--あけましておめでとうございます。新年が明けて、どんな心境でしょうか?

ポポヴィッチ「とにかく常に全力を出すことを考えています。若い選手だけではなく、我々のチームには成長した選手も数多くいます。彼らとまた仕事ができることに喜びを感じています。またチームだけではなく、クラブも大きな進歩をしています。新しいクラブハウスが完成し、またあのグラウンドに足を踏み入れることができることに、喜びを感じています。10年ほど前からゼルビアを知る人間として、あの環境で仕事ができることは、新シーズンに昇格を目指す上で、大きなモチベーションになると思います」

 

--このオフの期間はゆっくりと過ごせていますか?

ポポヴィッチ「日々忙しくしているため、肉体的には休めていないですが、精神面ではリフレッシュしている状態です。コロナ禍で2年間、母や弟、親戚などと会うことはできなかったので、友人も含めて会話をすることで、気持ちの面での充電がしっかりとできています。私はコミュニケーションを大事にするタイプなので、コロナ禍は非常につらいものでしたが、今回のOFF期間では人と会うことで心の充電もできています。ファン・サポーターの皆様に対しては、ファミリーだということを話してきました。皆様と距離を縮めて話すことで、皆様からエネルギーをもらうことは多々あります。ここ2年間はそういったことをできなかったために、寂しさを感じていました。新しいシーズンはコロナが収まる方向に向かうと思うので、コミュニケーションを取りながら、皆様と一緒に戦っていきたいと思っています。皆様のご恩は結果で返していくことが我々の使命だと感じています。」

 

--充実したオフを過ごせているようで何よりです。

ポポヴィッチ「先日はイビチャ・オシムさんと食事をする機会がありました。ここ5年間、オシムさんと会った中では一番良い状態でした。それは私にとってもハッピーなことでしたし、オシムさんや奥さんと長く話しをすることができました。元気な姿を見ることで私もオシムさんからエネルギーをもらいました。」

 

--オシムさんが最近の中で一番状態が良かった理由で思い当たる節はありますか?

ポポヴィッチ「ハッキリとした理由は分かりませんが、ここ数年一緒に食事に行っても、冗談を返すことが少なくなっていました。ただ、先日は冗談を織り混ぜながら話すことも多くなっていたので、病に倒れる前のオシムさんに戻ったように見えました。私と私の家族と久しぶりに会えたことに喜んでくれたから、状態が良さそうに見えたかもしれません。お互いに両家族や娘さんも甥もその席にいたため、そういう空気がオシムさんを元気にしたのかもしれません。」

 

--ちなみにセルビアではどんな年越しをするのですか。

ポポヴィッチ「とにかくお祭り騒ぎです(笑)新年のカウントダウンもやりますし、呑んで食べての時間が3日ほど続きます。セルビア人のメンタリティーは日本と違いますから、ハグもしますし、お互いに距離を縮めるコミュニケーションを取ります。日本人と違って、規律正しくはないですが(苦笑)、それがセルビアのお正月の迎え方になります。ただ私はスペインのサラゴサで年越しを迎え、外出はせずに家の中で家族と過ごしました。感染対策をバッチリとした上での生活を心掛けています。」

 

--ここからはこの2年間を振り返ります。

復帰1年目の2020年と最初に町田に来た2011年ではクラブの環境も大きく変化しました。

ポポヴィッチ「11年当時と比較して明らかに環境面やチームの力は進歩しています。上を目指すことが言葉だけではなくなっています。J1を目指すと言っても、実力や環境面など非常に難しいクラブも多いと感じています。それに比べて町田は上を目指す野心を持って、しっかりと実現できるクラブになってきています。11年はJFLからJ2へ昇格させ、戦績は成功と言われていますが、周りの要求が高くなっていることにも成長を感じられます。それはクラブにとって良いことだと言えますが、現実的な目標からズレ過ぎても良くないと思っています。」

 

--20年のチームや選手たちの雰囲気はいかがでしたか?

ポポヴィッチ「私が入る前の19年は残留争いをしていて、最終節の残り15分ぐらいの時点では降格に片足を突っ込んでいたと思います。選手たちを見て思ったことは、結果が出ずに自信をなくしているように見えました。過去のシーズンの雰囲気を知っているわけではないので、比較はできないですが、初日から良い雰囲気を作り、向上心を全員が持っているようなチーム作りを進めていきました。手応えを感じながらシーズンに入り、良い雰囲気で戦えていましたが、より高い目標を目指す必要がありました。ハングリー精神を持ち、より貪欲に成長し続けなければいけないので、向上心に終わりはありません。そういった意味では、2019年まで主力のロメロ・フランクや富樫敬真、小林友希もチームを離れたため、2020年はチームの土台を構築しながら、サッカーのスタイルや考え方も変えていかなければいけませんでした。ただ、それは(深津)康太のプレーを見てもらえれば分かると思います。私が就任する前に彼が見せていたプレーと、20年から今まで見せてきたプレーを比較すれば分かることだと思います。2022年では自分たちの力を見せつけることで、町田はJ1昇格候補の一番手だと、認めてもらうような存在になることも大事です。」

 

--20年はどんなことを積み上げてきたのでしょうか。

ポポヴィッチ「J2の舞台で経験を積んでいない若い才能のある選手を使い続け、彼らを主軸に据えていきました。その選手たちはJ3で試合に出場していたり、試合経験の少ない選手もいたため、攻守において、何を優先すれば良いのかを1年目はしっかりと伝えていきました。若手の成長を促すという意味でも、ミズ(水本裕貴)、(中島)裕希、康太らベテラン選手たちが非常に助けてくれました。ピッチ内外でどうあるべきか。FC町田ゼルビアの選手としてどうすべきかを教えてくれました。自分だけ活躍すれば良いと思ってしまえば、良い未来は待っていません。クラブに対していかに愛着を持って、力を注げるか。そうした姿勢があるのとないのとでは全く違いますし、クラブに愛情を注ぐことでこのクラブでJ1に行こうという想いが強くなっていくと思います。またスタッフや他のコーチングスタッフも若手の成長に尽力してくれました。」

 

--1年目はボール奪取からのカウンターというベースが構築されました。そうした戦い方を選択した理由はあるのでしょうか。

ポポヴィッチ「トレーニングではボールを動かすことやコンビネーションで崩すことにトライしてきましたが、そのサッカーができるかどうかは、選手の能力やクオリティーが合っているかどうかで変わってきます。1年目の編成では速い攻撃が武器になると思いました。ボールを動かして戦うためには、経験のある選手が少なかったことも影響しました。攻撃に関しては最短ルートでゴールを目指すことを求めていますが、それを実現させるにはクオリティーの高いパスを出せる選手がいなければなりません。また最短ルートが見える選手、そこにパスを通せる選手、そしてそこに走れる選手の能力が必要になってきます。」

 

--ちなみに20年の印象的な試合は?

ポポヴィッチ「ホームでの京都戦(3-0)や新潟戦(3-3)が印象的ですし、特にホームでの京都戦は理想形に近い試合でした。また負けはしましたが、山形とのアウェイゲームはエキサイティングな試合でした。2-0でリードをしながら最終的には2-3にひっくり返された試合でしたが、見せたいものを発揮したファンタスティックな試合ができました。20年は結果には繋がらない1年でしたが、非常に良い試合も多かったシーズンだったと捉えています。」

 

--ここまでインテンシティーの高さを発揮できているチームを作れている印象です。19年までのチームの流れを汲んでいたのか。それともポポヴィッチ監督が植え付けてきたことなのでしょうか?

ポポヴィッチ「19年のチームを全て知っているわけではないので、比べることはできませんし、インテンシティーの高さが19年のチームの強みだったから、今も続いているかは分かりません。1つ言えることはインテンシティーの性質が違うということです。ミズ(水本)、(小田)逸稀、(髙江)麗央、(安藤)瑞季、(吉尾)海夏といったそれまでいなかったメンバーが中心になっていますし、(佐野)海舟にしても、19年はサイドバックでの出場が多く、ボランチとは違うポジションでプレーしていました。19年と20年では主力メンバーが7人ほど入れ替わった中での話なので、比べることはできません。ただピッチで全力を出すということはゼルビアのDNAだと思っています。私もこのチームを率いて、全力を出して戦うことは大事にしている部分でもあります。例えば秋田もインテンシティーが高いチームと言えますが、私たちが見せるインテンシティーとは違った色合いがあると思います。インテンシティーを一概に比べることはできず、違ったものだと捉えています。2022年FC東京を指揮するアルベルト監督(2021年はアルビレックス新潟を指揮)と電話で話すことがよくありますが、このような話しをよくします。最終戦の前には我々に対してはハイプレスをし過ぎないように、お手柔らかにしてほしいという話しが出るぐらいです(笑)」

 

--余談ですが、そうしたアルベルト監督との関係性が、21年の最終節で引退した田中達也選手の花道に繋がったんですね。

ポポヴィッチ「田中達也選手にとって、引退試合になるため、15分程度で途中交代する時に祝福をしようと話しました。試合中は勝ち点3を取るために戦うのですが、敵味方関係なく、功労者を送り出すシーンを作れたことは、スポーツはやはり美しい、素晴らしいと思ってもらえるきっかけになったでしょう。あのような形で引退に華を添えられたのはアルベルト監督の人柄のおかげです。新潟だけではなく、日本サッカーのことを考えて、あのようなピッチの去り方を作ったのは田中達也選手のことを思ってのことです。私も人情を大切にしています。選手である前に1人に人間ですから、人の想いを汲むことは考えるようにしています。長い間、多くの試合に出て貢献してきた選手が、引退する試合でピッチに立てなかったとよく聞きますが、そのやり方には賛同できません。」

 

--新潟戦の前日にはJ1の試合後、勇退するレフェリーに花道を作って送り出すシーンがありました。

ポポヴィッチ「あのような光景をほかの世界で私は見たことがありません。レフェリーにとって最大級の賛辞ですし、日本の文化が強く影響している出来事だと思います。」

 

--20年はコロナ禍となりました。チーム作りに影響した部分もありましたか。

ポポヴィッチ「1年目の私にとっては、選手の特徴やパーソナリティーを理解するために良い時間となりました。ただそれとは別問題として、3日に1度試合をするペースで試合が開催されていたため、チーム作りをするトレーニングがあまりできずに、リカバリーをして試合を繰り返すサイクルになったことは確実にコロナの影響です。その中でもインテンシティー高く、ハイテンポの試合を繰り返しできていたことには満足しています。若手選手が多少ハードスケジュールをこなせることは分かりますが、ベテラン選手もインテンシティー高いゲームをできたこともうれしい出来事でした。日程が詰まったスケジュールをこなしたことで選手たちがよりタフになった側面はあると思います。」

 

--2年目の21年は、オフに鄭大世選手や長谷川アーリアジャスール選手ら、実績のある選手が多数加入しました。編成面の手応えはいかがでしたか。

ポポヴィッチ「我々には実績のある、経験のある選手が必要でした。若手が多いチームには、ピッチ内外で影響力の強い選手が必要ですし、若手が迷った時に道を示せる選手の存在は重要です。繰り返しの話になりますが、何度でも触れたい話しがあります。ミズ(水本)はその側面で大きな仕事をしてくれました。私が知り合った選手の中で一番の人間性を備えた選手です。一方でリスクのある補強でもあったと思います。アーリアに関しては、怪我で1年間プレーしていません。鄭大世もレギュラーではなかったです。もし彼らが自分の力を示すことができなければ、チームが違う方向に進んでいた可能性もあります。」

 

--無敗の琉球や新潟に勝った序盤戦の手応えは?

ポポヴィッチ「非常に価値があると捉えているのは、ただ勝ったのではなく、我々の戦いをした上で勝ったことに意味がありました。しっかりと相手を上回ることができました。勝利以上の意味がある試合になったと思います。琉球戦にしても、新潟戦にしても、我々のやり方で強いチームに勝てることを実感できました。また他のチームに対して、自分たちの力を見せられたことにも価値がありました。」

 

--新潟戦はバックスタンドの柿落としの試合でした。

ポポヴィッチ「あの試合は多くのサポーターの方々に入っていただき、スタジアムの雰囲気は感慨深かったです。そういった雰囲気がプレッシャーになる場合もありますが、モチベーションに変わったことが大きかったです。立派なスタジアムになったことはモチベーションになる一方で、より強い責任感を持つことにも繋がります。私自身もモチベーションに変えることができた試合でもあります。」

 

--2年目はボールを握って相手を崩す手応えも掴んだと思います。

ポポヴィッチ「最初から私が町田で見せたかったものでもあります。理想的な形ができるまで、時間が掛かるものですが、それがどの程度のものか。それは誰にも分からないです。私が再び町田にやってくるまでのサッカースタイルと、今年のサッカースタイルは全く異なるものでした。そこからの転換には時間が必要で、実際に時間も掛かりました。ただこのスタイルに到達するまでに、予定よりスピーディーではあったと思います。現状私たちが見せているようなサッカーをやるには、もっと多くの時間を必要とするのが普通だと思います。その中で表現してくれる選手たちが素晴らしいです。またチームや選手に落とし込んでいくうえでコーチングスタッフの力も大きいです。皆が良い仕事をした結果だと思います。」

 

--厳しい見方をすると、終盤戦は勝ちきれない試合もありました。そうした試合を勝ちきるために必要なことは?

ポポヴィッチ「成熟していくことが一番重要です。21年は出場機会に恵まれなかった選手もいる中で、感覚を取り戻す必要があった選手もいます。逆に言えば、20年は紙一重の試合を取りきれなかったことが多かったと思いますし、21年は紙一重の試合を勝ちきることが多かったという印象を私は持っています。あとは今後の補強も大切になってきます。2年を掛けて作ってきたレベルを引き上げる。違いを見せられる選手がいることも紙一重の試合を勝ちきるには重要なファクターになってきます。町田のリーグにおける格や注目度は上がってきていますし、評価も上がっています。行くところがないから町田に行こう。そういう目では見られていないと思います。ここまで見せてきたサッカーの内容が、注目度が上がる要因になっていると思っていますが、さらに上を目指すために、質やクオリティーの部分で違うものを見せられる選手を、獲得する必要はあるでしょう。」

 

--最終節の新潟で見せた試合は、この2年間の積み上げが感じられる内容と結果でした。ポポヴィッチ監督が理想として掲げるサッカーの完成形に近づいているのでしょうか。

ポポヴィッチ「近づいてきていると思います。新潟戦は攻守において我々が理想とするサッカーを見せることができました。継続して見せることが昇格の可能性を高めると思っています。21年は自分たちがやるべきことは何なのか。対戦相手の調子や戦い方も踏まえて、柔軟な戦い方ができました。アグレシッブにインテンシティー高く戦うことが大事な時はそういう戦いをできましたし、手数を掛けずにゴールに迫らないといけない時は、そういう戦い方をできました。ボールを繋いで相手コートに押し込んで戦うこともできました。戦い方の幅が広がったと思います。クラブとして、チームとして、勝つためにどの手段を選ぶのか。実力者になっていくためには判断やプレー選択も大事になってきます。東京五輪の中断まではチーム状態も良かったですし、勢いはありましたが、中断明け最初の京都戦で勝てば勝ち点差が「4」にまで縮まる状況でした。残念ながらコロナの陽性判定者や濃厚接触者が出たため、主力選手を欠くことになりました。もう時間は戻ってきませんが、全員が良い状態で臨めればという想いはあります。運がもう少しあり、良い方向に事が回れば、昇格争いに絡めたと思います。新シーズンに関してもやるべきことを全力でやるのですが、そういった運の要素も必要だと感じています。」

 

--ポポヴィッチ監督が理想として掲げるサッカーとは?

ポポヴィッチ「エキサイティングフットボールでしょうか。ただ一言で表すのは難しいですね。その言葉にインテンシティーを加えたいですし、アトラクティブという言葉も付け加えたいです。また柔軟な戦いをするという言葉も付け加えたいです。我々がやりたいサッカーは分かっていただけるようになったと思いますが、全てを出しきる。それだけは約束します。」

 

--3年目のシーズンは、どんなサッカーを見せていただけますか。

ポポヴィッチ「新潟戦の内容をスタンダードとして、その水準を高めていきたいと思っています。アウェイでの金沢戦(4-0)やアウェイの山形戦(5-3)などで素晴らしいサッカーを披露できましたが、そういった試合をお見せしたいです。どういう状況であっても、我々は何をしたいのか。それを見失いたくないですね。相手に合わせるのではなく、相手が我々に合わせてくるような、またリアクションになるのではなく、アクションを起こすことを強く意識していきたいです。」

 

--最後にファン、サポーターの皆様へメッセージをお願い致します。

ポポヴィッチ「改めて、新年あけましておめでとうございます。新年も皆様と皆様のご家族の健康を願っています。また新型コロナウィルスの問題もいち早く収まってほしいと願っています。そしてお互いに距離を詰めながら、喜び合える状況になってほしいです。立派なクラブハウスが完成し、素晴らしいピッチでトレーニングができる環境も整ったので、今まで以上により多くの方々にスタジアムまで足を運んでいただき、毎試合満員になるぐらいにしてほしいです。そうなることで町田はサッカー人気が高い街だと発信したいですし、皆様の力を借りながら、J1昇格を果たしたいと思います。これからもクラブのために、1つになって戦うことをお約束します。本年もよろしくお願いいたします!」

 

●編集後記・・・

今回はスペインでOFFを過ごす監督を取材させていただきました。

ポポヴィッチ監督の一言目は「元気ですか??(笑)」

と、満面の笑みでスタッフに声をかけてくださいました。

 

現場の選手やスタッフだけでなく、フロントスタッフやゼルビアキッチンのスタッフなどにも、大きな声と笑顔で接する姿を見ると、誰でもポポヴィッチ監督の魅力に引き付けられます。

 

そんな、ポポヴィッチ監督もサッカーの話しになると、トーンが変わります。

力強い言葉で、真剣に語る姿は、FC町田ゼルビアへの愛を感じると同時に、大きな責任を背負う勝負師の顔に・・・。

 

誰よりも町田を愛し、ゼルビアのために闘うポポヴィッチ監督。

3シーズン目となる2022年・・・

ポポヴィッチ監督と共に『J1昇格』という目標に向かい、ファン・サポーターやクラブスタッフ。

選手・現場スタッフを含め。

FC町田ゼルビアに関わる全ての人達が一丸となり、闘い抜く。

 

新しい歴史を刻む、2022年がいよいよ始まった。

(MACHIDiary 編集長より)