雨の日は何だか家にじっとしていたくなくて出かけることが多かった。別に当てもなく電車に乗ってちょっと離れた駅で降りて知らない街を歩く。ただそれだけで気分も変わる。そう、雨の日は気が滅入り勝ちだから家にじっとしていたくない。ある雨の日は買ったばかりの紺色のコートを着て上野まで出かけた。ざんざん降りというよりはジャンジャン降りと言った方がいいような降り方で雨宿りの必要があった。朝、まだ早い時間。まもなく開館するだろう。窓口でチケットを買い足早に中に入る。そこは博物館。守衛が観ていた。そんな人は珍しいのだろう。平日の悪天候のなかこれといって、イベントもしてないのに、急足で…?だから後からついてくるのがわかった。なにかやらかすのではないかと思ったのだろうか?不審者に見えたのかも知れない。が、私はあるケースの前に立って見ていただけ。 それは子供の頃から展示してあるミイラで、初めて見た時は感慨深く見入ったものだったが、幼かったから衝撃もあったのだろう。まだ本物の死体を見たことがなかったし、ミイラというのは包帯でぐるぐるまきにされたと思い込んでいたのに、枯れた木のようであったから。そこにわずかな髪の毛とぽっかり開いた穴は眼球があったところ。大人になって見に来たことはなかった。今でもあの小さな体のミイラはあそこにあるのだろうな。守衛はいつのまにかいなくなっていた。