個室に入った初日、再手術をして4日目。
まさかの個室デビューをすることになった。
気になるのは個室の料金だ。
「個室って別でお金とられるんでしょ?1日いくらかかるの、、?」と嫁さんに訊く。
「気にしなくていいから、しばらくはここでゆっくりすればいいんだから。しんどい思いもしたし、少しゆっくりここでしよ」
「いくらか聞かないと落ち着かない」
「言ったほうが落ち着かないと思うから、大丈夫」
「いや言ってくれないと落ち着かない、、」

でも嫁さんも母も答えてくれない。
個室は高いと聞いたことがある。
金銭的な余裕もないため、自分自身がこの部屋を借り続け甘え続けることが、自分自身を許せなくなる気がした。

早くここを出なくちゃいけないな。せめて2週間が限界だ。
貧乏なんだから、家族には入院費用や私自身の気持ちの安らぎのためだけに使うんではなく、ここを出た時の旅行とか、おいしいものを食べるために使ってあげたい。

母が今日から朝も夜も付きっきりで病室に残って看病してくれるらしい。

心強いがそこまでしてもらっていいものか・・・
家族に負担をかけて、自分がお荷物になっている。
自分も何かしてあげたいと思うのだけど、考えられることは、出来るだけ自分自身の世話から解放してあげることだけだ。

ただ情けないことに夜になると暗闇と静けさの中で、痛覚や不安を感じる精神状態も過敏になる。
その恐怖はつい2週間前の手術で、痛いほど感じた。
どうしても残るというので、半ば折れる形でお願いした。
本当に情けなくなったもんだ。しかし気持ちは落ち着かない。
日々思ったように回復しない焦りの感情と、繰り返される恐怖で母に強くあたってしまう日がくるとはこの時は知る由もなかった。

花火を見終わった後、そろそろ時間もいい時間だ。あまり遅くなると帰りが心配だから、子供と嫁を帰るように促す。

やや子供は帰りたくなさそうにした後、こちらを見て「パパは?いつ帰る?」と言った。
「パパはお腹の傷を治してから帰るから、もうちょっとかかっちゃうね」
「パパと虫取り行きたいな」
「パパもろろと行きたい。
もうちょっとお腹の痛いのが落ち着いたら行こう」と子供の髪を撫でる。

嫁が「パパも寝るから、帰って私たちも寝るよ。ほらパパにバイバイして」といいながら子供を連れて帰った。

この個室なら遠慮なく子供も連れてこれる。家族も泊まることが可能だ。まるで我が家にいるような感覚で3人と居ることが出来る。
ただ激痛が続く中、家族に気を配り続けることが出来るだろうか。
我慢することで自分が更にしんどくなってしまうのじゃないかなんて自分中心の考えが出てきてしまう。

ちらっと腹の管や点滴スタンド、腹の傷に目がいってしまう。

また明日になれば、子供を連れて嫁が来てくれるだろう。


しかし物心ついてから、こんなにも母二人で共に過ごすことはなかった時間が訪れる。きっと今後こんなにも母と二人で過ごすことなんてないだろう。
そんな時間がしばらく紡がれることになる。

一応気になってたことを聞く。
「個室っていくらなの?」
「それを言ったら、気にしてすぐに大部屋に移ろうとするから言わない」

しつこく聞き続けると母も観念して、言い辛そうに答える。

そりゃ高いわ。そんなにするのか病院の個室って。

1日で1万5千円もかかるのか・・・
やはり早く体調を戻し、大部屋に戻らねばと思うのだった。



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まだほっこりとしていました。痛みは強かったのですが、家族とゆっくり過ごせる個室は気兼ねなかったおかげか、借りてくれたありがたみをすごく感じました。

手術の始まりはこちら→手術のリスク