※本稿はゼルビア担当ライターの皆様に寄稿いただいております。

 

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6月27日、J2のシーズンが再開した。町田のホーム初戦は7月4日のモンテディオ山形戦となる。

当初は無観客による開催となるが、選手とサポーターがスタジアムに集える日が近づいてきている現状を喜びたい。
再開までの期間はクラブが進んできた道、乗り越えた壁を思い出す好機でもある。
今回はサポーターの皆さんが心を冷まさず「コロナ後の戦い」に備えられるような、そんな企画を用意した。
ゼルビアの番記者である郡司聡と大島和人が、2012年から毎シーズンごとに「思い出の一戦」を振り返っていく。
☆最終回
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勝ち点1で残留---。

2019シーズンの最終節を前にした順位は19位と優位な状況にあったゼルビアだが、残留争いのライバルチームも上昇気流に乗っていた。

 

 

降格圏の栃木SCは猛追で奇跡の残留も視野に入るほど復調。すぐ下の順位である鹿児島ユナイテッドFCの対戦相手は残留が決まっているアビスパ福岡だった。ましてやゼルビアの相手はJ1参入プレーオフ進出が懸かるモンテディオ山形という難敵。決して予断を許す状況ではなかった。

 

 

そんな“最終決戦”を前に、1人の男が、立ち上がろうとしていた。その男の名は、ロメロ フランク。ゼルビア加入2年目のロメロはこの年、キャリアハイを更新。最終節を前に8得点で初の二桁得点も視野に入っていた。しかし、第34節のFC琉球戦で負傷。診断結果は左ヒラメ筋肉離れで全治4週間だった。

 

残留争いを戦うチームに迷惑は掛けられない。ロメロは急ピッチで調整を進め、多少無理をして練習に復帰。ところがすぐに再発し、さすがに本人もシーズンの終わりを覚悟した。ドクターからも「来年に向けてゆっくり休んだほうがいい」とアドバイスされていた。

 

失意に暮れたロメロ。帰宅して家のドアを開け、奥さんや子どもの姿が目に入ると、フツフツと諦め切れない気持ちが湧いてきた。


「食事療法やいつも以上に体のケアをすることで早く治せるんじゃないか。できる限りのことをやってあがいてみよう」

古巣でもある山形との試合は、両親や家族も観戦予定だったという。どうしてもピッチ上で自分の勇姿を見せたい。そうした思いも、ロメロの復帰を後押ししていた。

 



こうして復帰に向けて最善を尽くしたロメロは、最終節の準備期間に戦列復帰。紅白戦もこなし、コンディションを確認してきたコーチングスタッフには「15分限定ならばいけます」と伝えていた。

 

そして試合前日、新幹線で山形に乗り込む遠征メンバーの中に、ロメロの名前が刻まれていた。

 

 


“運命”の最終節、山形戦は前半を0-0で折り返す。ところが後半開始直後、ゼルビアはセットプレーから痛恨の先制点を奪われてしまった。そして後半途中、他会場で降格圏の栃木が1点をリードしたという一報が。ピッチ上の選手たちに試合経過が伝えられることはなかったが、一時期、ゼルビアは降格圏に転落している時間帯もあった。

 

 

そんなチームの窮地に、ウォーミングアップを続けるロメロに声が掛かる。

彼はアップ中、自分に言い聞かせるように、こう心の中で念じていたという。

「自分はできる。まずは同点にして逆転するぞ!」

 

 



76分、途中出場でピッチに立ったロメロは、仲間たちを鼓舞するように、全力でボールを追いかけた。こうして「ロメロさんが入って、攻撃に勢いが出た」(土居柊太)ゼルビアは79分、平戸太貴のCKを下坂晃城がヘディングで叩き込み、同点に追いつく。

 


そして最高の瞬間が訪れる。

 

 

終了間際の89分だった。相手GK櫛引政敏がクリアしようとしたボールに猛然とロメロが突っ込んでいくと、櫛引がキックミス。そのボールを奪ったドリアン バブンスキーが中島裕希につなぎ、最後はバブンスキーのクロスをロメロが押し込んだ。

 

 

残留を決定づける決勝点。ベンチメンバーを含めた選手たちは殊勲のヒーローと喜びを共有し、NDソフトスタジアム山形に詰めかけたサポーターは歓喜の涙を流した。

 



「みんなの思いが募ったゴールです」

 



苦しみ抜いた末に、“自力残留”を勝ち取った19シーズンのフィナーレ。そのメインキャストはロメロ フランク---。復帰の努力を惜しまず、勝利のために身を粉にして戦う、まさに僕らのヒーローだった。

 

(本企画最終稿)

 

【著者プロフィール】
郡司聡:千葉県出身。編集者・ライター。サッカー新聞「エルゴラッソ」や「サッカーダイジェスト」などに寄稿。Webサイト『ゼルビアTimes』編集長も務める。ゼルビア初取材は2010年の天皇杯3回戦アルビレックス新潟戦で12年から定点観測中。