俺はとある日本料理屋で社員として働いていた。店長も佐藤先輩も若くて、アットホームなお店だった。そこには、紅一点、裕実と言う女子社員が一人いた。まぁ、アルバイト女子も数名いたのだが、まぁ、その女子社員とはちょっと年齢が7歳ほど離れていたのだが、明らかに俺の事を意識してる事は分かった。「私、前に付き合ってた人ってダダさんと同い年だったよ」などと、聞いてもいないのに言ってきたりしていた。
まぁ、紅一点と書いた通り、裕実は美人だった。彼女に惚れていた佐藤先輩には「取るなよ」などと釘を刺されたりしていた。俺は俺で、その時期は別の女性を友人に紹介されたばかりだった。その紹介なのだが、男4人で女4人だったのだが、俺は誰も気に入らず、女3人が俺の事を気にいってしまうという事態になっていた。そして、俺が働いてる料理屋が、友人の口から洩れ、一時期、料理屋の人達に、「ダダのファンクラブが来てるぞ」などとからかわれたりしていた。
女の子が4人で店に押し入って、「ちょっとダダさん借りていいですか~」店長も「どうぞどうぞ、ごゆっくり~」などと言って、一緒に料理屋スタイルで店の前に立ち写真などを何枚か撮ったりしていた。とりあえず、仕事時間だったので、写真のみで解散と言う形で、「あんまり来るなよ~店に迷惑かかるから」と俺が言うと、「はいはい~、なるべく控えるね~」と女3人を仕切ってる女が返事をした。
「ふ~ん、ずいぶんモテるんだね。ダダ君って、あの4人だと誰が本命なのかな?」と多少トゲのある言い方で、裕実さんが聞いてきた。「いや、あの4人は紹介されただけで、俺は正直、興味ないんだよね。4対4の紹介で、何故か3人に気に入られちゃって、俺は全員、友達位としてしか見れないんだけどね。裕実さんの方があの4人より興味あるよ」と言ったら、裕実さんは真っ赤になった。
「それって、私は彼女として見れるって事?」と裕実さんが聞いてきたので、「う~ん、同じ職場で色々な面を見てきてる裕実さんの方が距離が近いって言えばいいのかな?裕実さん美人で年齢差気にならないし…」と、言ったところで、後ろにいた佐藤先輩の目線に気が付いた。ちょと、この会話はここではやばすぎるな。と俺は判断して、「裕実さんはあの4人に女子としての魅力で負けてないよ。さぁ、仕事しよう」と半ば強引に、話を区切った。
佐藤先輩なのだが、俺の見た限りでは裕実さんには意識されてないというか、眼中にないように見えていた。正直な話、遠慮する必要は無いかな?と感じてはいたのだが、流石に、面と向かって3人で話をするのには少し抵抗があった。仕事中は割とわきあいあいでこなしていたのだが、佐藤先輩も、俺と裕実さんに対して特に何も言ってこなくなっていた。裕実さんはというと、俺へのアプローチっぽい言葉が多かった。
年下の後輩に「ん~ダダさんみたいなのが男の鎖骨として魅力を感じるかな?」とか、「ダダさんってカッコいいのにカッコつけないところが好感度高いね」とか、その手の会話が俺の聞こえる場所で行われていたので、俺に聞かせてるのかな?と勘ぐってしまっていた。例の俺のファンクラブの件だが、俺が「もう職場に来ないようにできる?」と女子のリーダー格の人と話をしたら、納得させることができた。
そんな時に、一人暮らしの裕実さんの家に引っ越しのお手伝いと言う名目で、俺だけ招待された。とりあえず荷物も片づけ、落ち着いたところで、明日も休みだし、今日はここで飲もうと誘われた。そして、近所の酒屋で、俺のお気に入りのVSOPを買うと、「ダダさんってブランデー飲むんだ。私はカンパリオレンジがあれば十分かな?」と、カンパリとオレンジジュースを買っていた。「とりあえず、裕実さんの家にVSOPのボトルキープで」
と言うと、裕実さんは笑っていた。「とりあえず、ゲームしよう」と裕実さんに誘われて、ぷよぷよをやったのだが、俺と裕実さんは同レベルくらいの強さだった。「じゃあ、何かかけてやる?」と言われたのでドキッとしてしまい。「いゃ、それは止めておこう。なんか怖いし」とこの場は断った。裕実さんの家は職場からすぐの場所なので、歩いて通うことができる。裕実さんとは家での遊び以外でもカラオケによく行った。
当時は、俺がミスターチルドレンのクロスロード等を歌っていたかな?「やばいって、ダダさん上手すぎる。なんでそんなに息続くの?」などと聞かれたりもした。俺は、「仲間内でカラオケマスターって呼ばれてるので」と、笑いながら答えた。裕実ちゃんは大黒摩季の夏が来るなどを主に歌っていたかな?彼女も歌が上手と言っていいレベルで、最後の「私の夏は~きっとくる!」と叫ぶところなんかが、とても可愛く感じていた。
俺のスクーターが裕実さんの家の玄関に止まっているので、俺の居場所は職場でバレバレなはずだった。VSOPのボトルをキープしてたこともあり、俺は彼女に手を出すことはせずに、泊まる事が多くなった。佐藤先輩も俺が裕実さんの家に泊まっている事には気が付いていたようだが、もう何も言われることはなかった。俺は超奥手なので、自分から誘うことは絶対にしなかった。
裕実さんも年齢差が気になるのか、自分から誘うようなことはしなかったので、ただ泊まってお酒を飲んで話すだけ。と言う状態がしばらく続いた。途中で寝ちゃった裕実さんをお姫様抱っこして、ベッドに寝かせる事などもあったが、それ以上の進展はなかった。が、周りの見る目は明らかに変わっていた。職場内では、俺と裕実さんが半同棲生活してると、噂されていたのだ。まぁ、俺も裕実さんも噂されても気にしなかったのだが。
この半同棲生活も、俺が佐藤先輩と喧嘩して、仕事を辞めるまで続いていたが、俺が辞めた後に、裕実ちゃんも直ぐに仕事を辞めたらしいが、それ以後お互いが出会うことは無かった。今考えると、奥手すぎる男と言うのもある意味問題だったなと思ってしまう。この一件以後、据え膳食わない性格が徐々に変わっていくことになるのであった。