カラオケも終わりあたりも完全に暗くなり、車に戻ったが、俺はこの後の予定を全く聞いていなかった。「で、今日って、どこに泊まるの?それ次第で瞳ちゃんの予定も変わると思うんだけど」俺が聞くと、「え、決めてないけど」と当然のように佐々木が言った。この辺りには、ビジネスホテルは無い。あるのはラブホテルくらいだった。「とりあえず、そこのラブホ入ろうぜ」と何食わぬ顔で佐々木が言った。
俺は瞳ちゃんの方を見たが、別段反対する気がないように見えた。「5人でラブホテルって入れるの?ラブホって入った事無いんだけど。とりあえず俺は、シャワーさえ浴びれれば何処でもいいけど…」と俺はそこまで言って瞳ちゃんの事を考え、次の言葉が出なかった。「まぁ、行こう行こう。行ってみれば分かるって」佐々木はそう言うと、車をラブホテルの駐車場に入れた。そして5人で入口の通路を通ろうとしたら断られた。
何処かにカメラか何かがあるようで、やはり2人じゃないと駄目らしい。まぁ、普通に考えれば当然なのだが、この時に初めて知った事実だった。「で、どうするよ、もう俺はあきらめた。今日は車中泊でいいけど皆はどうなの?」俺はこのあまりにも無計画な現状にあきれ返り、正直どうでもよくなっていた。3人は「俺は泊まりたい」と言い争いになっていた。そして、別のラブホ行こうと言い出し、他に2件ほど回ったが、結果は一緒だった。
俺は正直うんざりしていた。この3人組のキーマンは佐々木だ。「とりあえず運転手の佐々木、お前は疲れてるだろうから泊まれ。そして、男2人で入る訳にはいかんだろ。瞳ちゃんしか居ないだろ。後は分かるな。残りはこの駐車場で車中泊だ。反対意見のある方ど~ぞ。俺を納得させてくれ」俺は今日一日の、この3人との出来事で相当になげやりになっていた。そして反対意見を言う人間は誰もいなかった。
そして、佐々木と瞳ちゃんは2人でラブホテルに入ったのだが、10分もしないうちに瞳ちゃんが泣きながら車のドアを叩いた。俺がドアを開けると、岩本と横山も居たのだが、俺の手をつかんで「一緒に来て」と言って、2人だけでラブホテルの駐車場の外に抜け、近くにあった公園まで走ってベンチのところで足を止めた。「ちょっとまって。そこの自販機でジュースでも買おう。落ち着いてから話そう」俺がそう言うと、瞳ちゃんは頷いた。
要約すると、佐々木が強引に迫ってきて瞳ちゃんが拒絶した。と言う訳だ。「ここまで来てやらないなんてありえないだろ!」と佐々木が言い出し、「絶対ヤダ!」と瞳ちゃんが言って車まで逃げてきたらしい。まぁ、俺が今になって冷静に考えれば、佐々木の性格だ。ただ泊まるだけで済むはずはなかったのだ。あまりにもイライラしていて、瞳ちゃんの事を考える余裕が無かったのかもしれなかった。とりあえず、俺が今するべき事は一つだ。
「瞳ちゃん、本当にゴメン」俺は彼女に頭を下げて謝った。瞳ちゃんは俺のほうを見つめて「うん、もういいよ」と言った。そして、「私はダダさんに誘われたから、ついていったんだよ。変な男の人3人と一緒でも、ダダさんと一緒だったから車に乗ったんだよ。私の歌った歌を褒めてくれて凄く嬉しかったんだよ。ダダさんの歌った歌、本当にカッコよくて、もう気持ち抑えるの必死だったんだよ。それなのに…」そう言って彼女はまた涙を流した。
俺はそのまま、瞳ちゃんの肩を抱き寄せ、寄りかからせるようにして、彼女が泣き止むまでじっとしていた。「でも、やっとこうしてダダさんと2人きりになれた」瞳ちゃんは涙をぬぐいながら、そう呟いた。俺は正直、この時には気持ちが揺らいでいた。初対面の時は俺の好みじゃなかったはずだった。一体、この気持ちは、何時からだろう。俺のカセットの曲を「いい曲だよね」と言われた辺りからなのだろうか?
彼女が「カラオケが好き」と言った時だろうか?彼女の歌った歌を魅力的に感じた時だろうか?それとも、今の告白を受けたせいだろうか?たった一日の出来事で、ここまで気持ちが揺れ動いているのが自分で信じられなかった。