※本稿はゼルビア担当ライターの皆様に寄稿いただいております。

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J2のシーズン再開が6月27日と迫ってきた。当初は無観客による開催となるが、選手とサポーターがスタジアムに集える日が近づいてきている現状を喜びたい。
中断期間はクラブが進んできた道、乗り越えた壁を思い出す好機でもある。
今回はサポーターの皆さんが心を冷まさず「コロナ後の戦い」に備えられるような、そんな企画を用意した。
ゼルビアの番記者である郡司聡と大島和人が、2012年から毎シーズンごとに「思い出の一戦」を振り返っていく。

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FC町田ゼルビアは2016年、4シーズンぶりにJ2へ戻った。相馬直樹監督の指揮が3季連続となり、チームの方向性は固まっていた。15年は天皇杯では名古屋グランパスやアビスパ福岡を退けてベスト16入りも果たしている。「やるかもしれない」という期待感は高かった。

 



中島裕希、谷澤達也の獲得も心強かった。経営規模も小さかった当時だから、クラブとしてかなり思い切った投資だったに違いない。2人はJ1経験も含め、隆々たるキャリアを持つバリバリの中堅選手。他の在籍選手とは格が違った。監督のスタイルにフィットさえできれば、大きな戦力になりそうだった。

 

 



一方で12年の降格は辛い記憶として残っており、J2のレベルも明らかに上がっていた。それにチームスポーツはどんな「いい戦い」をしていても、結果が出なければ選手は自信を失い、全体の歯車が狂っていくもの。シーズン開幕を迎えて筆者は期待と不安が相半ばしていた。

 



16年の町田は第1節と第2節をホーム野津田で戦った。開幕戦の相手はセレッソ大阪で、「セレ女」の襲来もあり来場者が1万人を超えた。ゼルビアは善戦し、シュート数も16対7と上回りながら0-1で惜敗している。内容、盛り上がりはポジティブでも負けは負け。我々は何も得ていなかった。



第2節・京都サンガF.C.戦も町田は「いい試合」を見せ、前半から押し気味に進める。対する京都はMFエスクデロ競飛王がゼルビアのプレスを苦にせずボールを動かし、後半に入って盛り返していた。71分には町田のセットプレーから、京都がカウンターを繰り出してついに先制。開幕戦と同じような展開で、スタジアムは重い空気に包まれた。

 



しかし終了間際の93分、起死回生のゴールが生まれる。後半途中から起用されていた重松健太郎が左サイドからクロスを送ると、背番号30がフリーだった。直前の駆け引きでマークを外していた中島は、絶妙のタイミングでファーサイドに飛び込み、ヘディングシュートを押し込んだ。



試合後の中島はこう語っていた。

「焦らないで平常心で、最後まで落ち着いてやろうと考えながらやっていた。トシ(戸島章)が入って、長いボールも増えることが分かっていた。そのこぼれ球をチームのみんなが狙って、押し込んでいこうという意識だった。(重松)健太郎が見ていてくれて、いいボールが来た。僕は入ると思ってなかったんですけれど、とにかく当てて枠に飛ばそうと思っていた。本当に決まって良かった。シーズンが終わってこの勝ち点1が大きかったとなればいい。前節もあれだけ攻める時間が長かったし、やれる手応えはあったので、いつかは取れるだろうと思っていた。勝ち点3ではなかったですけど、『1』をしっかり取ることができた。自分も点が取れたので、この後勢いに乗って行けると思う」

 



「シーズンが終わってこの勝ち点1が大きかったとなればいい」という彼の願いは実現した。町田は第3節・レノファ山口FC戦から5連勝を飾り、首位に浮上する快進撃を見せる。最終的には昇格クラブとして上々の7位でシーズンを終えた。あとになって思えば京都戦の引き分け、そして中島の同点弾には値千金の価値があった。

当時30歳だった中島も、ゼルビアにとって欠かせない存在となっていく。16年はキャリアハイの14得点を決め、そこから3シーズン連続の二桁得点を記録。ハードワーカーで、とにかくタフで欠場が少ない選手でもある。5シーズン目の今季にいたるまで、守備も含めた万能性、周りを活かすフリーランニングやチャンスメイクも含めて「数字以上」の貢献を見せ続けてくれている。

クラブは18年にサイバーエージェントという新たなオーナーを迎え、J2よりひとつ上のステージを目指そうとしている。16年にまずJ2に足場を作ったからこそ、今の町田がある。京都戦は、大きな転換点だった。


▽筆者:大島和人
1976年11月生まれ。「球技ライター」を名乗り、サッカーはもちろんバスケットボールや野球の取材・執筆も行っている。最初に見たゼルビアの試合は2010年6月の横河武蔵野FC戦。2012年からJ’s GOALのゼルビア担当となり、同年5月に町田市へ転居。