UFC クラウディア・ガデーリャVSジェシカ・アンドラージ 感想と分析 | 銀玉戦士のアトリエ

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先日、さいたまスーパーアリーナで行われた「UFC JAPAN 2017」。

セミファイナルの試合では、クラウディア・ガデーリャVSジェシカ・アンドラージという、女子ストロー級のランキング1位と3位によるトップランカー対決が組まれていた。

 

 

 

ランキング1位のクラウディア・ガデーリャは、昨年7月に現UFC女子ストロー級王者、ヨアナ・イェンジェンチックが保持するタイトルに挑戦。王者ヨアナが苦手とするグラウンドの展開に引きずりこんで序盤は試合を優位に運ぶも、後半ラウンドでヨアナに巻き返され逆転負けを喫し、挑戦は失敗に終わる。

しかし、今年6月に行われたUFC213のセミファイナル、地元ブラジルでの凱旋となったガデーリャは、同じく女子ストロー級上位ランカーであり、タイトル挑戦も経験しているカロリーナ・コバルケビッチと対戦。強敵である彼女を1R、リアネイキドチョークの一本勝ちで下すパフォーマンスを見せ、再びのタイトル挑戦への足掛かりとした。

確かなボクシングとグラウンドの技術をオールマイティに兼ね備えた、女子MMAきっての技巧派ファイターだ。

 

ランキング3位のジェシカ・アンドラージは、2013年、21歳でUFCデビューを果たす。当時の階級はバンタム級であった。

ファイターとしては若く、相手の体格差に苦しむ試合もあったが、UFCで女子ストロー級が設立されると、ウェイトを落として参戦。3連勝を果たし、今年5月に開催されたUFC211で同じく王者ヨアナ・イェンジェンチックに挑戦。ガードを上げ、左右に頭の位置を動かしながらグイグイと前に出るスタイルで王者を攻略しようとしたものの、ヨアナの巧みな打撃技術の前には及ばず。挑戦は失敗に終わった。

その次の試合こそが、今回のランキング1位であるガデーリャとの対戦である。

UFCらしい、シビアなマッチメイクといえよう。

アンドラージは、打たれても前に出るフィジカルと、グラウンド&パウンドと柔術のスキルで戦う、男子顔負けのガッツ溢れるファイターだ。

 

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

 

1R、オーソドックスに構え、いつものようにプレッシャーを掛けてゆくアンドラージ。

右回りにサークリングするガデーリャは、ガードを高く上げて、カウンターのタイミングを伺う。

アンドラージの踏み込みに合わせて、ガデーリャの右のカウンターがヒットする。

アンドラージのプレッシャーを、下がりながらのカウンターで迎撃する作戦に出るガデーリャ。

右ストレートからワンツースリーとパンチを伸ばすガデーリャ。アンドラージもそれを読んでダッキングで回避する。

アンドラージは前倒姿勢のスタンスでガードを上げ、何とか懐に入ろうとするが、射程に入るとガデーリャが組んでそれを許さない。

アンドラージの額には早くも鮮血が滴っている。

 

だがアンドラージは構わずプレッシャーを掛け、ガデーリャを金網に背負わせると、下がりながらパーリングでアンドラージのパンチを払い退ける動作の隙を狙い、ガデーリャを金網に押し付ける。

そしてアンドラージはすかさずダブルレッグでガデーリャの両足を抱え上げ、大きくリフトしてテイクダウンを決める!

チャンスを確実にモノにしようとするアンドラージの大技に、会場は盛り上がるが、リフトされたガデーリャもしがみ付きながらも、スタンディングギロチンで一本を決めようと狙ってゆく。

しかしそれは失敗におわり、アンドラージに軍配が上がる。

グラウンドで上を取り、ハーフガードの体勢になったアンドラージは、ガデーリャを押さえ込みながらも顔面とボディにそれぞれ交互にパウンドを叩き付け、ラウンドを終える。

 

 

 

2R、序盤はガデーリャが右ストレートのカウンターを当て、更に打撃に合わせてのタックルでTDを決める。

いわゆるGSP戦法で、総合的に優位な試合運びを試みるガデーリャ。

ガデーリャは、トップキープから一本を取る糸口を掴みたいところだ。

だがアンドラージは、ガデーリャのタックルを、首を抱えつつディフェンスする事に成功する。

立ち上がり様を押さえ付け、逆にグラウンドでトップを取った形となったアンドラージ。ハーフガードをキープし、ガデーリャが立ち上がった際を狙って強烈な膝蹴り、右フックを打ち込む。

再び、試合の流れはワンチャンスをモノにしたアンドラージへ。

鬼神の如き表情で、集中力が途切れる事なく、スタンドの展開でグイグイと前に出てくるアンドラージは、左右のフックとローキックでガデーリャを追い詰める。

ガデーリャも右を打ち返すが、アンドラージのフィジカルとプレスを捌き切れず、金網を背負って被弾する展開が多くなる。

ラウンド終盤、再びリフトしてのTDを狙おうとするアンドラージ。しかしガデーリャもここぞとばかりにスタンディングギロチンを狙おうとする。

ガデーリャも、勝利への執念の灯は消えていない。UFCランキング1位の意地を見せたパフォーマンスに、観客からの驚きと歓声が上がったところで、2Rが終了する。

 

だが、ガデーリャにダメージと疲労の蓄積は拭えない。

3R、明らかにキレが無くなったガデーリャのタックルをディフェンスしたアンドラージは、金網に押し付けて片足を引き抜き、TDに成功する。

グラウンドで削るための時間はたっぷりと残されている。トップを取ったアンドラージは、サイドポジションからパウンドを顔面、ボディと打ち分け、ハーフガードでは強烈なエルボーパウンドを顔面に叩き付ける。

両者の顔面は鮮血で赤く腫れ上がり、オクタゴンのマットにも血の跡が残っている。

もはや、男子とか女子とかの区分けなど、この試合では意味を成さない概念だった。

勝利を目指すために、UFCのベルトを手中に納めるために、なりふり構わず戦う、二人の孤高な戦士の激闘だった。

 

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

 

試合が終わり、健闘を讃え合う両者。

会心のパフォーマンスに自らの勝利を確信したアンドラージが、金網によじ登って日本の観客に大きくガッツポーズでアピールをする。

日本で開催された大会という事もあって、「ドラゴンボールZ」の主題歌で入場したアンドラージは、常に強大な敵に立ち向かっていったアニメの主人公のように、ランキング1位のガデーリャを相手に、気迫溢れる戦いで自らの勝利をもぎ取った。

 

この試合を観客席から見ていた女子キックボクサーのKANAは、自身のTwitterで「これが世界最高峰の試合、どっちかが死ぬんじゃないかって思った。面白くてゾクゾクする。今日見たかった一戦を見れた!」と、大いに刺激を受けていた。

新生K-1の女子部門を担うスター候補として、今まさに伸び盛りの成長を見せているKANA。

ロンダ・ラウジーが開拓した女子格闘技の魂は、確実に世界中の女子MMAファイター達に伝搬されている。

 

ジョン・ジョーンズの薬物違反による王座剥奪のニュースで揺れるUFC。

しかし、男子と比較して身体能力に優れているわけではない、そして最軽量級の女子の試合でも、多くの観客に『世界最高峰』と讃えられる程、説得力のある試合が提供できたのは、今大会最大の収穫ではなかろうか。

 

極東の島国で行われたブラジル人二人の女性による激闘は、行き詰まりを見せているこの国の格闘技の、未来への方向性を指し示しているように映ったのだった。