退院の日:みかんと私
タクシーに乗って自宅へ向かう幾ばくかはマシになったとは言え、微妙な揺れも頭に響く。やっぱり、まだ痛いぞ、おい後方シートでぐったりする私をミラー越しにチラ見する老年ドライバーさん。「入院してたん?」「はぃぃ」「しんどいなー。ゆっくり走るわな〜」「ありがとうごじゃいますぅ」ついさっきまで、お互いの存在すらも知らなかった全くもって赤の他人の優しさが心に染み入るぜ、おい。自宅前に到着すると、いいよ、いいよとトランクからスーツケースを下ろし、段差がない所まで運んでくれた「お大事にな」。泣けるで、おい。わずか数十分の人生交差点老年ドライバーの人柄と歩んできた人生が見えるあぁ、この人のように歳を重ねて生きていこう。そう思った。少しの関心と思いやりで、誰かの心を一瞬照らすような、そんな人に図らずも誰もが成れるはずなんだ✨そして、きっとこれは、弱った心を少しばかり癒せるようにと神様の粋な計らい。ありがとう、神様✨数日ぶりの自宅に入り、改めて自分の居場所はここだという気になる。窓から射す光が大きくなった観葉植物の葉を照らし、その影がまるで柔らかいモノクロアートのように壁に映る。あぁ、私はこの影を見るのが好きだったよ、と思う。頭をできる限り揺らさないように、ゆっくりゆっくりとスーツケースを開き、洗濯物を洗濯機へ移す。細々したものはそのままに、チカラが入らぬゆえ、さっき開けたドアを素人のアメフトばり片肩タックルで押し開けて、隣の小売店へと歩く。みかん🍊が食べたいのよ。晴れた日でよかった痛みを抱えたまま、どんよりと暗い空の下を歩くなんて絶望しかない。たとえ残る痛みがあろうとも、晴れていれば、どうにかなる。毎日を生きるに大切な「気分」。気分にこれほど大きな影響を与える太陽光の偉大さよあ。小袋入りのみかん🍊がある。みかん🍊みかん🍊みかん🍊あなたを食べたかったのよみかん🍊一袋とヨーグルト、そして小松菜の胡麻和えお惣菜を袋に入れてトコトコとお家へ戻る。ふぅ。これだけの動作でどっと疲れる。椅子に座り、みかんの皮を剥いてゆっくりと口に運ぶ。あぁ、美味しい🍊幸せだわ。こんな美味しいみかん🍊が食べられて。そう言えば、私は甘いみかん🍊が大好きだった。こんなにじっくりとみかん🍊を感じたことなかったかもしれない。私は命をいただいているのね。吐き気で何も食べれていなかった午後。みかん🍊が美味しい。一気に三つ、喰らうわよ🍊その後、眠くなってベッドに横になる。首の痛みのために、椅子の高さのベッドに腰掛け、下半身をゆっくりベッドの上へ移動し、体勢が整ったら上半身をゆっくり倒しえて、寝る。今の私はまるで壊れ物。