--今回は渡辺直也チーフマネージャーにお話をお伺いします。FC町田ゼルビアに在籍して何年ですか?

渡辺「最初の在籍は2014年2月から1年間の在籍で、一度退任してから17年に戻ってきました。通算6年目です」

 

--チーフマネージャーとしては、どんな仕事をされているのですか?

渡辺「大きく言うと、クラブ、選手、スタッフが円滑に動けるような環境作りをサポート、マネージメントする業務です。言い換えると、物と時間と場所を管理する仕事です。全てを話すと1日掛かりですよ(笑)。」

 

--練習がある当日は、どんなタイムスケジュールなのですか?

渡辺「起床時間は6時です。グラウンドには7時に着くように家を出ています。グラウンド到着後は、ロッカールームや部屋の準備をします。前日までに事務所に届いた郵便物の整理なども。今はマネージャーが3人体制なので、分担しながら、ドリンクや練習用具の準備を進めつつ、パソコン業務をしてコーチングスタッフや選手たちの到着を待ちます。」

--全体練習が始まったらどんな動きをするのですか?

渡辺「監督によって変わりますが、ポポヴィッチ監督になってからはトレーニングのビデオ撮影をしています。今は5メートルぐらいの高さがあるやぐらを立てていただいたので、その高さから、1時間30分から2時間は撮影をしているので、孤独との戦いをしています(笑)。」

 

--全体練習が終わったら、どんな動きをしているのですか?

渡辺「片付けは2人(川北裕之キットマネージャー、鈴木悠人サブマネージャー)がやってくれるので、コーチングスタッフや選手周りの対応をしています。次の日のミーティング機材の準備をしたり、撮影した映像を分析スタッフへ受け渡したり、あれやこれやと発生するので、そういったことに柔軟に対応するためにフリーでいられるようにしています。グラウンドにもマネージャーがいて、スタッフのそばにもマネージャーがいて、常にマネージャーがどこにでもいるように考えています。同じレーンにマネージャーが立つことがないように、ポジショナルプレーをやっています(笑)。」

--マネージャー界にも世界のトレンドの波が押し寄せているのですね(笑)。

渡辺「2人にはとにかく首を振って周りの状況を確認するようには伝えています。何かがあった時に動けるか。そのあたりの立ち位置はしつこく言っています。クールダウンや選手たちが座って雑談をしているような状況でも、誰か1人は近くにいるようにはしています。」

--どうやってその力を培ったのですか?

渡辺「振り返ると、そもそも得意だったかもしれません。ヴェルディでもマネージャーを3年、讃岐でも約1年務めていたことを含めると、10年近くマネージャーをやっているため、今までの監督やコーチに言われたこと、求められたことを言われなくてもできるようになっているのは、積み重ねてきた結果でもあると思います。具体的なエピソードを聞かれると、すぐには出てこないですが(苦笑)。」

 

--事務所に戻った後は何をされているのでしょうか。

渡辺「メインは洗濯と次の試合に向けての準備です。チーフマネージャーの僕は、週末の試合のスケジュール、チームバス、食事、遠征バス、新幹線や飛行機などの移動手段、宿泊先、お弁当などなどの手配や確認、準備を進めています。公式戦翌日にトレーニングマッチがあれば、その準備も進めます。」

 

--自然と細かい仕事が多くなるのですね。

渡辺「そうですね。細かい仕事は他の2人に任せながら、自分はミーティングをする機会が増えましたね。グラウンド整備の方や強化部、パートナー事業部の方とのミーティングをしていますし、最近は外部の方との打ち合わせの回数が増えました。」

--日によるとは思いますが、平均的な帰宅時間は何時頃ですか?

渡辺「平均的には17時ぐらいでしょうか。若い2人が頑張ってくれている結果でもあります。2人体制の頃よりは、1、2時間帰宅する時間が早くなりました。ありがたいです。2人体制の頃は、打ち合わせをする時間もなかなか取れませんでしたから。」

--3人体制になったことは大きな変化だったのですね。

渡辺「パートナー事業部の方とのコミュニケーションが増えたことはありがたいですね。現場は何を欲しがっているのか。そういったこともフィードバックできるようになりましたし、相互理解を深めるアプローチもできるようになりました。いろいろとチームに還元できることは増やせていると思います。」

--ここからは試合がある日の仕事内容について伺います。まずはホームゲームではいかがですか?

渡辺「メンバー外の練習に立ち会って、昼間の早い時間帯でのキックオフの試合は練習の途中で抜けます。その後は試合メンバーの軽食会場の準備や確認をして、バスの配車場所に先乗り、そこから試合メンバーが集まってくるのを待ち、全員が集まったら軽食会場に入り、軽食をとってスタジアムに行く形です。」

--試合後は…。

渡辺「試合が終わって約1時間後に発車するチームパスに乗り込んで、配車場所に戻って解散します。そこからは事務所に戻って試合の片付けをして、また次の日がトレーニングマッチの場合は、もろもろの事前確認を済ませます。」

 

--アウェイゲームならではの仕事はありますか?

渡辺「移動の部分ですね。知らない街に行くので、ストレスが出ないように気を使っています。アウェイへの移動はコーチングスタッフや選手と一緒です。最初にゼルビアへ来た14年は、遠征の予算が限られているため、チームトラックに便乗して宮田さんの隣に乗っていました。遠方の遠征の際は、前日練習は他の人に任せて、練習に立ち会えないというケースもありました(苦笑)。」

 

--マネージャーの仕事をする中で、特に大変なことは?

渡辺「対人間の部分でしょうか。何かの準備や遠征の手配は流れが決まれば同じことをやるだけなので、慣れてきますし、回数を重ねると良いやり方が見つかるものです。でも選手やスタッフに何か問題が起きる時は、同じようなことが起きるケースは少ないです。メンバーを外れる若手や怪我人など、ストレスを抱えた選手たちにどう向き合うか。正解はないですし、状況も様々違います。キャラクターも違いますから。距離感の取り方も難しく、日々勉強です。監督は人を見て言い方を変えるとか聞きますが、自分には難しいです。それができると、向き合い方も変わるのかなと思うのですが…。細かい仕事も大変ですが、心がえぐられるようなことはないですからね。」

--ここまでの話にも出た部分もありますが、改めて仕事をする上で大事にしていることは?

渡辺「状況によって求められることが違うので、ピッチ内もピッチ外もどういう状況なのか。誰が困っているのか。気に掛けることです。スタッフと距離が近いので、スタッフ間がうまく回っているのか。一番大変なのはメディカルスタッフで、選手と監督やコーチ陣の間に挟まれる立場であるため、何かできることがあるかとか、そういったことを見つけるのは得意だと思っているので、大事にしています。皆がうまく回るようにするためには、見ていないとできないですし、またコミュニケーションをとるようにしています。話すことでこういうことがあったという見えなかった部分が見えてきます。」

 

--言うのは簡単ですが、察知力や洞察力が問われる仕事ですね。次に仕事をしていて、うれしいことはどんなことですか?

渡辺「単純にチームの勝利はうれしいですが、引き分けだったり、負けたり、何かチームに良くないことが起きた時に、選手が稀に謝ってくることがあるんです。例えば『勝てずに申し訳ない』とか。そういう時、そんな声を掛けてくれる選手と一緒に仕事をできるうれしさがあります。スタッフのためにも勝ちたかったという想いを持って、戦っていることにグッときますね。選手がチームを代表して戦っていて、結果を出せなかった。決して謝る必要はないですが、また次頑張ろうと思えます。負けた時にも、自分がチームの一員であることを感じられる時はうれしいですね。」

--逆にしんどいなと思うことは?

渡辺「一番近くで支えているつもりですが、試合の結果に自分が大きな影響を及ぼせないことはツラいです。また李漢宰クラブナビゲーターの密着ドキュメント(FC町田ゼルビア公式YouTube企画『ハンジェの部屋』にて)ではないですが、負けた後の片付けはしんどいです(笑)。しんどさと無力さはありますが、やるしかないと奮い立たせています。ただ良いことも悪いことも間近で感じられるのは、現場の近くで仕事をしている人間ならでの喜怒哀楽だと思います。」

 

--順番が前後して申し訳ないですが、ゼルビアに加入するキッカケは?

渡辺「14年にゼルビアに入る前は、子どもたちを教えるコーチをしていました。13年度の終わり頃だったでしょうか。ヴェルディのマネージャーの時に、楠瀬さん(当時・楠瀬直木アカデミーダイレクター)がユースの監督をされていた間柄だったため、楠瀬さんからマネージャーの経験者を探しているという連絡が来ました。『誰かいないか?』という感じでした。心当たりがある2、3人に電話をしたのですが、できるという人がいませんでしたという返答をしました。そういうやり取りをしている中で、実は僕の仕事があまりうまくいっているとは言えない状況だったため、『僕じゃダメですか?』という連絡を入れました。そこで丸山さん(現・丸山竜平スカウト部長)と会って、ゼルビアのマネージャーになりました。」

 

--楠瀬さんが結んだ接点だったのですね。

渡辺「実はそれ以前にもゼルビアとは接点があったんですよ。11年にヴェルディのマネージャーをやっていた当時、フィジカルコーチと一緒に小野路グラウンドへゼルビアの練習を見に行ったことがありました。当時はポポヴィッチ監督ですし、全ての接点の始まりです。そして、その時に一緒に見に行ったフィジカルコーチというのが現在の津越智雄フィジカルコーチですから、不思議な縁を感じます。」

 

--17年に復帰することになった経緯は?

渡辺「16年のシーズン終わりの頃に、丸山さんから『どうしてるの?』と電話をいただいたことがキッカケです。16年はセレッソや京都など、関西でのゼルビア戦を見に行って、J2に復帰した中、これほどのサッカーをするようになっていたのか、と勝手に感慨深く、クラブとしても良い流れだなと感じました。そんななか、丸山さんが『戻ってこないか?』と言ってくださっていましたし、指導者も楽しかったのですが、成功するかどうか。それを試すためにコーチ業をしていたのに、発展性は難しいなと感じていました。ここが踏ん切りをつけるタイミングかなと思ったんです。」

 

--14年で去った際はどんな経緯だったのですか?

渡辺「14年の退任は自分から辞めた形でした。コーチ業に未練があったというか、踏ん切りをつくまでやっていかなかったので、そのタイミングがラストチャンスだろうから、コーチ業がやりたいなと、1年で退任してコーチ業に復帰しました。コーチ業でトップを目指すという野心があったのですが、自分が思い描いた実績を作れなかったら、そこであきらめようと思っていました。そういうなかで16年は踏ん切りがつくタイミングでもありました。17年には上昇気流に乗ったクラブと共に、マネージャーとして上を目指そうと思いました。」

 

--アウェイでのセレッソ戦は鈴木孝司選手や中島裕希選手が活躍しましたが、彼らの活躍が渡辺さんの心を動かしたのですね。

渡辺「きっとそうだと思います。見に行っていなかったら分からなかったですね。見に行くということは少なからず、ゼルビアのことを気に掛けている証ですし、スタッフの方にも『待っているよ』と言われたことはありがたかったです。」

 

--指導者も経験されている中で、今のマネージャーの仕事に活かせていることはありますか?

渡辺「一番は練習の次への切り替え、トランジションには自信があります。自分がグリッドを作ったことがあるかどうかで違ってきます。ピッチ周りで必要なもの。次の練習で何が必要か。それはとても意識しています。コーチングスタッフは見ることに集中できるから助かると思います。準備も片付けも早いですよ(笑)。」

-ポジティブトランジション。ネガティブトランジション。どちらもいける口なのですね(笑)。頼もしいです。ちなみにお休みの日はどんなことをされていますか?

渡辺「疲れ切っているので、ほぼ寝ています。ただ今年の頭ぐらいから、Netflixを見るようになりました。キャンプの時に長谷川選手(長谷川アーリアジャスール)が韓流ドラマを激推ししていて、自分も『梨泰院クラス』を見るようになりました。沖縄の一次キャンプから宮崎の二次キャンプへ移動するフェリーの所要時間は24時間掛かったため、そこで一気見しました。また最近はサッカーの試合を見るよりも、サッカー関連の活字を読むのが好きです。」

 

--他にリフレッシュするための趣味などはあります?

渡辺「お酒を呑むのは好きです。コロナ前にはスタッフと呑みに行ったりしていたことを選手たちが聞いて、いつのまにか僕がべらぼうに酒好きなキャラになっていました。なぜか酒豪キャラになっていますが、一口で顔が真っ赤になります(笑)。ここでしっかりとみなさんに周知しないとですね(笑)」

 

--渡辺さんのお休みは、チームのオフと同じなのですか?

渡辺「そうですね。そうだ!休みの日には事務所に行きますね。次の週の仕事を2、3時間やっておくと、オフ明けの平日の仕事が減ることで早く帰れるため、そういう工夫もしています。昔はデータマンをしていたので、家でもサッカーばかりを見ていました。趣味を聞かれると、サッカーと言いますが、今はプレーする元気もないです…。次の日に響いてしまいますから。」

 

--マネージャーを目指す学生にいま、学んでおくと良いことなどはありますか?

渡辺「いろいろなジャンルのアルバイトをした方が良いかもしれません。最初に話したようなことに繋がりますが、マネージャーは仕事の幅が広く、何でも屋さんなので、いろいろなことを経験することをオススメします!1つを突き詰めるのもすごいことですが、学生さんはいろいろなアルバイトをして、いろいろな職種の人と出会って、怒られる経験が大事だと思います。学生のうちに自分に足りないものを注意、指摘してくれるのはアルバイトだと思います。それによって、知らないこと、足りないことに気づけますから。」

--マネージャーにとって、一番必要なスキルはどんなことですか?

渡辺「チーフマネージャーの仕事で言えば、人と人との繋ぎ目のような役割でもありますし、オシムさん(イビチャ・オシム)の言葉で言うと、水を運ぶスキルです。どこに水が必要か。必要なものを必要なタイミングで渡せるスキルというか。『欲しい』と言われて、『ちょうど用意してました!』と渡せるように。」

 

--なかなかできることではないですよ。

渡辺「自分で身につけようと思ったことはないですし、無意識で得意なことというか、そこに目が行ってしまいます。小さいことが気になってしまうというか。コレがあると、周りの人が便利になるのかなというものをすぐに用意します。」

--マネージャーの仕事とは?

渡辺「マネージャーは人と人、物と物、人と物をくっつける仕事です。全てがうまく回るような潤滑油的な役割というか、自然と全てがうまく回るような状況を作れたら良いなと思ってやっています。」

 

--ちなみに掲載直後がアウェイでの山形戦になるため、最終節で残留を決めた19年のアウェイでの山形戦前の素直な気持ちはどうだったのですか?

渡辺「試合前や遠征の時の心境は全く覚えていないんですよね…。ただ試合中のことは昨日のことのように覚えています。当時在籍をしていたトレーナーの岡林努さんとロッカールームで仕事をしていたのですが、それだと会場の様子が分からないんですよね。ロッカーでは他会場の経過を見ていました。うちが押しているのか、どうか分からない状況の中、どこかのタイミングで降格圏にいる瞬間があって、岡林さんと『コレ、ヤベえ…』と話したことはすごく記憶に残っています。試合が終わって、残留が決まった時は、フワッとしていましたね。あとは帰りの新幹線が動物に衝突して、しばらく停車していたことも良く覚えています(苦笑)。笑って帰れて良かったなと。違った結果だと思うと、ゾッとします。」

 

--試合前は降格してしまう…みたいな恐怖心はあったのですか?

渡辺「そんなことはなかったですね。平常心でいられるのは、クラブの特徴だと思います。ゼルビアというクラブは、常に地に足がついているんですよね。相馬監督も非常に落ち着いた様子でした。そう考えると、トップチームの一番そばで痺れる体感をできることも、この仕事の醍醐味ですね。ただ立場的には常に平常心でいることが大事です。自分がソワソワしていても仕方がないですし、いつもどおりの気持ちでいようとは思っています。振り返ると、個人としてはまだ昇格も経験していないので、来季J1へ昇格をする時には、どれだけ平常心でいられるかどうか…。それが問われますね。」

--それでは最後に、渡辺さんにとって、FC町田ゼルビアとは?

渡辺「ホームチーム、我が家です。ここまで話してきたように、いろいろな縁やタイミングでゼルビアに来て、またゼルビアに戻ってきて、その前に小野路に練習を見に来ていたように、縁があるのかなと思います。もともと関西出身の自分が関東に出てきてから、5、6カ所の街に住んできましたが、この街にずっと住みたい。それだけの愛着が湧いたのは、町田が初めてです。人生41年のうちのわずか6年ほどですが、すごく町田のことが気に入っています。」

 

●編集後記・・・

誰よりもチーム全体のことを考えた言動をする渡辺さん。

実は私も社会人一年目はマネージャーだったのですが、取材中に・・・

「必要なものを必要なタイミングで渡せるスキルというか。『欲しい』と言われて、『ちょうど用意してました!』と渡せるように。」

という話しをされた時に、当時の上司に同じ話しをされたことを思い出しました。

 

『全てがうまく回るような潤滑油的な役割』

 

まさに現場だけでなく、フロントスタッフとも連携し、チームに関わる全てのことを円滑に回すマネージャーはチームに欠かせない存在であり、重要なポジションです。

 

『平常心』

取材中に何度もこの言葉を使った渡辺さん。

この言葉が崩れるくらいの感動を渡辺さんが感じるのは・・・

きっとJ1昇格の瞬間なのでは???

 

選手の活躍の陰にはチームスタッフの活躍は欠かせません。

ぜひ、チームスタッフがどんなことをやっているのか注目してみるのも、新しい観戦スタイルになるかもしれません。

(MACHIDiary 編集長より)