼルビアに育ててもらっているので、いずれはその恩返しをするべきだということは、胸に刻んでいますし、後輩たちもそれは胸に刻んでほしいことです。」

 

--樋口選手はそのためのお手本にならないと。

樋口「理想ではそうなりたいと思っていますが、そんなにハードルを上げないで下さい(笑)。」

 

●編集後記・・・

ルーキーイヤーの出場時間は「1試合1分」

プロのサッカー選手としては非常に厳しいシーズンを過ごした樋口選手。

 

ただ、本人もそれを覚悟しており、何より日々の積み上げをとても強く意識しているように感じました。

 

「自分がアカデミー選手たちの目標になりたい」と今回のインタビューだけでなく常々そのように語っていたのが印象的で、このオフシーズンのアカデミー練習参加の様子を見た時も、様々な後輩に積極的に声をかけていました。

 

「ゼルビアに育ててもらっているので、いずれはその恩返しをするべき」

その恩返しを受ける時は、J1に昇格し、樋口選手がチームの中心選手として、J1優勝を成し遂げる時かもしれません。
 

(MACHIDiary 編集長より)