2017年6月のMVP | 銀玉戦士のアトリエ

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☆2017年6月 月間MVP☆

 

*チンギス・アラゾフ*(K-1 WORLD GP Sウェルター級王者)

 

【K-1 WORLD GP Sウェルター級トーナメント準決勝 VS ジョーダン・ピケオー戦・dif1RTKO勝利】

 

世界でも屈指の選手層の厚さを誇るキックボクシング70kg級。

新生K-1では、Sウェルター級と命名されているこの階級で繰り広げるられる8人制ワンデートーナメントで、優勝候補の筆頭として戦前から呼び声の高かったチンギス・アラゾフ。

初戦で日本の中島弘貴を2RKOで沈め、早くも観客の度肝を抜いたアラゾフは、トーナメント準決勝で、オランダのマイクスジムに所属するジョーダン・ピケオーと対戦する。

 

1R、オーソドックスの構えから右ロー、サウスポー構えから左ミドルを当てるアラゾフ。

対するピケオーも長い前蹴りでアラゾフを下がらせながらサウスポー構えにスイッチし、左のショートをアラゾフの顔面にコツンと当てる。アラゾフは笑みを浮かべる。

スイッチングスタイルを駆使するアラゾフに、目には目をという事でピケオーも同じく構えを頻繁にスイッチしながら呼応してみせる。

狭いキックボクシングのリングでは珍しく、ステップワークとスイッチングで立ち回る軽量級MMAの試合さながらの攻防を披露する両者。アラゾフも欧州キックの試合ではあまり見せないオープンガードでピケオーを挑発する。

前に出るピケオーに、サウスポー構えからのノーモーションの左をヒットさせるアラゾフ。

ここからアラゾフはコンビネーションの回転を速くし、左ミドル、ローを強く蹴ってピケオーを徐々に追い込んでいく。

アラゾフの右前蹴りを左手のグローブでカットするピケオー。その動作もあってか、ピケオーの左のガードの構えが下がっている。

するとアラゾフはサウスポー構えにスイッチし、右にシフトしながらの右フックを顎にねじ込むと、喰らったピケオーは大の字で失神。

まるでフロイド・メイウェザーを彷彿とさせるチェックフックでKrush王者ジョーダン・ピケオーを衝撃の1RKOで葬ったチンギス・アラゾフが、トーナメント決勝戦に駒を進めた。

 

アラゾフは決勝戦で日本の城戸康弘と対戦。

準決勝と同様にリラックスした構えからバネのある攻撃を繰り出し、1Rに左フックでダウンを奪う。

しかし2R、アグレッシブに攻めるアラゾフに対して城戸の待ち構えていたかのような左ストレートが炸裂。アラゾフはまさかのダウンを喫してしまい、あわやの展開に会場が大きな歓声に包まれる。

少し脳震盪を起こし効かされている感じのアラゾフだったが、直ぐに試合を立て直し、3Rに左ストレートで二度のダウンを奪い勝利を決定づける。

ヒヤリとさせられる場面があったものの、想像を遥かに上回るハイパフォーマンスを披露したチンギス・アラゾフが、城戸康弘との激闘を制し、見事K-1 Sウェルター級第2代王者に君臨した。

 

 

生まれはグルジア出身で、国籍はベラルーシ。

かつてK-1で活躍したアレクセイ・イグナショフが所属するチヌックジムの門を叩いたアラゾフは、少年時代からアマチュアキックボクシングで200戦以上の試合をこなし、16歳でプロデビュー。

若くして豊富なアマチュアキャリアに裏打ちされた卓越した技術は、アラゾフが10代のころから既に、K-1MAX王者ジョルジオ・ペトロシアンからも高く評価されていた。

K-1MAX消滅後、キックボクシングのメインストリームだったGLORYの参戦は一度に留まっていた為、あまり注目はされていなかったが、コツコツと積み重ねてきたプロ戦績は通算48勝2敗を誇り、その2敗も現GLORY王者シッティチャイ・シッソーピーノンと、元K-1王者マラット・グレゴリアンというトップ選手2人から喫したもので、その内容も非常に僅差の末の判定負けであった。

70kg級裏最強とかねてから囁かれていたアラゾフだったが、2017年6月、K-1 Sウェルター級トーナメントにまさかの参戦。初めてキックボクシングの大舞台で実力を披露する事となったアラゾフは、下馬評通りにトーナメントを3試合勝ち抜き、K-1 WORLD GP Sウェルター級王者に戴冠した。

 

 

身長181cmのロングリーチと、高い身体能力を駆使し、伸びのあるワンツーと叩き付けるようなミドル、ハイキックを得意技とする。

タイでの試合経験があり、ムエタイルールも得意である事から、中間距離での制空権の支配力は抜群の強さを誇り、蹴りでイニシアティブを取りつつ、アップライトに構えた上段のガードで相手のパンチをブロックし、蹴り足を取る。

最大の特徴は、まるで中軽量級トップMMAファイターさながらに頻繁に構えをスイッチングしてくるスタンスで、中距離でも距離感や攻撃を惑わしたり、コンビネーションの際にもガードしている相手の裏をかいて、倒す攻撃を当てる意図で使われる。攻撃に強弱と緩急を使い分け、蹴りとパンチの繋ぎ目の時間が短いので、相手としては非常に反応がしずらい。

以前はムエタイルール慣れしていた為に、接近戦で組んでしまう悪癖があり、K-1ルールでの適応が不安視されていた部分もあったが、今年に入ってからショートレンジでの細かいコンビネーションやカウンターで倒すスキルを身に付け、更にはオープンガードでステップを駆使しながら、躍動感に溢れたスタイルを披露するなど、キックボクサーとしての引き出しの多さは、まさに留まるところを知らない。

永きに渡り停滞していた従来のキックボクシングの既成概念を破壊した変幻自在のスタイルでK-1王者となり、世界の70kg級トップ戦線に一躍名乗りを上げたアラゾフ。

新生K-1の象徴としての活躍が期待される一方、強豪ひしめく70kg級でシッティチャイ、グレゴリアン、ペトロシアン、ブアカーオら世界トップクラスの選手達との試合も待たれるところである。