大部屋に移ってからの夜が来た。
9時になると消灯だ。個室とは違い、部屋は真っ暗になる。
真っ暗になると痛覚が冴える。でも事前に睡眠剤は経腸チューブから入れてもらった。
30分もすると寝ているはずだと考えるだけで楽になる。
だいたい3時間ほどは寝れる。起きてからがまた寝るまでに意識を使う。ただもう無理に寝ることをしないと決めた。

翌朝、再手術から14日目の朝になった。
久しぶりに一人の朝だ。大部屋なんで他に3人いるんで、実際には1人ではないんだが。
カーテンという仕切りがあると、何も見えない利点がある。ただ音や声は全てが聞こえてしまう。

その日も朝から熱は高い。血糖値がなせが200を超えたため、急遽インスリン注射を打つことになった。今まで130付近をキープしていたのに、突如値が上がったことで、また何か起こるのではという不安に駆られる。
「たまたまじゃないかな」という看護師の言葉を鵜呑みに出来ない自分がいる。

本来はもうすぐ退院出来ていたはずだ。
手術を受ける前に聴いた入院予定期間は1ヶ月だった。
それがまだまだベッドに寝たきりのままだ。
焦り、復帰への不安、回復していくのかという気持ちが常にじっとりと頭にまとわりつく。

その日はレントゲンを撮ることになっていた。
もう車椅子は使わない。やはり毎度管類が邪魔だ。引っ掛かる度に腹部にチクチクとした痛みが走る。
特に鼻管は要注意だ。抜けるとまた苦しい思いをして、入れることになる。

その日はレントゲンだけで終えた。
特に主治医からの説明はなかった。

その日の夜は4時間続けて眠ることが出来た。徐々に眠れる時間が伸びている。
寝る時間が長くなれば、縫合不全も創感染した傷口も一気によくなるのではないかと淡い期待をしてしまう。

翌朝、創感染した傷口を洗浄する。肉が盛り上がってきている。まだまだ時間はかかりそうだが、意識して見ることに抵抗はなくなった。

今日も右脇腹から入れているチューブ周囲はチクチクと痛い。痛み止めをもらって、歩こうと決めた。
今日は朝の回診で透視検査を言い渡された。
また透視検査だ。本当に嫌な気持ちになる。なぜこんなにも回数が多いのか不安になる。
しかし話を聞こうとしても
心配させないためか「大丈夫ですよ!よくなるためですから!」という言葉しか帰ってこない。

検査は夕方からだ。具体的に何時かは分からない。呼ばれたら行く。それだけのこと。
昼から今日は嫁さんが来てくれた。しばらくは母に子供の面倒を見てもらい、看護に嫁が来てくれるようだ。ありがたい。

体を拭いて洗髪を終えて、リハビリのために廊下を歩く。調子よく歩き、背を伸ばして歩こうとした時に後ろによろめいた。
両足で踏ん張ろうとしたが、踏ん張ることが出来ずに背中から倒れた。幸い頭は打たなかった。

すぐに嫁が駆け寄り「大丈夫!?」と声をかける。それと同時に周囲の看護師の人達が気付き車椅子を持ってきて、素早く乗せられた。息も絶え絶えベッドに戻っていく。

大丈夫ですよ、たまたま背を伸ばそうとして倒れただけという言葉を投げかけても虚勢を張っているようにしか見えない。
本当に大丈夫なんだと伝えたいのに、伝わらない。

夕方16時過ぎになり、透視検査に呼ばれた。
そのまま30分ほど管の入れ替えを行い、その日を終えた。まだまだどの管も腹部からは抜けない。

二日後、また透視検査を受ける。
その時に主治医から聞かされた言葉が、また家族を悩ませる一言となった。



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