7・決勝戦
いよいよ決勝戦が始まる。
このチームでの最後の試合だ。
そう考えると少しさみしい気持ちがした。
全員が円陣を組む「あとひとつ、思いっ切りやろう!」
「ABCD-!」「ジーデックス!」「オンライン・ゲーム・ストアー!」
この試合を頂点としてメンバーの心がどんどんひとつになってきた。
最後は勝ちたい気持ちが強いものが勝つ。
ケッツンは社長と約束を交わしていた。
「社長、勝ったら、かに道楽で祝勝会」
「かに道楽でいいの?」
「いや伊勢エビがいいな、中納言。ん?大納言か?どっちや」
「わかった優勝したら伊勢エビを食べよう」
エビでタイは釣れるのか?
試合開始のホイッスルがなる。
相手チームはもちろん男性だけのチーム。
決勝まで勝ち抜いたチームだけあって個人の技術も組織でのプレーもしっかりしている。
しかしGDEX.FCも負けてはいない。
ボールを追いパスをつなぐ。
すべてに気持ちが入った素晴らしいプレーだ。
アッコはバランスをみながら後方から声を出しボールを落ち着かせた。
マリは思い切って前へと走りフォアサイドからゴールを狙う。
アヤヤは最後まで華麗なステップでシュートを放つ。
エツは体力の限り感動的なぐらい縦横無尽に走り回りゴール前のパスに滑り込んだ。
トミは体を投げ出してシュートをブロックし必死で脚を伸ばしてボールを奪おうとした。
サユリちゃんはボールをキープし、時にはパス、時にはシュートと走り回った。
ケッツンは体をはってゴールを守り攻撃にも参加した。
カエデは「うちがもっとできる子やったら」と疲れ果ててもボールを追うメンバーを見て祈っていた。
メンバーはまぎれもなくギュッとまとまっている。
応援の全てのメンバーも声を出し、祈り、励ました。
サポートメンバーも心はコートのメンバーたちと一緒に戦っていた。
我々全員がギュッとまとまっていった。
ゲームはどちらもゆずらない。
相手チームももう相手が女子であるとは思ってはいない。
ただ目の前の必死でボールを追うチームに全力でぶつかってきている。
白熱した好ゲームになっている。
両チームともゴールを奪えずに前後半を終了した。
「7分間の延長戦に入ります」
もう全員が気力で戦っていた。
誰も力を抜くことなく、ただひたすらに走っている。
なぜ彼女たちはココまで必死にボールを追うことができるのだろう。
「すごい」としか言いようがない。
ベンチにいるメンバー、スタッフ、応援のメンバー、シミズ社長、全てのメンバーが肩を組み手をつないで彼女たちの戦いを見守っていた。
となりで行われていた3位決定戦を終えた選手たちも息を飲んで見つめていた。
そこにいる全ての人々の視線がこの試合に向けられていた。
そしてココまで全ての試合にフル出場していたトミの脚がついに悲鳴をあげる。
ふくらはぎだけでなく太もももケイレンし始めたようだ。
ついにトミはコートの外に出た。
そしてサユリちゃんもふくらはぎがケイレンして交代した。
ふたりとも全ての力を使い果たしたのだ。
真夏の熱い太陽の下でGDEX.FC女子のメンバーたちは必死でボールを追いかけた。
0-0で延長戦に入ったコートの中には唯一の男性フィールドプレーヤーのさゆりちゃんと精神的支柱であるチームリーダーのトミは、もういなくなっていた。
それでも彼女たちは必死でボールを追いかけ、ゴールを、勝利を、ただそれだけを目指して走っていた。
ふたりがいなくても決して引けをとっていなかった。
パワープレーに入る。
ケッツンが前に出る。
相手チームはフィールドプレーヤー4人のマークを選択する。
ケッツンがフリーでシュートを放つ。
しかし芝の深さのせいかシュートはゴールの上へと外れる。
時間がない。さらにパワープレーを続けた。
ケッツンのシュートを警戒してマークがずれる。
アヤヤへのパスそしてシュート。
アヤヤのシュートがクロスバーを叩く。
「アーッ!」悲鳴にも似た叫びが聞こえる。
そしてついに0-0のまま延長戦が終了した。
引き分けはしたが最高のゲームだった。
決勝戦はPK戦へと突入した。