真視は、汗っかきだ。

 今年の夏は特に暑くて、Tシャツでは間に合わないから、真視の背中にはタオルを入れている。
 二足歩行を始めて三か月、まだ背丈の低い真視の背中Tシャツの外側にタオルの余った部分が出ている。
 歩き方は、日に日に上手になったが、まだ脚は伸びきらず若干、頭を前かがみにして歩いている。
 
 美雨が、洗濯やら何やらで部屋を歩く前をサァーと真視が横切っていくのだが、なんだか妙な気がする。
 歩き始めたころは、両手を万歳にしてバランスを取っていたのが、最近では腕を降ろして歩けるようにはなっているのだけれど、やっぱり何か妙。
 これは面白いかも、と写真に収めてみて気が付いた。
 
 万歳の姿で歩く姿は、マントのようになったタオルも手伝って、まさに”エリマキトカゲ”のようで、今の腕を若干前寄りに降ろし、猪の首気味に歩く姿は”スイカ泥棒”のようなのだ。
 
 「まるで、動くおもちゃね」
 依音のときにも、この年齢の頃そう言っていた気がする。
 
 しかし、そんなのんきなことを思ったのもつかの間、
 ”ダーン”と大きな音がした。
 ”何?!なに?!”
 と思って、音の方へ行くと、窓際にバツの悪そうな顔をした真視が立っていた。
 ”あっ”と思って、窓の下を覗いてみると、下の部屋のヒサシの上に、まな板が乗っていた。
 先輩ママから、まな板を日光消毒するといいよ。とアドバイスされ毎日続けていたのだった。窓に付けられた柵に立てかけていたのだが、隙間から落としてしまったらしい。
 ”どうしよう”
 ここは、三階の部屋だ。
 思案しながら裏庭を見ると、お日様の光だけが明るくはねかえり、誰の姿もなく静まり返っている。
 やるしかない。
 美雨は、掃除機の柄を持ってきて、さらに下へとまな板を落とした。
 「本当に、真視。下に人がいて当たったりしたら、けがするでしょう。もう二度とさわらないでね」
 と美雨が強く言うと、一緒に下を覗きこんでいた真視は顔を美雨に向け、神妙な顔をして、
 「うっ」
 と言った。
 
 美雨は、真視を連れて、庭までまな板を拾いに行くため、きびすを返して窓際を離れたが、きびすを返すときに目の端に何か違和感があったが、気にも留めず庭に降りてきた。
 そして、まな板を拾って、本当に事故につながらなくて良かったと思いながら上を見上げたとき、アレ?っと思った。
 アレっと思いながら、指で一階、二階、と窓を数えた。再び数えてみた。
 二階のベランダの柵に見覚えのある布団が掛かっている。
 ”えっ?!”
 ともう一度、階数を数えた。そして、自宅のベランダを見た。
 ”無い!!”
 今朝干した、真視の布団がなかった。
 建物の足元を見ると、落ちた布団ばさみが見えた。
 ”ウソ?!あれ、真視の布団だわ。二階のベランダに掛かっているのは、真視の布団だわ”
 干していた布団が、どうなったのか下の階のベランダに移動していた。
 どうなっているの?と思いながら、部屋へ戻る途中に下のお宅に寄り、ひとしきり笑った。風が二度タイミングよく吹いたのだろうか。
 ”まったく、これを「布団がふっ飛んだ」っていうのね”と思いながら、前を歩く真視に
 「早く、上がって。ママ腕が重いんですけれど~」
 嘆きの一言を発した。
 
 真視といい風といい、要らぬことをしてくれる、この暑い中。恨めしい美雨だった。
 
 
 
 参考短歌
 「用事する 親を尻目に 我先に 足元ちょろちょろ エリマキトカゲ」 自作
 
 布団が下の階に移動したのは、私の実体験です。当時はもっと上階に住んでいたので本当に、風のイタズラだったのでしょうね。