塩を擦り付けられたような痛みは、とても堪えがたくズキズキと痛む。
ナースコールを押して、病室にきた看護師に痛みが強いことを伝える。
すぐに強めの痛み止めを持ってきた。
ガチャガチャとしていたせいで、隣から母も起きてきてしまった。
眠そうに目を擦りながら「どうしたの?傷が痛むの?」
「起きたら、急に痛んできて。腹内部からの痛みなのか、傷口の痛みなのかもう分からなくなってくるけど。恐らく創感染の傷口だと思う」

もう今や医療用麻薬も硬膜外麻酔も取り外され、痛み止めしか使うことが出来ない。
しかし今回はその痛み止めが効いてくれた。ほんのちょっとだけど。

でもそのおかげで少しうつらうつらとしだした。
ただ見るのは悪夢、くだらない悪夢から許せない悪夢まで。
車で会社に向かうが延々と着くことが出来ない夢や、喋れないほどの茹でる前のパスタを口いっぱいに入れられる夢など。

いちいち今の状況が悪夢として現れているのかと思い、イライラとフラストレーションが溜まっていく。寝るごとに新しい悪夢を見る。うんざりだ。
その後は寝ることは諦めて、今後いつまで個室を借り続けるかを考えた。

翌朝はもちろん快調な朝とは言えず、5時前に母が起きてきたときは静かに昨日見た悪夢の内容を話していた。
途中からは少し冗談も交えながら
「遅刻してるのに、明らかに見たことないような景色の中を走ろうとしてるんだよ。やばいよな。途中で道を聞こうとさ-------」
少しくだらない冗談も交えながら笑い話に出来た。

再手術から8日目の今日は、朝から透視検査が言い渡された。
この検査は本当に苦痛だ。体の中に入っている管を出し入れすると思うだけで、吐き気すら覚える。
時間は午後からとのこと。いつもの朝のローテーション(検温、血圧、採血、洗髪など)をやっていると、もう昼だ。その時間になるといつ透視検査が入るのかと体が強ばる。

ついに自分の番になり、透視検査室に向かう。
台の上に仰向けになり、管の入れ替えを待つ姿はまるでまな板の鯉だ。
あとは痛みや気持ち悪さで飛び跳ねるだけしか出来ないという自虐的な妄想にかられる。

無事に痛みの数十分も終わる。
ただ透視検査を受けながら、気になったのは先生の一言だ。
「うーん、やっぱり造影すると胃からちょっと漏れちゃうな」
何がどう漏れているのか、恐る恐る確認する。
「いや、まぁ大丈夫ですからよくなってますよ。頑張っていきましょうー」
話を少しはぐらかされた気がした。

その後は部屋に戻り、すぐに痛み止めを頼む。
効きはいまいち分からないけど、気分だけ本当に気分だけでも楽にしようと入れてもらう。

母にはずっと付きっきりで看病をしてもらっているため、疲れているだろうと思い気分変えに子供と二人で出掛けたらどうかと提案した。
孫といる母は本当に楽しそうだ。
透視検査には嫁に付き添ってもらった。

検査が終わってしばらくすると二人は帰ってきた。
今日は二人で近くの神社に行ってきたようだ。
そこで子供が絵馬を書いて奉納してきてくれたらしい。
それを嬉しそうに子供が話をするが、どういった話なのか分からず断片的に聞いた話を元に母に尋ねる。
「神社にいった時にね、パパにメッセージを書こうかってことになってね。それで絵馬の裏に‘’ぱぱがげんきになりますように‘’と書いたんだけどね。
結局、絵馬の大きさの中に文字が入りきらなくて最後のほうは小さくなっちゃった」

あと子供が小さい絵馬を見せて
「これパパにあげるから、元気出しなよ」といってくる。

右手に渡された小さい絵馬を見ると、表面には赤ちゃんの絵が書かれている。
どうやら子供が健康にすくすくと育つように祈願する絵馬を私に買ってきてくれたようだ。

少し痛みも忘れ、日常の笑いが込み上げた。



-----------------------------------------------------------------------
透視検査の内容はこちら→透視検査とは?

手術の始まりはこちら→手術のリスク