K-1野扖正明の優勝と、過去の神童たちと今の神童たちを思う。 | 銀玉戦士のアトリエ

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「K-1 WORLD GP よこはまつり」をアベマTVで視聴しました。

 

仕事の都合上、途切れ途切れしか見れていなかったですが、TwitterのTLを見ると好評だったようで、最近視聴者数が下がり傾向だったらしいアベマの格闘技コンテンツの中でも、300万人近い(実数より盛りまくっているだろうけど)視聴者数を記録したらしく、団体の底力を感じました。

 

目玉となったウェルター級トーナメントは本命と言われていた野扖正明が優勝しました。決勝戦の安保瑠輝也との対決は両者共プロとしての狂気性を表現しながらの激突が見応えがあって、UFCのキャラのある選手同士の試合を観ているかのようでした。

安保もK-1参戦初期の頃は運営に冷遇されているとか色々言われていましたが、YouTube等でキャラクターを確立していったのが試合の中でも上手く表現されていましたし、野扖も圧倒的強さというベクトルでそれに応えていたと思います。

 

野扖正明という選手はK-1甲子園の頃から観てきたのですが、高校1年生の時から同世代の中では既に実力はズバ抜けていて、K-1甲子園で優勝した時に「和製ペトロシアン」と称される程ディフェンス能力が高く評価されていました。

その活躍はK-1甲子園だけに留まらず、高校生でありながらもK-1 63kg級やKrushリングでプロの選手と拳を交えて戦っており、同階級の日本人トップキックボクサー達に引けを取らない強さを誇っていました。

その後、旧K-1崩壊の憂き目に遭い、キックボクシングにおけるメジャーの舞台が喪失してしまった事で色々と苦労していたようですが、新生K-1の旗揚げによりキックボクシングというジャンルに再び陽の光が当たるようになり、天才と呼ばれた高校生もプロの舞台で牙を研ぎ続けて、10年掛けて順当に世界トップファイターの一人として成長していった感があります。

 

それにしても、野扖正明繋がりで旧K-1甲子園に出ていた選手をウィキペディアで色々調べていたんですけど、雄大とか嶋田翔太とか日下部竜也とか、全然名前を聞かないなと思っていたら、2010年~2013年辺りを最後に試合をしていないんですよね。

「魔裟斗2世」と高校時代に煽られていたHIROYAよりも評価が高く「魔裟斗を超える10年に1度の逸材」と所属ジムの会長が絶賛していた藤ツカサという選手が居ましたが、プロでは10勝6敗という微妙な戦績で2011年を最後に試合の記録はありません。

「10で神童15で天才20過ぎればただの人」ということわざがありますが、子供の頃に天才少年と言われていたスポーツ選手でも、プロに入って通用するかどうかはまた別の話なわけです。

旧K-1が崩壊し日本格闘技界が暗黒期に突入してしまったが故に、闘うモチベーションが失われてしまったのもあるだろうし、あるいはキックボクシングよりも楽しい自分の生きる目標を見つけたのかもしれません。選手生命に関わる大怪我をして試合が出来なくなるケースもありますし、20前後なんて一番遊びたい盛りなので、酒、ギャンブル、セックスにのめり込んで練習しなくなったというケースも普通にあるでしょう。

 

そう考えると、大晦日のシバターとのミックスルールの試合とテソシソの3人ボクシングマッチでプロキックボクサーとして醜態を晒してしまった感のある「魔裟斗に遠く及ばなかった魔裟斗2世」HIROYAも、今も現役のプロファイターとしてリングに上がり続けているだけでも立派だと言えるかもしれません。

 

 

よこはまつりの裏では同じくアベマTVでプロフェッショナル修斗を生中継していて、メインのライト級タイトルマッチでは18歳の西川大和という選手が5RTKO勝利で史上最年少で修斗ライト級王者に戴冠したそうです。

現在21歳の修斗フライ級王者平良達郎、RIZINで活躍中の現在24歳の井上直樹もそうですが、ここに来て日本のMMA界で若い才能が躍動している感があります。

やはりTLを見ると「末恐ろしい、世界で通用出来る、今すぐUFCに行って欲しい」とのコメントが踊っていましたが、世界のメジャークラスで通用するか否かの判断を現時点で下すのは時期尚早のように思います。

 

打撃系格闘技の場合だと反応、スピード、打撃の威力やカウンターセンスといった要素は天性の才能が問われる部分があるので、井上尚弥や那須川天心のように少年期から才能という分野において飛び抜けて秀でている選手はプロの舞台でも研鑽を続ければ普通に通用できちゃうわけですが、 MMAは打撃系から組み技まで様々な格闘技の要素を採り入れた上で試合を組み立てていかなければならないので、いくら一芸の才能に秀でているからといって、一芸のスキルだけでは現代のMMAでは通用しないのです。

 

むしろ要求されるのは自分のバックボーン以外のスキルを身に付ける後天的な努力の要素です。やるべき事覚える事が豊富にあるMMAという格闘技においては、強くなるための道筋に終わりはありません。

 

強くなるためには練習環境もそうですけど、私見ではマッチメイクのバランスも重要だと考えています。選手の実力に合わせて対戦相手を段階的にぶつけていって、同時に選手も段階的に成長させていくという手法です。プロボクシングが選手の実力、実績に合わせて戦うラウンド数が4回戦、6回戦、8回戦、10回戦、12回戦と定められているのと一緒です。

 

噛ませ犬ばかりと試合して勝ち星を増やしていっても戦績に見合った実力は身に付けられませんし、逆にいきなり実力差のあるトップファイターをぶつけてしまったらその選手は潰されてしまいます。今では平田樹さんの良き伴侶としてネタキャラ扱いされている山本アーセンさんも、 MMAデビュー戦でクロン・グレイシーに善戦した時はRIZINファンはこぞって彼は日本格闘技界の将来の宝だと絶賛していたものです。

しかし、所英男にマネル・ケイプとキャリア初期の段階なのにハードな相手をぶつけられて、現在は3勝5敗というMMA戦績。レスリングエリート山本一家のDNAを受け継いだ金の卵でも、実力差を考慮に入れないマッチメイクでその才能を潰されるという典型的な例です。

 

キャリアの初期段階ならばイージーマッチメイクが妥当ですが、ある程度キャリアを積んで来たら、あえてその選手の苦手なタイプの対戦相手をぶつけていくのも、選手の成長を促すためには重要な要素です。

打撃系、寝技系、フィニッシュを狙いに行くタイプ、塩っぱくても手堅く勝つタイプ、リーチの長い選手、スタミナ、フィジカルが強い選手・・・選手のファイトスタイルや特徴は人それぞれなわけですが、選手がキャリアの中であまり経験が少ない、苦手意識のある選手との対戦にこそ、試合の中で課題が多く生まれて自分の中での改善点の「気付き」のきっかけに繋がるわけです。

例え試合で負けたとしてもその後が重要で、反省を踏まえていかに自分の弱点を重点的に練習の中で克服していけるのか、これはチームを含めての選手のファイトスタイル、キャリアプランの構築に繋がっていくわけです。

 

UFCはその辺りのマッチメイクの組み方が絶妙に上手いです。

勿論、競争社会なのでふるいに落とされる選手は数多く居ますが、現在トップファイターとして活躍している選手のほとんどは、UFCデビュー当時からズバ抜けて強かったわけではなく、段階を踏んだマッチメイクで時に悔しい敗戦を味わいながらも、数年掛けて自分のファイトスタイルを構築していって現在の地位と実力があるのです。

 

フィーダーショー団体の王者レベルは、UFCではノーランカーのプレリムレベルなわけです。

平良達郎も西川大和もこれからメジャーの舞台へと戦いの場を移していく事になるでしょうが、そこで壁にブチ当たって課題が生み出されてからが本番だと思っています。

ただ、若くして修斗のチャンピオンに君臨したという事でプロとしての完成度は既に高いわけですから、早い時期からメジャーの舞台を経験できるというのは大きなアドバンテージだと思います。

 

 

早熟の天才だからって期待を掛け過ぎないように。ハンカチ王子の悲劇を忘れてはならない。

思えばハンカチ王子フィーバーって何だったんだ。

 

早熟の天才よりも、プロの舞台で太く長くしぶとく生き残れる奴が最後には勝つのです。

上で待っています。