行政処分の無効確認訴訟は勝てない?そんなことはありません。

 

誤った行政処分がなされた時に争うためには処分の取消訴訟を提起します。

処分の取消訴訟は処分を知ってから6か月以内に起こさなければなりません。

 

6か月を過ぎてから行政処分の過ちに気付いた場合にその処分を争う訴訟は、処分の無効確認請求訴訟です。

処分の無効確認訴訟で原告が勝つためには、処分の違法が、重大かつ明白であることが要件であるというのが判例の立場です。

よって取消訴訟では原告が勝訴判決を得られる事案であっても、無効確認請求訴訟においては、「違法性が軽微である」とか、「行政の立場からその違法性が明白に認識できなかった」とかいう理由で、原告が敗訴することがあります。

このように無効確認請求訴訟は、認容されるための要件自体が厳しく設定されており、処分の無効確認請求訴訟が認容された判決は非常に少ないのが実情です。

 

そのため、「処分の無効確認訴訟は、おおよそ勝てない勝負ではないか」と思われがちです。

しかしそうではありません。

無効確認請求訴訟において、裁判所が、「この処分はたしかにおかしい」と判断した場合、裁判所は、行政に対して、行政自身に、自らがなした処分を是正するよう説得し、その説得に応じて、行政側が自ら処分を是正することがしばしばあります。

 

当職らが代理した事案においても、何年も前になされた道路指定によって住民側の生活の安全が脅かされていることが判明し、住民らが道路指定無効確認請求を起こした時には、裁判での審理の結果を受けて、裁判所が、地方自治体を説得した結果、住民側の要望に応える形で和解成立に至ったことがあります。

 

また、夫が亡くなったことについて労災認定がされたものの、6か月以上経過してから、労災保険の支給額の基礎となる給付基礎日額の決定処分が不当に低いことが判明した事案において、代理人として労基署に給付基礎日額を改めるよう要望したところ、労基署側が、「取消訴訟の出訴期間を過ぎているので、給付基礎日額を是正することはしない」と回答してきたため、給付基礎日額決定処分の無効確認請求を提起したという事案があります。

国側は重大・明白な違法はないと主張しましたが、審理を尽くした結果、裁判所が、国の算定した給付基礎日額は不当に低いと考えて国側を説得し、よって、判決日の直前に、国側が、不当に低額だと指摘された給付基礎日額を自らが取り消した上で、給付基礎日額を増額したケースもあります。

 

ですから処分の無効確認訴訟の原告側勝訴の裁判例が少ないことをもって、直ちに無効確認請求を諦めることはありません。

 

弁護士 松森 美穂