--今回は2021シーズンより、ホームゲーム会場を「天空の城 野津田」としてブランディングするプロジェクトに対する『想い』を伺います。プロジェクトリーダーである田口さん、スタートの経緯から聞かせて下さい。

田口「まずはブランディング展開のお話をする前に、なぜこの企画が立ち上がったのかの経緯を説明させてください。

このプロジェクトは、昨年の5月にスタートしました。その時期はちょうど、コロナ禍でリーグ戦が中断していました。クラブとしては、収入の減少など心配事は山ほどありましたが、一番の懸念点は、応援してくださる方々や地域の方々の顔が見えなくなってしまったことです。ファンサービスやホームタウン活動ができずに、社会的にも、デジタルへシフトしていこうという中で、例えばオンライン会議システムなどの活用で顔自体は見えるけど、本当の意味で、私たちが求める顔は見えていませんでした。そのギャップを埋めるために、スタジアムをブランディングしていくことで、多くの方々にスタジアムへお越しいただき、より多くの方々の顔を見ることができるような接点を持ちたかった。それがプロジェクトスタートの経緯です。」

 

--なるほど。コロナ禍により、生活様式も劇的に変わりました。

田口「オンラインでの環境があるとはいえ、人との関わりが減ることによる孤独や、行動制限のストレスは計り知れません。それはクラブのスタッフも同様ですが、地域の方々が、感染のリスクだけではなく、メンタル面で健康を害するケースなど、新たな社会問題も出てきました。地域の方々にとって、自宅の近くでストレスが発散できて、人との関わりが持てる場所を、「天空の城 野津田」で実現したい。そういった目的でブランディングを考え始めました。」

--スタジアムでリアルの価値を創造しようと考えたのですね。

田口「確かにデジタルシフトが必要な領域はあると思いますが、こんな時代だからこそ、プロスポーツクラブが果たすべき役目は、リアルな体験の価値を見直し、新たな価値を提供することなんじゃないかと考えました。今回のブランディングは、「天空の城 野津田」をそのシンボルとして、作っていこうというプロジェクトです。

では、なぜブランディングの方向性を「天空の城 野津田」にしたのかというと、既に「天空の城 野津田」というワードとして一定の認知があったことで、ファン・サポーターの皆様にも受け入れられやすいのではと考えてのことです。そこに細かい設定を乗せたという感じです。」

 

--全体像は理解しましたが、枝葉の部分は具体的にどういった形で進めていくのでしょうか。

田口「リリースでも書かせていただいた通り、常に築城中ということです。「天空の城 野津田」というブランディング自体は、クラブ主導で発信したプロジェクトですが、クラブがペースメーカーとして先頭を走るのではなく、皆様つまりはファン・サポーターの方々や地域の方々と伴走していきたいと考えています。大事にしたいことは、皆様を置いてきぼりにするようなプロジェクトであってはいけないということ。そのため、ホームゲームのたびに、少しずつ何かが追加されて、少しずつ変わっていくという手法を取っています。」

--「天空の城 野津田」を「築城中」という表現もユニークですね。

田口「少しずつ変化を加えていくことで、ご来「城」していただく方々の反応が、クラブ側の想定と違っていれば、伴走できていないと判断できます。応援していただく皆様と伴走しながら、私たちが作り上げる枝葉の部分が向かっていく先が正しいか正しくないかを確かめつつ、ブランディングを進めていくという意味で「築城する」という言葉を使っています。」

 

--試合ごとに変化があるのですね。

田口「その通りです。例えば開幕戦であれば、案内POPのデザインを統一したり、BGMを変えました。少しずつ変化させる領域を広げていこうと思っています。ただこういう話をしてしまうと、ご来城いただく方々に、どこが変化しているか、常に発見をして、伴走しなくちゃいけないと、難しい印象を与えてしまうかもしれません。そういう目線で来城していただきたいわけではなく、「前回はこんなのなかったな」とか、「どこが変わるのかな」とか、単純に楽しんでいただければと思っています。今回、試合ごとに変化をさせていくと宣言したことで、ご来城いただく皆様も細かいところまで見てくださると思いますので、私も自らにプレッシャーをかけながら、楽しんでプロジェクトを進めていきたいと思っています。」

 

--開幕戦では次回のホームゲーム(3月14日の東京ヴェルディ戦)の来城を呼びかける際に、場内アナウンスで「次回の待ち合わせは」という言葉を使っていたことも変化の1つですよね。

田口「よくぞ気づいてくれました! 「天空の城 野津田」は、クラブが皆様と接点を持つことができる場所であり、コロナ禍により家にこもりがちになっている皆様が、2週間に1回、いろいろな方々と接点を持つことができる機会でもあります。それを表現するために、「またここで会いましょう」という意味で「待ち合わせ」という表現を使わせていただきました。「待ち合わせ」は、結構個人的にはこだわりのワードだったのですが、あまり気付いてもらえず残念に思っていたところです(苦笑)。ただ、裏を返せば、それ以上に他の部分でご来城いただいた皆様の話題に上がることが多かったということですので、ブランディングとして一定の成果があったとも感じています。」

 

--またメディアの目線では、記者席の番号が記された案内板も「天空の城 野津田」のテイストに統一されていました。

田口「このプロジェクトを私たちのスタッフがどう咀嚼して、どう具現化していくか。そこは課題になるなと考えていたのですが、まさかメディア周りもブランディングが統一されるとは思っていませんでした。どちらかと言うと、メディア周りは公式の場であるため、そこまでブランディングしていくのはまだ先のことかなと思っていたのですが、広報担当がすでに導入をしてくれていたり、諸室周りも統一されていました。社内のスタッフがこのプロジェクトに対して、楽しんで向き合ってくれているため、次の一手に早い段階で進めると思うと、うれしいですね。」

--SNS上やスタジアムでの声も含めて、ファン・サポーターの皆様からの反応はいかがでしたか。

田口「もう少しネガティブな反応が出てくるかなと思っていました。「天空の城 野津田」に対して、受け止め方は人それぞれだと思いますので、「こうじゃない」とか、「もっと壮大なものが行われると思っていた」とか、そういった声がもう少し出てくるのかなと思っていました。皆様がイメージされた天空の城と完全一致はしないまでも、大きくは離れていない部分があったからこそ、ネガティブな反応が少なかったと思いますし、方向性として大きくは間違っていないと感じています。100%の理解を得られないとは思っていましたが、かなりの高い割合で「良かった」と言っていただけたことに対し、ファン・サポーターの皆様のご理解とご協力を痛感しています。」

 

--今後のロードマップなどは、どう思い描いているのでしょうか。

田口「本当に「天空の城 野津田」はあったんだと、皆様の想像以上のものを提供することが、私たちの務めだと考えていて、一旦、2023年を目途にこの世界観の完成を予定しています。では何をもってして、世界観の完成かと言うと、「天空の城=ゼルビアのホームスタジアム(試合会場)」として認識されることだと考えています。今年から2023年までの3年間は認知を獲得する築城フェーズですので、例えば、グッズを展開する際にECを活用することもあるかと思いますが、今後は「神話」のような形で「天空の城 野津田」でしか購入できないグッズ展開だったり、外部を巻き込んだ施策、例えば、プレイガイド企業様のご協力は必要ですが、「天空の城 野津田」オリジナルチケットを発行することや、人気のアプリやコンテンツとのコラボなど、3年後にいろいろなものを巻き込んだ施策をしていくために、これからの3年間を準備期間として取り組んでいきたいと考えています。

--先ほどのお話に出た「天空の城=ゼルビアのホームスタジアム」と認知されるという終着点は、何をもってして、そうなったと言えるのでしょうか。

田口「熱心なサッカーファンの一部の方々には、今回のプロジェクトとは別にある程度は「天空の城 野津田」がゼルビアのホームスタジアムと認識していただいていると思いますが、まだゼルビアに馴染みがない方々にとっては、そこまで到達していないと思います。例えば、街中の試合告知のポスターに「試合会場:天空の城 野津田」と書いても、「ああ、あそこね」と一般市民の方々にも浸透していたり、「天空の城 野津田」というワードがあれば、「ああ、ゼルビアのことね」と思われるぐらい浸透することが一つの終着点だと考えています。

 

--ちなみにゼルビアは川崎フロンターレや横浜F・マリノス、FC東京といったJ1の有力クラブに囲まれた環境ですが、そういったクラブとの差別化は意識しているのでしょうか。

田口「スポーツだけではなく、エンターテインメントという大きな括りで見れば、テーマパークも競合に当たると思います。そのため、野球ならば、ボールパーク、テーマパークならば、テーマパークの世界観があるように、「天空の城 野津田」という独自の世界観を作っていくことが大事なのかなと思っています。ほかのスタジアムでサッカーを見る、アリーナでバスケットボールを見る。そういった選択肢とはまた違った選択肢となることが、差別化と捉えています。」

--大きく言えば、エンターテインメントの中で、ゼルビアを絶対的な存在として確立させたいということでしょうか。

田口「サッカーか、野球か、テーマパークか、ゼルビアか。そういった選択肢となれるように、「天空の城 野津田」をブランディングしていきたいと思います。「天空の城 野津田」が一つのカテゴリーとなれるように、差別化を図っていきたいです。そんなイメージを持っています。」

 

--となると、ライバルは何になるのでしょうか。

田口「究極は東京ディズニーランドです。またもっと身近な視点で言えば、自然と人が集まる場所。言い換えれば、2週間に1回住民が集まる地域のお祭りの拡大版というか。例えば、お祭りとなれば、そこに地域の方々は顔を出しますよね。お祭りは地域の方々が気軽に参加できる立ち位置にあると思います。「天空の城 野津田」が、ゼルビアを応援してくれる方々や地域の方々、サッカーファンの方々が出かけていく、2週間に1回行われるお祭り。そのような形になるのが、1つの理想です。」

 

--どこのクラブも目指していないものを確立すると。

田口「1つの終着点はそこですね。」

--ここからは少し田口さんについて、お伺いします。ゼルビアの入社年は?

田口「2009年なので、今年で13年目になります。」

 

--かなりの古株ですよね。ちなみに現在の業務内容は?

田口「役職としては、マーケティング部の部長です。私のセクションでは全社的に集客に取り組む「トゥギャザープロジェクト」の旗振り役と、チケット、ファンクラブ、グッズ、ホームタウン活動、ポスターや広告など宣伝周り。あとはJリーグが進めているデジタルマーケティングの活用です。」

 

--田口さんはアイディアマンの印象を受けますが、どんな時に発想が閃くのですか。

田口「そんなことはないです!ただ、何かを閃く瞬間は、机に向かっている時ではなく、入浴中や、人と話している時とか、全く向き合っていない時に思いつきます。運転中にアイディアが思いついた時には、車を止めて、忘れないように、「メモ」と書いた備忘録を部内のグループに突然メッセージを送ったり(笑)。マーケティング部のメンバーは皆が優しいので、何の説明もしていないメモに対して、「了解しました!」と返事がくるので、ありがたいなと思っています。」

 

--良いメンバーを持ちましたね。重複する部分があるかもしれませんが、ファン・サポーターの皆様へ、改めてメッセージがあれば、お願い致します。

田口「ここまでもお伝えさせていただきましたが、難しいことは考えずに、直感で楽しんでいただければと思っています。「前回とこんなところが変わっているな。築城されているな」と発見していただいたり、次の試合ではどこが変わっているか、ワクワクしながら次の試合を待ってほしいです。実はご来城いただく皆様より、スタッフ自身がめちゃくちゃこのプロジェクトを楽しんでいます。「試合会場では天空の住人を演じきりましょう!」と言うほど楽しんでいるので、そういったことを含めて、ご来城いただく皆様には楽しんでほしいですね。」

 

--最後に何か言い残したことはありますか。

田口「まだまだ新型コロナウィルス感染拡大が続くと思います。

余暇を楽しむ余裕がない、スタジアムに行くのは難しい、そんな方も多くいらっしゃると思います。

そんな皆様が、そろそろ行ってもいいかな!と、思っていただけた時に、最初に「天空の城 野津田」を選んでいただけるように、そして来城してよかったと思っていただけるようになっていきたいと思います。

応援いただく皆様と足並みを揃えながら築城して、「天空の城 野津田」でお迎えできるその日まで、しっかり準備をしていきたいと思います。

そしてより高いところへ、『日本一 笑顔が溢れる』場所にしていきます。

 

それでは、皆様との次回の待ち合わせ場所は、いつもの通り「天空の城 野津田」でお会いしましょう!!」

 

●編集後記・・・

「スタッフ自身がめちゃくちゃこのプロジェクトを楽しんでいます。」

この言葉の通り、今回のプロジェクトリーダーである田口さんは「天空の城 野津田」に関する社内会議を『天空の議会』と名付け、誰よりも楽しんでいる。

フロントスタッフで二番目に古参メンバーとなる田口さんは、FC町田ゼルビアへの『想い』。

そして町田への『想い』は深く強い。

新型コロナウィルス感染拡大が続くなか、少しでも地域の皆様やファン・サポーターの皆様に楽しんでいただきたい・喜んでいただきたい!

と、いう『想い』を胸に今日も「天空の城 野津田」の築城について、頭をフル回転させる。

ぜひ、皆様も試合会場で田口を見かけたら、「天空の城 野津田」築城に関してご意見をお聞かせいただければと思います。

 

「天空の城 野津田 プロジェクト」 についてはこちら

(MACHIDiary 編集長より)