リリカは部屋で一人になると、肩を落として椅子に力なく座り考え込んでいた。

お父様、私とヘレネには西を治める力がありません。お父様の部下のルブロは頑張ってくれています。彼が居るおかげで私は救われている。バランとアリオスも私の指示を待たずにバルザック討伐に向かった。兵士達には弱みは見せていないのに、女の私ではいくら頑張っても見下されてしまうのか…。私は一体どうすれば良いのでしょう。お父様、何故私を置いて逝ってしまわれたのだ。

人前では堪えていた感情が溢れてくる。『うぅ、お父様・・・』リリカは部屋の外に声が聞こえないように押し殺しながら涙を流していた。そこへドアをノックする音がした。『リリカ様、フレッド様がお越しになられました。』それを聞いたリリカは慌てて涙を拭き、平静を装った。『フレッド?南のフレッド殿か?』

その声を聞いたフレッドは、すぐに返事をした。『おぉ、リリカ様お久しゅうございます。フレッドです。お部屋の中へ入ってもよろしゅうございますか?』

それを聞いたリリカは動揺して『ちょっと待ってくれ』と返事をし、慌てて鏡を見て涙の後を消して『どうぞお入りになってくださいフレッド殿』と伝えるとリリカの部屋の中に入った。フレッドの隣にはもう一人年配の男性が居た。『そちらの男性は?』とリリカが言うとフレッドは紹介した。『彼は私の冒険者時代の親友で、かつては疾風の剣士ガザンと呼ばれた私の知る限り最強の剣士です』

フレッドがそう紹介すると慌ててガザンが説明した。『リリカ様、私はガザンと申します。先ほどの紹介ですと誤解されてしまいますので、しばらく鍛冶屋をやっておりまして昔ほどの腕前は発揮できぬかもしれませんが、その辺の剣士よりはお役に立てると思いまして、こうしてフレッドについて来たしだいでございます』そう言ってリリカに頭を下げた。

それを聞いて、フレッドは笑いながらリリカの顔を見て驚いた様子で笑いをとめた。『リリカ様、泣いておられたのか?』それを聞いたリリカは慌てて右手で顔をこすりながら、『いや、ちょっと転寝していたのだ。最近忙しくてなかなか暇が無くて』と、取り繕った。

『リリカ様、余りご無理をなされないようにな。私が来たのは他でもない。ロイド様もいくぶん体調もよくなり、南はマルスもいるので、さしたる問題も無いので色々と大変な西のほうへガザンを連れて助太刀に来たのです。カストール様の件は大変無念でございます。お父上がなくなられたばかりで休み無く働かれてる事は想像できます。弱みを見せぬよう振舞われているのでしょう?私の前では、ご無理をなされなくても平気ですぞ』

それを聞いたリリカの頬を涙が伝っていた。『フレッド殿、かたじけない。女の私が部下の前で涙を流すわけにはいかんのだ。お父様が無くなって私が治めなくてはならぬのに、私は・・・うぅ』リリカは堪えきれずに両手で涙でぬれた顔を隠していた。

『リリカ様、ワシとフレッドが居れば、バルザックだろうが海賊だろうが即座に退治いたしますぞ。リリカ様はご無理をしすぎでございます。我ら2人にお任せくだされ』

ガザンの言葉が終わったその時、また部屋の外でノックする音が聞こえた。『お姉さま、ルブロが目を覚ましましたのでお連れしました。入っても宜しいですか?』

リリカは再び涙を拭ってから、2人を部屋に入れた。
このあたりなら食べ物に困る事はないよ。クレアの口に合うかは心配だけど、すぐ先に川も流れてて果物も豊富で、動物も沢山居る。奥の方は人の気配がした。森の民は人間と干渉したがらないって聞いたから、この先は注意が必要だね。

そう言いながら、サキは手なれた様子で程よく焼けた骨付き肉をクレアに差し出した。

クレアはそれを受け取って恐る恐る口に入れた。途端に顔に笑みが広がる。
『おいしい!こんなに美味しいお肉は初めて!』

『お城で出される料理って、キツイ香辛料で味付けされてて冷めているのよ。焼きたてのお肉の皮がこんなにパリパリとした食感で美味しいなんて…』

良かった。クレアに合うかどうかだけが心配だったんだ。一応、香辛料も探してきたんだけど、この場所で宮廷料理っていうのもどうかと思ってね。そう言って、口元をほころばせながら、木の実や果実や香草を全員の前に差し出した。

それを見てリスティアが驚いていた。
凄い!こんな高価な果実や香草がこの辺にあったの?!コレなら宮廷料理を再現できますね。せっかくだから、私が使おうかな?ふふふ。そう言ってリスティアは果実を1つつぶして木の実を砕いて肉にまぶして最後にちぎった香草を振りかけた。そして、一口食べて満足するように一人頷きつつ、『クレア様、一口食べてみて』と、味つきの肉をクレアに渡した。

本当だ!お城で食べてるのと同じ味になったね。でも私は付けないほうが好きかも?

それを見ていたゼノンは、リスティアの真似をして味付けしてみた。『なるほど、こういう味になるのか。確かに口当たりが上品な感じでほのかな甘みも加わって今まで食べた事のない深みのある味になるな。王女様はこういう物を食べてたのか。しかし、こんな場所で再現できるのは凄いな』

『サキ様の愛のなせる業ですね』リスティアがクレアに向かって囁くように言ったら、クレアの顔が真っ赤になった。  

クレアはリスティアに微笑んだ後、『サキ、ありがとう。私はもう王女じゃないからサキがいつも食べてる物で平気だよ。本当に今まで食べた物の中で一番美味しかった。お城に閉じこもってたら一生食べる機会なんて無かった。サキ、私は幸せよ連れ出してくれて本当にありがとう』

クレアがそこまで言った際、ゼノンとリスティアが同時に立ち上がっていた。ゼノンはリスティアに微笑んで頷いてサキとクレアに向かって言った。

『俺とリスティアは、ちょっともう一度、食後の散歩がてらに偵察してくるよ。明日の朝まで2人はゆっくりしててくれ』そう言うと、2人はすぐに見えなくなった。

『あ、あの・・・サキ?』クレアは突然二人きりにされて戸惑ってしまった。『どうやら、2人は気を使ってくれたみたいだね。クレア、僕もクレアと一緒に来れて幸せだよ』そう言って背後から覆いかぶさるようにクレアを抱き寄せた。

『今度こそ、邪魔は入らないのね』クレアは、過去にサッズの町のサキの部屋で迎えが来て妨害された事と、先ほどの2人が偵察中に帰ってきたことを思い出しながら、すねたような表情を一瞬だけ見せてサキの瞳をじっと見つめていた。
ゼノンとリスティアの話しでは、ここから北へ向かうと魔族が治める国で近寄らない方がいいらしい。ゼノンの魔族との確執を抜きにしても、魔族は人間を嫌っていて、共存する国というのが本来異質すぎるらしい。なので、前の国の魔族と他の国の魔族は人間に対しての敵意が比べ物にならないそうだ。

そして、ここから西へ向かうと西の森と呼ばれている場所になるらしい。その森には森の民と呼ばれる人々が住んでいるらしい。森の民は、魔族も人間も嫌っているらしく、自然と共に共存する一族で火を嫌うらしく、自然を守る為と言う理由があれば徒党を組んで敵を撃退するそうだ。かつては資源を求める港町の住人や、領地を広げようと攻め入った魔族も返り討ちにされたらしい。

4人は話し合った結果、西の森を抜ける道を選ぶ事にした。
『一先ず、ここで食事休憩を取ろう。ここから先は何処に向かうにしても、トラブルに巻き込まれる可能性が高い。今のうちに体力を万全にしておかないとね。2人も偵察で疲れただろう。皆はここで待っててくれ』

サキはそう言うとすぐに行動に移った。
『私も手伝うわ』とクレアが立ち上がろうとした際にサキは『コレは俺の得意分野だ。王女様にいいところを見せるチャンスなんで、待っててくれると嬉しい』そう言ってクレアに微笑んだ。

『クレア様、ここはサキ様にまかせましょう。森の動物はかすかな物音にも敏感に反応します。残念ながら私でも、サキ様と一緒の狩りでは足を引っ張るだけでしょう。昔レクトにサッズの町の話を聞いたことがあるのですが、あの町の住人は狩りに関しては国で一番です。気配の消し方、物音への反応はもちろん、生き物の生態を知り尽くし、獲物を狙うのも得意なのですが、それよりも獲物が動く先を読む力が凄いんです。私達が下手に動いたら、邪魔になってしまいますよ』

と、リスティアの話しが終わるか終わらないかといったわずかな間に、サキはウサギのような小動物を片手に掴んで戻ってきた。『とりあえず、メインはコレでいいかな?もう少し集めてくるよ』

この早さには流石にリスティアも驚いていた。『サキ様は凄いですね。サキ様が居ればどんな場所でも生活できそうですね』そしてサキはその後、大きめな魚と、果実と植物で作った水筒、マキなどを、ものの数分で集めてきた。