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弁護士法人FAS淀屋橋総合法律事務所のブログ

大阪市中央区北浜の、弁護士法人FAS淀屋橋総合法律事務所のブログです。所属弁護士によるニュース解説や、日々の暮らし、ご家庭、お仕事にまつわる法律問題などを取り上げるほか、所員による書評や趣味の話、付近の町ネタ、グルメ情報などお伝えしていきます。

身体的に健康であった50代男性が精神病院に入院して数日で亡くなった事案が、長い戦いの末、裁判上の和解にて、無事解決しました。

 

ご相談を受けた当初から、何かの医療ミスがあるはずだという認識でしたが、当時は亡くなった原因もはっきりせず、難しい事案でした。

司法解剖はされていたものの、当該解剖医が全く信頼できない医師で、その医師の意見は信用できないことを、過去に受任した刑事事件での当該解剖医の解剖所見や、当該解剖医の結論が覆されたというニュース等を通じて知っていたため、死体検案書の記載をそのまま採用することができなかったのです。(ちなみに当該解剖医はその後、経費の不正受給で逮捕されました)

 

まずは死因や過失を医学的に調査する必要があったので、医療調査事件としてお受けしました。はじめに検察庁に不起訴記録の謄写請求をしましたが、解剖所見が記載された解剖記録は開示されず、結論のみが記載された死体検案書だけを手掛かりに、医学調査するしかありませんでした。

数名の医師から医学的な意見を聴取しましたが、それぞれの医師が、肺炎、悪性症候群、窒息等と、違う死因を指摘しました。中には「精神科はこんなもんですよ」と言った医師がいて、憤りを覚えました。

また、病院側に医療事故調査を求めました。もっとも院内調査の結果からも死因や医療行為の問題が明確になることはありませんでした。

つぎに、医療事故調査・支援センターへ事故調査を依頼しましたが、制度上、医療過誤の有無が調査目的とはなっておらず、十分な調査がなされるかどうかの不安があり、また調査結果が何年先になるかわからない状況でした。

 

通常であれば、死因や過失を特定できない状況で交渉事件や裁判事件として受任することはありません。そのような状況で、交渉・裁判しても、病院や裁判所が賠償責任を認めるはずがないからです。しかし健康な壮年男性が精神病院に入院して数日で突然死したにもかかわらず、「精神科で起きたことだから仕方ない」と諦めることはできませんでした。

 

そのため、異例ですが、調査を並行させながら、交渉・裁判事件として事件を受任しました。病院側に損害賠償の通知を送付しましたが、案の定、賠償責任を裏付ける調査結果等はないという理由で病院側は支払いに応じませんでしたので、提訴して、提訴と同時に、解剖記録について調査嘱託申立てをして、その結果、ようやく解剖記録を入手することができました。

 

信頼のできる法医学医に入手した解剖記録を見ていただくと、書類からのみでは十分検討できないので、肺組織がデジタルスライドで保存されているはずであるから、それを入手するように、というアドバイスをいただきました。

そこで司法解剖をした医師の所属する法医学教室に肺組織のデジタルスライドを借り受けたいと連絡し、肺組織のデジタルスライドを借り受けて、信頼できる法医学医のところへ持参し、死因についての意見を求めたところ、肺組織が全体的に紫に染まっており、これは、ひどい肺炎だ、肺炎で亡くなったと考えてよい、とのご意見でした。

 

当初は向精神薬の過剰投与か悪性症候群に対する治療の懈怠が問題になるかと考えていましたが、肺炎とわかってしまえば、単純な話だと思いました。患者は入院の翌日にNGチューブを挿入され、その翌日早朝にNGチューブに起因する誤嚥性肺炎になっていたにもかかわらず、丸一日NGチューブから栄養剤・水分・向精神薬等を注入され続け、また身体拘束も中止されないまま、その翌日に亡くなっているので、誤嚥性肺炎を発症した以降もNGチューブから栄養剤・向精神薬等を投与し続けたこと等により、誤嚥を繰り返して誤嚥性肺炎を悪化させて急死されたのだと、推測しました。

 

信頼できる法医学者からこの方は肺炎で亡くなったということを肺組織が物語っているとの意見が得られたので、その旨を呼吸器内科の専門医にお伝えしたところ、呼吸器内科の専門医から、当該患者はNGチューブ挿入の翌日早朝時点で誤嚥性肺炎に罹患しており、その時点でNGチューブからの栄養剤・向精神薬等の投与と身体拘束は中止すべきであったこと、NGチューブからの栄養剤・向精神薬等の投与を中止しなかったこと、誤嚥性肺炎発症後も身体拘束を継続したことが、死因に繋がったと考えて矛盾ないという意見をいただくことができました。

裁判の中で、被告はさまざまな主張をしていたため、それらに反論し得るよう、また法的に裁判官が納得し得る内容の意見書にするため、呼吸器内科の専門医とは4回協議を重ねました。

 

医学意見書の内容について協力医と意見のすり合わせが概ねできた頃、医療事故調査・支援センターからの調査結果が届きました。医療事故調査・支援センターにも肺組織のデジタルスライドデータや解剖記録を提供していたため、概ね、上記の呼吸器内科の専門医と同じ意見が記載されており、その内容を見て、ようやく、「この裁判は勝てる」という確信を得ることができました。

 

客観的な医学意見書と医療事故調査報告書において過失と因果関係の裏付けが得られたことから、病院側に患者を死亡させたことに対する法的責任があることを前提とする金額の解決金(依頼者の意向で金額は明示しません)で、裁判上の和解をすることができました。

 

精神病院では原因がよくわからない突然死ということは実際よくあると、信頼できる精神科医からもお聞きしたことがあります。その精神科の先生は「よくあることだから仕方ない」ということではなく、その実態にひどく立腹されていました。精神科であるからといって、内科治療がいい加減でよいわけない、とおっしゃっていました。

 

我々も精神病院において内科的な治療が杜撰であったことから、亡くなるはずのなかった命が失われた事案を何件も経験してきました。

 

精神病院で突然家族が亡くなったという方は、精神病院だから仕方ないとあきらめる必要はないと思います。疑問がありましたら、ご相談いただければ、何かお力になれるかもしれません。