『チェンソーマン』を愛読していて、同じ作者が原作の映画で興味があったのに後回しにしていましたが、先日の日本アカデミー賞で賞を獲ったということで観てみました。

『チェンソーマン』とは全く違う作品ですが、根本的なところは作者の血が流れているというか、「あぁ、チェンソーマン描いてる人の作品だな」と感じました。

『チェンソーマン』を読んでいて思うんですけど、間の取り方とか、視点の置き方とか、いろいろな部分が映画っぽいんです。

だから、この方の作品ってすごく映像化に向いてますね。


主人公の女の子は学級新聞に4コマ漫画を描いているんですが、ある日同じ学級新聞に不登校の女の子が自分より上手な絵が載せているの目にして、負けられないと必死に絵の練習をします。

しばらくして、主人公の絵はレベルアップし、またその不登校の子の絵と並べて掲載されますが、それを見て主人公はしばらく絵を描かなくなります。

その流れを観ていて、僕はなんで主人公が絵を描かなくなったのか悩んでしまいました。

僕は"どんなに練習しても敵わないと思ったから" がいちばん正解に近いかな、と思いました。

その後、不登校の子の家に行くんですが、積み重なったスケッチブックの数から主人公より絵の練習を何倍もしていることが分かります。

そのシーンを見て「努力の量が違うからそうなるよね」って想像するのが筋かな、と。

けど、"勝ったので満足した" って考え方もあるのかな、とも思いました。

こっちはあまり判断する根拠がないですけど。

主人公は人物画で、不登校の子は風景画なので、どちらが上手いかは比べにくいんですよね。

後で主人公は人物を、不登校の子は風景を描いてコンビで漫画を描いていくので、この描き分けをしなければならなかったので仕方ないところではありますが...

この作者って多くを語らない漫画家なんですよね。

最近の漫画って文字を詰め込んで読者にくどいくらい説明していくものが多いんですけど、『チェンソーマン』って文字数少なくてあまり説明がないまま話が進むんです。

読んでいて何が起こっているのか分からなくなることがありますが、漫画なのに文字ばかり読まされるストレスがなく読めるところがいいところなんですよね。

是枝監督作品の多くを語らないところはあまり好きになれないですが、この作者の多くを語らず読者の想像に委ねるところは受け入れることができてます。

それがなぜかは分かりませんが 笑

こういうところでこの作者のクセみたいなものを感じました。


久しぶりに感じたんですけど、タイトルに深い意味があるな、と思わされる作品でしたね。

観る前にあらすじを読んだので「2人の思い出を振り返る (=ルックバック) からこういうタイトルなんだろうな」と思いました。

けど、いろいろなシーンで後ろ姿が映されていて、主人公も「私の背中を見ろ」みたいなことを言ったり、不登校の子が描いていた4コマ漫画のタイトルも「背中を見て」だったり、、、

ラストは主人公が不登校の子が着ていた半纏の背中に自分サインが書いているのを見て立ち直ります。

このように"背中を見る" ことが何度も意味深に出てきます。

そういえばオープニングもエンディングも主人公が漫画を描いている後ろ姿だったな、と後で気付きました。

こういうダブルミーニングのタイトルだったんだなぁと。

いや、むしろ "背中を見る" ことが本当の重要な要素だったというダマシが入ったタイトルだったのかなとも思いました。

こういうセンスがある人って今の作り手には少ないのかな、と思ってます。

最近の漫画や小説って「◯◯が◯◯して、△△が△△でした」みたいに、その作品のストーリーを説明したようなタイトル多いじゃないですか。

インパクト狙いのものもあるんでしょうが、僕はそれがあまり好きじゃなくて、複雑なストーリーの作品でもシンプルなタイトルを付ける作り手にセンスを感じます。

小説ですけど、夏目漱石の『こころ』って作品があって、あのストーリーに『こころ』と付けた夏目漱石のセンスには惚れましたね 笑

長くて複雑なストーリーを一言でまとめ、作品の意味を説明できるタイトルを付けるセンス、これが最近の作り手に足りませんね。

久しぶりに、タイトルだけで読んでみたい漫画や観てみたい映画に出会ってみたいですね。


作品全体のことを言うと、後味がいい作品とは言えませんね。

悲しくなりましたけど、『チェンソーマン』描いてる人だからこうなるよな、とも思いました 笑

観終わった後の喪失感は結構キツいです。

絵の粗さみたいなものを叩いているレビューを見かけましたけど、こういう青春群像劇って過去を思い出すもので、そこにはおぼろげな部分もあり、その表現として線を粗くしてハッキリさせないのが効果的なのかなと感じました。

何より、この作者は陰のある女性を描かせると天下一品なので、この映画のような線の描き方はピッタリだと思いますよ。

時間も1時間で観れてしまうのがよかったですね。

「映画って1時間で全て完結させることができるんだな」と思えてしまったので、今後2時間以上の映画を観れるか心配です 笑

あまりここには書けませんでしたが、好きなことを努力して続けることの素晴らしさ、人の心の移り変わりや成長みたいなものがハッキリとは描かれておらず、観ることで想像しながら学びとっていく作品になっています。

面白いのでおすすめです。

(作者のSNSの書き方を真似て 笑)