このご時世なので、舞台の配信が流行っている。小劇場では、無観客ではなく、観客を入れた状態で、本番を同時配信するパターンが多い。その後もアーカイブが一定期間残るものが殆どなので、予定が合わない人や、このご時世に劇場で観劇はちょっと…、という人にも、演劇を楽しんでいただける1つの方法である。

僕自身は、これまで配信で舞台を見たことはなかった。(今年の1月に上演予定だったFavorite Banana Indiansの公演では、初めて舞台の本番の配信を行う予定だった。)それが先日、ある役者さんが出演する舞台をどうしても見たくて、でもどうしても都合がつかなかったため、初めて配信のチケットを購入した。入金が確認されると、YouTubeのURLがメールで送られてきた。そこにアクセスすると、動画が見られるというわけだ。

 

 

 

アクセスしてみて、僕は「やられた!」と思った。所謂「定点カメラ」の映像なのである。舞台全体を客席後方から引きで撮影した映像。この構図はずっと変わらない。おそらく民生用のビデオカメラかスマホ、デジタル一眼レフカメラの動画撮影機能を用いて撮影したもので、見られないほどの画質ではないが、いいともいえない。おまけに、カメラ(スマホ?)のマイクを使って集音しているため、時々音割れに近い状態があったり、こもったりして、台詞が聞き取りづらい。その映像が、何と2時間22分続くのである。申し訳ないが、僕は30分も経たないうちに集中力が切れてしまった。その後を見ようという気も起きなかった。

料金は2,500円。S席は6,500円でA席は4,500円だから、格安である。よく見たら、チラシ(画像)には配信チケットの所に「注:配信は定点カメラとなります」と書かれていた。(推しの特典動画とアーカイブ1週間見放題がついている。)これは良心的だ。この料金なら定点カメラでも仕方がないとなる。そうと分かって買うわけだから、お客様からの苦情もあまりなかっただろう。ただ、「一部に音割れがあった」という理由で、URLが途中で変更になった。そういう品質ということである。

 

 

 

僕が1月に予定していた配信は、全く違っていた。いつもDVDを撮影・製作していただく会社にお願いをして、3台のカメラで撮影した映像をその場でスイッチングして送る方式だった(原則、その時の映像がそのままDVDになる)。音は、音響卓からラインで直接入力されるものと、集音用マイクを何本か仕込んでいただいて録った音を組み合わせる。なので、台詞もクリアに聞こえる。勿論、カメラは業務用である。事前に本番を見ていただき、どんな絵作りにするかを決めていただいてから、撮影・配信・収録する。

まさに至れり尽くせりで、料金は3,000円を予定していた。(因みに、S席6,000円、A席4,000円だった。)ただし、この方法はコストが非常にかかる。1ステージ配信してウン十万なのだ。100人は買って下さらないと元は取れない。だが、実際に売れていたのは、中止が決まりチケットの発売を中止した段階までで、僅か一桁だった。公演終了後、DVDとして販売するので、そこでいくらかは取り戻せるとしても、DVDの製作費(コピー代、箱やジャケットの製作費)もかかってくるので、結局は大きな赤字になる。

 

 

 

引き1台で撮って流すだけなら、お金は全然かからない。確かに、画面をスイッチングすると、そこにいるのに映らない役者が出てくる。人の眼は、自動的にアップや引きを切り替えて舞台を見ているのだが、それを外部から強制的に行ってしまうと、本当は見たいのに見られない絵が発生する。脇で役者がどんなにいい演技・いい表情をしていても、アップで誰かを切り取った画面に映っていなければ、その演技はなかったことになる。それでいいのだろうか。

とはいえ、ずっと引きの映像を見続けるのは、やはり辛い。その根本的な原因は、映像にすると、舞台の「生感覚」、エネルギーや輝きや息遣いが、全て減衰してしまうことにある。その状態で、たとえ引きの映像のどこかに自分の眼がフォーカスしたとしても、生で見ている時のものを感じ取れなくて、弛緩してしまうのだ。ましてや、映像自体が民生機で撮影しているためにややぼけている。音も悪く、台詞を追うのに疲れてしまう。

となれば、例え別物になってしまっても、複数台のカメラで、引きと寄りを組み合わせた映像を流す方が、お客様にとって優しいといえないだろうか。そもそもカメラで撮っている時点で、それは生の舞台とは別物である。ならば、別物として見やすいように作るのが筋ではないだろうか。

 

 

 

要は、何を重視するかの問題なのだ。動画配信で舞台を見る人が少ない、つまり、ニーズがあまりないのであれば、お金をかけるのは勿体ないので、スマホやデジカメを使った定点カメラの映像を流しっぱなしにする方が、経費はずっと少なくて済む。その代わり、お客様の満足度は低くなる。安い価格だから諦めもつくが、芝居をきちんと見ようと思っている人のテンションは、間違いなく下がる。僕のように、途中で見るのをやめる人も出てくるかも知れない。

逆に、複数台の(できれば業務用の)カメラを使って、アップあり、スイッチングありの映像を流せば、お客様の満足度は上がると思うが、採算はとれない。お金を出しただけのことはあると思ってもらえるが、ペイできない。

「採算」か、「クオリティ」かの問題である。

そしてこれは、小劇場にあっては、映像配信に限らず、作品作り全体に関わってくる問題なのだ。例えば、僕のある知り合いが主催する芝居は、いつも舞台が暗い。おそらく、照明を外から持ち込まず、劇場にある照明だけで明かりを作っているのだろう。灯体の数が限られているので暗いし、面白味もない。そして、その主催者は、毎公演赤字を出さないことを目標とし、実際に達成している。つまり、採算は取れている。だが、僕にいわせれば、そこには最低限の「クオリティ」を保つ、すなわち、お客様に満足していただくものを作るという思想が、決定的に欠落している。実際、その人は自分の演劇公演を「趣味だ」と言い切る。趣味とは、自分が満足すればいい世界だ。そんなものをお金を払って見させられるお客こそ、いい面の皮である。

 

 

 

「小劇場とはそんな世界」と多くの人が思っている。(もしかしたら、小劇場の作り手の中にも、くだんの人物のようにそう思っている人がいるかも知れない。)だが、それでいいのだろうか。小劇場であることを理由に、採算を重視するあまりクオリティを諦めてしまうのは、お客様に対しての誠実さに欠けていないか。これは、前から何回も書いてきたことである。

確かに、きちんとした絵を配信できるようにするのは、採算を度外視したやり方であり、自分で自分の首を絞めるようなものだ。でも、やはり僕はクオリティにこだわりたい。もしクオリティが保てないならば、配信自体をやめるだろう。配信という形のないものでも、売り物には違いないのだ。

「小劇場だから、こんなもんで勘弁して下さい」

と言わんばかりの作品の提供の仕方は、小劇場全体の評価を下げ、客離れを招き、結局は自分達の首を絞める。

とはいえ、実際にお金がなければ、採算を重視せざるを得ず、クオリティは保てない。このジレンマをどう乗り切っていくかが大問題なのだ。

もっとみんなで知恵を出し合い、クオリティと採算を両立するあり方を探っていかないと、小劇場はさらにじり貧になるだろう。

 

 

 

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(写真 松永幸香)

 

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