--今回はFC町田ゼルビア普及部「ひろめ隊 隊長」の小杉賢三コーチにお話を伺います。まずは仕事内容から聞かせて下さい。

小杉「普及部は、3歳から80歳を対象としたサッカーの普及活動をしている部署です。ゼルビアでは「ひろめ隊」という名称での普及活動をしていますが、僕はそのひろめ隊の隊長です。具体的にどういった活動があるかと言うと、「出前サッカー」と呼ばれる幼稚園・保育園や小学校への巡回指導、サッカースクールでの指導、そして中学生以上の女性を対象としたスクールもあります。週末はスクール生以外の方々も参加できるようなイベントでの指導もしています。30歳以上や45歳以上を対象としたサッカースクールなど、いろいろな方々に幅広く、スポーツやゼルビアを知ってもらう、好きになってもらう活動をしています。」

 

--ちなみに小杉さんは何と呼ばれていますか?

小杉「普及部のコーチ達は一発で名前を覚えてもらうために、キャラ付けをしています。

例えば、体が細いコーチは「ほそほそコーチ」と呼んでもらったりなどです(笑)僕はほかの呼び方で言われるのが恥ずかしく、ずっと「賢三」と呼ばれてきたので、「賢三コーチ」と呼んでもらうようにしています。電話対応で「小杉です」と言っても理解してもらえないほど、「賢三コーチ」で浸透していると思います(笑)」

--“つかみ”が重要なのですね。

小杉「最初の自己紹介が相手にインパクトを与えられるかの勝負の部分があります。名前をすぐに覚えてもらうためにもそうしています。僕は39歳になるので、エネルギッシュな自己紹介はできないですが(苦笑)、ほかのテクニックを使いながら、限られた時間の間に名前を覚えてもらう努力はしています。」

 

--指導をする上で大切にしていることはありますか。

小杉「特別なものはないと思っています。ド真ん中を行きたいというか、何かに偏るというよりは、サッカーやスポーツを好きになってもらうとか、夢を持ってもらうとか、イキイキとした生活をする活力になってほしいという想いがあります。またそこにゼルビアがあることでうれしいと思ってもらえるような活動を心掛けています。例えば、トップチームの選手は試合を頑張ることで、そういったエネルギーを与えることができると思いますが、僕たちは目の前の子どもたちや保護者、参加者の方々と接しています。直に接する分だけ、ゼルビアがあって良かったと思ってもらう存在となるために、またクラブにも、ひろめ隊があって良かったと思ってもらえるような活動ができるように常に心掛けています。」

--「この仕事をやっていて良かった」と思えた具体的なエピソードはありますか。

小杉「感謝されることに尽きます。ありがたいことにいろいろな方々から『賢三コーチのおかげでサッカーが楽しいです・次のステージでもサッカー頑張ります!』とか、いろいろな言葉をいただいています。教えているクラスが変わったり、スクール生が卒業したりすると、僕がクラブを辞めたわけではないのに、メッセージ付きの色紙をいただくこともあるので、それはコーチ冥利に尽きます。」

 

--そのほかにはありますか。

小杉「5年前ほどの話になりますが、ホームゲームで卒団セレモニーがあった際、スクールに通っていた当時1年生から知っている選手が、あと少しでアカデミーへの入団が叶わずに、卒団セレモニーに参加しました。スタジアムを一周している時に、「賢三コーチ、ありがとう!」と、その保護者の方に言われた時には涙ぐんでしまいました…。申し訳ない気持ちと、そこがゴールではないので、やれることはできたのかなという想いが交錯していました。」

 

--普及部の仕事のやりがいとは?

小杉「もともと人のためになることをしたいという想いもありますし、自分ができることは何か。常にそれを考えています。それこそコーチの花形と言われるのは、カテゴリーを持って戦うことかも知れません。僕自身も20代は大学でコーチをしていて、指導の現場に身を置く興奮は体感してきましたが、今は普及部でクラブの役に立っていることが楽しいです。人の信頼を獲得するために、目に見えた形での活動ができている。それこそがやりがいです。」

--ちなみにゼルビアのスクールの特徴とは?

小杉「それは永遠に模索していることです。スクールとしては、子どもたちに褒めることを中心に楽しく教えることや、子どもたちがいかに成功体験を積みながら、できないことをできるようになる喜びを与え続けることを目標にしています。クラスの編成も、カテゴリーや用途に合わせて、組み立てるようにしています。一般のスタンダードクラスから、少年団やサッカークラブに入っている選手を対象にしたアドバンスクラス。さらなる強化を目指したセレクションが必要なスペシャルクラス、初めてプレーする選手向けのキックオフクラス、女の子だけが参加できる女の子クラス…。本当に多岐に渡っています。このように、子どもたちのモチベーションが上がったり、皆がサッカーを楽しめる環境を構築するために、クラスの棲み分けをしていることは特徴かもしれません。」

 

--普及活動をする上で、“守屋イズム”といったことはありますか。

小杉「守屋さんにはまずやってみようと、チャレンジすることを尊重するように、子どもたちを良く見ましょうと言われます。“守屋イズム”とはコーチが型に嵌るのではなく、子どもたちにとって何が一番良いことなのか、考えるようにすることでしょうか。」

 

--普及活動をする中で、「やっぱり町田は少年サッカーの街なんだな」と感じることはありますか。

小杉「少年団やクラブチームの数が多く、子どもたちにとって、サッカーが身近にある存在だなと思います。サッカーチームがたくさんあることで自然とそこに入るような流れもありますね。ただその分、うちのスクールにとっては、難しい側面もあります。サッカーをやればやるほど、自分たちの試合があるから、トップチームの試合を見に行けないといった、トップチームが遠くなるという恐れも出てきます。そういったことがあるだけに、ゼルビアの価値をもっと上げていきたいと思っています。」

 

--なるほど。自分たちの試合とトップチームの試合が重複するといった現象は、良く耳にする話です。

小杉「サッカーが身近にあること。それが町田の良さでもある分、保護者の方々の期待もありますから、その難しさと期待に応えたいという想いがあるので、気が抜けません。サッカースクールも山ほどありますし、複数のJクラブに囲まれた環境だと、『ゼルビアが好きだから、スクールに入る』という流れを作りにくい側面もあります。『なぜゼルビアを選ぶのか?』その差別化を生むプレッシャーはあります。」

 

--差別化は難しいテーマですね。

小杉「ただ子どもたちは日々変わっていきますし、サッカーのトレンドも変わってくる中で、型に嵌めるのではなく、今後の成長に繋がったり、次のステージへ進むためにそのタイミングで必要なものを、指導していくことが必要です。そうした日々の変化がある中で、常に何が一番良いか考えなければなりません。コレと決めると楽ですが、そうすることで遅れてしまうこともあります。一番良いものを提供していたい。そういう想いは常にあります。」

--ちなみにひろめ隊としてはどんな活動をしているのでしょうか。

小杉「クラブのエンブレムをつけて、いろいろなところに出ていきます。どこへ行っても、クラブがポジティブな存在であることを印象付ける活動をしています。いろいろな人とコミュニケーションを取って、『ゼルビアって良いよね・夢中になって何かを頑張るのは、楽しいことだよね』と思ってもらえるような活動をしています。親子で汗を流せる親子サッカーなどもありますし、ひろめ隊ではいろいろな人をターゲットに定めて、多岐に渡った活動をしています。」

 

--酒井良ジュニアユース監督がひろめ隊の隊長を務められている時期に、酒井さんから学んだことはありますか。

小杉「酒井さんは守屋さんと一緒で『やってみよう・チャレンジしよう』ということを常に言っていましたし、コーチがイキイキとしている姿を見せることも必要だと教えられました。またクラブ全体を見て、ひろめ隊として何ができるか。それを常に考えていました。当時の僕は酒井さんの縁の下の力持ちとなって、神輿を担ぐような意識でサポートしてきました。参謀役的な形でやっていたんです。」

 

--ユーモアのあふれる方ですし、子どもたちの心をつかむ「うまさ」みたいなものはあったのでは、と想像します。

小杉「カリスマ性があると思います。本人の歴史があるからカリスマ性があるのか。カリスマ性があって、その上で歴史ができているのか。どちらが先かは分からないですし、整理ができていない部分はありますが、素敵な方だなと思ってきました。」

--ここからは小杉さんの人となりの話を伺いたいと思います。ゼルビアとの出会いはどのタイミングですか。

小杉「もともと私は、FC町田のクラブの出身です。小・中とFC町田に所属していました。高校では選手権を目指せる学校に行きましたが、ずっと町田っ子でもあります。大学卒業後には大学でコーチをしていて、幼稚園と小学校や大学で通っていた母校の玉川大学がゼルビアのパートナー企業となり、玉川大学がグラウンド提供もしている時期があったため、近くでゼルビアが頑張る様子は見てきました。ゼルビアが2012年にJ2へ昇格した時に、僕は30歳目前で『何かできるかことはありますか?』と守屋さんに相談しました。そこで守屋さんからは『普及部でやるのはどうだろう?』と打診されました。そして自分にできることを精一杯やろうと決めてから、9年が経ちました。」

 

--さまざまな縁があったのですね。

小杉「自分の出身チームに恩返しをしたいという想いでやってきました。地元なので、同級生の子どもや、FC町田のOBの子どもがスクールに参加してくれたり、いろいろな縁を感じています。僕は『誰かのため』にじゃないと頑張れないタイプの人間でもありますし、ほかのクラブだったらここまで頑張れるかと言われれば、それも難しいです。町田のクラブだから頑張れています。また頑張った分だけ評価されますし、家族のためにも頑張れます。今は自分が頑張ることで全ての歯車がうまく回っているので、本当に幸せだなと思います。」

--現在の立場から、今後ゼルビアをどんなクラブにしていきたいという想いがありますか。

小杉「ゼルビアになってからは歴史があるようで、まだ歴史はそんなに深くありません。自分の同世代が保護者になっていく中で、親子2代、3代と応援してもらえるようになるためには、どうしても時間が必要だと思います。自分は一番下の世代を見ていますが、ふれあいサッカーやスクールをやっていて、その子ども達が中学、高校と大きくなったりして、学生を卒業しても、スタジアムに来てくれています。ふれあいサッカーに参加していた子どもたちが大人になって、自分の子どもができて、スタジアムに来て、『子どもができました!』と報告されるようなことがあると、その子も指導できます。」

 

--長くやっているからこその醍醐味ですね。

小杉「親子2代、3代で応援してもらえるようになることで、ナチュラルにスタジアムが満員になるのかなと思います。母校に戻った時に、教えてもらった先生がいないと行きづらい側面があるじゃないですか。自分がこのクラブにずっといることで、『賢三コーチがいるから、スタジアムへ行こう・ゼルビアの試合に顔を出そう』といったサイクルができるような、人が巡り巡るような環境にしていきたいです。」

--今後のスクール活動における青写真はありますか?

小杉「大きな目標は、サッカーをやっている人が全員、ゼルビアのユニフォームに袖を通す、ゼルビアのエンブレムをつける環境を作りたいです。『サッカーをやるならばゼルビアで』となるようにしていきたいです。子どもの頃にやってきたことが、どのタイミングで結果に繋がるは分かりません。そうした難しさはありますが、『ゼルビアのスクールに通わせて良かった』と言っていただけるように、皆が“ゼルビアっ子”になるようなスクールにしていきたいと思っています。」

 

●編集後記・・・

FC町田出身の賢三コーチ。

インタビュー中から、クラブ全体の事を常に考え、自身がどのようにクラブに貢献するのか。

そのことを深く考えられているな!

と、感じました。

 

『町田愛』

これを感じずにはいられません。

 

FC町田ゼルビアがさらに地域に愛され、地域に必要とされる存在になるためにも、普及活動は非常に重要でありクラブの根幹ともいえます。

 

今日も、賢三コーチはクラブの最前線に立ち、FC町田ゼルビアを『ひろめ』る活動をしています。

賢三コーチを見たら、ぜひ大きな声で「賢三コーチ!」と声をかけてみてください。

素敵な笑顔が返ってくると思います。

(MACHIDiary 編集長より)