その日の朝、
旦那さんは
リビングのテーブルに置かれた
娘の仕掛けたサプライズを見つけて
ひとり静かに涙ぐんでた。

父は私の留袖姿を見るなり
亡き母の面影をかさねて涙ぐんでた。

私は叔母にその母の姿をかさねる。

テーブルの上には
母の名札とワイングラスが置かれていた。
そこに父はそっと母の写真をかさねた。

心友は
私よりも先に目を真っ赤に泣きはらし
30年前、私の結婚式に着てくれたドレスを
着て来たよーって、見せてくれた。

30年前にウェディングドレスを着た私の隣にいてくれた彼女が
今日は娘を見守ってくれている。
30年前の私とすぐ目の前の娘の姿がかさなってる。

お兄ちゃんのエスコートで花嫁が退場するとき
情景は瞬時に2人がまだ小さかった頃にワープした。

同じようにリュックを背負って
同じように水筒を持って
手を繋ぎながら
どこへ行くでもなく
部屋の中をぐるぐる歩き回っていた…

ただそれだけで楽しかった日々が
笑いの絶えなかった日々が
2人の背中にかさなった。

そして今朝、私はリビングで…
今まで手にしたことのない数の
深紅の薔薇の花束を見つめながら
真っ赤なドレスを着た娘に想いをかさねる。

薔薇のようだと感じるとは
思ってもみなかった。

どちらかといえば可愛い感じのする娘。
マーガレットとか
マリーゴールドとか
そんな風に思っていたけれど

晴れの日の彼女のドレス姿は
ぴったりと
この真っ赤な薔薇とかさなった。


ベールダウンの意味は
「これで子育ては修了です。」という
意味があるらしい。

いつまでも私の娘であることは
変わらないけれど

ベールを静かに下ろしながら
あなたなら大丈夫。という想いと…
歩き出す後ろ姿に
数えきれないくらいの今までありがとうをかさねた。

いつも幸せとともにいて。

人生の1ページにたくさんの幸せをかさねていってね。

今年から薔薇の花を育ててみようと思う。

今日もありがとう。