--先般のパートナー事業部所属である伊東祥明さんに続き、田口さんも2回目の登場になります。今回もよろしくお願いいたします。まずは昨年から始まった「天空の城 野津田」プロジェクトについて、ここまでの手ごたえはいかがでしょうか?

田口「ゼルビアのファン、サポーターの間では、「天空の城 野津田」プロジェクトについての話題が少なくなっているなという印象を抱いています。それはネガティブな意味ではなく、日常のホームゲームが天空の城として認識されていることの裏返しなのかなと思っています。そういった意味では、一定の成果があったと感じています。」

 

--日常のホームゲームに「天空の城」が自然と打ち解けていると。

田口「一方で、新鮮味がなくなってきているともとれますので、新しいものを出し続けることで、また話題に上げていただけるのかなと思います。これからも試合を重ねるごとに新しい発見がある状態にしていかないといけない。それが現状の所感です。」

 

--ある種の慣れが生まれているのでしょうか。

田口「昨年は立ち上げ期ということもあり、少し変われば、「変わった」と反応があるぐらいわかりやすい変化を加えることができたのですが、今年はあるものに対しての肉付けが中心となっています。そうしたアプローチによって、真新しさが少なくなっているからこそ、ご来城いただく方々にとっては、大きな変化として捉えることが難しくなってきているのかもしれません。」

 

--その他の周囲の反響はいかがですか?

田口「他クラブの方とお話をする中で「思いきったことをやりましたね」とお褒めの言葉をいただいています。またこれは雑談レベルですが、プロジェクトの進め方の問い合わせが入ることもあります。大袈裟な言い方かもしれませんが、サッカー界に新しい風を吹き込めたのかなと思いますし、ゼルビアは新しいことにチャレンジするというイメージ付けを、対外的には表現できたかなという感触も得ています。」

 

--ビジタークラブからの感触の良さはうれしい限りですね。

田口「ビジタークラブのサポーターの方々は年に1回しかご来城いただけないこともあり、新鮮な反応をSNS上にアップしてくださったり、実際にスタジアムでお声掛けいただくこともあります。そういった部分では、天空の城の世界観を作ることに関しては、手ごたえを掴んでいます。」

 

--他クラブの方からの反応で、「思いきったことをやった」という言葉の真意はどう捉えていますか。

田口「ホームゲームの会場を何かのテーマの下にブランディングしていくという取り組みは、どこのクラブも実行していないことかと思います。サッカーと関係のない部分に特化した取り組みが新鮮に映っているのかもしれません。また先日は山口の小山文彦社長が全ての看板表示などのデザインが統一されていることに驚かれていたと、大友健寿社長から伝え聞きました。」

 

--これまでのプロジェクトの中で展開してきたイベントで、田口さん個人的にお気に入りのものは?

田口「思い入れのあるイベントが2つあります。1つ目は「ゼルビアクエスト」。「謎解きは試合の前に」というキーワードの下、試合開始までに新しい時間の過ごし方を提案するといったコンセプトで展開している謎解きイベントです。第1回目は熱意のあるインターン生が中心となって、クエスト(冒険)の作成から当日の実行まで全てやってくれました。また彼らの熱量に押されるように、パートナー事業部のスタッフが、ゼル塾でもご協力いただいているACフォルテさんに提案をし、クエストの作成でご協力いただけることになりました。ゼルビアクエストがパートナー企業様とコラボするまでのイベントに発展したことが、すごく嬉しかったです。」

 

--情熱が物事を動かした典型例ですね。

田口「また8月27日横浜FC戦でのゼルビアクエストでは、パートナー企業でもある麻布大学さんにクエストの作成部分でご協力いただきました。繰り返しになりますが、ご来城いただく方々に楽しんでほしいという想いを追求した結果、パートナー企業様にもご支援いただけるようになったことは、コンテンツとしての成長を物語っています。」

 

--もう1つのお気に入りイベントを聞かせて下さい。

田口「もう1つは「コスプレフェス」です。天空の城プロジェクトの肝は、いかにこの世界観に入っていただくか、です。これを達成するために、実は昨年の天空の城プロジェクトをリリースするタイミングでは既に、コスプレフェスを実行することが決まっていました。かつてクラブでは10月18日の「ミニスカートの日」にちなんで、スカート着用の方を無料招待するといったイベントを開催しました。その中でゼルビアのサポーターは年齢、性別を問わず、そういったイベントに積極的にご参加いただける方が多くいるという土壌があったため、コスプレが1つのフックとなって、イベントとして発展していくのではないかといったイメージはありました。」

 

--15年の相模原戦で実行した「ミニスカートの日」にちなんだ企画、懐かしいです。

田口「ただコスプレフェスにおける目標の達成ができているかと言えば、まだそこまでは到達していません。サブカル系の方と知り合えたことでまた違った発想も出てきたので、今はコスプレフェスの立ち位置を天空の城の世界観に入っていただくためのフックではなく、別の立ち位置としてチューニングをする必要があると感じています。」

 

--田口さんの中でのコスプレフェスにおける「到達地点」とは。

田口「貴族の格好で来城し、試合が始まると、ユニフォームに着替えるとか、試合前と試合中で服装を変えるといった装置になっている状態でしょうか。21試合のホームゲームが全てハロウィンのコスプレになるような、仮装デーのような非日常の空間を作れればと思います。普段ではできない格好をしても浮かない場所になれば面白いなと。」

 

--10月9日の栃木戦では「天空祭」が開催されます。開催の経緯を聞かせて下さい。

田口「プロジェクト発足当初から、10月9日は特別な日にしたいとの想いはありました。昨年、SNS上で10月9日は「天空の日」と投稿しましたが、いつの日か10月9日に試合があれば、「天空の日」のイベントをやりたいとプロジェクトメンバーの間で話してきました。まさかプロジェクト発足2年目に実現できる運びになるとは思いませんでしたが、「これはやるしかない!」と開催することを決めました。」

 

--語呂に合わせて109のイベントを考え出したとか。

田口「10月9日に試合があることが分かってから、109のイベントを実行することに決めました。少し話は逸れますが、前後の10月8日や10月10日に試合があればそこでやっても良いのでは、といった声もありましたが、10月9日にやることにこだわりました。2019年の「こどもの日」にホームゲームが開催された折、選手紹介の際に選手の子ども時代の写真をビジョンに載せましたが、あのイベントも5、6年温めてきたことでした。「こどもの日」が5月5日になったのには理由や意味があると思いますので、5月5日にやることにこだわっていたことと今回のケースも同じです。実行は10月9日でなければいけないというところが出発点でした。」

 

--そういったこだわりは大事なことだと思います。

田口「開催日にこだわるぐらいですから、語呂に合わせて、大小109のイベントを実行することにもこだわって、準備を進めてきました。「”観戦”という”冒険”から、”思い出”という”宝物”を何か1つ、お持ち帰りいただく」ことをテーマに掲げていますが、109ものイベントがあれば、どれか1つぐらいは思い出としてお持ち帰りいただけるんじゃないかと考えました。」

 

--どうやって109にもわたるアイディアを出し合ったのでしょうか。

田口「天空の議会に参加しているプロジェクトメンバー6人の気合と根性の一言です(笑)。ボツ案を入れると、200ぐらいはアイディアが出ました。試合当日までに完結するものも含めて、109のアイディアを捻り出しました。」

 

--田口さんはプロジェクトリーダーとしての意地とプライドがあるでしょうから、100ぐらいは出されたのですか。

田口「100個はさすがに厳しいですが、70は出しましたよ。」

 

--さすがです。皆さんで出し合ったアイディアを109に絞っていくプロセスはどういった形でしたか。

田口

「まずアイディア出しの段階では109を目指していくのではなく、それ以上のアイディアを出しあうところから始めました。そこから現実的にできるかどうか、そういった観点で絞りながら、そぎ落としていくと、結局70ぐらいになり、一度、絶望感に襲われます。そこから再度気持ちを奮い立たせ、追加していく形で109にしていきました。その過程で、大きなイベント1つにいくつかのイベントが内包されていたため、1つずつに細分化したものもありました。」

 

--実現できなかったボツ案を1つ、こっそりと聞かせて下さい。

田口「「天空シート」という案がありました。これはヘリコプターで野津田に来城するという企画です。国への申請や施設への届出も進めつつ、長い時間を掛けて実現に向けて動いてきましたが、今回のタイミングでは難しかったです。ジュエリーメーカーとのタイアップの下、ヘリの中でプロポーズをするシチュエーションを作れれば、「天空の花嫁」という企画もできるなと考えたので、いつかは実現したいです!」

 

--栃木戦の日に実行される実際のイベントをいくつか聞かせて下さい。

田口「まだリリース前のものもありますが、ふれあいサッカーや男気コースなど、クラブ定番のものから、コスプレフェスやゼルクエなど、天空の城系のイベントまで幅広くやります。コスプレフェスにちなんで、声優の檜山修之さんのご来城もありますし、先着3000名様に「天空の紋章ミニフラッグ」をプレゼントします。またご出店いただいているスタグルのお店のご協力の下、グルメ関連でもぶっ飛んだメニューをご用意しています。見て楽しめる観覧型から参加型のものまで、多くのイベントをご用意していますので、追加情報のリリースを楽しみにしていて下さい。」

 

--今回の男気コースは玉川学園駅出発なのですね。

田口

「6月のまちだ漢祭では町田駅から出発しましたし、今回はまだやったことがない玉川学園駅からスタートすることにしました。結構、坂の起伏の激しい道のりですし、鶴川駅から出発するよりは、多少長い距離になりますが、チャレンジャーの皆様のご参加、お待ちしています。」

 

--田口さんの中でのイチ押しのイベントはどれですか。

田口「さすがに1つには絞れないですね…。ご興味を持っていただいた皆様にとって「さすがに109個もあれば、私も楽しめるポイントが1つはあるかも!」と思っていただきたいので、どれか1つを私は選ばず、ぜひ特設ページをご覧いただき、皆さんに刺さるイベントを見つけていただければ幸いです。仮に刺さるイベントがなければ、試合後のアンケートでご教示いただければと思います。次に10月9日が土日祝になるのが2027年なのですが、その日程でホームゲームの開催ができることを願って、アンケートでいただいたアイディアを温めさせていただきます。」

 

--今後、天空の城プロジェクトはどのように発展していくのでしょうか?

田口「継続的にテーマパーク関係の方や商業施設の方とお話をさせていただく機会がある中で、お話いただくことは、人、物、金を惜しみなく投資するということ。中途半端に進めることが一番良くないといったアドバイスをいただいています。その理由は世界観を統一するためには、参加する方がすぐに馴染めるように、一気にやるべきことをやる必要がある、ということでした。そう分かってはいても、現状のクラブの規模感やリソースでは一気に築城してくことが難しいだけに、段階を踏んで行っていくことは、スタートのリリースでもご案内している通りです。」

 

--人、物、金。頭の痛い話です…。

田口「確かにプロの方から見れば、中途半端という評価になってしまうかもしれませんが、我々はゼルビアらしく、ファン、サポーターの皆様の力を借りながら、段階的に築城していくという想いは変わりません。今後のプロジェクトを発展させていくイメージは持っていますが、ご来城いただく方々に楽しんでいただくことを方針として、これからも多くの方々にこの世界観にご参加いただければ幸いです。その中で、仮に皆様からのご意見で我々のイメージと違う方向に進んでいくことがあったとしても、それこそが「天空の城 野津田」だと思いますので受け入れていければと考えています。」

 

--意地悪な聞き方になりますが、今後もプロの方のサポートを仰ぐようなことは考えておらず、現在の6人のプロジェクトメンバーを中心に、完結させていく方針に変わりはないということですね。

田口「プロの方が中に入っていただければ、もっと素晴らしいテーマパークになるのかもしれませんが、その方々よりも我々が勝っているポイントは、私どもの方がファン、サポーターの皆様との距離が近いということと、このFC町田ゼルビアというクラブに対する理解度の深さだと思っています。そうした土台があった上での「天空の城 野津田」プロジェクトであることを考えると、現状のメンバーでプロジェクトを進めていくことが、ベストではないにしても、ベターかなと思います。」

 

--「天空の城 野津田」プロジェクトに関して、今後勝手に田口さんお1人でやってみたいと思っていることは?

田口「玉座は作りたいです。試合前は玉座をフォトスポットにして、試合後はマン・オブ・ザ・マッチ(MOM)ならぬ、マン・オブ・ザ・キング(MOK)を決めて、選手が玉座に座りながらヒーローインタビューを受けることはぜひやりたいです。」

 

--今後の展開を楽しみにしています。改めて、ファン・サポーターの皆様へメッセージをお願いいたします。

田口「今は「天空の城 野津田」プロジェクトにいろいろなものを乗せて、大きくしている段階です。現時点で展開していることが皆様とシンクロできるものなのかどうか。今はそれを測っている最中でもあります。現状は理想形ではないかもしれませんが、不要なものを削ぎ落とし、皆様にとっての理想形に近づけていく。まずは大きくしていくことで関心がない方にも振り向いていただく。そのような段階です。皆様の中にもアイディアやご意見があれば、クラブまでぜひお寄せ下さい。そして、SNS上で「#天空の城🏰」をつけて投稿して下さい。世界の方々が漢字を読めるかどうかは別として、全世界に広げていただけると幸いです。」

 

●編集後記・・・

「天空の城 野津田」プロジェクトも2年目。

たくさんのファン・サポーターと共に「築城」してきたこの時間は、試行錯誤の連続でした。

 

コロナ渦のなか、田口議長を中心に誰よりも議会メンバーが楽しみ、ご来城いただく全ての皆様に楽しんでいただけるように企画を考えてきました。

 

もちろん全てがうまくいっているとは思いませんが、Jリーグ界でホームゲーム会場をここまでブランディングしているのはゼルビアのみ。

 

だからこそ、様々なことにチャレンジをし続けております、

毎試合小さくてもアップデートを繰り替し、ご来城いただく皆様に新しい体験をしてもらうために。

 

ご来城者皆様の笑顔を見るために、天空の議会メンバーは今日も頭をフル回転させます。

その心地よい疲労感を感じながら、まだ見ぬ天空の城を築城していく。

(MACHIDiary 編集長より)