--今回は「天空の城 野津田」のスタジアムDJである和田翼さんにご登場いただきます。まずは簡単な自己紹介からお願い致します。

和田「主な仕事はナレーターですが、ゼルビアではスタジアムDJをやらせていただいています。また並行してサッカーのコーチ業もやりながら生計を立てています。事務所からはレギュラーの仕事を取るように言われていますが、単発ものの仕事が多く、そういった意味では人気商売ではあります。最近の活動としては、某衛星放送局のドラマのCMの声や、防カビ剤のCMの声もやっています。DAZNでは時々海外クラブ選手の特集のナレーションをやることもありますね。」

 

--そういった声のお仕事はどのように決まるのですか?

和田「オーディションもありますし、声のサンプルがあるので、「この声の方はスケジュール的にはどうですか?」といった形でクライアントから事務所の方にオファーがあることもあります。」

 

--普段から草サッカーを楽しんでいるとか。

和田「週2、3回程度でしょうか。例えばキー局の制作部隊のチームの草サッカーに参加したりしながら、サッカープレーヤーを楽しんでいます(笑)。」

 

--またサッカーを教えるコーチの立場でもあると聞きました。

和田「ここまで高校生、中学生、小学生の指導には携わってきましたが、今のメインは小学生です。サッカーとフットサルいずれも、C級のライセンスを所有しています。サッカーとフットサルを交えながら、子どもたちを指導しています。」

 

--ちなみに指導方針は?

和田「サッカーというツールを使って、物事の考え方を教えています。考え方としてこちらの方が成功する確率は高いんじゃないかという提示というか、サッカーを通して、物事の考え方を教えるイメージです。例えば、成功体験と失敗経験の手数を持っている選手の方が、引き出しは多くなると思うんです。セルヒオ・ラモスやプジョルは何百失点してきているんだと。その経験値があるから良い選手になっているということです。ただ彼らはもともと才能があるというのこともありますから、だれでもあのレベルになれるとは思いません。」

 

--そんな翼さんがスタジアムDJとなって、どれほどの時間が経ちましたか?

和田「ゼルビアが関東2部リーグに所属していた2006シーズンからなので、今年で17年目になります。当時の監督は守屋実相談役です。大友健寿社長や竹中穣前ユース監督がまだ現役だった頃でしょうか。当時は確か現役ではなかったと記憶していますが、丸山竜平スカウト部長を含め、僕がFC町田ゼルビアに関わり始めた時代からこれだけの年月が経ちましたが、大友社長もクラブに残りつつ、新たに外部のスタッフを招聘してクラブはどんどんと大きくなっています。そういった部分をもう少し打ち出せば、もっとクラブに愛着を持ってもらえるのではないでしょうか。クラブのセールスポイントはもっとあるのに…、と思いながらクラブのことを見守っています。生意気言いました。」

 

--確かに、クラブのルーツであるFC町田トレーニングセンターができた1977年に生まれた大友社長や丸山スカウト部長がクラブの上層部として携わっていることは、セールスポイントになるかもしれません。ちなみにスタジアムDJをやるようになったきっかけは?

和田「草サッカー仲間に町田の青年会議所の方がいまして、その方が町おこし的に06年のドイツW杯のパブリックビューイングをカリヨン広場で企画していました。その方がMCを探していたので、「翼さんやってください」という話になりました。その時のトークイベントのゲストがベレーザの選手とゼルビアの選手で、その場に大友さんと竹中さんがいました。そのイベントの1週間後に大友さんから「スタジアムDJをやってほしい」と頼まれたので、即決しましたね。始まりは、06年の最後のホームゲーム。その試合は関東2部リーグ優勝目前で盛り上げ役を担いました。」

 

--当時のゼルビアに対して、どんな印象をお持ちでしたか。

和田「本音を言えば、当時の僕はたかだかサッカーだろうと冷めていました。言い方が難しいですが、ライフラインではないですし、極論を言えば、生きていくためには必要のないことです。もちろんサッカーをプレーすることは楽しいですが、どこか物と同列に考えていましたね。それぐらいの温度差のある人間が、本気でJリーグ入りを目指して戦い、全力で立ち向かっている大の大人たちの熱量に対して、次第に巻き込まれていきました。当時は関東2部で優勝した盛り上がりもありましたし、携わる方々にやられてしまったタイプです。」

 

--特にこの方の熱量に巻き込まれたなと思えるのは誰ですか。

和田「大友さん、竹中さん、そして守屋先生ですね。この3人は外せません。クラブの歴史の話を聞くと、興味を惹かれました。全力で乗っかる大友さんや竹中さんを尊敬しますし、シンプルに男臭さにやられました。「俺も乗っかるか、この御輿に」と、気付いたらハマり込んでいました。」

 

--ゼルビアに関わっていく中で、どんな変化を感じていますか。

和田「人が代わっても、想いの部分が受け継がれていることは単純にすごいなと思います。このクラブには同じ想いを持った人たちが自然と集まってきますよね。サッカーに対する真剣さや情熱は変わっていないと思います。」

 

--まさにゼルビアは想いが紡がれて大きくなってきたクラブですよね。

和田「17年近く携わってきた中で、このクラブにパートナー企業がつくんだ、という驚きもあります。例えば「イーグル建創ってなんだ?」と、現在の下川浩之会長に話を聞いたら、「町田からJリーグを目指しているクラブだ」と会社に電話が掛かってきたことがきっかけとなったようです。「それを早く教えてほしかった。それは賛同するよ」と下川会長はパートナー企業を始めて、今に至るそうです。そこから、小田急電鉄や玉川学園がサポートしてくれるなんて! という単純な驚きがあります。最近ではその最たる例がサイバーエージェントです。「Abema TVじゃん!」と。試合日にパートナー企業を紹介する時は1つひとつ、大事に紹介するようにしています。一番大きな変化は、スタジアムができて、練習場もクラブハウスもできた、ハード面ですよね。野津田に芝生席があった時代を知っている身からすると、隔世の感があります。」

 

--メインスタンドがプレハブだった時代もあります。

和田「放送ブースが1階にある時代もありましたね。始めた当初は、自分たちで話す内容の文言を考えていました。音を出して、喋って、音を止めて、喋ってを自分一人でやっていました。今はそれぞれのスペシャリストがいますから、時代は変わったものです。仕掛人たちの手元から良い意味で離れて、どんどん大きくなっている気がします。それはむしろ良いことだと思います。勝手に外野が盛り上げてくれるわけですから。17年も見てくると、すごい成長ですし、ゼルビアが一つのブームになっていることがうれしいですね。」

 

--天空の城プロジェクトが2年目に入りましたが、それも気に入っていただけているようで。

和田「とても来やすいとは言えない立地に、僕がスタジアムDJを始めた当初は600人ぐらい来てくれていることがありがたかったですから、来ていただいた手前、楽しんで帰っていただきたい想いを持ちながら、喋ってきました。来て楽しい、来る楽しみがある中で、このブランディングがしっくりときました。スタジアムの立地を逆手に取ろうという意味で、ナイスなアイディアやアプローチだと思います。来て楽しい、来る楽しみが野津田にはありますから、とても気に入っています。」

 

--スタジアムDJの仕事についてお伺いします。ちなみに入りは何時間前なのですか?

和田「キックオフの4時間前です。スタジアム入りした後は台本に一通り目を通します。そうは見えないでしょ(笑)。それから映像確認をした後に、2時間20分前ぐらいから先行入場があるため、そこから喋り始めます。つまるところ、スタジアムDJは会場のアナウンスでしかないというか、それ以上でもそれ以下でもない存在なんです。」

 

--そうこうしているうちにスタメン発表が始まります。

和田「個人的なスタメン発表の楽しみの一つとして、名刺カードを差し替えながら、作っていますが、今日のスタメンはこうだろうなと、和田翼監督が選んだメンバーと実際の先発メンバーの比較をします。それが密かな楽しみです(笑)。」

 

--スタジアムDJをやる中で意識していることはありますか?

和田「今はスペシャリストがたくさん関わっているので、邪魔にならないようにしています。声の仕事に徹しています。それぐらいかな(苦笑)。」

 

--今だから話せる「やっちまった!」裏話は?

和田「3つあります。一つは17年間やってきた中で、一度だけ遅刻をしたことがあります。試合そのものには間に合いましたが、スタメン発表は運営の方にやっていただきました。単純に寝坊です(笑)。あと2つは“あるある”です。ゲーム中にゴールが入って、オフサイド判定かなと思いつつ、「ゴ」と言った段階でカフを下げてしまい、中途半端になったこと。3つ目は「オフサイドかな?」と思ったけど、「ゴーーーール!」とやり切ってしまいました。それぐらいですかね。」

 

--逆にこれは会心だったと思えたことは?

和田「僕自身はプレーする当事者ではないので、特にはないんですよね。ただスタジアムでサポーターの反応はつぶさに観察してしまいます。12番をサポーターNoにすることは、身内で決めたことですが、12番をコールすると、盛り上がっていただけるとか、そういったリアクションを見るのは好きですね。手ごたえがどうこうと感じられるポジションではないかなと思います。」

 

--印象に残った試合は?

和田「全部と言うか、コレと言えるものはそんなにないんですよね。ただ強いインパクトが残っているのは08年の地域決勝です。現地に行くことは叶いませんでしたが、死闘を勝ち抜いたことでJFLに参入できたことがうれしかったですし、アマチュアリーグとはいえ、全国リーグの舞台にゼルビアが上がっていくことは、壮大な達成感が現場にはあったと思います。もう現地でやり遂げた選手たちに対して、リスペクトしかありません。竹中さんや酒井良さんたちが町田に戻ってきて、「やってやったぞ!」という表情を見た時は、涙腺が緩みました。」

 

--地域決勝を勝ち抜いたことは、クラブの中でも大きなターニングポイントになったと。

和田「またホームゲームで言えば、16年のセレッソ大阪との開幕戦。あの時のスタジアムは圧巻でした。もう一度あの景色を見たいです。あとは現地で見られたこともありますが、大分トリニータとのJ2・J3入れ替え戦。あれは2試合で3得点と、(鈴木)“孝司劇場”でしたね。まさにエースの仕事!」

 

--今後のFC町田ゼルビアはどんなクラブになってほしいと思っていますか。

和田「一人でも多く、ゼルビアに愛着を持っていただける方々を増やしてほしいです。そのためには良くも悪くも、こだわりを貫いてほしい。僕が言うのもおかしいですが、例えば若手を育成して、他クラブに移籍させていくサイクルを生み出す育成型のクラブにするのも一つでしょう。何でもそつなくこなせることは、それはそれで一つの魅力ですが、あえて不格好というか、何か一つこだわりがあると、愛着がより生まれやすいのかなと。」

 

--なるほど。こだわりを貫くですか。

和田「なかなか真意が伝わらず、こう言うと、サポーターの方々の間でハレーションが起きるのかもしれませんが、個人的には在籍しているカテゴリーは問いません。勝ち負けもそれほど重要ではなく、クラブや選手たちが何をしようとしているか。それが重要なのかなと。補足にはなりますが、現状維持では退化していくだけなので、時には上のJ1を目指そうとか、そういった目標は組織を新陳代謝する上で必要でしょう。でも極論の部分では、クラブとしてのアイデンティティーに対するこだわりを振り切って、やり抜いてほしいなとは思っています。」

 

--ここまでの話の延長線上ですが、以前翼さんが「遠くのレアル・マドリーよりも、近くのFC町田ゼルビア」と話されていたことが印象に残っています。その言葉の真意を聞かせて下さい。

和田「レアルやバルセロナ、マンチェスター・ユナイテッドなど、サッカーファンの中で世界的なクラブがいくつかありますが、もっと身近に好きになれる、自分の住む街の近くにサッカークラブがあるわけだから、「ゼルビアも好きになってよ」、というゴリ押しです(笑)。僕にとって、ゼルビアはもう無条件で好きになったクラブ。「皆さんにはそういうサッカークラブがありますか?」という問いかけです。」

 

--身近な選手たちの成長物語を見守れることも、近くにマイクラブがあることの醍醐味ですよね。

和田「ゼルビアに所属する選手たちは、世界的なクラブに引き抜かれる選手ではないかもしれませんが、選手たちは全力で戦っているわけです。そこに面白さがあると思います。不格好な姿はAIにはできないわけで、人間のズレというか、人間の不格好さに人は惹き付けられると思っています。基本は11対11でプレーするサッカーは、不確定要素が多いスポーツ。不正確さがあるから、人は惹き付けられますし、ゴールの喜びがひと塩なので、早く中島裕希選手、点を取ってくれないかなーと思うわけです(笑)。先日の深津康太選手のゴールもうれしかったなー。」

 

--では翼さんにとって、FC町田ゼルビアとは。

和田「無条件に愛情を注げるので、子どものような存在です。無条件に受け入れられる存在ですよね。自分の子どものように、何をしていても世話をしたくなるし、かわいがりたくなるし、そっと見守りたくなるので、ゼルビアはそんな存在です。」

 

--今、翼さんのゼルビアというお子さんは、17歳ぐらいだと。ちょうど高校を卒業するぐらいのタイミングでJ1ですかね、コレは。

和田「一個人としては、今までの中では今季が千載一遇のチャンスだと思っています。上がれるならば上がっておきたいですね。今年はクラブハウスも完成し、Abema TVはW杯の放映権を買い取り、サッカーに対する機運が高まる中で、FC町田ゼルビアがJ1に昇格する。そんなストーリーを描けるだけに、舞台は整っているかなと思います。」

 

●編集後記・・・

話しを聞いてる瞬間の印象は・・・

『熱い』

 

胸の内に秘める熱い想いをお聞きし、クラブスタッフとして、ここまでクラブを想ってくれる、スタジアムDJはいないのではないかと思いました。

「クラブや選手たちが何をしようとしているか」

「遠くのレアル・マドリーよりも、近くのFC町田ゼルビア」

 

出てくる言葉の全ての部分に熱い想いを感じ、率直に「翼さんとよりクラブを良くしていきたい」と思ったのは、このMACHIDiaryを読んでいただいたみなさんにも伝わっているのではないかと思います。

 

天空の城野津田で翼さんを見かけたら、ぜひ声を掛けてみて下さい。

その熱量に、あっという間に引き込まれると思いますよ。

火傷に注意!!!

(MACHIDiary 編集長より)