ヘレネは悩んでいた。
お父様の仇をとると言ったお姉さまに、真っ向から、貴方の実力じゃ勝てないと言い切ったルブロ。そのルブロを自分の護衛にするといったお姉さま。

お姉さまは私に、ルブロを何を考えてるか解らないから心を許すなと言ったけど、私にはお姉さまの方が解らなかった。相手の実力を目前で見ていたルブロはお姉さまの身を案じて、斬られても仕方の無い台詞を言ったんだ。彼の言葉に嘘はない。だけど、その斬りかけた相手を自分の護衛にし、何を考えてるか解らないから油断できないと言うお姉さまこそ、ルブロをどう思っているのだろう?そして、私はルブロを・・・

ルブロの事を詳しく知りたい。ルブロは、お姉さまの事を、そして私のことをどう思っているのだろう?頭の中を、その質問だけが駆け巡っていた。

そんな事を考えながら歩いていたせいか、気がつくと自分がルブロの後を追って歩いていた事に気がついた。あっ、私なんでこんなところを歩いてたんだろう。ふと前を見ると、ルブロが剣術の練習を始めていた。私は咄嗟に、気づかれない様に大木の後ろに隠れていた。

何の練習だろう?両手に剣を持っているのだけど、斬りつける練習と言うよりは、受け流しながら斬りつける練習なのかな?その動きをしばらく見つめていたのだが、突然、『これじゃ駄目だ!こんな物では!』そう言ってルブロは頭を抱えてうずくまって叫んだ。

私は驚いて、思わず。『ルブロ!』と叫んで駆け寄ってしまった。そしてすぐに自分が隠れて覗いていた事を思い出し、慌てて平静をよそおった。

『ルブロ、どうしたの?あの、何か悩んでる事があるなら、私でよければその・・・』

『ヘレネ様、嫌なところを見られてしまいましたね。ヘレネ様にならお話しても平気かな?リリカ様には、絶対に言わないで欲しいのですが、約束していただけますか?』それを聞いて、私は一瞬、戸惑った後に、約束できると返事をした。彼の相談にのれる事が、とても嬉しく感じたのだ。

『私は、バルザックと一騎打ちをしました。ヤツの剣は受けることが出来ません。父の形見の名剣が、一瞬で折られたんです。その剣だから生き残れたのですが・・・。他の仲間は受けようとした剣ごと体を真っ二つにされてましたから。それで、私は毎日、空いてる時間に受け流して、そのまま斬りつける練習をしてるんですよ。でも全然駄目で、かわせる姿が想像すらできない状態で、頭を抱えていた訳です。リリカ様には勝てないと言っておきながら、私が倒すための練習してるなんて、リリカ様が知ったら、今度こそ私は、斬り捨てられちゃいますから。』

『あなた、バルザックと戦うつもりなの?圧倒的な力の差を見せ付けられた相手じゃないの?お姉さまには、無理だと言ったのに、貴方は戦おうなんておかしいわ!私がサキに弓で挑むような物じゃない!どうしてなのルブロ・・・』

『ヤツと約束したからです。私を生かして帰した事を必ず後悔させてやると。私はあのときに死んだのです。今更、命は惜しくありません。ですが、リリカ様とヘレネ様は、カストール様の大事な娘です。隊長を殺されて、せめて、リリカ様とヘレネ様くらいは、私が守らなければ、私は隊長に顔向けできません』それを聞いた私は、涙を流していた。

ルブロは、私がお父様の娘だから守っていた。その事が悲しかったのだ。