ヤマアラシのジレンマ 第1章 | 鉢野在流はライトノベルがお好き!?

鉢野在流はライトノベルがお好き!?

ライトノベルを中心に創作、批評、文章研究などを書いていこうと思ってます。物書きからの目線で物事を見定めるようシンプルに分析できれば、と。

「――あいつほんと女かよ」
 ふざけた物言いに私は視線を向ける。観客席には、緑色の学生服をだらしなく着たおちこぼれ達が頭の悪そうな顔でこちらを伺っていた。

「やっべ、こっち見てる……」
 愚にも付かない連中だ、遠くからでしか人を言い表せない。
「勝者! ジレンマ・シレジレア」
 喝采を身に受ける。悪くない気分だ。例え、校内剣術大会の優勝と言えど、勝ちは勝ちだ。負けよりはよっぽどマシだ。
 右手に持った木刀を左手に持ちかえ、礼をする。とは言っても、手合わせした相手は未だ夢の中。しかし礼を失ってはいけない。勝利に対し謙虚であること、負けぬ為に。

「確かに強いよなぁ、レガリア学園でも一番だろ」
「白鳳騎士団最有力候補って噂だしな」
「ええ! あの英雄サジタリウスがいる?」
 無駄なおしゃべりで時間を割けるとは良い身分だ。 
 私は一つ息を吐き出し、観客席全体に目を向ける。
 様々な表情がある。賞賛、卑屈、嫉妬、そして……幼い笑顔。
 
 またか。
 
 つと視線を逸らす。厄介な奴に好かれているものだ。
 ……好かれている? 私が? 
 自分の言葉に苦笑を漏らす。誰が私などを……

「……でもさぁ、ジレンマってシレジレアの一族じゃん? 白鳳騎士団なんかに……」
「シレジレアがなんだ?」
 私の声に闘技場内は静まりかえった。

「――今、発言した奴、手を挙げろ」
 と言っても、誰も手を挙げる奴はいない。責任感など無く、ただ言葉を垂れ流すことしか出来ない連中なのだ。
 私は、そうじゃない。私は連中とは違う。
 
 それを証明するため声の主の方へ脚を向ける。教師が私に向かって声をかけようとするが、眼差しだけで追い払う。ただの教科書朗読屋に興味はない。
 歩みを止める。見上げると壁だ。五メートルはあるか。コロッセウム状にできた闘技場は観客席の安全を考慮している。
 
 だが、私には関係無い。
 
 跳躍をし観客席へと降り立つ。
 同じ場に立つと人々の顔がよく見える。そうだ、その瞳の色だ。冷たく灰色の眼、恐怖が彩り瞳の中で私の像と交じり合っている。
 灰色の世界にオールバックの銀髪、白目の多い瞳、筋が通った鼻、真一文字にひかれた唇、私自身が見えるガラス玉。

「……す、すんません、お、おれ、そういう意味じゃなく」
 知能指数の低そうな男子学生が唇をひん曲げ謝罪を繰り返す。
「――これを持て」
 木刀の柄を男子学生に向ける。しかし、男子学生は必死に茶色の髪を揺らしながら頭を横に振るう。男子学生の足下へ木刀を落とす。
 
 私は両手を前に出し構え、威を放つ。
 腐っても騎士団所属のレガリアだ。
「貴様も騎士の端くれだろう?」
 私の威を理解したのか、男子学生は震える手で木刀を拾う。今にも倒れそうなほど真っ青な顔だ。そして瞳にはある種の色を浮かべている。
 
 いい色だ、お前は私が嫌いみたいだな。
 だから、分かりやすく――傷つけられる。

「うぁぁぁぁ」
 交じり合った負の感情に背を押されるように、男子学生は私へと上段からの木刀を振り下ろす。
 感情に身を任す一撃は今までの鍛錬を無駄にさせる。だが、もともとそれほど鍛錬してきた筋ではないなと、皮一枚でかわし、カウンターで鼻っ柱を殴りつけた。
 
 男子学生は傍にいた仲間へとふっ飛び、無様に崩れ落ちた。
「文句がある奴は前に出ろ! いつでも相手してやるぞ!」
 闘技場に声が反響する。他に音はない。
 きびすを返し出口へと向けると誰かが言った。

「……ヤマアラシ……ヤマアラシのジレンマ」
 背に降り注ぐ視線に私は強固な鎧を羽織る。無数の針。守るだけでなく、攻めることもできる鎧。
 私は口角を上げる。そうだ、私には誰も触れられない。私には誰も、手を出せないのだ。
 
 だが、その鎧を貫く視線に振り返る。
 群衆の中、金色のポニーテール。同い年とは思えない幼い顔。エミル・フランソワーズ。
 エミール、何故貴様はそんな眼をしているのか?