--まずは自己紹介をお願いします!
朝野「FC町田ゼルビアアカデミーオフィスマネジメントスタッフの朝野安之です。2021年入社のゼルビア歴2年目、出身は東京都杉並区です。」
--朝野さんの肩書きは「アカデミーオフィスマネジメントスタッフ」とのことですが、具体的にはどのようなお仕事をされていますか?
朝野「シンプルに言うと、アカデミーの現場周り以外のこと全てをやっています。例えば、コーチがグラウンドで指導することは私の仕事ではありません。それ以外の事務的なことを私がやっています。広報周りのこともやっています。業務領域は非常い広いですね。」
--他のクラブでもこのようなスタッフはいるのですか?
朝野「アカデミー関連の業務に就くのはゼルビアが初めてのことなので、まだ他クラブのことなどは勉強中です。アカデミー事務局に何人かのスタッフがいる、といったケースはあるとは思いますが、一人で多くのことをやっているのは僕ぐらいでしょうか。」
--ネーミングもユニークですが、肩書きを聞くだけでは、正直どんな仕事か想像しにくいです(苦笑)。
朝野「「何をするんですか?」とは良く聞かれますよ。ただJアカデミー関連の業務は、例えばJリーグのアカデミー教育プロジェクトである「よのなか課」関連のものや経営的書類など、提出書類も結構多いんです。ゼルビアのアカデミーはこういったポリシーで指導していますよ、といった書類をJリーグから求められるケースもあるため、そうした書類もコーチングスタッフと協力しながら、作成しています。」
--仕事としてのやりがいはいかがですか。
朝野「これまでアカデミーはNPO法人アスレチッククラブ町田が管轄していましたが、現在は株式会社ゼルビアが運営を行っています。いろいろなことをこれまで以上にアップデートしていく業務にもやりがいを感じています。」
--アカデミーも大きく体制が変わってきていますが、他クラブと比べての印象は?
朝野「周囲には横浜Fマリノス、川崎フロンターレ、FC東京、東京ヴェルディなど、強豪のアカデミーを抱えているクラブがたくさんあります。その中でゼルビアは後発である分、どうしてもランクが下がる部分があります。環境面も厳しいですが、まだ拾えていない原石を探していくためにも、地道な活動が必要かなと実感しています。フロンターレさんも長い年月をかけて、U-18が今年は高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグに参戦するなど、ここまで実績を積んできた周囲のクラブから学ぶべきことも多いのかなと思っています。その一方でゼルビア特有の良い部分を作り上げていく必要性も実感しています。」
--現在はゼルビア特有の良い部分を生み出していく過程なのでしょうか。
朝野「今年を機に大きく変わった部分もあります。これまでは竹中穣さんや酒井良さんなど、クラブOBの方々がアカデミーのコーチングスタッフの中軸を担ってきた中、今年は2人がクラブを去ったこともあり、また別の経験を持ったスタッフが加入しました。21年から菅澤大我さんをアカデミーダイレクターに据えて、アカデミーの体制も大きく変わりましたし、そういった意味では過渡期にあるのかなと思います。現状の実績という意味ではU-15がT-1リーグで首位を走っていますし、U-18のT-1リーグでも上位につけています。今まで培ってきたものを崩すわけではなく、さらにその上に経験のあるスタッフがエッセンスを加えることができているという感触は得ています。」
--クラブ内において、アカデミーの立ち位置はいかがでしょうか。
朝野「アカデミーの1つの大きな役割は、トップチームに選手を輩出することです。そういった意味で今年はユースから樋口堅選手がトップ昇格を果たしましたが、これまではなかなかトップチームに選手を輩出できていません。クラブとしては、将来的にアカデミー出身選手が6、7割を占める編成にするといった目標も掲げていますから、もっと下のカテゴリーから地道に実績を積んでいくしかないのかなと思っています。」
--なるほど。難しい問題ですね。
朝野「選手育成と両輪でアカデミーの環境整備も重要な要素になります。現在非常に難しく感じているのは練習場の問題です。例えばユースは人工芝である町田市所有の小野路グラウンドを利用させていただいていますが、小野路グラウンドを使用できない日は、町田市所有の土のグラウンドを活用しています。そもそも町田市内には人工芝を含めた芝のグラウンドが少ないことも影響しています。」
--なかなか厳しい環境ですね…。
朝野「そうしたハングリーな環境が選手を成長させる部分があると、我々はポジティブに捉えています。その一方で仮に来季J1に上がるとなったら、J1の場合は4名のホームグロウン選手を抱えなければならず、将来的なJ1昇格、定着を見据えると、アカデミーからトップチームに選手を輩出することは時間との勝負になります。例えば現状の編成であれば、加入から3年が経った佐野海舟選手はホームグロウン選手となりますが、あとは樋口選手だけとなります。選手の育成に関して、現状はクリアしなければならない課題があります。」
--ここからは少し朝野さんご自身について、伺わせて下さい。
朝野「サッカーを始めたのは小学校4年生の時です。最初のポジションはMFでしたが、どんどん学年が上がるに従って、ポジションが下がっていき、最終的にはGKになりました(笑)。中学、高校とサッカーを続けましたが、強豪校ではなく、指導者もいない環境でした。でもサッカーが好きであることに変わりはなかったので、1982年のブラジル代表に衝撃を受けたことも影響し、高校卒業を1つのきっかけとして、ブラジル留学をしました。」
--これまた、チャレンジャーな…。
朝野「まともにGK練習をしたことがなかったので、留学先ではこんなに練習するんだと衝撃でした…。人よりも先に練習場に来て、誰よりも遅くに練習場を後にする生活がほぼ毎日続きました。GKは後ろからのコーチングが必要なので、言葉も必死に覚えました。最初のチームはブラジルのサンパウロ州のクラブチームでしたが、当時私は第4GK。実は第3GKだった選手は2002年日韓W杯のブラジル代表だったマルコスです。」
--なんと!
朝野「そういった意味ではサクセスストーリーを歩む選手を間近で見てきました。そのチームでは1年間しかプレーしませんでしたが、他のチームに移っても続々とブラジル代表選手が生まれました。例えば、02年のブラジル代表のエジミウソンやドイツW杯のメンバーであり、日本戦でゴールを決めたジュニーニョ・ペルナンブカーノらがいました。」
--ビッグネームばかりじゃないですか…。
朝野「自分は外国籍選手であるため、ブラジルでは1枠しかないGKのポジションで試合に出ることがなかなか叶わず、次のチームを探そうと、何のツテもなく、身1つでボリビアに行きました。そこで知り合った日本人の知人でサッカークラブに関わっている人がいるから、連絡してくれるとなり、テストを受けることになりました。渡された飛行機のチケットに乗って、空港に降り立つと、そこはラパスでした。標高3,600メートルぐらいの高地です(笑)。ラパスのストロンゲストというチームに練習参加をすると、あれよあれよと契約にこぎつけました。運が良かったですね。当時は23歳ぐらいでした。ただレギュラーGKはボリビア代表でしたし、第2GKはボリビアの五輪代表の選手だったため、試合出場の壁は、とてつもなく高かったです。結局はトップの試合出場が叶わず、ボリビアでは1シーズンプレーした後、他のチームを探しましたが、プレーするチームが見つからず、プレーヤーであることをあきらめ、帰国を決意しました。」
--かなり起伏に富んだ選手生活でした。
朝野「日本に帰国した後は、一般企業に勤めましたが、サッカークラブで働きたいというもう1つの夢を叶えるために、スペインにも留学し、クライフ大学でスポーツ経営学を勉強しました。そして05年には横浜FCの運営担当者としてスポーツの世界に入りました。城彰二さんが現役の時代です。その年の9月にはカズさんが加入したことで、急に練習場にメディアが溢れかえったことに驚きました。クラブの変化を感じましたね。」
--その後の経歴はいかがでしょうか。
朝野「Fリーグに参戦するフットサルクラブの立ち上げなどにも携わってきましたし、スポーツメーカーに勤務したことでゼルビアとの接点ができました。」
--ゼルビアと接点を持った経緯は?
朝野「ドイツのGKグローブを扱っているスポーツメーカーの営業担当だった際に、自分は都内のショップの営業担当だったため、スポーツショップGALLERY・2さんとイベントをやりたいなと考え、町田店ではどうだろうか…と、ゼルビアの事務所を訪ねる機会がありました。応接室での打ち合わせには当時は営業部長だった大友健寿さんと、酒井良さんが参加し、確か小野路グラウンドでGKクリニックをやらせていただいた記憶があります。それが最初のゼルビアとの接点です。そこから大友さんとは定期的に会う機会がありました。」
--そして21年にゼルビアへ加入するわけですが…。
朝野「大友社長とのコミュニケーションの中で、若い選手の育成に力を貸してほしいというお話をいただきました。アカデミーの組織を充実させるという理想を言えば、早い段階から有力なジュニアの選手を育てて、海外のクラブに移籍できるような選手を輩出するスキームを構築することです。そうなれば、移籍金がクラブに入りますし、さらにそこからビッグクラブに行くことになれば、連帯貢献金という形でクラブにお金が入ります。将来的にそういったクラブに発展を遂げるためにも、アカデミーへの投資が必要だと、私を招き入れていただきました。」
--その話は、今後ゼルビアとアカデミーがどうしていきたいという展望にも繋がっていきますね。
朝野「とかく日本では移籍がビジネス化することへのハレーションが付き物ですが、クラブ経営という側面では大事なアプローチになるので、いつかはそういったスキームを構築できるようにしたいです。また今後の展望という意味では、ゼルビアのアカデミー出身選手がどのJリーグクラブにもいるような状況を作りたいと思っています。将来的には世界のクラブにも増えてほしいですし、またいつかはゼルビアのアカデミーOBがクラブに戻ってくるようなサイクルを構築したいです。」
--そのために、朝野さんはどんな役割を担っていきますか。
朝野「幸いにして、現役時代のコネクションがあるので、適材適所に選手を配置していくとか、武者修行をさせるには、この国やこのクラブが良いんじゃないか、といった斡旋もできればと思っています。現状はコロナ禍であるため、難しいですが、コロナ禍が落ち着き次第、将来的には少しずつ、外の環境を経験できる状況を作っていけたらと思っています。外での経験を後輩たちに伝えていくことで、クラブとしての財産になっていくでしょう。私が力になれるとしたら、主にスペイン語圏、ポルトガル語圏の国になるかなと思います。」
--まさに現役時代の経験を活かせると。
朝野「先日も日本対ブラジルの親善試合で通訳のお手伝いをしてきました。実はブラジル代表のチッチ監督には指導を受けたことがあるので、大半のブラジル代表のスタッフは知り合いです。先日来日していたパリ・サンジェルマンのネイマール担当のフィジカルコーチも以前からの知り合いですから、いろいろな情報を得ることができます。実は長崎のファビオ・カリーレ監督とも旧知の仲で、カリーレ監督の助手席に何度か乗ったことがあります(笑)」
--朝野さんのコネクションたるや、すごいですね! では最後に、ファン、サポーターの皆様へ、メッセージをお願いいたします!
朝野「トップチームと同様にアカデミーの選手たちも応援して下さい。皆様の応援がアカデミーに所属する選手達がより高みに行くための原動力になるので、ぜひとも、皆様の力を貸して下さい。よろしくお願いいたします。」
●編集後記・・・
フロントスタッフやインターン生の間でも大変人気者の朝野さん。
どんな時も冷静に建設的な意見を言ってもらえることから、社内での信頼も大変厚い頼れる存在。
そんな朝野さんが、アカデミーに異動すると聞いた時は、とてもしっくりきました。
常に全体を考え、広い視野で物事を捉え、全体最適を常に考えられる朝野さんの存在はFC町田ゼルビアアカデミーを支える、まさに屋台骨。
けして表に出ることはなく、裏方に徹した役割りですが、欠かせない存在。
アカデミーの試合会場で朝野さんを見かけたらぜひ声をかけてください。
とても気さくに答えてくれると思いますよ。
(MACHIDiary 編集長より)
