こどもたちには生まれて初めて会ったときから、わたしが話すことはぜんぶわかる、という前提で話しかけてきました。
そのお話は以前しましたね。
それから、こどもが質問してきたらその場で答えることも心がけてきた、ということもお伝えしました。
これらのことを、わたしは自分で考えてそうしてきた、と思ってきましたが、上のブログをそれぞれ書いてから、思い出したのです。
「こどもはまだ話せないうちからすべて理解している」という考え方にも「こどもが知りたいと思った瞬間に応えてあげることがこどもへの貢献だ」と思うようになったのも、わたしが実際に育児を始めるよりずっと前にきっかけがあったことを。
そのきっかけは、やはりこどもが作ってくれたのでした。
わたしの実家は北品川のマンションにありました。
11階建ての7階の部屋です。
わたしが大学生のときから2匹めの犬になるトイプードルを飼っていました。
「ボーイ」という名前です。
晩年には目が見えなくなって、母はいつも抱っこして散歩に連れ出していました。
エレベータに乗ると、9階に住む幼い男の子と男の赤ちゃんとおかあさんに会うことがよくありました。
こども好きの母は、彼らに会うたびに、おんぶされた赤ちゃんにもボーイを見せて挨拶をしていました。
「おはよう」
「こんにちは」
「ばいばいね」
ボーイと赤ちゃんとおにいちゃんとで会話したかのようにアフレコもしたようです。
わたしが結婚した翌年に、ボーイは死にました。
ペットロスからようやく立ち直ろうという頃、母はエレベータで9階の男の子たちとおかあさんに会ったのだそうです。
もう自分で歩けるようになっていた下の子に「おばちゃん、わんわんは」と聞かれた、といって、母はまたひとしきり泣いていました。
ボーイが生きていて彼と会っていたのは、ほんの赤ちゃんのときから1年半くらいです。
彼の脳裏には、母がボーイを抱いているイメージがしっかり残っていたのですね。
いまわんわんを抱いていないおばちゃんに「わんわんは」と聞かずいいられなかったのでしょう。
母の涙ながらの話を聞いて、赤ちゃんは話せないだけで、見たもの聞いたものを受け止め、理解もしている、とわたしは思いました。
過去にあったことと現在を照らし合わせて疑問を持ち、話せるようになればそれを言葉で表現することもできる。
9階の男の子がそれを教えてくれたのです。
わたしが母親になったのは、それから4年ほど後のことでした。
「ぜんぶわかっている」前提で息子に話ができたのは、彼のおかげです。
いまや彼も立派な大人の年齢で、おとうさんにもなっているかも知れませんね。
マンションのボーイくんのこと、覚えてくれているかな。
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