--今回は土岐田洸平ジュニア監督にお話を伺います。今年は6年生までそろってチームの活動をされていますが、現在のチーム状況はいかがでしょうか。

土岐田「ようやく4年生、5年生、6年生と3カテゴリーがそろったことにより、34名ほどメンバーがいるため、単純に活気があります。今シーズンから主にU-11を担当している岩間浩昭コーチが千葉からゼルビアに来てくれました。岩間コーチはもともとスカウト業務をやっていたことから、強豪チームとの接点が多いです。そのおかげもあり、様々な招待大会にも呼んでいただけるようになりました。」

 

--大会に参加できることは、チーム強化にとって、大きな意味を持ちそうですね。

土岐田「結構、コテンパンにやられることもありますが、その次に対戦した時には差が詰まっているようなこともあります。選手たちにとっても学びの場になりますし、その強度に慣れることも重要です。中には11人制のサッカーでもなかなか見られないような、オールコートマンツーマンみたいなサッカーをやるチームもあります。1対1で前からハイプレッシャーを仕掛けてくる相手に対して、小学生ではロングキックの飛距離があまり出ず、前に蹴ってプレッシャーを回避できないので、プレッシャーを掛けられて潰されてしまう、みたいな展開になります。」

 

--小学生の時点でペトロヴィッチ監督(北海道コンサドーレ札幌監督)のサッカーをやるチームがあるのですね。驚きです。現チームの特長は?

土岐田「まずはボールを大事にして、しっかりと後ろからビルドアップしていくことを意図しています。また相手とボールを隠しながらターンをする練習も多くやっている効果もあってか、個人レベルではターンなどで方向を変えられる選手が多いなという印象を持っています。単純にボールが行ったり来たりせずに、相手を押し込み、はね返されたボールを回収して、また押し込んで…を繰り返す、そういったサッカーができていると思います。」

 

--ちなみに経験値が高い岩間コーチと一緒にジュニアを指導していることで新しい知見を得た、といったようなことはありますか。

土岐田「単純に年上なので、良い兄貴分です。自分自身が不安を抱えている時も、良いアドバイスをいただけるので安心します。また、選手たちとのコミュニケーションの部分でも岩間コーチと密にコミュニケーションをとりながらやらせてもらっています。」

 

--ジュニアで目標とすべき大きな大会は?

土岐田「先ずは、全少と呼ばれるJFA 全日本U-12サッカー選手権大会がどの公式戦よりも、プライオリティーは高いです。ただ、普段はリーグ戦を行っているので、全少を目指しながら、1年ごとにカテゴリーを上げていくことが大事です。今年は東京都サッカー連盟11ブロックの2部リーグに上がりましたが、上には1部があって、東京都3部もできたので、ヴェルディさんなどが所属している上のカテゴリーに行きたいですね。11ブロックに分かれた都大会予選で3位に入ると全少の東京都予選に出られるので、まずはそこを勝ち取るところから始めないといけません。」

 

--現状のチーム特長は?

土岐田「多くボールに触らせて、個人技術に特化した練習を多く取り入れています。また8人制のサッカーなので、システムなどを含めて、それをどうやって11人制に繋げていくかを考えています。ジュニアは3-3-1のシステムを組んでくるチームが多数ですが、そのシステムではうちのジュニアユース、ユースのシステムに繋がるイメージを持ちにくいため、小学生のチームではありますが、アンカーを置いて、2-1-4のシステムを採用しています。」

 

--その特異なシステムは、土岐田監督の発案でしょうか。

土岐田「菅澤大我アカデミーダイレクターと話して決めています。11人制のサッカーにどう繋げていくか、という観点では、レガという招待制のリーグ戦に参加できていることも大きいです。その大会は5年生が9人制で、6年生は11人制。参加しているJクラブも多いですし、11人制に繋げることもできています。」

 

--個人技術に特化した練習とは、具体的には?

土岐田「ターンや懐を使う練習、またヘディングの練習もしています。これは最近の選手たちの特徴なのかもしれませんが、サッカーしかやっておらず、サッカーはうまいけど、ボールの落下地点に入ることが不得手といったケースがあるため、落下点でボールをキャッチする練習をしています。野球やソフトボールの経験があれば、そんなことはないのかもしれませんが、すぐにボールが後ろに行ってしまいます(苦笑)。ジュニアのサッカーは蹴るチームが多いので、ヘディングではね返すプレーができないとチャンスを作れません。ヘディングができれば、セットプレーでの失点も減らせます。その他は、ほぼターンの練習です。腕の使い方や足のブロックの仕方とか、ビックリするぐらい細かい部分をJリーガーの映像を切り取って見せながら伝えてやっています。」

 

--どんな映像を見せるのでしょうか。

土岐田「菅澤アカデミーダイレクターからポジションごとのナイスプレーを集約した映像をいただいているので、それを見せたり、実際のゲーム中の映像も見せます。映像を見せている中で、「平戸太貴選手が」といったゼルビアの選手の名前を入れると食いつきが違うので、少し意識して名前を盛り込むようにしています。」

 

--土岐田監督が指導をする上で参考にしていることは?

土岐田「菅澤ダイレクターに全てを習っています。菅澤ダイレクターには、「自分が全てではない」と言われていますが、全てを盗もうと思っています。ヴェルディ色の強い方ですが、やはりヴェルディのジュニアはきちんとボールを保持しながら、スペースが空いている方向を探しながら攻めているなとは感じるので、菅澤イズムは参考になります。」

 

--ちなみに菅澤イズムとは。

土岐田「練習のテーマの範囲が良い意味で狭いというか、ウォーミングアップから全ての練習までが繋がるように組み立てて1日を考えなさいという方です。例えばこの日はターンだけの練習に集中するとか、ワンテーマに集中して練習する形です。」

 

--土岐田監督が指導をする上で大事にしていることは?

土岐田「ピッチ外では挨拶、身だしなみ、態度など礼儀の部分はしつこく言っています。岩間コーチも厳しい方ですし、「礼儀がきちんとしているチームは強い」ということを教わったので、より厳しくなりました。ピッチ内であれば、どのカテゴリーでも絶対にしてはいけないミスのことは厳しく指摘しています。例えば、ディフェンスの選手がボールを取られてそのまま失点を喫してしまうようなことは、上のカテゴリーでもしてはいけないミスです。また少しでも成長してもらいたいので、テーマを絞って分かりやすく、伝わりやすい言葉で、短い言葉でテンポ良く話した方が聞く耳を持ってくれるので、話過ぎないことも意識しています。選手たちは早くボールに触りたいので、40秒ぐらいで収まるように集約しています。」

 

--工夫をされているのですね。

土岐田「伝えたいことがあっても、練習の中で出してほしい現象が出た時は、プランBの練習内容を持っているので、プレーを止めないです。」

 

--理想の監督像はありますか。

土岐田「オンとオフ、ピッチ外とピッチ内を区別できる指導者でありたいと思っています。「この監督は、ピッチの中ではピッチの外と同じスタンスで接してはいけないんだな」と勝手に感じてもらえるような指導者でありたいです。」

 

--そういった志向に行き着いた理由はありますか。

土岐田「現役時代にいろいろな監督の指導を受ける中で、コミュニケーションを完全にシャットアウトする監督と、積極的にコミュニケーションを図る監督がいました。ただどちらか両極端に寄ってしまうと、自分が選手としての性格が曲がっていたのか、「なんでだ?」と不思議に思ってしまうタイプだったので、そういった経験則からバランスを取った方が信頼を得られやすいのかなと思っています。個人で指導をしても、選手に信頼されていないと、自分の伝えたことが選手に響かないことに繋がるので、まずは信頼してもらうことが第一です。」

 

--土岐田監督自身の今後の展望はいかがでしょうか。

土岐田「大きい目標が2つあります。トップチームを目指すか。アカデミーを極めて、菅澤ダイレクターのような立場を目指すか。この2つですね。ただ菅澤ダイレクターには全カテゴリーを見ることの重要性を伝えられているので、まずは全カテゴリーを指導することを目指そうと思っています。」

 

--クラブ内におけるジュニアの立ち位置をどのように捉えていますか。

土岐田「ゼルビアはまだ成果として表れていないですが、フロンターレやマリノス、ヴェルディなど、ジュニアが強いクラブはトップが強いということは実感しています。ジュニアから1つずつカテゴリーが昇格していく中で、トップチームへの人材輩出に繋がれば最高です。そういった意味では、先ずは自分の担当カテゴリーではないですが、ユースのプリンスリーグ入りが目標です。ジュニアユースは関東リーグ入りが目標ですし、そうした目標を達成するためにも、ジュニアは一番大事な立ち位置にあると思っています。」

 

--重責を担っていますね。コーチ間で刺激を与え合うようなことはありますか。

土岐田「ありがたいことに、アカデミーのコーチ間の垣根がほぼありません。例えば上のカテゴリーのコーチ陣は、ジュニアの選手のプレースタイルを把握していますし、アカデミー全体で育てていこうという姿勢があることは、とてもありがたいです。」

 

--垣根を取り払うような具体的な取り組みはされていますか。

土岐田「定期的なミーティングを開催しています。またU-10を見ている武藤真平コーチが良いプレーを集約した映像をアカデミー全体に配信してくれています。あとはコーチ陣が各カテゴリーの練習に入ることもあります。僕は木曜にユースのスタッフとして練習に帯同していますし、そうすることで単純に他のカテゴリーの選手の名前を知る機会も多いです。」

 

--指導者間の垣根がないことも1つの特徴だと思いますが、菅澤体制2年目はどんな変化がありますか。

土岐田「1つはゲーム内容が明らかに変わりました。自分たちが頑張ってボールを保持し、相手を押し込んだ状態で、相手がクリアしたセカンドボールを回収して再び押し込む…。相手のレベルが下がると、40分ぐらいずっとボールを保持しています。ボールを保持しながら、バックパスも交えて、攻撃のやり直しもするぐらいですし、空いている方を探しながら攻めていきます。その中で外から声を掛けることはありますが、その答えは教えないように意識してやっています。」

 

--ボールを保持し続けて、相手を自陣に釘付けにするんですね…。

土岐田「もう1つは失点の許容の仕方でしょうか。大前提、失点はしない方がもちろん良いのですが、許容できる失点はカウンターとセットプレーだけ。速い選手にカウンターを打ち込まれるのは仕方がないし、セットプレーで身長の大きい選手にヘディングでズドンと失点することは許容されています。失点の内容まで追求するのは、すごいことだなと思います。」

 

--現状、ジュニアユースは関東2部入りも見えるほど順調に映ります。その要因というか、アカデミー各カテゴリーの指導者観はいかがでしょうか。

土岐田「U-15は選手の質も高いですし、指導の賜物、その両方だと思います。新任の前嶋聰志ジュニアユース監督は菅澤ダイレクターとは指導のアプローチの方向性が違うのですが、不思議とゲーム内容が似ているんです。菅澤ダイレクターの目指す形と一緒になるんです。」

 

--アプローチは違っても、ゴールの形は似る。面白い現象ですね。

土岐田「こちらの勝手なイメージでは、菅澤ダイレクターはドリブルやショートパスを重んじる南米系。前嶋ジュニアユース監督は欧州系かなと。僕はほぼ菅澤イズムですし、自分で剥がせる選手を上のカテゴリーに上げたいと思っているので、後ろからでもガンガン、ドリブルを仕掛けさせます。前嶋監督の練習は見ていて唸ってしまうほどですし、菅澤ダイレクターとアプローチは違うけど、結局は得点シーンが一緒だったり、試合内容も似る。僕が言うのはおかしいですが、そのプロセスやアプローチが違ったとしても、最終的なサッカー観は一緒なのでしょうね。」

 

--その一方で土岐田監督の感触として、ジュニアチームの強化は順調に進んでいるのでしょうか。

土岐田「軌道に乗っているかどうかの判断は、ジュニアからジュニアユースにそのまま昇格できる人数になるかと思います。あとはシンプルに大会で勝つかどうか。11ブロックはレベルが非常に高くいつ優勝できるか見えないぐらいです。ただ逆に11ブロックで優勝できれば、都大会でも優勝できるぐらいなのかなと思います。FCトリアネーロ町田は非常に強いですし、町田JFC、ヴェルディもいる中で、そこを抜けると、ほぼ都大会優勝かなと思います。Tリーグに入れれば、東京都大会の予選から参加できるので、全少出場のチャンスがあります。この他にも11ブロックにはFC多摩もいますし、個人的には日本で一番キツいグループではないかと思っています。」

 

--それでは最後にファン、サポーターの皆様へメッセージをお願いいたします。

土岐田「将来的にはジュニアから育った選手がジュニアユース、ユースと昇格し、トップチームで中心となれる選手を輩出していきたいと思っています。またジュニアの1期生が7年後にはトップチームに上がれるような選手を輩出したいと思っていますが、欲を言えば、飛び級で16歳の選手をトップチームに昇格させられるまでに頑張っていきたいです。ぜひジュニアの活動にも注目していただき、応援して下さい。」

 

●編集後記・・・

取材をしていて、率直に思ったのは

『楽しそうだな!』

 

と、いうことです。

この表現があっているかはわかりませんが、私はそう感じました。

 

土岐田さんの表情や発される言葉の内容から現在のアカデミーの充実度が伺えました。

 

「アプローチのプロセスが違うのに価値観が違う」

話しを聞いていて非常に興味を持ち、私自身も全カテゴリーの試合を観てみたくなりました。

 

FC町田ゼルビアアカデミーの活動を様々な角度からぜひ観てみてください。

サッカーの奥深さを知ることができるかもしれません。

(MACHIDiary 編集長より)