--今回は第43回ということで、1回は過ぎてしまいましたが、背番号42の福井光輝選手にお話を伺います。前年の2017年は特別指定選手として登録されていましたが、18年に日体大からゼルビアに加入してから気がつけば在籍5年目となっています。

福井「週1、2回練習に参加していた特別指定選手時代を含めると6年が経ちました。当時は未来のことは考えられなかったです。自分より長い在籍選手は、深津康太選手、中島裕希選手、奥山政幸選手、三鬼海選手、平戸太貴選手と5人しかいません。そう思うと、自分も在籍期間が長くなりました。5年も時が経つと、クラブの歴史も移り変わり、今やクラブハウスや練習場もできて、クラブの規模自体も大きくなっていることを改めて実感しています。」

 

--選手の立場から思うゼルビアの良さとは?

福井「目に見えて環境が整ってきましたし、クラブが毎年のように右肩上がりの成長をしているところだと思います。ピッチ上のサッカーという意味では、アグレッシブでインテンシティーの高いサッカーであること。相手があるため毎試合うまくいくとは限りませんが、それを体現できれば、J1も夢ではないと思っています。また体現できている場合は、後ろから見ていても「今日は勝てるな」と思える試合がたくさんあります。」

 

--ここからは福井選手個人にフォーカスします。ご自身が考えるストロングポイントは?

福井「背後のスペースケア、左足でのキック力、ハイボールの処理、明るいパーソナリティー…といったところでしょうか。」

 

--武田治郎GKコーチはどんな存在ですか。

福井「治郎さんの下でたくさんのことを学んできました。プロになるまでは漠然とGKをやってきた部分もあったので、練習に対する取り組み方や、GKの基礎・基本技術、ボールにアタックすることなど、それこそルーキーだった当時は毎日のように厳しく指摘されてきました。」

 

--ここからはポポヴィッチ体制での3年間について、振り返ります。まず初年度の2020年は、秋元陽太選手が加入しました。経験豊富なGKと一緒に練習することで学んだことは?

福井「地元出身であり、湘南やFC東京での活躍はもちろん誰もが知る、名前の知られていた方でしたし、シュートストップに長けたGK。自分に足りないものを持っているため、「これは良いものを盗めるぞ」と思いました。また廣末陸選手も非常にポテンシャルの高いGKも加入してきました。高いレベルでのポジション争いを経験することで多くのことを学んでほしいという強化部からのメッセージとして受け止めていました。最終的に2020年は13試合に出場しましたが、濃い1年でした。ただ自分が出た試合は失点も多く、チームの結果も伴わなかったので、とても悔しいシーズンでもありました。」

 

--例年ライバルになり得るGKを加入させることが、強化部からの期待だと感じていたのですね。

福井「唐井直GMからの自分に対するリスペクトであり、このクラブを背負ってやってほしいという意思の表れだったと、自分自身はそう思っています。刺激にもなりますし、僕に対する期待と信頼感を感じてきました。」

 

--ポポヴィッチ監督からはどんなことを求められてきましたか。

福井「プライベートでは優しくても良いけど、ピッチ上ではそういうパーソナリティーを変えた方が良いと言われてきました。ある試合で日本代表の権田修一選手が、アディショナルタイムにビッグセーブした際に、CKになったボールを自分でCKスポットへ置きに行ったことがあったという話を聞きました。それぐらいの情熱を示すというか、「勝ちに行く姿勢を示すとはこういうことだ、まだまだ足りないぞ」と指摘されたこともあります。」

 

--21年には茂木秀選手やシーズン途中には19年にともにプレーした増田卓也選手が加入しました。

福井「秀は身長も高く、足元に自信がある選手でフランクなパーソナリティーも素晴らしかったです。マスさん(増田)は練習を1ミリもサボらない選手でしたし、練習前の入念な準備を1日も欠かさなかったです。19年にそうした姿を見せていただいたので、あの時の経験から時間が経ち、「光輝は変わった」と思われたかったです。それができればポジション争いで負けることはないと思っていたので、マスさんには成長した姿を見せたいと思ってきました。」

 

--そんな21年はキャリアで初めてリーグ戦フルタイム出場を果たします。

福井「その時は実感がなかったですが、振り返るとすごいことでした。昨季は一瞬で1試合1試合が過ぎ去る中、成長させてもらいました。ポポヴィッチ監督も自分を先発から外そうと思う時があったと思いますが、信頼して使い続けてくれたことに感謝しています。」

 

--チームとしても前年の19位から5位へとジャンプアップしました。

福井「シーズン終盤のチーム状態が印象に残っています。首位の磐田と対戦し、そこで敗戦したことにより、自動昇格は厳しくなりましたが、そうなってから、もう一度チームはまとまることができました。ここまで見せてきたサッカーを体現できれば結果を出せるし、来年に繋げられるだろうと、最後の10試合の安定感はすごかったです。このチームで何かを成し遂げたいという意思が、結果を手繰り寄せていた部分はあったと思っています。」

 

--磐田戦、千葉戦と連敗しましたが、見事にチームは立ち直りました。

「千葉戦は自分のミスがきっかけで負けたのに、次の練習から下を向かずにみんなが取り組んでいましたし、連敗を止めた秋田戦は、ガツガツと体を当ててくる相手にボールを動かして賢く勝てました。チームとしての波も少なかったです。またアーリくん(長谷川アーリアジャスール)や(高橋)祥平くんなど、補強した選手たちも目に見えるリーダーシップを発揮してくれましたし、彼らがもたらす影響力は大きかったと思います。」

 

--ポープ・ウィリアム選手やバーンズ・アントン選手が加入した今季のGKチームも、ハイレベルな競争をしています。

福井「例年GKチームには同じレベル、もしくは上のレベルの選手が加入する形が続いています。自分としては42試合に出た自信とポポヴィッチ監督のサッカーを体現する自信はありましたが、J1の試合も経験しているポープくんとの競争が待っていました。開幕序盤は昨季までのアドバンテージがあったため、試合に出させてもらっていました。その中で、自分が出ればチームの結果がついてくると自信を持ってピッチに立っていましたが、結果が出ない時は自分がGKの仕事をできていなかったため、大きな出来事が起きました。」

 

--アウェイでの山口戦。ハーフタイムでの途中交代ですね。

福井「交代を聞かされた時は、「え?」と衝撃が走りましたし、頭が真っ白になりました…。ただ単純にシュートを止められなかったからこそ交代となったわけで、もう時間は戻ってこないですし、その後は気持ちを切り替えてベンチに座った瞬間に何ができるかを考えました。先発を外れてからの練習では、シュートストップという課題に取り組むために、ポジショニングを改善していこうと気持ちを切り替えました。どこにボールやポスト、PKスポットがあるのか。横目でそれらを見て把握するとか、些細なことに目を向けることが大事なんだと、今年になってようやく気づきました。いまさら遅いかもしれませんが、以前の自分は来たボールに対して構えるだけのような形でしたから。」

 

--ポープ選手から盗めると思ったものは?

福井「セービングを筆頭に、ビルドアップの部分や、あの大きな体でもスムーズに動かせる体の使い方です。オフシーズンに一緒に練習することもあったので、もともと知らない選手ではないですし、良い関係性を築いて、切磋琢磨できればと思っていました。自分は周りのGKに恵まれていますし、僕の成長を願って、強化部の方は環境を整えてくれていますから、僕自身が成長することがクラブへの恩返しだと思っています。」

 

--先発復帰の試合がアウェイでの山形戦でした。

福井「山形戦は僕自身にとってのターニングポイントとなりました。冷静にポジショニングを確保できて、ディサロ(燦シルヴァーノ)選手のシュートを止めることができました。また後半には、いつもとは違って前に構えて加藤大樹選手のシュートを止めることもできましたから、ポジション取り1つでシュートは止められるのだと痛感しました。ただGKは難しいポジションで10本のセーブをしても、1本でもゴールを決められると、「福井頑張ったね」で終わってしまうものです。」

 

--一方でチームは千葉戦、大宮戦と2連勝を飾りました。

福井「連勝中のドンピシャのタイミングで首位を走る横浜FCとの上位対決がありました。勝手にモチベーションも上がりましたし、どちらに結果が転ぶか分からない試合で、終了間際にオフサイドを取り損ねて失点をしました。チームとしての力は発揮できなかっただけに結果が残念でした。さらに翌節の岡山戦は手も足も出ない…といったゲームでした。この2つの敗戦のダメージを引きずったのか。山口戦でも試合の流れが少し良くなってきた中で、隙を見せて失点し、そのままズルズルと負けてしまう試合になってしまいました。」

 

--その後のチームは結果が伴わず、栃木戦での敗戦という結果により、残念ながら来季の昇格の可能性は途絶えました。

福井「誰もが思い描いたシーズンではなかったですから、悔しい気持ちでいっぱいです。」

 

--今季はまだ2試合残っています。ファン、サポーターの皆様へメッセージをお願いいたします。

福井「皆様にとっては、フラストレーションが溜まるシーズンだったと思います。ここまでポポヴィッチ監督が構築してきたサッカーでJ1に昇格させたかったという想いは残っていますが、その想いを残り2試合で体現できれば、勝利に結び付くと思っています。もう一度1つになって、クラブ全体で勝利へのアクションを起こしていきましょう!」

 

--最後に福井光輝選手にとって、FC町田ゼルビアとは?

福井「月並みな言い方ですが、プロサッカー人生そのものです。今でもこのクラブに来て良かったと思っていますし、このクラブに育ててもらったからこそ、ゼルビアでJ1へ行きたい気持ちはとても強いです。埼玉スタジアムや日産スタジアムなど、J1のスタジアムでゼルビアのエンブレムを背負ってプレーしたいですし、スタンドで旗を振るサポーターも見たいです。でも自分はピッチに立てなくても良いと思っています。自分はゼルビアをJ1へ上げる立場ですから。いつの日か、近い将来に実現させたいですね。」

 

●編集後記・・・

「自分はピッチに立てなくても良いと思っています。自分はゼルビアをJ1へ上げる立場ですから。」

 

どんな時も「ゼルビア」を第一に考える福井選手。

試合に出場すれば大きな声で味方を鼓舞し、ピンチともなれば、身体を大きく広げてシュートブロック。

今シーズンも何度も町田のゴールに鍵をかけた福井選手。

 

そんな福井選手も、最近は下を向く瞬間が・・・

「勝てなくて申し訳ない。」

「いつも支えてくれているのに申し訳ない。」

ファン・サポーターへの想いやフロントスタッフのことも常に気に掛けるその存在は、誰もが福井選手を応援したくなるはず。

 

そんな背番号42の笑顔が見たい。

残り2試合。

福井選手の笑顔が見れる時。

それはファン・サポーターの笑顔が弾ける瞬間でもある。

(MACHIDiary 編集長より)