Dana White’s Contender Series 感想 | 銀玉戦士のアトリエ

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今回は「Dana White’s Contender Series(以下DWCS)」についてのレポートです。

 

DWCSは2017年からUFCファイトパスでスタートした企画で、シーズン制で週1回の火曜日(日本時間は水曜日)に各5試合が行われ、 UFC代表のデイナ・ホワイトのお眼鏡に叶った選手が、 UFCと正式契約を結べるというシステムです。

 

基本、フィニッシュで勝った選手や、判定でもインパクトを残した試合をした選手が選ばれて契約を結ぶ事が多く、DWCSに出場する選手達はUFCと契約を結ぶためにもフィニッシュを狙いに行く激しい試合になる事が多いです。

稀に、負けてしまった選手でも良い試合をすれば契約を結べるケースもあります。

 

DWCS出身選手でUFC本戦でもランカーとして活躍している代表的な選手はバンタム級のショーン・オマリー、フェザー級のギガ・チカゼ、ウェルター級のジェフ・ニール、ライトヘビー級のジャマール・ヒルらが挙げられます。DWCS出身選手からの UFC王者は未だ誕生していませんが、それも時間の問題となるでしょう。

 

勝者がUFCと正式契約を結べるリアリティショーといえば、「The Ultimate Fighter(TUF)」が有名ですが、TUFはアメリカ本国に向けた英語での番組だけに、国によっては言語の壁がプロモーションの障壁となってしまいます。

昔はWOWOWでもTUFが豪華声優陣の吹き替えで放送されていましたが、現在は放送されていません。

その点、DWCSは選手の試合を放送するのみの構成なので、言葉が解らなくてもMMAの試合が理解できれば楽しめるというコンテンツです。DWCSで自分の「推し」の選手を探して、 UFCデビュー戦のプレリムの試合からその選手の成長を追い掛けていくというのも楽しみ方の一つです。日本ではアベマTVの「格闘代理戦争」がそれに該当しますが、プロ駆け出しの選手にスポットを当てたリアリティショーを放送する事で、タイトルマッチやビッグマッチの試合だけでなく、彼らが試合をするプレリミナリーファイトも注目して観るようなコアなファン層を開拓していくという狙いがあります。

そういうコアファン層の母数が増えてくれば、総勢600人以上が契約しているUFCの各階級のタイトル争いや強さの序列だったりといったピラミッド構造の競争争いが、観る側にとっても見える化していって、団体のタイトルの価値というものに重みが生まれます。

また、ごく一部のメジャー団体がフェデレーションと推奨している安易な他団体との対抗戦ですが、盛り上げるには一番手っ取り早いけど、お金が掛かる上に自分の団体のタイトル戦線が停滞してしまうという問題を孕んでいます。しかしながら、自団体のピラミッド構造が確立しその中で選手を育成するシステムが確立されていけば、安易な他団体との対抗戦を行う必要性はなくなってくるのです。選手の成長を見届けるという意味でも、推しの選手がタイトルに辿り着くまでには最低数年単位は追い掛ける必要性があるので、末長くファンで居てくれる可能性が高くなるのもポイントです。

 

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8月30日(日本時間31日)に放送のシーズン6では、パンクラスで活躍する日本の木下憂朔が出場するという事で注目されるようになったDana White’s Contender Series。

今回は8月9日(日本時間10日)放送のDWCS シーズン3の5試合の感想です。

 

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

 

 

 

🏟1️⃣DWCS女子ストロー級ワンマッチ🏟

⚪️🇵🇱カロリーナ・ウォジェックVSサンドラ・ラバドゥ🇵🇪⚫️(3R判定勝利)

 

 

ポーランド出身のカロリーナ・ウォジェックは、南アフリカを拠点とするMMA団体「EFC Worldwide」の元王者です。EFCは、日本で2016年にUFCがWOWOWから一度打ち切られてDAZNで放送されていた時に、何故か一緒に抱き合わせで放送されていた団体です。

一方のサンドラ・ラバドゥは南米ペルー出身の選手。ボクシングと柔術の国内王者と紹介されていました。

 

試合はカロリーナがスタンドではローキック、組んでは相手をケージに押し付けて、ケージレスリングで相手の体力を奪っていきます。ボクシングと柔術を得意としているラバドゥに対してはピンポイントで突いた戦術と言えます。

カロリーナはある程度試合を優位に進めると2R終盤でテイクダウンに成功します。3Rも序盤から相手の蹴り足をキャッチしTDしたカロリーナは、パウンド肘を打ち下ろしならが長時間のトップコントロールに成功。

ここからフィニッシュしたいカロリーナ。ラウンド終盤にはバックに回りリアネイキドチョークを仕掛けますが、惜しくも外されてしまいます。

 

判定はカロリーナ。試合作りも含めて完勝でしたが、フィニッシュが求められるDWCSでは悔いが残る内容ではありました。

 

 

🏟2️⃣DWCSフライ級ワンマッチ🏟

⚪️🇺🇸クレイトン・カーペンターVSエドガー・チャイリーズ🇲🇽⚫️(3R判定勝利)

 

 

フライ級の試合です。

今シーズンのDWCSではフライ級の試合が今のところ1試合ずつ組まれており、男子の他の階級と比較して選手の頭数が少ないフライ級のテコ入れを図っているのだと思われます。

何にしろ一度は階級もろとも廃止されかけたUFCフライ級が盛り上がるのは非常に喜ばしい事です。

 

クレイトン・カーペンターは北米最大のフィーダーショー団体LFAを主戦場としている5勝0敗のファイター。

対するエドガー・チャイリーズはヒスパニック系のMMAファイターを集めた「Combate Global」の元フライ級王者です。Combate Globalはフィーダーショー団体でありながらアメリカではベラトールやONE Championshipよりも視聴率が高い団体らしいです。

 

1Rはバチバチの打撃戦。リーチで勝るチャイリーズが、下がりながらの左フックでダウンを奪いますが、カーペンターも負けずに前に出て打ち返す展開です。

しかし2R中盤辺りからそれまで優勢だったチャイリーズの手数が減ります。反対にカーペンターはコンビネーションで相手をケージ際まで下がらせ、そこからタックルを仕掛けてTDを奪います。

ラウンド終盤にはパスガードに成功し、マウントポジションで肘を打ち下ろして出血させたカーペンター。

見事なレベルチェンジでラウンドを取り返したカーペンターは、3Rではスタンドでカーフキックや左フックを当てていきます。チャイリーズはダメージから1Rと比較して明らかに被弾の数が多くなっていきます。

そして中盤に再びTDに成功したカーペンター。トップをキープしてパウンドを当てていき、最終ラウンドを取って逆転に成功します。

 

判定は2、3Rを取ったカーペンターが勝利。フィニッシュはなりませんでしたが、被弾しても向かっていく負けん気の強さ、レベルチェンジの巧みさ、ルックスも良いという事で、是非ともUFC本戦で見てみたい選手の一人だなと感じました。

 

 

 

🏟3️⃣DWCSフェザー級ワンマッチ🏟

⚪️🇻🇪エリック・シウバVSアンバー・ボイナフロフ🇺🇿⚫️(1RTKO勝利)

 

 

エリック・シウバはベネズエラ出身の選手で、空手黒帯と紹介されていました。10年くらい前にUFCで同姓同名のウェルター級の選手が居ましたが別人です。

対するウズベキスタン出身のアンバー・ボイナフロフはGLORYで活躍していた元キックボクサーで、MMAに転向してからは3試合連続1RKO勝利を飾っています。

キックボクサーとしては2019年にGLORYフェザー級王者ペットパノムロンに挑戦し、判定で敗れている他、現在UFCランカーのギガ・チカゼ、Krushに参戦していたアブデラ・エズビリ、新生K-1のトーナメントに参戦したモー・アブドゥラマンに勝利しています。

 

試合開始直後、伝統派空手の構えからいきなり距離を詰めてタックルを仕掛けていったシウバ。ケージ際でTDに成功すると、あとはパウンド肘を連打しレフェリーストップ。

1R、92秒でシウバがボイナフロフを下しTKO勝利。MMA転向後3連勝3連続KOのボイナフロフでしたが、それまでとはレベルの違う相手にMMAの洗礼をモロに受けての敗戦です。

 

65kg級近辺のキックボクサーでMMAに転向した選手は「前門の虎、後門のオオカミくん」ことレン・ヒラモトを筆頭に割と多いですが、いずれもネットの口だけ番長だったり、ママ活疑惑が持たれていたり、シバターに騙されて一本負けしたりと散々な有り様で、メジャーのトップ所で明確に結果を残している選手はUFCフェザー級ランカーのギガ・チカゼただ一人という状況であります。

そういえば新生K-1のトーナメントに参戦し、後にベラトールでMMAデビューしたイリアス・ブライトは今どうしているのでしょう?

 

 

 

🏟4️⃣DWCSヘビー級ワンマッチ🏟

⚪️🇺🇸ジャメル・ポーギスVSパウロ・ヘナト・ジュニオール🇧🇷⚫️(3R判定勝利)

 

 

アマチュアボクシング出身らしいポーギスがスナッピーなジャブを当て、ジュニオールがその距離で内外のローキックを打ち返すという展開。

どこかで既視感のある試合展開だなと思いましたが、旧K-1でこういう試合をよく見せられた思い出があります。パンチャーに対してひたすらローキックに徹するキックボクサー。一応理に適った戦い方ではあります。

旧K-1でレミー・ボンヤスキーさんがチェ・ホンマンをほぼローキック一本で3R完封した試合がありましたが、いや、K-1王者たるものがホンマンさん相手にそういう試合を見せられてもだな。。。

 

判定はジャブの手数でポーギスが勝利。ジャブは良かったですがコンビネーションやクリンチ打撃といったフィニッシュに繋がる打撃が無かったのはDWCSとしてはマイナスです。

 

 

 

🏟5️⃣DWCSミドル級ワンマッチ🏟

⚪️🇺🇸ボウ・ニッケルVSザック・ボレゴ🇺🇸⚫️(1R一本勝利)

 

今シーズンのDWCS出場選手の中で最も注目されているのが、NCAAデビジョン1を3度獲得した大学全米レスリング選手権王者、ボウ・ニッケルです。

レスリング出身の北米MMAファイターといえば数々のUFCトップ選手を生み出した事でもお馴染みのMMAエリートコースでありますが、ニッケルはその中でも飛び抜けて評価が高く、大学レスリング時代では後に東京オリンピック金メダリストとなったデイビット・テイラーと同門で、良きライバル関係を築き上げてきたほどの実力です。

プロMMAでの戦績は未だ1試合のみですが、その身体能力とMMAの才能はヘンリー・セフード、ベン・アスクレン、ホルヘ・マスヴィタルらUFCトップファイターから既に高い評価を受けています。

ダスティン・ポイエー 、堀口恭司らが所属するアメリカン・トップチームで、世界のMMAトップファイターを相手にデビュー前から日々練習を積んでおり、ホルヘ・マスヴィタルがプロモーターを務める「iKON FC」ではプロデビュー戦で秒殺KO勝利を飾っています。

 

https://youtu.be/Om0yAd8gM-s

 

上がニッケルのMMAデビュー戦の試合動画です。拳が固そうですし体幹も強いので打撃フォームにブレがないですね。

 

https://youtu.be/G_G0I_daUCc

 

更にはニッケルのレスリング時代のハイライト動画も貼っておきます。

 

 

試合はニッケルがいきなりテイクダウンを奪います。立ち上がろうとするボレゴをフロントでがぶってチョークを決めようとしますが、そこからバックに回りリアネイキドチョークで相手はタップアウト。

ボウ・ニッケル、見事に期待に添える62秒でのフィニッシュ劇。やはりモノが違う選手だと改めて思います。正直この相手では物足りない感じでした。

 

北米MMA界隈では「5年後のUFC王者」と早くも期待されているニッケルですが、日本の格闘技ファンも彼の名前は覚えておいて損はないはずです。

 

 

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

 

 計5試合が終わり、UFCとの正式契約が決まったのは2️⃣🇺🇸クレイトン・カーペンター、3️⃣🇻🇪エリック・シウバ、4️⃣🇺🇸ジャメル・ポーギスの3名。

 

トリで一本勝ちを決めて圧勝したNCAA全米レスリング王者5️⃣🇺🇸ボウ・ニッケルも試合内容だけを見れば契約確実かと思われましたが、まだプロでは2戦しか戦っていないという事で今回は契約が見送られ、その代わり経験を積ませるために今シーズンのコンテンダーシリーズの後半戦に参戦させる事が決定しました。

現地の海外MMAヲタの間ではふざけるなダナハゲと批判が飛んでいるみたいですが、そういった反応も織り込み済で、恐らく最注目選手という事でプロモーションも兼ねての契約見送りなのでしょう。

 

 

以前も「朝倉未来がUFCに行くためにはどうすればいいか語ってみる」という、何だか今となってはプロモーター業のほうに熱を入れてしまっている人について語った、的外れなブログ記事のほうで触れましたが、このコンテンダーシリーズに出場している選手の戦績をシャードック等のMMAサイトで調べてみると、プロ4戦~10戦くらいのキャリアの浅い選手が多かったりします。今回参戦したボウ・ニッケルに至ってはアマチュアで2戦、プロで1戦しか試合していません。

 

https://ameblo.jp/fanroad-gindama/entry-12708588130.html?frm=theme

 

これは、メジャー団体のチャンピオンクラスの完成されている選手よりも、UFCでデビューしてから伸びしろのあるような選手を積極的に登用していくというコンセプトもあるのでしょう。

実際、 現在UFCでトップファイターとして活躍している選手のUFCデビュー時の戦績を調べてみると、元フェザー級王者マックス・ホロウェイ(4勝0敗)、フェザー級ヤイール・ロドリゲス(5勝1敗)、現ヘビー級王者フランシス・ガヌー (6勝0敗)、ヘビー級シリル・ガーヌ(3勝0敗)、現ウェルター級王者カマル・ウスマン(6勝0敗)という戦績だったりします。

彼らだってUFCデビューしてから王者になるまで10戦以上、数年掛けてUFCで試合経験を積み重ねていますし、元々MMAファイターとして光る部分があったからこそ、この浅いキャリアでUFCと正式契約を結ぶ事が出来たのでしょう。

 

逆に言えば、特にアメリカ人以外の30代以降のMMAファイターは、他プロモーションでどんなにキャリアを積んでいたとしても、UFCデビュー後の伸び代を考えると契約を結んで貰えないケースが多いです。マイケル・チャンドラー並の飛び抜けた実力と知名度と実績が無ければ難しいと言えます。

 

UFCにデビューすれば後のキャリア形成は自己責任です。マッチメイクやMMAファイターとしての実力形成も含めて、マネジメントや所属ジムと話し合いながら自分の将来像をある程度思い描く事が必要になってきます。

 

総勢600人以上が所属するUFCの大海原でどのようにプロキャリアを形成して泳ぎ切るのか、その選択肢は広く、選手個人のパーソナリティに寄りけりです。

DWCSからUFC契約を果たした選手達の今後が楽しみです。