アンデウソンVSビスピン 伝説を超えた日(追記あり) | 銀玉戦士のアトリエ

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2月に行われたアンデウソン・シウバVSマイケル・ビスピンの一戦は、これまでUFCを支えてきた両者の魅力やキャリアの足跡というものが、25分間の中でギュッと凝縮された、濃密な試合内容となった。

☆アンデウソン・シウバVSマイケル・ビスピン  試合動画☆

アンデウソンがUFCミドル級王者として一時代を築いていた頃、ビスピンは彼の背中を追い掛けて戦ってきたが、後一歩のところでタイトル挑戦に手が届かず、両者が交わる事は叶わなかった。
その後、アンデウソンはクリス・ワイドマンに二度敗れ王座を陥落。更には足の骨折という大怪我と、薬物検査の陽性反応で長期欠場を余儀無くされ、栄光を極めたキャリアに陰りが見え始めている。
一方のビスピンも、重要な試合でのKO負けが続き、長年の勤続疲労による打たれ弱さが露呈されるようになっていた。

40歳と36歳。そろそろ『引退』の二文字がチラつく中、辛うじてUFCミドル級戦線のトップに踏みとどまっている両者が、イギリスの地で初めて邂逅する。






アンデウソン・シウバは、セオリーを逸脱した予測不能な戦い方でUFC王者時代、数々の挑戦者を手玉に取ってきた。
ノーガードの構えから、ジェスチャーを交えた踊るようなフェイントで相手を挑発し、神懸かり的なディフェンス能力でもって、相手の攻撃を紙一重の距離で悉く外してゆく。
そうやって対戦相手を疑心暗鬼にさせ『アンデウソン・ワールド』に引きずり込んだところへ、前蹴りや膝蹴り、肘やカウンタージャブといった多様な技で、一撃で仕留めるのだ。





マイケル・ビスピンは、メディアでは悪童キャラで通っているのだが、そのファイトスタイルは英国人ファイターらしくスタイリッシュで堅実的なものだ。
左リードを効かせて踏み込むタイミングを測り、無闇に強振せず精度を重視したワンツー、カウンター、コンビネーションを的確に当ててゆく。
打撃、寝技共にソツなくこなせるオールラウンダーであり、時にはテイクダウンを決めて、強烈なパウンドを次々と叩き込んで試合を決める。
基本を重視した、彼の勤勉性と実直さが伺えるスタイルと言えよう。

異端のアンデウソンと、正攻法のビスピン。静かな立ち上がりの中、互いに攻撃の糸口を探り合う緻密な駆け引きが繰り広げられる。

先に口火を切ったのはビスピンだ。
1R、アンデウソンのパンチを下がりながらパリィで外したビスピンが、左フックを軽めに当てる。
これにカッとなったのか、強引に前に出てサウスポー構えからの右フックを振ってきたアンデウソン。
ビスピンは左フックを上から被せ、更にワンツーからの右をヒットさせる。
直後、アンデウソンの重心がガクッと下がる。
このダウンで1Rを取ったビスピン。

続く2R、ビスピンは小さいジャブを2発見せてアンデウソンをスウェーさせる。
アンデウソンが、スウェーで上半身が引いた無理な体勢から、強引に右を振ってくる。
そこにビスピンは左フックのカウンターを合わせる。
ビスピンの左を喰らって重心が崩れたアンデウソンが、体勢を立て直そうとしたところへ、ビスピンは右→左の逆ワンツーを当てて完璧なダウンを奪う!





まさに、アンデウソンのお株を奪うかのような頭脳的な攻めで、彼の一瞬の心の隙を突いたビスピン。その仕掛けが二度のダウンシーンを生み、戦前では不利と言われていたスタンドの攻防で大きなアドバンテージを得る。

しかしアンデウソンもタダでは終わらない。
3R終了直前、ビスピンが指を差してレフェリーにアピールしていたところへ、アンデウソンが飛び膝蹴りを顎に当ててダウンを奪う!
ラウンド終了のホーンに救われ、何とかKO負けを免れたビスピン。アンデウソンは思わず雄叫びを上げ、ガッツポーズをする。

4R、ダウンを奪った事で気を良くしたのか、アンデウソンはケージを背にして足を止め、ビスピンの攻撃をボディワークやスリッピングアウェイを駆使して避ける驚異的なパフォーマンスを披露する。
MMAファイターではアンデウソン・シウバでしか辿り着けない境地。40歳という年齢を迎えても、彼のディフェンス能力は未だ錆び付いてなどいない。
だが、ビスピンはアンデウソンのパフォーマンスを目の当たりにしても、怯む事も、必要以上に打ち気に走る事もない。
タイミングと距離を測り、攻撃を2、3発散らし、打っては下がるを繰り返す。
余裕のパフォーマンスを見せているアンデウソンだが、きっとそこに隙はあるはず・・・ビスピンは己のスタイルを信じて攻め続ける。
そしてアンデウソンも、ようやくこの終盤に来て絶対王者であった頃の勘を取り戻しつつある。
前蹴り、低空からの突き上げの肘、首相撲からの膝蹴り・・・アンデウソンの全盛期を彩った必殺技が、目蓋の出血により視界がぼやけているビスピンに次々と襲い掛かる。
だが、ビスピンはこれらの技を喰らっても決して心が折れる事は無かった!

地元イギリスで自分の試合を見に来てくれたファンに対する想い、
ずっと追い付く事ができないでいたアンデウソンを超えてやろうという気迫、
そして、最初で最後となるであろうUFCタイトル挑戦への切符を掴むための並々ならぬ決意、

これらの『念』が、満身創痍のビスピンの静かなる闘争心を後押しする。






*****


どちらが勝ってもおかしくない試合・・・ジャッジは三者共にマイケル・ビスピンを支持。彼は見事に地元に錦を飾る事ができた。

アンデウソン・シウバは、5月にブラジルで行われたUFC198でユライア・ホールと対戦予定だったが、怪我により試合を欠場。治療期間は一ヶ月程で、現在は再起に向けてトレーニングを行っている。

そして、この試合の勝者であるマイケル・ビスピンは、6月4日に行われるUFC199ミドル級タイトルマッチに出場予定だったクリス・ワイドマンが欠場した事で、代役として自ら出場を志願。自身初となるミドル級タイトルの挑戦者として、現王者ルーク・ロックホールドと対戦する。
試合決定から僅か2週間というショートノーティスであり、王者ロックホールドとは一度対戦し惨敗を喫した相手・・・あまりにも悪条件の中でのタイトルマッチとなる。
だが、あのアンデウソン・シウバにも恐れず、自分のスタイルを信じて彼に立ち向かい、そして勝利をもぎ取ったビスピンならば、もしや・・・という淡い期待も抱く。

いかなる結末であれ、ビスピンの格闘家人生の集大成とも言うべき『生き様』を見届ける・・・そんな試合に期待したい。






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【追記】まさか本当にロックホールド倒して王者になるとは思わなかった(笑)。この記事を書いた冥利に尽きる。
おめでとう、マイケル・ビスピン(*^▽^)/★*☆♪