ブログアーカイブス~フランク・エドガーVSグレイ・メイナードⅢ 考察~ | 銀玉戦士のアトリエ

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フランク・エドガーがUFC200にて遂にジョゼ・アルドとのフェザー級暫定タイトルマッチを行うという事で、2012年2月に執筆した記事をアーカイブ。2011年に行われたUFCライト級タイトルマッチ、王者フランク・エドガーVS挑戦者グレイ・メイナード戦について考察しています。


今回は、2011年10月に行われたUFCライト級タイトルマッチ「フランク・エドガーVSグレイ・メイナード」の考察です。

2011年1月、UFC史に残るハイレベルな激闘でMMAファンに衝撃を与えた両者の対戦。この試合は1Rにメイナードがエドガーからダウンを奪い、エドガーはあわや王座陥落かというピンチを迎えたが、2R以降エドガーは驚異的なリカバリー能力とスタミナを見せ、残り20分間を高速ステップワークでオクタゴンを縦横無尽に動き回り、得意のボクシング技術で劣勢を盛り返した。

この試合はドロー裁定が下され、当初は5月に再戦が行われる予定だったのだが、エドガーの怪我により再戦は10月に持ち越しとなった。

3度目の顔合わせとなった対戦も、前回以上にエキサイティングかつハイレベルな戦いが繰り広げられ、1Rにメイナードが前回の対戦のデジャブを見ているかのようなダウンを奪ったが、2R以降またもエドガーが劣勢を盛り返し、最後はエドガーが4Rに右アッパーでダウンを奪い追撃の右フック、パウンドを決めるという鮮やかなKO決着で幕を閉じた。

3度目の正直で勝利をもぎ取ったフランク・エドガーの勝因はどこにあったのか。試合を振り返っていきながらその秘密を探っていくことにする。

1R、右回り中心のサークリングで高速ステップを踏むエドガー。メイナードはジャブを放ち、エドガーも素早いジャブで牽制する。

一方の動きには偏らず、前後左右にステップワークを踏んでで相手を撹乱するのが得意なエドガー。ステップインから左フックを当て、即座に下がる。メイナードの左ジャブの引きを突いてワンツーを当てる。

ジャブからシングルレッグ、バックを取ろうとするが、メイナードはこれを外す。

メイナードは右回りのエドガーの動きを読み、外側に前足を踏み込んで右アッパーを放つ。エドガーは咄嗟に身構えようとするもののメイナードのアッパーが顎を捉え、エドガーがぐらつく。

メイナードのこの右アッパーは、前足(左足)を斜め前に大きく踏み込み、斜め前に移動することによって相手の視界から自分が消えるステルスの役目を果たすと同時に、両者の位置取りが横軸に交差するゼロ点の距離でアッパーを突き上げることによって、抜群のタイミングで効かせることができるという、ステップワークを重要視するMMAならではのパンチの打ち方と言える。「対エドガー用の秘密兵器」として磨いてきたであろうアッパーであり、逆に言えばフットワークが極端に少ない立ち技の攻防では機能しにくい攻撃であると言えよう。

エドガーはシングルレッグを仕掛けるが、メイナードはそれを外して右フックから膝、更に首相撲からの膝蹴りをヒットさせる。

スタンドで組んだ後、離れ際にエドガーも負けじと右フックをヒットさせるが、構えをサウスポーにスイッチしたところへメイナードの右ストレートが当たりダウンする。倒されたエドガーはすかさず屈んだ状態で足を取るが、メイナードはパウンドを当てて脱出し、際に左フックをヒットさせる。

たまらず後ろに下がってメイナードの猛攻を回避するエドガー。メイナードは首相撲でロックするが、エドガーは右手で相手の身体をプッシュしてそれを解く。メイナードはすかさず追撃の左ハイキックを放つ。

エドガーの左フックに合わせて、メイナードのカウンターの飛び膝蹴り(右フェイントからの左の膝蹴り)がヒットし、このラウンド二度目のダウンを奪う。

メイナードはバックを取って、右でパウンドを打つが、エドガーはその右手を掴み、支点を利用して正面を向き、何とか脱出する。だが前回対戦以上の猛攻とも言える2度のダウンで負ったダメージは大きく、鼻からの出血が目立っている。

1Rは文句無しにメイナードがポイントを取ったラウンドであった。効果的な攻撃だったのはやはりメイナードの右アッパーと、一度目にダウンを奪った右ストレートである。

メイナードはレスリングベースの選手だが、ボクシング技術にも定評があり、特に右の当て感に関しては抜群の能力を持っている。ノーモーションで相手の顎を捉える右ストレートは、ジム・ミラー戦(

2009)でも機能していたが、絶大な威力を誇る利き手のパンチを有効に使えるというのが彼の大きな強みの一つである。

2R、メイナードは構えをスタンド、レスリングと変えながら相手の出方を探っていく。無尽蔵のスタミナを誇り、タフなエドガーが相手ということで、深追いはせずに5Rの攻防を見据えてのカウンター狙いの戦法か。

インターバル中に顔の出血をタオルで拭いたエドガーは、1Rのダメージを感じさせない様子で高速ステップを踏み、距離を取って様子を見る。

1Rとは打って変わって、互いに繰り出す攻撃をバックステップ、ダッキング、パーリングでディフェンスしあうクリーンヒットが少ない攻防である。エドガーは左ジャブを見せつつ、前蹴りを見せて牽制。

パンチの距離が遠い間合いの中で、エドガーが時折ローキックを放つ。

KG氏も指摘している通り、MMAのローキックというのは、競技の特性上、キックボクシング式の「効かせる」ローキックとは別物の、コンパクトな蹴りなのだが、 距離のイニシアティブを取るという牽制の攻撃として、そして互いのパンチが届かない攻防の中で確実にポイントを稼ぐ打撃として、地味に有効な攻撃である。

メイナードの左ジャブをバックステップでかわした後、エドガーが踏み込んで右のフェイントからの左フックをヒットさせる。

メイナードは腕を突き出して上下に手を動かす構えを見せるが、エドガーは相手の手が下がるタイミングを見計らって、右のオーバーハンドクロスをヒットさせる。相手の行動を先読みして打ち込んだ技ありの攻撃である。

エドガーが掴みに掛かるが、メイナードも脇を差す。離れ際にエドガーがアッパーを放つ。

右のボディをヒットさせたかと思えば、今度はその右ボディをフェイントにして左フックをヒットさせる。単発のパンチだと、リーチの短いエドガーにとっては距離が遠くて届かないので、フェイントを交えて相手の懐へ入ることによってパンチを当てる意図がある。

反対にメイナードはやや疲れが見えてきたか、バランスを崩す場面も見られた。サークリングを足止めするためのハイキックも何度か見せていたものの、エドガーに巧くディフェンスされている。

少ないチャンスで確実にパンチをヒットさせる巧みなボクシングテクニック、そしてローキックの有効打によって、2Rはエドガーがポイントゲームを制したラウンドであった。エドガーは、1Rに2度もダウンを奪われた選手とは思えない程の、冷静かつ大胆なゲームメイキングが実行できていた。それを遂行できる集中力、メンタルの高さも、特筆すべきものがある。

3R、エドガーはジャブと共にローキックを交え、回転肘を遠くから見せることによって相手との距離を取る。

エドガーはシングルレッグを仕掛けるが、メイナードは抜群のバランス力で片足をケンケンしながら外す。

ジム・ミラー戦(2009)でも相手の片足タックルに対しレスリング仕込みのボディバランスで約20秒間もの間片足のみで倒されずに網際までこらえた腰の重さはここでも健在である。

エドガーがローを放ち、メイナードも重いローを返す。

メイナードは、1Rで見せた右アッパーを放っていくが、軌道を読んだエドガーは深く頭を沈めてガードする。同じ手は二度とは食わない。

2R目と同様に、ヒットアンドアウェイで攻撃の隙を覗っていく攻防の中で、単発ながらもエドガーの左右のパンチがメイナードの顎を捉えていく。タックルのフェイントも見せるが、あくまでも牽制用、相手に攻撃を出させないための動きである。

メイナードの飛び込んでの右を空振りさせた後に、エドガーがバックを取ろうとするが、メイナードが相手の手を取って防ぐ。正面を向くが、振り向きざまにエドガーの右ミドルが脇腹にヒットする。

メイナードもミドルキックを放つがこれは空振り。3R目もポイントゲームをエドガーが制し、1Rの劣勢をイーブンの状態にまで盛り返すことに成功した格好である。

4R、エドガー、ジャブから右フック、ローキックを放つ。

ここから両者の距離が近くなる。1Rのダメージをリカバリーしポイントをイーブンにしたエドガーが、勝負を賭ける。

エドガーが、首と足を抱えるタックルを仕掛けるが、外されると見るや深追いはせずに、離れ際に一発アッパーを入れる。これが後のフィニッシュへの伏線だったのかもしれない。

メイナードもノーモーションの右ストレートを見せた後に、踏み込んで手を伸ばすタイミングを少し遅らせた

右ストレートを当てる。エドガーも、メイナードの左ジャブの引きを狙っての右クロスカウンターをヒットさせる。

メイナードはエドガーの右フックをダッキングした後、片足を取る。エドガーはメイナードの両脇を抱えて足を外す。メイナード膝蹴り。エドガーも膝を返すがこれは外され、再びスタンドへ。メイナードの左リードのタイミングに合わせ、またもエドガーのカウンターの右フックが顎を捉える。

距離が幾分近いためか被弾する場面も見られるものの、その分有効なクリーンヒットもしっかりと決めているエドガー。左フェイントからの右フック、内に外へと蹴り分ける重いローキックを放ち、打撃でのポイントゲームで優位に立つ。

メイナードは重心を低く構えてシングルレッグ。エドガーはこれを外す。エドガー、左のフェイントから今度は右のローキック。

エドガーが片足タックルを仕掛ける。メイナードは片手でマットを付いてテイクダウンを防ぎ、すかさず立ち上がり右手でエドガーの身体を押して突き放すが、その瞬間、ガラ空きになった顎にエドガーの右アッパーが炸裂し、メイナードが倒される。際の攻防で見事なアッパーを当ててダウンを奪ったエドガーは、追撃の右フックを2発続けざまに急所にヒットさせ、パウンドを放ったところでレフェリーストップ。KO決着という文句の付けようもない勝利で、フランク・エドガーがUFCライト級王座の防衛に成功した。

エドガーの勝因として、1Rに受けたダメージを感じさせない驚異的な回復力、スタミナ、精神力、集中力でもって試合を遂行できたという部分が最も大きいのだが、技術的な要素としては、前後左右に動き回る高速ステップワークにより「全ての動作がフェイントモーションである」ということを相手に悟らせて幻惑させ、バックステップ、ダッキング、パーリングといった巧みなディフェンス技術で攻撃を封じていったことと、相手の隙を見つけることが極めて困難な拮抗した攻防の中で、ピンポイントの好球必打で急所を狙っていくボクシング技術、際の攻防の中での相手の隙を見逃さずに攻撃を当てる技術に非常に長けていたことだ。それプラス、地味な要素ではあるが、リーチの短いエドガーにとって有効な武器となりえたローキックを随所で当てていたのも、ポイント取りや距離のイニシアティブを取るという部分において有効に機能していた。

打投極、心技体、全てのスキルにおいて高い次元で昇華されたミックスファイトを得意とする近代UFCの申し子が、ついに日本の地に降り立つ。




どんだけフランク・エドガーが好きなんだよって記事ですね(笑)。
ただ旧K-1、DREAMが地上波放送から打ち切られて2010年以降からUFCへと流れてきた日本の格闘技ファンの中には、エドガーのアスリート性と気持ちの強さが融合された試合に感銘を受けた人が多いのではないでしょうか。
2012年UFC日本大会でトリを務めたというのも、彼に対する思い入れの強さの要因の一つでしょう。

いよいよジョゼ・アルドとフェザー級暫定タイトルマッチを争い、勝ったほうがコナー・マクレガーとの統一戦に挑む事になります。
2人は2013年にタイトルを争いましたが、今回は両者とも取り巻く状況が違います。
特にアルドは昨年12月、コナー・マクレガーにたった13秒で敗れ、4年間も保持していた王座を奪われただけに、今回は並々ならぬ決意で挑んでくるに違いないでしょう。
しかしエドガーもアルドに敗れてからの3年間、トップコンデンター達を次々と打ち破り、やっとの思いで再びタイトルマッチに辿り着く事が出来ました。
前回のようなテクニカルな試合とは少し違う、殺気漂う試合内容が予想されると思います。

それと、エドガー戦以降、実に4年も勝ち星の無いグレイ・メイナードも、7月9日(日本時間)に行われるTuf finalでフェザー級に階級を落としての試合が組まれています。こちらももう後がない状況です。

岐路に立たされた男達の戦い。試合が終わった時、勝者の歓喜と、敗者に待ち受ける残酷な結末が映し出されるに違いありません。