結論からお伝えします。

当院では、静脈麻酔による豊胸手術を、全身麻酔と同等レベルの安全性と精度で行っています。

静脈麻酔そのものが危険なのではありません。

モニタリング機器を十分に備えているか、静脈麻酔に関する専門的な経験が豊富か、そして緊急時に即座に対応できる体制が整っているか。

重要なのは、その点です。

豊胸手術も静脈麻酔で十分に行うことができます。

結局のところ、「誰が、どのように行うか」の問題に近いと言えます。

静脈麻酔に罪はありません。

静脈麻酔を正しく理解していないこと、あるいは適切に扱えないことが問題になるだけです。

 

 

① プロポフォールを使用した静脈麻酔

静脈麻酔では、プロポフォールという薬剤を使用します。

プロポフォールは、本来、静脈麻酔を導入し、その状態を維持するために使われる薬です。

人は自発呼吸を保ったまま、自然に眠りにつく状態になります。

眠ることが苦手な人の中には、このプロポフォールを乱用し、「ミルク注射」や「睡眠注射」と呼ばれることがあります。

本来の麻酔目的ではなく別の目的で使用されるケースもありますが、それだけ適切に使用された静脈麻酔は、自然で心地よく眠り、目覚められる麻酔だということでもあります。

ひと眠りして目を覚ますと、手術は終わっています。

 

 

② プロポフォールは半減期が非常に短い

 

このプロポフォールという薬は、半減期が非常に短いという特徴があります。

半減期とは、体内に投与された薬剤の血中濃度が半分になるまでにかかる時間のことです。

プロポフォールは、この半減期が数分と非常に短く、投与を中止すると数分で血中濃度は半分以下まで低下します。

さらに数分経てば、その半分以下にまで減少します。

つまり、投与を止めれば自然に静脈麻酔から目覚める薬ということです。

プロポフォールは半減期が短いため、投与を中止すると自然に静脈麻酔から覚醒します。

 

 

③ プロポフォールは肝臓で代謝され、腎臓から排泄される

 

プロポフォールは肝臓で代謝され、その後、腎臓から体外へ排泄されます。

もし肝臓や腎臓の機能に問題があれば、半減期が長くなったり、薬剤が正常に代謝・排泄されない可能性があります。

そのため当院では、手術前の検査で薬剤の代謝や排泄に問題がないかを確認したうえで、安全に手術を行っています。

また、豊胸手術は一般的に若く健康な方が美容目的で受ける手術です。

身体機能に問題がある方や臓器機能が低下している方が受ける手術ではありません。

そのため、豊胸手術を受ける患者様が静脈麻酔で使用する薬剤を体内に排泄できなくなるリスクは、極めて低いと言えます。

さらに術前検査を行うことで、そのリスクをより確実に取り除いたうえで手術を行っています。

プロポフォールは体内で速やかに代謝され、速やかに排泄されます。

 

 

④ プロポフォールの投与方法の違い

 

プロポフォールの投与には、大きく分けて2つの段階があります。

まず麻酔導入時に行う「ボーラス投与(Bolus)」、そして麻酔の深さを維持するためにシリンジポンプで時間あたりの投与量を調整しながら持続投与する方法です。

ボーラス投与とは、プロポフォールを静脈から一度に注入する方法です。

一度に投与する量が多いほど、より早く眠ることができます。

しかしその反面、血中濃度が急激に上昇するため、自発呼吸が一時的に弱くなるリスクも高くなります。

そのため私は、多くのクリニックのように一度に投与するのではなく、本来一度で投与する量を3回に分けて、数分間隔でゆっくり投与しています。

もちろん、その分時間はかかります。

基本的には体重に合わせて薬剤量を計算していますが、患者様ごとに薬剤への感受性には個人差があります。

そのため、一人ひとりの反応やバイタルサインを確認しながら、その患者様に最適な麻酔の深さへゆっくり導いていきます。

この方法であれば時間は多少かかりますが、安全に麻酔を導入でき、薬剤濃度も細かく調整することができます。

本来1回で投与するプロポフォールを3回に分けて投与することで、急激な薬剤投与による副作用のリスクを最小限に抑えています。

 

 

⑤ 執刀医自身が麻酔の深さをリアルタイムで調整できる

 

プロポフォールによる静脈麻酔では、一度眠った後も、適切な麻酔の深さを維持することが重要です。

当院では大学病院レベルのモニタリング機器を用いて、呼吸・脈拍・血圧・酸素飽和度などのバイタルサインをリアルタイムで確認しています。

しかし、それ以上に重要なのは、患者様の自発呼吸を実際に目で確認することです。

自発呼吸を確認する最も確実な方法は、胸郭の動きを直接見ることです。

豊胸手術では、首の下から腹部までが術野として露出されています。

そのため、手術中は胸郭の動きを常に目で確認しながら手術を進めることができます。

つまり、モニターの数値だけではなく、実際の呼吸パターンそのものを見ながら麻酔を調整できるということです。

患者様が途中で覚醒することなく、かといって麻酔が深くなりすぎないよう、その場で最適な麻酔深度へ細かく調整できます。

もちろん、この方法には高度な知識だけでなく、手術経験と静脈麻酔の豊富な臨床経験が必要です。

多くの外科医は麻酔を麻酔科医に任せ、自身は手術だけに集中します。

そのため、静脈麻酔について十分な知識や経験を持たない医師も少なくありません。

また、「麻酔は麻酔科医しかできない」という固定観念を持っているケースもあります。

医療の世界は非常に保守的です。

自分が経験していないこと、十分理解していないことに対しては、「危険だから行うべきではない」と考えがちです。

しかし、全身麻酔のように気管挿管や人工呼吸管理を必要とする麻酔とは異なり、自発呼吸が維持される静脈麻酔は、十分な知識と経験があれば安全に管理することができます。

全身麻酔は麻酔科専門医が担当するべきです。

しかし静脈麻酔は、適切な設備と専門知識、そして豊富な経験があれば、安全に行うことができます。

 

 

⑥ 豊胸手術は気道(Airway)に影響する手術ではない
 

鼻の手術や輪郭形成手術、両顎手術では、術中に鼻腔や口腔内から出血し、その血液が気道へ流れ込む可能性があります。

その結果、血液が肺へ誤嚥されたり、気道が閉塞され、呼吸に重大な影響を及ぼす危険があります。

そのため、このような手術では気管挿管によって気道を確保し、全身麻酔で管理することが安全です。

一方、豊胸手術は呼吸に関わる気道とは全く関係のない部位を手術します。

術野は胸部であり、口や鼻から十分離れています。

手術操作や出血によって気道が塞がれる可能性はありません。

つまり、豊胸手術は手術そのものによって自発呼吸が妨げられることのない手術なのです。

そのため、豊胸手術を必ず全身麻酔で行わなければならない理由はありません。

当院では、初回手術・再手術を含め、数多くの豊胸手術を静脈麻酔で行ってきました。

その結果が、この安全性を証明しています。

 
⑦ 静脈麻酔には麻酔科医が必ず必要なのか?
 

答えは**「いいえ」です。**

当院の考えでは、全身麻酔とは異なり、静脈麻酔は麻酔科医が常に立ち会わなければならないものではありません。

その理由は、静脈麻酔では自発呼吸が維持されるためです。

全身麻酔では、気管挿管を行い人工呼吸器による呼吸管理が必要になります。

そのため、手術を行いながら同時に呼吸管理まで行うことは現実的ではなく、人工呼吸器の設定を適宜調整できる麻酔管理が必要になります。

一方、静脈麻酔では自発呼吸が維持されているため、手術中は患者様のバイタルサイン(呼吸・脈拍・血圧・酸素飽和度など)をリアルタイムで監視しながら、麻酔の深さを適切に調整していきます。

当院では、このような管理を徹底することで、安全に静脈麻酔を維持しています。

静脈麻酔は「麻酔科医しか行えない麻酔」ではありません。

重要なのは、静脈麻酔そのものが危険かどうかではなく、安全に管理できる知識・設備・経験があるかどうかです。

⑧ もし静脈麻酔中に無呼吸が起こったら?

プロポフォールによる静脈麻酔では、麻酔が深くなりすぎると、理論上は自発呼吸が弱くなったり、一時的に停止する可能性があります。

しかし当院では、これまで数百件以上の静脈麻酔による手術を行ってきましたが、無呼吸が発生した症例は一例もありません。

もちろん、理論上ゼロではありません。

しかし重要なのは、

**「どれだけ症例数を重ねたか」ではなく、「患者様ごとに適切な麻酔深度を維持する技術があるかどうか」**です。

術前検査によって健康状態を確認し、

適切なモニタリング機器を使用し、

豊富な知識と経験を持つ術者が麻酔を管理する。

これらがそろっていれば、静脈麻酔は非常に安全に行うことができます。

 

 

万が一、無呼吸が起こった場合の対応

 

万が一、無呼吸が起こったとしても、重要なのは迅速に対応できる体制が整っていることです。

当院では、以下の流れで対応します。

① モニターと胸郭の動きを確認し、無呼吸を直ちに認識する。

② 直ちにプロポフォールの投与を中止する。

(プロポフォールは半減期が短く、通常15分以内に作用は大きく減弱します。)

i-gel を挿入し、高濃度酸素を投与しながらバッグ換気を行います。

④ 薬剤濃度が低下すると患者様の自発呼吸が回復し、i-gelに対する咽頭反射が現れることで、自発呼吸の再開を確認します。

このように、万が一無呼吸が起こった場合でも、プロポフォールの作用が弱まるまで酸素供給を維持できれば、低酸素状態による重篤な合併症を防ぐことができます。

 

 

i-gelとは?

i-gel は、喉頭に挿入して気道を確保するための声門上気道デバイスです。

潤滑剤を塗布して挿入するだけで、迅速に気道を確保することができます。

気管挿管は時間がかかることや挿入が難しい場合がありますが、i-gelは高い成功率で短時間に気道を確保できることが大きな特徴です。

 
 
 
 
⑨ 身体への負担が少なく、回復が早い術後の患者様体験
 

静脈麻酔で手術を行う場合、気管挿管を行う必要がないため、術後の喉の痛みといった合併症がありません。

また、全身麻酔で使用される複数の薬剤によって起こることがある、

・頭痛
・吐き気
・嘔吐
・倦怠感
・一時的な血圧調整能力の低下
・術後の体調不良

などの全身的な負担も少なくなります。

基本的には「眠って、目が覚めたら手術が終わっている」という感覚です。

すっきりとした状態で手術を終えることができ、術後の回復室から退室するまでの時間も非常に短くなります。

(30分〜1時間程度で十分なケースが多いです。)

豊胸手術は、必ず全身麻酔を必要とする手術ではありません。

そのため、すべての症例で全身麻酔を選択する必要はないと考えています。

静脈麻酔は、患者様の身体への負担が少なく、回復も早いというメリットがあります。

喉の痛み、吐き気、嘔吐、頭痛、倦怠感、血圧調整機能の一時的な低下など、全身麻酔後に起こる可能性のある不快な症状を避けることができます。

これは、より快適な術後回復につながり、患者様の満足度向上にもつながります。

 

 

⑩ では、なぜ静脈麻酔に対して否定的なイメージが生まれたのか?

 

では、なぜ静脈麻酔には「危険」というイメージがついてしまったのでしょうか。

理由は、

・静脈麻酔について正しく理解されていないこと
・十分な知識や経験がない状態で行われるケースがあること
・不安や恐怖を利用した情報発信が広がりやすいこと

などが関係していると考えています。

静脈麻酔そのものが危険なのではありません。

重要なのは、

どのような設備で行うのか。

どのような知識と経験を持った医師が管理するのか。

万が一の状況にどのように対応できる体制があるのか。

という点です。

正しく理解し、適切に管理することで、静脈麻酔は患者様の身体的負担を軽減し、快適な手術体験につながる麻酔方法になります。

 

 

まとめ

 

豊胸手術における静脈麻酔は、決して「危険な麻酔」ではありません。

大切なのは、麻酔方法そのものではなく、

安全に管理できる環境、

十分な経験、

適切な判断と対応力です。

当院では、患者様一人ひとりに合わせた麻酔管理を行い、安全性と快適性の両立を目指しています。

豊胸手術を検討されている方が、麻酔に対する正しい知識を持ち、不必要な不安を抱えることなく手術を選択できることを願っています。