楽々主義 -38ページ目

楽々主義

徒然なる日々

『リトスっち、動かなくていいぜ。まずは、俺っちたちで様子を見るから。もし、ヤバそうだったら援護だけ頼む。多分、複数相手にするのは、俺っちたちの方が慣れてる。』

僕が返事をしかけた次の瞬間、ドアが蹴破られ窓が割れ、そこかしこから、数人の影が侵入してきた。
『ゴレムっち!!』『分かってるぅ!』
二人は同時に動いた。魔法を唱えながら、影に向かって走る。僕は二人の様子、と敵の位置が把握できるところに控えた。
『リーフハリケーン』『ロックニードル』
葉の竜巻、そしてそこから尖った石の礫が次々と放たれる。見事に影をとらえ、敵はどんどんと撃沈していく。一瞬の勝負だった。
倒れた者は、一様に仮面を着けていた。その中の一人の仮面を取る。
すると、中は驚くことに、子どもであった。まだ、十代前半と思われる風体。どういうことなのだろうか。
三人は疑念と戸惑いを浮かべた表情で、しばしお互いを見合う。誰もが困惑していると、頭上から拍手が鳴り響いた。
『いや~、実に見事な手際だねぇ。やっぱし、強いんだなぁ、妖精って。』

声を辿って見上げてみると、割られた天窓から、誰かがこちらを見下ろしている。
『手荒なことしてゴメンねぇ。』
逆光になっていて、姿はほとんど影になり、顔は分からないが、声からすると、やはり彼もまだ子どもなのだろう。少しまだ声の変わりきらない響きをしている。
『君は一体誰なんだい?どうしてこんなことを。アクアについて語れないというなら、そう言ってくれれば、大人しく引き下がるよ。』
目を細め、見上げながら声をかけた。
『あ~いやぁ、そういうのとも、ちょっと違うんだよねぇ、お兄さん。僕はねぇ、単純に妖精が大嫌いなんだよ。アクアにしたってそうさ。』
『何を言っているんだい、君は。』
『ああ、挨拶がまだだったねぇ。僕の名前は、タートス。人間さ。
んふふふ。信じられないって顔だねぇ。お兄さんは、まさか自分だけが妖精の見える、特別な存在だとか思ってたのかなぁ。
しかもねぇ、何と僕はこれでも100年以上生きているんだよ。呪いというヤツでねぇ。
お兄さんがお探しの、アクアという妖精にとある魔法をかけられて以来、ずっと歳を取らない子どもの姿になってしまったのさ。』
『お、大人をからかうものじゃないよ。』
『んふふふ。だから言ってるじゃない、僕は歳はお兄さんより上なんだって。』
そこで言葉を切ると、彼はこう言った。

『お前が憎きカインの息子、リトスということぐらい、お見通しなんだよ小童が!!』
その暗い闇のような冷ややかな声に、息を飲んだ。何も言葉が出ない。。。
ただただ、目の前の少年の放つ、この世の深淵の様な雰囲気に、冷たい汗が流れた。
リッドとゴレムの名を出すと、その男は驚愕の表情を見せた。
『では、貴殿方がかの有名な。。。これは大変な失礼をいたしました。』
深々と頭を下げる姿に気をよくしたのか、
『まぁ、俺っちたちも何の連絡もせずに他国にやってきちまったのはマズかったよ。顔も割れてるからな、いや、こっちこそ悪かったよ。』
と、リッドはまんざらでもない様子だ。
しかし、ゴレムの顔色はやや優れない。何かを思案している顔で、先刻から一言も発していない。

男は宮殿の中の資料室へ案内してくれた。どうやら話を聞けるようで、僕らを案内した後、男は飲み物を手配しに一旦退室した。
手持ちぶさたになった僕は、一通り資料室を眺め歩いた。
部屋はとても大きく、そこかしこに本棚が備え付けられ、アクアを冠する背表紙が並んでいる。
『やっぱり、俺っちの言った通りだったろ。名前を聞かせれば一発だって。』
『う~ん。ゴレム、君はどう思う?』
『さっきのぉ男は、多分何かを隠しているんだぁと思うんだよなぁ。実はさぁ、師匠に鍛えてもらったおかげでぇ、オラは人の心の声をだいぶ聞けるようにぃ、なったんだけどぉ。』
『ああ、そうだったな。ゴレムっちは当主になるに当たって、師匠に“聞く”力を教えてもらったんだとさ。
言葉の使い方、話し方、声のトーンや間なんかの細かい部分に注意するコツなんだ。俺っちも勉強はしたけど、ダメだった。性格なんだと。
ゴレムっちは、元々のんびり屋だろ。だからさ、この力に向いてたみたいなんだ。』
『なるほどね。それでさっきから思案顔をしていたわけか。今度はもう少し突っ込んだ聞き方をしてみようか。何かしら、ゴレムの力で。。。』
そこで話を切った。気配がしたからだ。僅かながら、視線を感じる。しかも一人や二人ではない。目配せをすると、どうやら二人も気が付いていたようで、席から腰を浮かせている。
身構えながら、僕らは背中を合わせるような形に陣を整える。微かに感じた気配は、今はもう分からなくなった。
滅ぶじゃなくて滅んだんだよっていう話。

日本の現状を見て、
先人たちは何を思うだろう。
時に命を賭してまで、
本気でこの国の行く末を憂いた、
かつての彼等は。

どうだい、今のこの国は。
誰も彼もが、無責任。
政治家はもちろん、
様々な分野において、
自分の行いの後始末すら、
ろくにできない大人ばかり。

何でもかんでも、誰かのせい。
自分は悪くない、
運が悪かった、
時期が、時代が、、、

そうやって、
悪者探し、犯人探し、
挙げ句の果てが、
全て有耶無耶。
何の反省も、
何の後悔も、
何の自責も感じずに。

汚職があれば政治家を責めるだけ。
金や欲に眩んで投票した、
クソみたいな国民がいるという、
原因を作ったことには目もくれない。

イジメや自殺があれば学校を責めるだけ。
何かあると人権無視して、
寄って集って散々叩きまくるという、
大人や社会全体のモラルには目もくれない。

戦争を繰り返さない。
原発事故を繰り返さない。
あの震災を忘れない。
口ではいつでも、綺麗事。
戦争反対が、いつの間にか世界で一番戦争をしている、米国の奴隷になることに。
脱原発でも、相変わらず不夜城で、生活形態を変える気はゼロのまま。
三年経っても、いまだ仮設住宅に住み、帰りたくても帰れない人々がいる。

どこまでも、
徹頭徹尾、
全てが他人事。
自分の腹が痛まなければ、
結局は、
何も変わらないまま。

きっと、
今もどこかでは
政治家は懐を暖める算段を立て、
生き悩む少年少女が自ら命を絶ち、
金持ちは優雅で豪華な宴を催し、
ホームレスが汗を流して空き缶を拾い、
愛のない親が子どもを殴り、
愛をもらえない子どもが親を刺している。

このままでは、
日本という国は滅びてしまう。
なんて認識の甘さだろうか。
もうとっくに、
この日本という国は滅びているだろう。

認めたくないから、
誤魔化したいから、
誰かのせいにして、
責任逃れをして、
他人事にして、
目を背けているだけだろう。

よく見てごらん。
日本なんて、
そんな国は、
もう終わったんだよ。

ここはかつて、
国を憂いて、
命を賭してまで、
何かを変えたいと願い、
そして行動した若者がいた、
日本という国があった場所。

今はもう、抜け殻だけ。
はりぼて、かきわり。
何の中身もない、
見せかけだけの、
ただの島だ。

そして、
これからも、
この場所は、
ずっとそうやって、
いつも何かを、
有耶無耶にして、
生きていくのだろう。
自分や国すら、
有耶無耶にして。