--今回はゼルビアの試合で公式記録員を担当して下さっている河合純一さんにお話を伺います。まずは公式記録員とはどんなお仕事なのですか?

 

河合「簡単に言うと試合の内容の記録を作成することです。まずはJリーグ公式記録用の端末ソフトを使用して、両チームのメンバー表、当日の環境、試合の経過を入力して公式記録を作成していきます。構成員は端末入力2名、手書き作成1名、得点経過など確認者1名で最低4名が必要です。なぜ端末2台で入力をしているのに手書き作成が必要かと言いますと、落雷などで停電した際、パソコンの電源が切れて入力したデータが消失したりした時、手書きの記録用紙を確認して入力していくために必要だからです。サッカー的に言えば、リスク管理でしょうか。」

--ちなみに端末が落ちて、手書きの用紙から端末に入力する事態になったことはありますか?

河合「JFL時代に一度だけありました。」

 

--その時はきっと大変でしたよね…。ちなみにどういったプロセスを経て、公式記録は完成するのですか。

河合「まずは試合開始時刻の2時間30分前に両チームからメンバー表が提出されると、メンバー用紙に記載されている選手、スタッフの入力を行っていきます。入力後メンバー表を発行し、運営担当と読み合わせを行い、メンバー用紙と間違いがないことを確認してから各所に配布するコピーに入ります。選手は背番号で確認できるので、それほど問題はないのですが、ベンチ入りスタッフは同性の方がいたりするため、フルネームでの確認をします。そしてコピーをしている間に入力したメンバー表をJリーグデーターセンターに送信します。この送信が完了したら、Jリーグの公式サイトで当日のスタメンやベンチ入り選手などが確認できるようになります。」

--公式記録員の方がそれだけの作業をして下さるからこそ、私たちは試合当日のメンバー表を確認できるのですね。ゼルビアのホームゲームは比較的メンバー発表が早い印象です。それだけのスピード感で事が進むことは、公式記録員の方にとってはメリットでしょうか。

河合「ゼルビアのスピード感は非常にありがたいです。メンバー表の提出はキックオフ前の2時間30分が締め切りですが、発表する時間のギリギリで手元に届くと、慌てて入力する形になるので、ミスも起きる可能もありますから。」

 

--河合さんはだいたい、何時間前にスタジアム入りしていますか?

河合「試合開始3時間30分前にはスタジアムに入るようにしています。例えば14時キックオフであれば、10時30分です。スタジアム入りした後はJリーグデータセンターに用意されているデータを引き取って端末に入力していくので、端末がしっかりと動くか。回線が繋がっているか。確認する時間も含めて、早めに到着するようにしています。ちなみに今までは端末の不具合があったことはありません。」

 

--メンバー表が完成した後はどんな作業をされているのでしょうか。

河合「試合開始90分前、30分前、そしてハーフタイムに気温、湿度、WBGT(暑さ指数)の測定を行います。試合が始まったらソフトに試合でのイベントを入力していきます。キックオフチーム、コーナーキック、ゴールキック、反則(直接FK、間接FK)、選手交代、懲罰(イエローカード、レッドカード、懲罰の内容)、シュートの入力です。またシュートに関しては、得点なのか、枠外に外れたのか、相手にブロックされたかなど、シュートの結果も入力します。得点の時はその得点がどのような流れで得点に至ったのかを入力します。試合が終了したら入力された項目に差異がないか、確認をして公式記録を出力します。完成した公式記録は審判、マッチコミッショナー、運営担当に確認をしてもらい、間違いがなければサインをいただき、Jリーグデーターセンターに送信をします。最後に各所へ公式記録を配布したら業務終了です。」

--記録をつける上で、一番難しい要素はシュートのカウントでしょうか。例えば、シュートを打っても、ブロックした選手との距離次第でシュートをカウントされるケースとそうでない場合があるのかなと思います。

河合「ペナルティーエリア内とエリア外でまた基準が違います。例えばエリア外だとブロックした相手選手との距離3メートルが1つの基準です。ゴールに対しては、ゴールエリアの幅に飛んだ場合はシュートとして換算されます。また高さに関しては、ゴールより7メートル50cmほど外れたらシュートとはカウントしません。」

 

--その距離は目視で測るのでしょうか。

河合「そうです。感覚的なもので判断していきます。」

 

--目の前では試合が動く中で、「ん?この距離はどっちだ?微妙だぞ」というケースはどうされるのでしょうか。

河合「リアルタイムでDAZNの映像を見返し、シュートの有無を判断しています。ゴールの記録の追加や削除はできないですが。シュートカウントの追加や削除は端末上でできるので、後追いをしても大丈夫です。例えば警告の見落としも後ほど追加できるため、そのあたりの融通は利きます。シュートした選手がすぐに判別できない場合は「?」マークをつけて後ほど選手名を入れることができるので、後々確認をして選手の背番号を入力する形です。状況に応じて、必要な対応が変わってくるため、やはり記録員は4人必要です。」

 

--たまにJリーグの公式サイトでも得点者が分からず、「???」となっているケースがありますが、その場合も都度記録員の方が確認されているのですね。

河合「DAZNで映像を見返して、判断しています。」

 

--また場内アナウンスされた得点者と実際の得点者が違うケースがあります。場内アナウンスは公式記録員の方の記録にもとづいて、アナウンスされているのでしょうか。

河合「無線で繋がっています。分からない場合は、「分からないので現在確認中です」と伝えて確認が取れた後に報告をしています。一度ぐらいは「すみません。こちらの誤りで得点者を伝えてしまいました…」と無線で報告したことがあると記憶しています。」

 

--人間ですから、記録する上での間違いもありますよね。

河合「私の場合はできるだけ得点者の判別を早くし、また間違いが起きないように、選手入場の際にスパイクの色、長袖か半袖か、どちらかの手にテーピングを巻いているか、頭髪の色は何色か。背番号に名前のあるリストを作って、そう選手の特徴をチェックしています。」

--それは河合さんなりの工夫なのですね。そうして全ての公式記録の業務が終わるのは、だいたい試合終了後、何時間後ですか。

河合「早い時で30分後、だいたい1時間後には終わります。コロナ禍のため現在はないですが、審判アセッサーの方が試合会場の来ていた頃は、試合後に審判反省会のようなものが開かれていました。それが長引くと、全ての業務が終わるのは、試合終了から2時間後といったケースもありました。」

 

--1日仕事ですね。

河合「反省会で審判の方から公式記録の内容変更を依頼されることがありまして、変更が発生すると公式記録の修正を行わなければなりません。Jリーグデータセンターに連絡を入れて端末を立ち上げて、修正内容を電話でやり取りしながら修正します。その後公式記録を発行してサインをいただき、再配布して間違っている公式記録の回収となります。」

 

--公式記録は大変なお仕事ですね…。そのほか大変なことはどんなことですか?

河合「公式記録作成中の記録はリアルタイムでJリーグデータセンターに送られています。この送られたデータが報道機関等に送られているので、間違いなく入力しなければいけません。仮に公式入場者数の連絡が遅くなると、Jリーグデーターセンターから電話が掛かってくるので早く発表してほしいと思う時もあります。また、システムへの入力で得点は特に大事です。場合によっては記念ゴールになる可能性がありますから、例えば30秒遅れて入力してしまった時に他会場で得点が決まれば、こちらの会場が早く得点していたのに、他会場の得点が早く入力されたため、Jリーグ通算何ゴール目が他会場の選手になってしまいます。」

 

--繰り返しになりますが、得点経過がやはり一番神経を使うことなのですね。

河合「JリーグではDAZNの放送が入っているので録画して何回も見直しをして確認できますが、テレビ放送が入っていない試合は自分たちでビデオカメラを持ち込んで録画をしているので、その場で見直しができません。試合終了後に確認をするのですが、選手の背番号が見づらい、パスを出した選手が映像に映り込んでいないなど、確認作業に時間を要するところが大変です。」

 

--そんなご苦労があって、メディア等の手元に公式記録が来るのですね。河合さんの中で、公式記録をつける上で、心掛けていることはありますか。

河合「他のチームの記録員さんはどうか分からないですが、私は平等というか公平かつ冷静に試合を見るようにしています。もちろんゼルビアの記録員をしているので、ゼルビアには勝利してほしいですが、公平、冷静に試合を見ないとプレーを見落としてしまうことがあると思っています。例えば、得点が入ったのかどうか分からない時など、冷静に見ていないとシュートを打った選手の入力を忘れてしまったり、どのように防がれたか等、入力忘れが発生する可能性があるからです。」

 

--これまで印象に残っている試合はありますか?

河合「2019年3月30日第6節愛媛戦の被シュート0の試合です。選手の頑張りがあってこの記録が生まれたのですが、この試合に携われたことが公式記録を担当していて一番印象に残っています。後から知ったのですが、J2リーグでは初の被シュート0の“完全試合”だったそうです。公式記録作成後に公式記録のコピーをメディア等に配布するのですが、メディア控室で知り合いのメディアの方に終了間際の愛媛の攻撃でシュートブロックからコーナーキックになったシーンは、シュートではなかったのかと聞かれました。先ほども触れましたが、公式記録作成にはシュートの基準があり、その基準ではシュートにならないことを伝えると、初めて基準があることを知ったと言われました。この基準は公式記録に携わっている人しか知らない基準ですので、テレビでサッカーの試合を観戦していても、得点経過等、公式記録を作成している目線で見てしまっています(苦笑)。」

 

--シュートカウントの基準の話は、目から鱗が落ちるようなお話です。

河合「印象に残っている試合はもう1つあります。どの試合かまでは覚えていないのですが、とんでもない失態を一度してしまいました。Jリーグ初年度の12年に公式記録の原本が運営本部から消えてしまいました。公式記録のコピーの配布が終わり、公式記録を本部に置いて端末等の片付けをしている間にコピー枚数が足りなかったかどうか分かりませんが、どなたかが公式記録の原本を持っていき、コピーしていたみたいでコピーした用紙の中に紛れ込んでいました。束になった公式記録の中から何とか探し出せましたが、原本を持っていかれていたら…、大変なことになっていたと思います。その後は原本を直接運営担当に手渡しするように心掛けています。試合内容というより公式記録のことがどうしても印象として残ってしまいます。」

 

--肝を冷やしましたね…。

河合「09年にJFLへ昇格してからは、関東リーグまでの手書き作成からパソコンを使用しての公式記録作成となりました。12年からJリーグに参入した後も公式記録作成に携わさせてもらっています。その中でJリーグでも公式記録作成には同じシステムを使用すると思っていたのですが、全然違うシステムで少し戸惑ったことを覚えています。」

--公式記録員としてのやりがいはいかがですか?

河合「やりがいとまで言えるのかどうかは分かりませんが、公式記録出力後に審判控室に確認とサインをもらいに行く際に、「町田の公式記録は早くてありがたい」と言ってもらえることはうれしいですね。審判の方の中には飛行機で帰宅しなければいけない人もいますので、公式記録が早く提出できれば、その分早く帰宅できます。もちろん内容が正確でなければいけませんが、できるだけ早く確認のサインをもらいに行けるように頑張っています。また公式記録を早めにJリーグデータセンターに届けることで、データセンターがメディア等に早めに発信することにも繋がるので、完成までのスピード感は意識するようにしています。」

 

--そもそもゼルビアの公式記録をやることになったスタートはいつ頃ですか?

河合「03年か04年だったか…。正確には覚えていませんが、町田少年サッカー場で行われたゼルビアの天皇杯東京都予選の試合が初めての公式記録の仕事でした。私が当時、町田サッカー協会の社会人リーグの運営担当をやっていたため、手伝いが必要かどうか、当時ゼルビアの試合運営を担当していた菰田省二さん、細野貴裕さんに連絡をしたところ、必要とのことでしたので、会場に行きました。」

--ゼルビアと関わるようになったきっかけも公式記録員だったのですね。以前は東京の会場で開催されるフットサルの試合で公式記録員をされていたこともお見受けしました。東京都の中でも「公式記録を任せるならば、河合さん」といったお立場を築かれていると言っていいのでしょうか。

河合「フットサルではまず私のところに連絡が来ますが、サッカーの場合は国立競技場開催の天皇杯決勝の公式記録員をされる方が一番手です。その方の都合がつかない場合は、私のところに連絡が来る形になっています。自分で言うのも変ですが、東京都の中では二番手ぐらいでしょうか。公益財団法人東京都サッカー協会から年間予定表が来るので、声が掛かれば行けるような段取りはしています。ただもちろん、最優先はゼルビアです!」

 

--そんな方にゼルビアの試合の公式記録員をやっていただけるなんて光栄です。ちなみに普段の仕事はどんなことをされているのでしょうか。

河合「ゼルビアのスタッフの方の中には、私は農家ではないかと思っている方もいるかもしれませんが(苦笑)、普通の会社員(製造業)です。農家だと思われているのは、自宅に畑があり、休日には畑仕事に精を出しているからでしょうか。4月には竹の子、6月にはじゃがいも、9月には茄子、栗、11月頃には里芋、長ネギ等、自宅で生産した野菜を試合当日やクラブ事務所に持って行っているからだと思います(苦笑)。」

 

--ちなみにご自身でサッカーはされてきたのでしょうか。

河合「小学3年生から高校卒業まではサッカーを続けていましたが、就職を機にサッカーを辞めてしまいました。1993年にJリーグが開幕する頃には小学生の時に所属していたサッカーチームの保護者・卒団生が日曜日の朝に練習をしていることを知り、練習に行ったことでサッカーを再開しました。現在は町田のシニアチームに在籍しています。」

 

--ゼルビアと関わる前と関わった後で何か変化はありますか。

河合「チームスタッフやボランティアスタッフ、他チームのスタッフや審判、東京都サッカー協会、Jリーグ等の人の繋がりは増えたと思います。先ほども話に出ましたが、JFLやJリーグの公式記録作成に携わるようになってからは、東京都サッカー協会から天皇杯、国体、東京都社会人サッカーチャンピオンシップ、Jリーグユース選手権大会等の公式記録作成に呼ばれるようになりました。」

--ちなみにゼルビアのアウェイゲームに出掛ける機会はありますか。

河合「最近は全く行っていません。ただJFLやJ3の時はたまに行っていました。二賀保、松島、山口、松本、長野などに行きました。松本山雅FC戦はJリーグ入会も同じ年で研修会を一緒に受けたということもあり、数回伺わせていただきました。15年のJ3の最終節の長野にも行きましたので、あの落胆を味わさせていただきました。自分はあまり状況をよく分かっていませんでした。周りは騒いでいましたが、ゼルビアが引き分けだったので、2位か…と。帰りの車に乗り込んで守屋実先生や菰田さんとお話をする中で、山口と両方が引き分けだったのかと、状況を把握するぐらいでした。」

 

--今後のゼルビアはどうなってほしいと願っていますか。

河合「クラブハウスが今年できましたので、J1昇格の準備ができたということは、まずはJ1昇格ですかね! そしてJ1に定着してリーグ優勝、天皇杯優勝、ルヴァンカップ優勝と順調にステップアップしてもらい、AFCチャンピオンズリーグに出て優勝してほしいです。ぜいたくを言えば、年間3冠獲得! ただ個人的には平日の試合が多くなると、休暇を取っての業務になりますので、次の日の仕事のことを考えると、チョットつらいところですが…(苦笑)。」

--最後に河合さんにとって、FC町田ゼルビアとは。

河合「生活の中の一部です! 12年ぐらいから一昨年まで、一泊で毎年会社の仲間と旅行に行っていましたが、忘年会で行先を決める際に、日時はJリーグの日程が出るまで待ってもらっていました。1月下旬になって日程が開示されると、日時を決めるために打ち合わせをするぐらいで。また家族で出掛ける時も、ゼルビアの試合があるからこの日は難しいので、この日にしようとか、決めて出掛けるようにしています。

 

--いろいろなスケジュールがゼルビアを軸に決まっていくと。

河合「大分古い話になりますが、09年、10年と子どもたちもボランティアをしていました。昨年の11月の試合の時に子どもが孫を連れて試合会場に来ました。ボランティアをしている頃にお世話になった方に孫を会わせるためでしたが、そんな時に、ゼルビアが生活の一部になっていることを強く実感しました。また私が孫を連れて運営本部に行くと、「大きくなったら3代でゼルビアのことをお願いします」と言われたので、3代で試合運営に携わろうかなと…思っています。」

--家族3代でゼルビアの運営に携わる。とても素敵なことです。最後に何か言い残したことはありますか。

河合「毎年公式記録員の研修会が開催されていますが、その研修会で話題に出ることが記録員不足です。運営担当は記録員集めで苦労しているという話になります。都道府県協会に委託しているクラブもあれば、ボランティアが記録員をしているクラブもあります。現在はどうしても都合がつかない記録員がいる場合は、ゼルビアのスクールコーチにヘルプに来ていただき、人員を補充する形になっています。この記事を読んで記録員をやってみたいと思う方は、ぜひゼルビアに連絡して下さい。試合当日、手取り足取り公式記録のことを教えますので。よろしくお願いいたします。」

 

●編集後記・・・

MACHIDiaryの企画を思いついた時に、取り上げたい題材の一つであった『公式記録員』

Jリーグのどこの試合会場でも、公式記録員の方々が公式記録を作成していただくことで、私達に情報が届きます。

 

〇試合記念ゴール!

〇試合出場!

 

などなど、普段当たり前に目にすることは、公式記録員の方々が緻密に行っている業務のうえにあるもの。

 

そんな責任重大な業務をやっていただく、河合さんがお孫さんを抱っこして運営本部に入ってきたときは、おじいちゃんの顔になっていました。

『3代でゼルビアに関わる』

きっとそんな日が来るであろう未来が今から楽しみです。

 

公式記録員に興味のある方がいたら、ぜひスタッフにお声がけください。

(MACHIDiary 編集長より)