--今回はアウェイ遠征時のチームトラックの運転手を務める宮田俊さん(イーグル建創)にお話を聞きます。チームトラックの運転手になられたのはいつからですか?

宮田「2013年の6月16日アウェイでのカマタマーレ讃岐戦。それが最初だったと記憶しています。」

--JFLを戦っていたシーズンですね。きっかけを聞かせて下さい。

宮田「下川浩之社長(当時:FC町田ゼルビア社長兼イーグル建創社長)から、『どうせアウェイに行くんだから、トラックに乗らない?』と打診されました。『別に良いですよ』と返答しましたが、私がイーグル建創に入社する前はトラックに乗る仕事をしていたことを下川社長も知っていたので、打診されたようでした。」

 

--オファーが来た時の心境は?

宮田「トラックを運転するのが大変だとは思わず、アウェイゲームに行けるので、『良いんですか?』という気持ちの方が大きかったです。アウェイゲームには行っていたので、乗用車で行くのか。トラックで行くのか。その違いでしかないのかな?と、思っていました。」

 

--ちなみに毎試合どのようなスケジュールを組んでいるのですか。

宮田「チームがホテルに到着する数時間前に着くように逆算し、無理なく、自分のペースで運転できるようにスケジュールを組みます。1日の運転時間はだいたい7~8時間ほどを最長時間に設定してます。トラックを停めて、仮眠をとることもありますし、ホテルを予約して、宿泊するケースもあります。一度自分で組み立てたスケジュールをマネージャーに提案して、了承を得る形になっています。」

 

--宮田さんが乗っているトラックの荷台には何が乗っているのですか。

宮田「公式戦で使用するユニフォームや練習着。ボールや試合前のウォーミングアップなどで使用するトレーニング器具。メディカルスタッフが使用するメディカル関連の器具などいろいろなものを乗せています。だいたい2tトラックがいっぱいになるほどの物量です。」

--試合当日のスタジアム到着時間は決まっているんですか?

宮田「基本的にはキックオフの5時間前頃には到着するようにしています。ホテルからスタジアムまでは、マネージャーとトレーナーと3人で行きます。スタジアムに到着してからは荷物を降ろして、トラックからロッカールームまで荷物を運び、ロッカールームで試合に向けての準備をしています。」

 

--到着後は選手たちと接触する機会は作らないようにしているのでしょうか。

宮田「あえて接触しないようにしています。選手たちは試合に向けて集中したいでしょうし、その障害にならないようにしています。ある程度、一定の距離を取るようにしていますね。」

 

--ちなみに本業との両立はどうされていますか。

宮田「もちろん、本業に支障が出ないないように段取りはしています。ただ全体的に会社側には配慮していただき、仕事を調整していただいている部分はあると思います。」

 

--2013年からですから、今年で9年目になります。その都度アウェイ遠征がある中で、体調が悪かった日もあるのでは?

宮田「何回かあります。以前はマネージャーが隣に乗っていました。盛岡への遠征途中で熱があるなと感じた時には、運転を変わってもらい、2~3時間横で寝て復活しました(笑)。『もう運転は無理だ…』と思ったのは、過去には一度きり、その時だけですね。」

 

--辿り着けなかったらどうしよう…といった、気弱なメンタルが顔をのぞかせる時もあるのでは?

宮田「そういう不安が頭をよぎらないように、体調を崩さないようにしています。『何をしているか?』と聞かれても困りますけど(笑)。風邪を引かないように、シーズン中は緊張感を保っていると思います。代わりがいないので、シーズン中は常に気が張っていますね。」

--チームに対して、何かを背負っているような感覚はあるのでしょうか。

宮田「遠征先に向かう途中で交通違反をして捕まったり、自分が悪くて、事故で到着が遅れたりはしないように常に気をつけてはいます。そこまで背負い込んだことはないですが、Jリーグは57クラブしかない中で、荷物車の運転手をできるのは、ほんの一握り。やりたくてもできることではないので、ありがたみを感じながらやらせていただいています。」

 

--今だから話せる「やっちまった…」話はありますか?

宮田「それはあまりありませんが、行きに三重でバースト(タイヤが破裂すること)して、大阪発のフェリーの出発時間に間に合わずに、自力で長崎まで運転しました。あれは2019年の10月のこと。延着するわけにはいかないので、何としてでも現地に間に合わせる!という強い使命感をもってハンドルを握っていました。ただ行きにバーストしたのはその1回だけではなく、同じ年の9月13日、京都へ向かう途中でもバーストしています(苦笑)」

--もう覚悟を決めるわけですね。

宮田「長崎まではトータルで約20時間掛かりました。ただギリギリのスケジュールは組まないようにしているので、時間には間に合いました。トラブルがあることを見越してスケジュールを組んでいるので良かったです。ちなみに長崎からの帰り道もバーストしました(苦笑)。こんなことなかなかあり得ないことです。」

--あの長崎戦の裏側でそんなことがあったなんて…。宮田さんは肝が据わっていらっしゃるんですね。ちなみに選手とのほっこりエピソードはありますか。

宮田「(2017年3月19日)群馬のアウェイゲームがちょうど僕の誕生日だったんです。チームが勝った試合後に、谷澤達也選手が『今日誕生日でしたよね? おめでとうございます!』と声を掛けてくれたことです。その日が自分の誕生日であることをSNSにアップしていたら、見てくれていたのか声を掛けてくれました。すごく気持ちがほっこりしましたし、ありがたかったです。」

 

--この仕事が報われたなと思える瞬間はどんな時ですか。

宮田「チームが勝ってみんなの笑顔を見た時です。それが一番です。」

 

--宮田さんはサポーターでもあると聞いています。いつからゼルビアのサポーターなのですか。

宮田「サポーターになる前は、ホームゲームのスポンサー看板の設置作業をやっていました。そして気がついたらハマっていました。いつからだったのか。良く分かっていません。イーグル建創が2007年にトップパートナーになってから最初の1~2年はゼルビアに対して興味はなかったんです。試合を見ていつの間にかハマっていました。ゴール裏で応援するようになったのは2012年。本格的な応援はそれからです。」

 

--こうして次第にゼルビアの存在が生活の中で大きくなっていくわけですが、そこまで宮田さんを惹きつける理由は何ですか?

宮田「家族にはだいぶ迷惑を掛けていますが(苦笑)、勝った時の高揚感を感じると、そこから抜け出せなくなりますね。あとはみんなの笑顔。それが魅力だと思います。」

 

--これまで一番うれしかったことは?

宮田「大分まで行ってJ2昇格を決めたJ2・J3入れ替え戦(2015年12月6日)です。結果を残して万々歳で帰ってきたので、ハッキリと覚えています。」

 

--大分で昇格を決めた後、喜びはどこで噛み締めたのですか。

宮田「大阪行きのフェリーの中でフロントスタッフの方と一緒だったので、二人でささやかながら乾杯をしました。その時のお酒の味は…もう最高でしたね(笑)。普通にトラックで帰る形だったら乾杯をできないので、フェリーで良かったなと思いました。」

 

--ちなみに応援している選手はいらっしゃるのですか。

宮田「それは特に作らないようにしていますね。チーム全体を応援するようにしています。なので、ユニフォームの背番号はずっと12番です。特定の選手は買ったことがないですね。」

 

--深津康太選手がイーグル建創で働いていた頃は、宮田さんが深津選手の上司だったとか。

宮田「部署は違いますが、同じフロアで仕事をしていました。当時の深津選手は飄々としていました。最初に会った日のことを思うと、選手としても、人間としても、こんなに成長するとは思いませんでした…。まだまだ成長を続ける『深津康太、恐るべし』と思います。深津選手はいつもアウェイの遠征地で『今回もお願いしますね』と声を掛けてくれます。感謝ですよ。」

 

--深津康太選手が宮田さんのことを「めっちゃ優しい社員さんの一人です。そんな方がまさかチームトラックの運転手をやるとは思わないですよね(笑)だからこそ、アウェイの試合に負けると、宮田さんには大変申し訳ない気持ちになります。」と言っておりましたよ。

宮田「ありがたいですね。ただ、そんな事は気にしないで次の試合に向けて準備をしてほしいです!勝った時はその分を笑顔で返してくれると嬉しいですね(笑)」

--最後に宮田さんにとって、ゼルビアとは。

宮田「仕事でもあり、趣味でもありますが、楽しい生活の一部になっています。」

 

--そんなゼルビアがJ1昇格を実現した時、宮田さんはどんな感情になるのでしょうか。

宮田「正直分からないです。ただ、まだ行ったことのないスタジアムや遠征先があるので、そこに連れていってもらいたいです。行ったことがないJ1クラブのスタジアム景色を見たいですし、J1の空気感を感じたいです。」

 

●編集後記・・・

「荷物車の運転手をできるのは、ほんの一握り」

淡々と言葉を発する宮田さん。

取材中の言葉の端々から、この役割に対して責任を強く持っていることを感じました。

様々なトラブルを想定し、町田と遠征先を円滑に往復する宮田さん。

そんな宮田さんが一番笑顔を見せたのが、「J1クラブのスタジアム景色を見たい」と仰った瞬間。

アウェイゲームの際に、荷物車を見かけたら荷物車の安全を願っていただけますと幸いです。

今週末は今シーズン最初のアウェイゲーム。

宮田さんは今年も荷物車のハンドルを握り、チームと共に走り続ける。

(MACHIDiary 編集長より)