--今回はFC町田ユース(現FC町田ゼルビアユース)のご出身で、10年以上前から継続してゼルビアに対するご支援をいただいている時国司さんにお話を伺います。まずは、FC町田ユース卒団後から現在までの軌跡をお話し下さい。

時国「慶應義塾大学経済学部に進み、2004年に卒業、新卒でゴールドマン・サックスに入社しました。戦略投資部という部署でした。その後ロンドンビジネススクールでMBAを取得し、2012年にロンドンの投資ファンドOrbis Investmentsに移りました。そして16年に日本法人代表取締役社長就任の辞令を受け、帰国しました。」

 

--投資のお仕事について、事例を添えて教えて下さい。

時国「社会的意義の大きい仕事です。また、サッカーと同じで、年齢や経歴を問わず、実力次第でどんどん試合に出られる点も魅力だと感じています。例えば、社会人2年目の時に担当した、ある破産企業への投資が良い例です。大規模な債務超過及び赤字で破産申請し、1,200名の社員が路頭に迷いかけていた企業への投資でしたが、全社員の雇用を守りつつ数年で黒字化、最終的にニューヨーク証券取引所上場企業と資本提携するまでに再生させた案件がありました。」

 

--そういった中で、ゼルビアにご支援いただいている背景は何でしょうか。ゼルビアユースの選手たちの海外留学費用を全額ご支援下さったり、10月9日のホーム栃木戦でも時国さんからのご支援で聾学校や児童養護施設、そしてゼルビアアカデミーの子どもたちをご招待下さったり、さまざまな角度からご支援をいただいています。

時国「自分が夢を叶えることができたのは、FC町田ゼルビアや慶應義塾湘南藤沢中・高等部をはじめ、指導してくださった方々のおかげであり、恩返しをしたいという気持ちが背景にあります。また、夢に向かって努力することの素晴らしさを、身をもって体感し、誰もが夢を持って日々を過ごせるような社会を作れたらという思いから、2005年より親御さんのいない子どもたちや、病気と闘う子どもたちを中心に、自分なりに支援活動を続けてきました。」

 

--サッカーでは、U-20 FIFAワールドユース選手権(現U-20W杯)アジア予選に台湾代表のキャプテンとして出場されたり、FIFAフットサルワールドカップアジア最終予選まで進出されたりと、これだけの経歴をお持ちなのに、プロを目指さなかった理由は何でしょうか?

時国「プロとは、「職人」です。しかも、至上の熟練工であることにより、はじめてプロであり続けることができると考えています。サッカーにおいて、自分なりに夢を叶えることはできましたが、「目標の実現」はあくまでも外在的な結果に過ぎません。内在的にサッカーと向き合い、熟練と言える領域に達したかどうかとは、別問題であるということです。私の場合には、自分がその域に到達したとは到底思えませんでした。」

 

--プロとは職人ですか。

時国「それに対して、高校生の時に起きたアジア通貨危機をきっかけに、慶應義塾湘南藤沢高等部の卒業論文でヘッジファンドの研究を行い、投資という分野においては、自分なりに「職人」と言える域を目指せるのではないかと考え、後者の道に進みました。従って、大学時代及びゴールドマン・サックス時代は、サッカーはおろか、運動やサークル活動なども一切せず、文字通り酒の一滴も飲まない日々を過ごし、仕事及び勉強に専心しました。」

 

--時国さんがFC町田でプレーされていた時から、今のゼルビアは想像できましたか?

時国「恥ずかしながら全くイメージできていませんでした。ただ、当時ユースの練習には梅澤学さんら、元Jリーガーの方々がよく参加して下さっていたり、全日本少年サッカー大会で優勝して日本一になった歴史もあったりと、長きにわたって日本を代表する選手を多く輩出してきたFC町田がJリーグへ参入していく素地は、当時からあったのかなと思います。ただ、実際にここまで来るのがいかに大変だったか。昼夜問わず、ずっと仕事をし続ける大友健寿社長や唐井直GMをはじめ、ゼルビアのスタッフの皆様の努力をアマチュアリーグ時代から見てきた身としては、本当に尊敬しています。まさに歴史を作った偉人です。」

 

--ゼルビアが今後どのようになっていってほしいですか?

時国「2つあります。1つは、これからもずっと、哲学のあるクラブであり続けてほしいということ。小学校の先生によって作られたという出自からも想像できる通り、FC町田は「ただ勝てば良い」というクラブではありません。哲学を堅持し、その哲学を貫徹するための組織作りにこだわる、そういったクラブであり続けてほしいです。」

 

--哲学があることが、そのクラブのオリジナリティーになりますよね。

時国「例えば、クラブハウスがある三輪緑山ベースを訪れていただければお気づきになると思うのですが、ゼルビアのスタッフの方々は皆さんすごく人柄が良く、人間として尊敬できる方ばかりです。その結果、三輪緑山ベースには明るく優しい空気が流れています。ただ仕事ができれば良いのではなく、人柄やクラブ文化との親和性まで考えて人材を登用してきた結果だと思います。間近で一流選手の皆さんのトレーニングを見られるのも大変魅力的ですので、是非一度三輪緑山ベースをご訪問下さい。」

 

--もう1つはいかがでしょうか。

 

時国「もう1つは、長期的視点を持ち続けてほしいと思います。私はどんな仕事にも、どんなプロジェクトにも、「投資ホライズンのアービトラージ」が存在すると考えています。つまり、長期の投資期間を確保しないと実現できないものがあり、時間を味方につけるだけで勝てる時がある、ということです。例えば、ヨーロッパで見られるように、1,000年以上の投資ホライズンで建設することによって、桁違いに素晴らしい建造物ができたりしますよね。」

 

--時間を味方につける、ですか。

時国「私自身、大好きなクラブだからこそ、ともすれば各シーズン、各試合のたびに勝利する姿を見たくなってしまい、一喜一憂は不可避ですが、そこで短期的痛みを堪え、長期目線を堅持することで、結果的には格段に強いクラブへと進化できると考えます。」

 

--現在のゼルビアでは、FC町田出身の太田宏介選手や、アカデミー出身の樋口堅選手もプレーしています。

時国「FC町田ゼルビアは、もともと育成組織からスタートした稀有なクラブであり、「育成の町田」ですから、生え抜きの選手が活躍して下さるのは、クラブとして本懐を遂げることに他なりません。これからもたくさんの選手が太田宏介選手、樋口選手に続いてほしいです。ちなみに、太田宏介選手の『ぼくの道』というご著書を拝読し、とても感動しました。教科書に載せるべきではないかと思うくらいお勧めの1冊ですので、ぜひ読んでみて下さい。」

 

--最後に時国さんにとって、FC町田ゼルビアとは?

時国「世界最高のクラブです。英国には、「Who is your club?」という定型句があります。つまり、「あなたが好きなフットボールクラブはどこ?」という意味です(「フットボール」とあえて言わなくても、英国では「クラブ」と言えばフットボールクラブです)。ロンドンに住んでいたので、聞き手は「アーセナル、チェルシー、トットナム、ウェストハム、クリスタル・パレスのうちのどれだ?」という意味合いで尋ねているのですが、私は常に「FC Machida Zelvia.」と答え、そのたびに、いかに素晴らしいクラブであるかを説いてきました。」

 

--ゼルビアを支える方の「鑑」のような回答です!

時国「FC町田ゼルビアは、私自身を含め、たくさんの子どもたちの夢を叶えてきた学び舎であり、文字通り学校のように、競技を引退した後も帰って来られる場所です。私にとって、一生を豊かにしてくれる存在であり、誰が何と言おうと、私にとって世界最高のクラブは、マンチェスター・ユナイテッドでも、バイエルン・ミュンヘンでもなく、FC町田ゼルビアです。」

 

●編集後記・・・

「世界最高のクラブ」

クラブへの最大限の表現をお聞きし、胸が熱くなりました。

 

「哲学のあるクラブであり続けてほしい」

この言葉も深く胸に突き刺さりました。

 

ゼルビアへの深い愛と、それを恩返ししたいという気持ちをお聞きし、大変ありがたく、ありきたりな言葉でしか表現できないですが、感謝の気持ちでいっぱいになりました。

 

まだまだ、続くゼルビアの道。

それを遠くから見守り続けてくれる存在がどれほどまでに、心強いか。

 

時国さんが。

そして、ファン・サポーターの皆様が世界で誇れるクラブになるために。

一歩ずつ積み上げ続けていきたいと思います。

(MACHIDiary 編集長より)