リックはメルヴィル様に呼び出され対談していた。その内容は、色々な事が一度に起こりすぎて、頭が混乱してしまいそうだった。

西の町で、カストール様がバルザックに殺され部隊が全滅。リリーが見た幻覚は真実だったのだ。そして、港町オーウェンで、クレア王女とサキが船に乗っているところを発見。そして、西の町でアッシュがバルザックと一緒に居て、バルザックの味方をしていた。

何がなにやら解らない。と言うのが正直な感想だった。とりあえず、リリーの先読みの力は、古の魔女に首飾りを貰ってからは、収まっていた。そして、西の町の死者の件は、今更、起こってしまった事を考えても仕方がない。

次に、港町オーウェンのサキの件だ。俺もアッシュもサッズに向かうものだとばかり思っていたのだが、港町オーウェンで、船に乗っていたという事だ。クレア様の他に、護衛らしき女性が一人居たらしい。

そして、それを追っていたはずのアッシュが、西の町で、バルザックの味方をしていた。これに関しては、さっぱり訳がわからなかった。サッズに向かってから、港町オーウェンに向かおうとして、西の町によって、、バルザックの味方をしたという事なのだろうか?しかし、カストール様の部隊を全滅させた、狂剣のバルザックに味方をしたと言うのが解らない。アッシュは感情優先で、曲がった事が大嫌いな性格だが、サーシャも一緒に居て、悪人の味方をするなら、何か理由があるはずだ。

俺は、その件に関して詳しく聞く事にした。
『アッシュが、狂剣のバルザックの味方と言うのはどういう事でしょう?アイツは曲がった事は許さない性格です。その時の状況、詳しく解りませんか?メルヴィル様』

『カストール様の部隊が全滅した際、スラムの生き残りは狂剣のバルザックと瞬殺のオルガの2人だけだった。そこへ、カストール様の部下だった、バランとアリオスが、少数の兵を連れ、仇討ちに向かったんだ。そこで、アッシュと女剣士が狂剣のバルザックと居たらしい。オルガらしき姿は無かったそうだ。そして、バランとアリオスに向かって『バルザックは、自分が生きるための殺人しかしない。とメルヴィル様に伝えてくれ俺の名はアッシュだ。名前を言えばメルヴィル様は会ってくれる』って言ったそうなのだよ。

それを聞いて、リックは解った気がした。少数の兵士を連れて仇討ちは良いのだが、一人の相手に大勢で襲い掛かったのだろう。アッシュはそういった事を最も嫌うやつだ。

『メルヴィル様、恐らくアッシュは、バルザック一人を相手に、大勢で襲い掛かる兵士が許せなかったのだと思います。バルザックは倒さねばならない相手なのでしょうか?もしそうなら、俺が一人で倒しに行きます』

『まて、リック。アッシュの報告だと、自分が生きるために必要な殺人しかしない。と言っていたんだ。つまり、襲って来なければ殺さないと言いたいのだろう。スラムの平定からして私は気に入らなかったのだ。西のカストールには、何か考えがあったのだろうが、軍隊を使ってスラム住人を滅ぼすって事だからな。それに今の西側を治めるのはリリカだ。彼女が動くのならともかく、我々の出る幕ではない。お前個人が、アッシュが気になるのなら、港町オーウェンに居るリリカにあって話をするか、スラムに向かって、アッシュと直接話して事情を詳しく聞くかするべきだろう。』

ルブロは悩んでいた。
ヘレネ様は一体どうしてしまったのだろう。リリカ様には言わないと約束してくれたが、結局あの後は、ごめんなさいと繰り返すだけでずっと泣いていた。カストール様の事を思い出して悲しかったのだろうか?敵を討とうと思えない自分が悲しかったのだろうか?

くっ、父親が殺されて悲しんでる彼女に、なんで、面と向かってバルザックの話をしてしまったのだろう。守るどころか泣かせてしまうなんて。私は何て馬鹿なのだろう。彼女が泣きながら去っていってから、私がそんな事をしばらく考えていたら、リリカ様の部下の3人組が話しかけてきた。

『おい、お前だよ!ルブロって言ったか?お前最近調子に乗ってないか?』凄みを利かせて言ってくる相手に対して、私は『何のことだ?』と、相手の出方を探った。すると別の男が続けた。
『突然出てきて、リリカ様にずいぶん馴れ馴れしいんじゃないか?おまけに、ヘレネ様にまでちょっかい出してるみたいじゃないか。ヘレネ様に抱きついて海に飛び込むなんて調子に乗りすぎだろう』どうやら、リリカ様とヘレネ様に好意を持ってるみたいだな。かなり歪んでいるが。

『おい、何とか言ったらどうなんだ?』

『それを聞いて、私が何を言えばいいんだ?』私がそう言うと、『ふざけやがって!』と叫び、3人組は剣を抜いて襲い掛かってきた。私は両手に剣を持ち、受けに徹していたが、3人の実力は、たいした事はなく、苦もなくかわし続けた。

『お前達は、リリカ様の部下だろう?私は仲間を殺したくない!公式な決闘ならいざ知らず、気に入らないから3人で襲い掛かるとは、恥ずかしくないのか?』

『うるせえ!死ぬのはお前一人だ!』

しばらく打ち合っていると、騒ぎを聞きつけ、人が集まってきた。リリカとヘレネも居る。
『お前達!一体何をしている!』リリカが叫ぶと3人は動きを止めた。

『こいつが、俺達3人相手でも俺には敵わないってぬかしたんです』よくも、そんな嘘が咄嗟に思いつくものだ。リリカは呆れながらも感心していた。そして、全員を見ながら言った。

『確かにそのとうりだな。お前ら3人じゃルブロには勝てないだろう。邪魔をしてすまなかった。ルブロ、殺してもよいぞ。3対1の公式な真剣勝負とみなす。手を抜く事は許さんぞ!』その言葉にその場の全員が凍りついた。

『おねえさま!3対1なんてそんな!』異議を唱えるヘレネをリリカは左手で静止させた。

すると、叫びながら2人同時に斬りかかってきた。私は左の相手の右手に斬りつけ、右の相手の出足に足払いをかけて、倒した。先程まで防戦一方だった私が反撃したので、3人組は驚いていた。『もう一度言う!公式な真剣勝負だ。どちらかが死ぬまでやれ!手を抜く事は許さん!』

その場の全員は、驚いて事の成り行きを見守る事しかできなかった。

倒れていた相手は起き上がり、右手に傷を負った相手も、剣を両手で持って私の隙をうかがっていた。そして今度は、叫びながら3人同時に襲い掛かってきた。私は、左側の相手の剣を左手の剣で滑らせながら、相手の首を切り落とし、そのまま流れるように、右側の敵の剣を受け、真ん中の相手の胸に右手の剣を突き刺した。

周りの観客は、ルブロの実力に驚いていた。一瞬で2人が殺されたのだ。残りの1人は剣を捨てて降伏した。『ルブロ!殺せ!』リリカは叫んだが、私が『出来ません』と言うと、リリカは自らの剣で、その相手を斬り捨てた。『次に私のいう事を聞かなかったら許さんぞルブロ!お前達にも言っておく、嘘つきの卑怯者は、我が隊には必要ない!今後も私に忠誠を誓えるか!』

その場に居た兵士は周りを見ながら声を合わせて言った。
『はっ!我々は、リリカ様に忠誠を誓います!』と

ヘレネは悩んでいた。
お父様の仇をとると言ったお姉さまに、真っ向から、貴方の実力じゃ勝てないと言い切ったルブロ。そのルブロを自分の護衛にするといったお姉さま。

お姉さまは私に、ルブロを何を考えてるか解らないから心を許すなと言ったけど、私にはお姉さまの方が解らなかった。相手の実力を目前で見ていたルブロはお姉さまの身を案じて、斬られても仕方の無い台詞を言ったんだ。彼の言葉に嘘はない。だけど、その斬りかけた相手を自分の護衛にし、何を考えてるか解らないから油断できないと言うお姉さまこそ、ルブロをどう思っているのだろう?そして、私はルブロを・・・

ルブロの事を詳しく知りたい。ルブロは、お姉さまの事を、そして私のことをどう思っているのだろう?頭の中を、その質問だけが駆け巡っていた。

そんな事を考えながら歩いていたせいか、気がつくと自分がルブロの後を追って歩いていた事に気がついた。あっ、私なんでこんなところを歩いてたんだろう。ふと前を見ると、ルブロが剣術の練習を始めていた。私は咄嗟に、気づかれない様に大木の後ろに隠れていた。

何の練習だろう?両手に剣を持っているのだけど、斬りつける練習と言うよりは、受け流しながら斬りつける練習なのかな?その動きをしばらく見つめていたのだが、突然、『これじゃ駄目だ!こんな物では!』そう言ってルブロは頭を抱えてうずくまって叫んだ。

私は驚いて、思わず。『ルブロ!』と叫んで駆け寄ってしまった。そしてすぐに自分が隠れて覗いていた事を思い出し、慌てて平静をよそおった。

『ルブロ、どうしたの?あの、何か悩んでる事があるなら、私でよければその・・・』

『ヘレネ様、嫌なところを見られてしまいましたね。ヘレネ様にならお話しても平気かな?リリカ様には、絶対に言わないで欲しいのですが、約束していただけますか?』それを聞いて、私は一瞬、戸惑った後に、約束できると返事をした。彼の相談にのれる事が、とても嬉しく感じたのだ。

『私は、バルザックと一騎打ちをしました。ヤツの剣は受けることが出来ません。父の形見の名剣が、一瞬で折られたんです。その剣だから生き残れたのですが・・・。他の仲間は受けようとした剣ごと体を真っ二つにされてましたから。それで、私は毎日、空いてる時間に受け流して、そのまま斬りつける練習をしてるんですよ。でも全然駄目で、かわせる姿が想像すらできない状態で、頭を抱えていた訳です。リリカ様には勝てないと言っておきながら、私が倒すための練習してるなんて、リリカ様が知ったら、今度こそ私は、斬り捨てられちゃいますから。』

『あなた、バルザックと戦うつもりなの?圧倒的な力の差を見せ付けられた相手じゃないの?お姉さまには、無理だと言ったのに、貴方は戦おうなんておかしいわ!私がサキに弓で挑むような物じゃない!どうしてなのルブロ・・・』

『ヤツと約束したからです。私を生かして帰した事を必ず後悔させてやると。私はあのときに死んだのです。今更、命は惜しくありません。ですが、リリカ様とヘレネ様は、カストール様の大事な娘です。隊長を殺されて、せめて、リリカ様とヘレネ様くらいは、私が守らなければ、私は隊長に顔向けできません』それを聞いた私は、涙を流していた。

ルブロは、私がお父様の娘だから守っていた。その事が悲しかったのだ。