「年の瀬ですね、一年というのは本当に経つのが早いですね」

 と先生が言われた。
 「来月は、もう新年ですよ、年が明けたら初釜ですが、また嶋台のお茶碗やブリブリ香合を用意しなくてはなりません。本当にお茶の先生というのは、忙しいです」
 と先生が笑われた。
 
 「そこで、お出合いを二年生の方たちに、して頂くのですが、そのブリブリ香合の扱いとして、客向きに回したり、亭主向きに回したりするには、”角回し”という回し方をします」
 と先生が言われた。
 「角回しというのは、読んで字の如く四角い物を回すときの回し方を言いましてね、それに対して、丸い物を回すときは、丸回しでまわします。
 これって、生活の上でもお盆だったり、パンフレットだったり使える場がありますよ。
 では、まず見て下さい」
 と言われて、角盆を持たれた。
 
 「”角回し”は、左右の辺の真ん中を持って、胸前に持ち上げて、右手を上の角まで上げて、左手は逆に下の角まで下ろして、右廻しで90度回して、改めて下になった右手を右上の角まで上げて、上になった左手を左下の角まで下ろして、さらに90度右回し、合わせて180度回って逆向きになりましたね。
 それで、右手を右辺の真ん中に上げて、次に左手を左辺の真ん中まで下げて、左右をしっかり持って、畳の上に出します。
 せっかくですから、最後は少しゆっくりと右、左として下さい。パッパとしてしまうと粗雑に見えますよ、それは畳の上に置くときも同じ」
 と一つ一つゆっくり丁寧に見せてくれた。
 「やってみて下さい」
 と先生が角盆の代わりに、縁取りをきれいにした四角い段ボール板を皆に配られた。
 先生がされるのを追うように何度も回しているうちに段々と様になってきて、美雨は、段々と自分の手をキレイというより、美しいんじゃなくて?という気分になってきた。
 他の人たちもそんな気分になっていたのか、
 「それじゃぁ、丸回しに移りましょうか、板を戻して下さい」
 という先生の声に板を戻し、手ぶらになったところで、一様に、こっそり手を返したりして目を手にやっていた。
 
 「そうしたら、次は丸回しです」
 という先生の声に、悦に入っていた美雨たちは、顔を上げた。続けて先生が、 
 「これは丸台とも貴人台とも言いますが、その昔お殿様にお茶を出したとき、これにお茶碗を乗せて出したんですよ。
 そのお点前は、在学中にお教えするのは出来ないのですけれど、回し方だけね」
 と言われた。
 そのとき、美雨は教えられないのは、時間の問題かな?と思ったのだけれど、後日教えていただいたところ、そうではなかった。
 
 「見ててください、左右直径真横になるように持ち上げて、右手を90度真下に下ろして持ち替え、左手を90度真上に上げて持ち替えて、今度は左廻しに90度回して、
改めて、手が左右真横になったでしょう、同じようにしてもう一度90度左廻しに回して、畳の上に出します。
 角回しと丸回しでは、回す方向が反対になります」
 と先生が言われた。
 それから、またキレイに縁取りがされた今度は丸型に切られた段ボール板が配られ、先生に合わせて、クルクルと美雨たちは練習をした。