幸一と静香は、部屋でのんびりしていた。
2人ともダブルのソファの、いつもの場所に座り、コーヒーを飲んでいる。

『幸一さん、自然と管理って矛盾してるよね。』

突然、前触れもなしに静香が語りだした。
リサイクルの勉強で気になったみたいだ。

『確かに、自然を管理したら自然じゃないだろ!って突っ込みたくなるなぁ。
自然環境の管理の場合、環境を管理するから、自然は無くなるね。
一緒に言うと卑怯な言葉だな。』

幸一がそう答えると、静香が笑い出した。

『ふふふ、じゃあ、自然を守ろう。って事は、管理しちゃ駄目って事なのかな?』
静香が考え込みながら聞いてきた。

『ん~、その場合、自然の言葉の意味の問題になってくるかな?
人工か自然かって事だね。つまりは、人工じゃない物を守ろうって事だ。』
僕は説明した。

『凄い、幸一さん。私でも理解できたよ。でも、日本語って、ややこしいよね。』
静香が尊敬のまなざしでこちらを見てる。

実にいい気分だ。

『でも、守るために、自然のものに手を加えすぎると人工になる。
その人工になるまでの過程を、どこまで自然として見るかによって、
自然管理って言葉が、矛盾かどうかが変わってくるね。
管理されたものが、全て、人工のものとしてみた場合には、矛盾するって事になるね。』
つい、からかいたくなったので、早口で言ってみた。

『ふふふ、幸一さん早口言葉みたい・・・。アナウンサーでも舌かみそうだよ。』
静香は笑っている。

『静香も、リサイクルショップをやるなら、コレくらい早口で、本当の事を言わずに、
嘘を言わずに、物を売る技をマスターしないとなぁ。』
僕は、薄く笑いを浮かべながら言った。

『なんだか詐欺師っぽいよ幸一さん。そんな怪しいお店開かないよ~。
でもきっと、、幸一さんと一緒にお店開けたら安心だね。』
静香は微笑んだ。
壁|ー゜)コッソリ naturalの後に見ないと意味解らないかも…。


幸一は、散歩に出かけた。
理由はない、何気ない足取りで、いつものコンビニへ向かっている。
途中、まがまがしい気配を感じ、そちらを見ると、恐ろしい姿の真っ黒で毛むくじゃらで小型トラックくらいの大きさの化け物が居た。その化け物は、『グルルルル・・・』と威嚇するような唸り声をあげた。

恐ろしかった。だが、何故か悲しい気持ちになった。
敵意がないことを示しつつ、逃げるように振り向きもせず全力で走って、
コンビニまで駆け込んだ。

頭を振って、冷静さを取り戻し、先ほどの化け物の事を忘れようとしていた。
そして、いつものように、適当な雑誌を立ち読みし、カップラーメンと、缶コーヒーと、ポテトチップを買おうとして、ペットフードコーナーで、何故か、手で開けれるタイプの猫餌の缶詰を購入した。

そして、来た道を戻り、そのまま帰宅する。

その途中、背後から凄いスピードで、車が追い抜いていった。
ちょっとふらついて歩いていたら、ぶつかってたかもしれない。
苛立ちを抑えながら、先へ進むと、先ほど追い抜いていった車が停まっていた。
車の中には、人影は無く、血の跡だけが残っていた。

先ほど恐ろしい化け物が居た場所だ。
わずか15分の出来事だ。

驚きと恐怖で、震えながら車を眺めていると、『ニャー』と言う鳴き声が聞こえたので、自分の足元を見てみると子猫が擦り寄っていた。先ほどコンビニで、猫缶を買った事を思い出し、慌てて缶を開けて、子猫の前に置いてやると、子猫は、がっつくように食べ始めていた。

あの化け物は何処にもいなかった。

化け物のことを考えて歩いていたら、気がつくと、家の前まで来ていた。
『幸一さん、おかえりなさい。』静香が微笑みながらこちらに声をかけてくる。
幸一の様子がおかしいと思ったのか、『何かあったの?』と静香が語りかけてきた。

『いや、別にたいしたことは無かったよ。ただいま静香。』
それを聞くと、『ふふふ』と笑いながら、お湯の入ったポットを持って
ダブルのソファのいつもの場所に座りコーヒーを2人分作り始める。
自分も、その左側のいつもの場所に座る。

『コンビニに行く途中、可愛らしい子猫が居たので、エサをあげてきたよ。』

幸一が語りかけると、静香は・・・

『子猫は死んだんだよ。』と悲しそうにつぶやいた。
幸一と静香は、2人でテレビを見ていた。その時、こんなニュースをやっていた。

野生のサルが人間を襲っていて、そのサルを捕まえた。と言うニュースだ。

『あのお猿さん捕まったんだね。』

静香が何気なくつぶやいた。

連日の大雨で、住む場所と餌場を失い、食料を求めて人里に下りてきたサル・・・。
不安で一杯だっただろう。人を襲ったと言っているが、
襲われない為に何をしたのだろう?

近くにサルが居る。大雨で餌に困って人里に下りてきたのかな?
人間を怖がってないかな?餌を置いといてあげたら食べるかな?
なんて考えた人間は恐らく居ないのだろう。
散々、追い回されて、必死で逃げる姿が目に浮かぶ。

挙句に、麻酔銃3発も撃ち込まれて捕獲されたらしい。

襲われたのではなく、怯えてるサルを追い掛け回して、抵抗を受けただけだろう。
襲われた人間からしてみれば、追い掛け回した人間の変わりに
抵抗を受けたって事だ。

『一匹じゃ人間には勝てないよな。可哀想に、仲間と離れ離れにされて・・・
大体が、人間の環境破壊が原因で、今までありえないような、
連日の大雨が起きたんだ!
数少ない住処で、人に遭わないように生活していて・そこを失ったら・・。
自分がサルでも人里に下りて、みんなの食べ物と新しい住処を探すところだ。』

考えてるだけのつもりで、途中から思わず、声に出していた。

『そうだよね。お猿さんだって怖かったんだよね。
幸一さん、もし何かの事情で、幸一さんと私がこのアパートに住めなくなっても、
私を置いて、危険な場所に一人で行ったら嫌だよ。』

静香が涙をこらえるような表情でこちらを見てる。

『そんな事ならないから大丈夫だよ。変な事言ってごめんな静香。』
そう言いながら、静香の頭を撫でてやる。

しつこく、こんなニュースやってるのが悪い。
そう思いながら別のニュースチャャンネルに変えた。
そこにはプールが映されていた。
異常気象の暑さでにぎわうプールに、アライグマが侵入したらしい。

また、嫌な予感がするニュースだ。そう思いつつも気になったので
最後まで見る事にした。

自分が解釈した内容では、プールに入りたいがお金を持っていないアライグマが、
せめてプールの敷地横の木の上で涼んでいようとしていたところを、
網で追い掛け回され、5人がかりで網を使って押さえつけられ捕獲されたらしい。

静香を悲しませたくなかったので、何も言わないことにした。

すると静香が
『猫とサルとアライグマが組んだら人間に勝てるかな?』
と、幸一が思っていた事を、代わりに呟いていた。